殻は開かず

二色燕𠀋

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 遅い。

「感情論に任せるそんな空論など意味がない。至誠持ってせず何が思想と言えようか。至極下らない。
 時を待ち知識を身に付ければ何れその士気を惜しみ無く使うときが来るでしょう。それまでは貴方の論など、私は憎むべきだと考える」

 男は激昂のあまり師の手紙を握り潰した日を思い出すのだ。何処が敵地かもわからぬ秋の日に。

 目を閉じる。私は何も知らなかったわけではない、ただ、ただ若すぎたのだと懐古する。

「無謀だ高杉。同志も団結せぬこの藩に異国を打ち払うなど出来る筈がなかろう」
「どうやら僕は君と斬り合うしかないようだな久坂。もう遅いのだよこの国の軍事など、」

 私かて、君のような知識を持ち寄っていたらどうだったかと、この夜にして考えようとは思いもしなかった。

 だから。
 捕らえられた友人を思う。
 君の目の士気は私に等に敵わないと、本当は分かっていた。久坂、僕が行くまで君は待てるか。
 何を浮わついた論を叫ぶというのか。

「…遅い」

 男は友を待っている。

「私は気が短いのだ友よ。君を待つほどの裁量もない。高杉、悔しければ這ってでも来い。其れ程の才を持って来い」

 あの師が過去にどれ程君の腕を買っていたかと男は知っている。
 自分を可愛がる師を見た友人は確かに非凡、血気ばかりの癖に学はそれから、男より習得した。

 ただ、遅いのだ。

 男はいま殻の中で待つ身となりた。だが希望は捨てていない。大義名分がまだ残っていると信じているからだ。

 卑怯者だと言われたそれにはもう堕ちた、そう、もう遅かったし才はなかったと思い詰める。
 返上するためだけに此所にいるのだ。卑怯は間違いではない。

 …だがふと考えるのだ、君ならばあの先生を言い負かすことが、出来たのだろうかと。

 ここは開かない門の内側。
 男、久坂くさか玄瑞げんずいは友の高杉たかすぎ晋作しんさくを待ちては、初めて友人へ文を残した。
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