もしも秋が来たならば

二色燕𠀋

文字の大きさ
1 / 3

1

しおりを挟む
 握る、湿った黒髪、背中の肌触り、大きな闇を感じる光彩。
 けれど、マルと名乗ったその人は、少し眉間を寄せ息を吐きながら、少し喉に触る声で「ヤバそう…」と言った。

 もしもあの人だったならと頭に浮かび、俺はその人の頭を抱え「貴方はね、」と耳元で囁く。

「初恋の人に似てるの」

 そういうとマルさんは一瞬止まり、「…は?」と声を下げる。
 これであともう少しは持続するかもしれない。

「んん……もっとしたい。ねぇ、」

 腰を動かすと躊躇いのようにマルさんはまた徐々に腰を動かし、「あっそ、」と言う。

 まるで打ち付けられるそれはねちゃねちゃ、骨に当たってゴツゴツと一層音が耳に付き、もう目の前、いや、過ぎ去りそうだと「んんっ、」と声が出れば相手の喉も締まり、0.何ミリか越しに熱がぶわっと腹に溜まった。

 それに身体がピクッと一線を越えれば、ふと俺の腹を見たマルさんはその場でティッシュを出し、迷ったらしい、まずは抜こう、と考えたようだ。
 それも「…ちょっとまだ、外れそうかも」と結論付け、腹に撒かれた白い体液を指で掬い、一口舐めていた。

「…ゆっくりでいいよ」
「んー…そうする…」

 身体を支え、顔のすぐ側に来たマルさんは少し、舐める程度のキスをして「どう?自分の味」と、あの人のような無表情で言った。
 まだ反応はしないけれど、少しだけ体が熱くなった瞬間、彼は俺の身体からそれを抜き、ちゃっちゃとコンドームを外していた。

「…あんまりわかんないよ、苦いけど」
「俺のはどんな味よ」
「出さなかったじゃん?」
「普通はな。旨くねぇもん」

 ふいっと離れて身体を起こした彼は、電気スタンドに置いておいたハイネケンを一口飲み、「温いな」と顔をしかめる。 
 俺がただ見ていると、まるでどうでもいい物のように、その緑の缶を寄越してきては、「水取って来る」とベッドを離れ、側のテーブルのコンビニ袋を漁った。

 取り出したペットボトルからぐびっぐびっと水を飲む姿に、彼は同じくらいの年齢になっただろうか、ただ、少しだけ豪快なような男らしいような、とにかく雰囲気は違うと上書きして眺める。
 マルさんはこちらに戻り、俺に水を渡しながら「初恋のやつってどんな人」と素っ気なく聞いてきた。

「んー。ちょっとマルさんとは違うけどね」
「ふうん」
「怒った?」

 「いや、別に」と言ったが、それはとてもつまらなそうな声色で。

「まぁ普通ヤッてる最高潮で言わないと思うけど」
「もう少しそのままでいたくて、つい」
「足んなかった?その割にイッてるけど」
「あの感覚って長く続けたくなることない?」
「…一度きりの相手なんてそうでもないな。サクッと済ませたい」
「まぁ、確かに」
「ついでだけど、どこが似てんの?」
「顔。断然」
「…あっそ」

 まだ、朝まで時間はあるけれど。

 マルさんは「風呂沸かす?」と聞いてきた。
 テキトーに頷くと彼は給湯を押し、帰ってくればもう、ガウンを羽織ってしまっていた。

「もう少しヤる気もなくなっちゃった?」
「別にいいけど。ああ言われるとあんま満足させてないかなって気になるし」
「…あそう」
「あんたってあんま遊び慣れてない?普通ヤッてる最中は言わねぇもんだよ」
「…わかってますって」
「わざとか。悪かったね早漏で」
「ううん、違う。俺が遅漏なの」

 はぁ、と息を吐いた彼はやっと笑い、ソファに座ってジッポを擦り、紙パックの端を炙る。
 そんな姿に「あ、」と、思わず声が出てしまった。

「あれ、ダメな人だった?」
「…いや、最初キスした時にわかったよ」
「あそう?初恋の人に似てた?」
「…うん、ごめん」
「…あんたいくつ?」 
「ん?」
「年齢書いてなかったよね?20は越えてるハズだけど、会員登録なんて楽そうだったからな…。いまの子供は大人っぽくてわからないし、聞くのもどうかしてるが」
「…そっか、じゃあマルさんは本当に恋人探しだったんだ。
 25だよ。」
「…んー…?あれ、思ったよりいってるようないってないような不思議な気分だな…」
「マルさんは?」
「アプリに書いたけど、まぁ盛った、ホントは34…まぁ見てないよね。重いかなって下げてた」
「いや…見た」
「へぇ。君は何探し中?」
「…別に何も探してないかな、ホントは。恋人も探してるかわからない」

 ふっと、 マルさんが俺を見た瞳は、例えばセックス中とも違う…少し伏し目だった。

「…重いついでに聞くけど、まぁ深い意味はない。もしかして初恋以来とか…」
「流石にないです。まぁ、持て余してますってところで」
「だよなぁ、エロすぎるよなぁ」

 思い付いたので「タバコ、俺にも頂戴」とねだってみた。

 彼は横目で俺を見て、「寝タバコはダメ」と、少し手招いたのでそのまま這い出てソファに座れば「なんで着ないんだよ寒いだろ」と、マルさんは自分のガウンの中に俺を入れてくれた。

 一口目、何故だか火が消えてしまったのに「初?」と、俺の口からタバコを奪ったマルさんはそれを咥え、ふっふーと火を点けて咥えさせてくれる。

 そんなタイミングで『オ風呂ガ沸キマシタ』と鳴る。

 「先入るわ」とガウンを脱いでソファを立った彼の手をつい掴み、「…一緒に入ろ?」と言ってみた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...