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雨音
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一度事務所を出て二人でタバコを吸いにいった。
「あ、そうそう。光也にもちゃんと礼言っとけよな。お前がやり残した仕事、やってるだろうから」
「誰っすかそれ」
「はぁ!?さっき入ってきた兄ちゃんだよ。お前待って、橋本と喧嘩したとき仲裁に入ったんだろ、あいつ」
「あ、あぁ!はいはい、あのなんかイケメンね。いやぁ、俺名前覚えるの苦手で。ホールの人あんま覚えてないんです」
「マジか。てかあいつたまに厨房いるじゃん」
「うっそだぁ」
「いや嘘ついてどうすんの。もともと厨房だからねあいつ実は」
「え、なにそのパターン」
「破天荒なのあいつ。どっち付かずでやりたがりやがって。
まぁでも最近じゃめっきりホールか。ホールの方がぶっちゃけセンスあるからね。だってボーッとしすぎて厚揚げと油揚げたまに間違えるんだもん」
「はぁ?いや信じらんねぇ」
「よほど疲れてるとね。まぁちょっとあれは…仕方ない気もするけどね」
「いやいやダメでしょ」
「まぁさ、仕事の時わりとちゃんとしてるわけ。それが致命的な問題を犯すほどボーッとするって結構なんかね、あるときだよね。あいつわりと無理するからね。だからまぁ、なんかあったら危ないしホールにしたんだよね。だからオーダーミスっても笑って許してやってね」
「えぇぇ!」
「滅多にないけど」
「じゃぁいいか」
まぁまさかこんな時に、奴は睡眠薬飲みすぎてたまに副作用でちょっとラリってますよなんて言えないよね。実際ホールに移った時なんかは自分から言ってきたし。迷惑掛かるからって。
ちょっとワーカホリックなんだよな、あいつ。ていうかノイローゼ?適度に手を抜けないから気付いたら無理してて追い込んでるんだよな。頭の中どうなってるんだろうって思う。
ホールはホールで楽しそうだからいいんだけどさ。
二人で店に戻ると、上司はあからさまに嫌そうな顔をしたので取り敢えず俺から緩く謝罪。
「いやあのさ、柏原さん聞いてた?見てた?」
「いや見てませんけど話は聞きましたよ。ウチのがすみませんね」
「うん、だから始末書書かしてよ。で、話し合ってからそいつ入れるから」
「いや、無理っす。もうランチピークくるし。厨房回らないんで」
「そんな新人一人欠けて回せないの?」
「どーでもいいけどはい、チャーハン。これA卓13番ね」
「…志摩くん持ってって」
「えー、俺ドリンカーなんですけど。ドリンク入ってるし。今やれる奴いねぇし」
そう言って光也と目を合わせると半笑いで。こいつホント腹黒いな。ホントは入ってないんだろ全然。
「じゃぁ誰か持ってって。いいやじゃぁ北田さん、A卓13番」
そう上司が指示すると、ホールの新人が取り敢えずチャーハンをトレンチに乗せる。
しかし、「A卓ってどこですか?」とか言っている。確かこの女の子、入って2回目とかだ。なんでピークにぶちこんだんだか。
光也が、「あー左行って。あとはちょっとテーブル見て。後で卓表貰いなあの人からー」とか言ってる。
社員はなかなか自分がアウェイな状況なことに漸く気付き始めたらしい。舌打ちして卓表を光也に渡していた。
「機嫌悪いっすねー」
とか言って光也は一度ドリンカーに戻っていく。
「あんたこそ、これ回せんの?」
「はい?」
「俺は悪いが新人の力も借りないと回せないから。あんたみたいに新人のね、能力をまるっきりわかってない訳じゃないの。
まぁそろそろ移動だろうから言っても仕方ないけどね、一個言うと、従業員ちゃんと見た方がいいと思うよ。じゃないと首締めんの自分だからね。大体シフト担当なんだし。
ってわけで神崎真里はそのまま入れとくから」
「だから、」
「だって今回の件だって別に店長判断、なんならオーナー判断じゃないでしょ?私情でしょ?それをね、勝手に帰れなんて、残されたもんはたまったもんじゃないわ。つーかパワハラだよ?あんただって一人抜けた分を補えるほど技量ないじゃん。
今見てごらんよ?卓番わからん新人とドリンカーと、辛うじて卓番わかる新人。ドリンカーが大体を二人に教えてる。あんたここで油売ってる。この時点で技量ないんだから最早今日は諦めてくんない?クソ面倒なんだけど。まずは店回そうよ。バイトを纏めんのが社員の役割。いま纏まってないんだからあんた仕事出来てないの。お互いに社員同士、仕事しましょーよ。俺今結構優しめに常識的なこと言ってるよね?」
俺がそう言うと、そいつは黙って不貞腐れたように客席に消えていった。
へ、バーカ。使えない奴ほどどうして下を苛めたがるんだか。
「なんか、ありがとうございます…」
思ったことをただただ言っただけなのに感謝されちまうんだからなんかこそばゆいわ。
「あいつ元々嫌いなんだよクソ使えねーし。いいからお前は黙って仕事しなさい」
そんなことしか言えないんだよなぁ、俺って。
「あ、そうそう。光也にもちゃんと礼言っとけよな。お前がやり残した仕事、やってるだろうから」
「誰っすかそれ」
「はぁ!?さっき入ってきた兄ちゃんだよ。お前待って、橋本と喧嘩したとき仲裁に入ったんだろ、あいつ」
「あ、あぁ!はいはい、あのなんかイケメンね。いやぁ、俺名前覚えるの苦手で。ホールの人あんま覚えてないんです」
「マジか。てかあいつたまに厨房いるじゃん」
「うっそだぁ」
「いや嘘ついてどうすんの。もともと厨房だからねあいつ実は」
「え、なにそのパターン」
「破天荒なのあいつ。どっち付かずでやりたがりやがって。
まぁでも最近じゃめっきりホールか。ホールの方がぶっちゃけセンスあるからね。だってボーッとしすぎて厚揚げと油揚げたまに間違えるんだもん」
「はぁ?いや信じらんねぇ」
「よほど疲れてるとね。まぁちょっとあれは…仕方ない気もするけどね」
「いやいやダメでしょ」
「まぁさ、仕事の時わりとちゃんとしてるわけ。それが致命的な問題を犯すほどボーッとするって結構なんかね、あるときだよね。あいつわりと無理するからね。だからまぁ、なんかあったら危ないしホールにしたんだよね。だからオーダーミスっても笑って許してやってね」
「えぇぇ!」
「滅多にないけど」
「じゃぁいいか」
まぁまさかこんな時に、奴は睡眠薬飲みすぎてたまに副作用でちょっとラリってますよなんて言えないよね。実際ホールに移った時なんかは自分から言ってきたし。迷惑掛かるからって。
ちょっとワーカホリックなんだよな、あいつ。ていうかノイローゼ?適度に手を抜けないから気付いたら無理してて追い込んでるんだよな。頭の中どうなってるんだろうって思う。
ホールはホールで楽しそうだからいいんだけどさ。
二人で店に戻ると、上司はあからさまに嫌そうな顔をしたので取り敢えず俺から緩く謝罪。
「いやあのさ、柏原さん聞いてた?見てた?」
「いや見てませんけど話は聞きましたよ。ウチのがすみませんね」
「うん、だから始末書書かしてよ。で、話し合ってからそいつ入れるから」
「いや、無理っす。もうランチピークくるし。厨房回らないんで」
「そんな新人一人欠けて回せないの?」
「どーでもいいけどはい、チャーハン。これA卓13番ね」
「…志摩くん持ってって」
「えー、俺ドリンカーなんですけど。ドリンク入ってるし。今やれる奴いねぇし」
そう言って光也と目を合わせると半笑いで。こいつホント腹黒いな。ホントは入ってないんだろ全然。
「じゃぁ誰か持ってって。いいやじゃぁ北田さん、A卓13番」
そう上司が指示すると、ホールの新人が取り敢えずチャーハンをトレンチに乗せる。
しかし、「A卓ってどこですか?」とか言っている。確かこの女の子、入って2回目とかだ。なんでピークにぶちこんだんだか。
光也が、「あー左行って。あとはちょっとテーブル見て。後で卓表貰いなあの人からー」とか言ってる。
社員はなかなか自分がアウェイな状況なことに漸く気付き始めたらしい。舌打ちして卓表を光也に渡していた。
「機嫌悪いっすねー」
とか言って光也は一度ドリンカーに戻っていく。
「あんたこそ、これ回せんの?」
「はい?」
「俺は悪いが新人の力も借りないと回せないから。あんたみたいに新人のね、能力をまるっきりわかってない訳じゃないの。
まぁそろそろ移動だろうから言っても仕方ないけどね、一個言うと、従業員ちゃんと見た方がいいと思うよ。じゃないと首締めんの自分だからね。大体シフト担当なんだし。
ってわけで神崎真里はそのまま入れとくから」
「だから、」
「だって今回の件だって別に店長判断、なんならオーナー判断じゃないでしょ?私情でしょ?それをね、勝手に帰れなんて、残されたもんはたまったもんじゃないわ。つーかパワハラだよ?あんただって一人抜けた分を補えるほど技量ないじゃん。
今見てごらんよ?卓番わからん新人とドリンカーと、辛うじて卓番わかる新人。ドリンカーが大体を二人に教えてる。あんたここで油売ってる。この時点で技量ないんだから最早今日は諦めてくんない?クソ面倒なんだけど。まずは店回そうよ。バイトを纏めんのが社員の役割。いま纏まってないんだからあんた仕事出来てないの。お互いに社員同士、仕事しましょーよ。俺今結構優しめに常識的なこと言ってるよね?」
俺がそう言うと、そいつは黙って不貞腐れたように客席に消えていった。
へ、バーカ。使えない奴ほどどうして下を苛めたがるんだか。
「なんか、ありがとうございます…」
思ったことをただただ言っただけなのに感謝されちまうんだからなんかこそばゆいわ。
「あいつ元々嫌いなんだよクソ使えねーし。いいからお前は黙って仕事しなさい」
そんなことしか言えないんだよなぁ、俺って。
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