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雨音
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ある時を境に俺は自分の不甲斐なさに向き合おうと決めた。
歓迎会からおよそ半年後くらいだった。
家で休みの日にのんびりしていると突然静が過呼吸になって踞ってしまった。すぐさま救急車を呼んだが、救急車が来た頃には治っていた。
来た救急隊員に、いつも掛かっている病院を伝え、救急車に乗せたら治りかけていたのが悪化。
俺は何も出来なかったので静の手を握って「大丈夫だから」と言ってずっと隣で一緒にいた。するとそのうち寝てしまって。
もしかしてと思って病院に着いた頃、医者に聞いてみると、案の定薬の過剰摂取だろうと。そして稀にこういった副作用が出てしまうのだと。
「救急隊員に聞きました。貴方がした処置、実は一番正しいんです。我々医者にはなかなか出来ない」
「え?」
「不安をまず取り除く。穂並さんが飲んでる薬は睡眠改善薬であり、抗不安薬でもあるんです。通称“金ハル”って言うんですけど。金色のパッケージのハルシオンだから金ハル。あといくつかお飲みになってますよね?大体抗不安薬や睡眠改善薬は用法用量、注意を守らないと強く副作用が出るんですよ。
今日は取り敢えず起きるまで入院させときましょう。一応薬を弱めるようなものは点滴しときますが…」
それから朝までは待機したが、朝になっても起きる様子がないので急遽1日休みを取った。母親が倒れたと言って。本当は母親なんてとっくの昔に死んでいるけど。
静が起きたのは昼過ぎで、あっさり退院した。
この経験が生き、何週間か後に店で光也が同じような症状を見せた時は冷静に対処出来た。
急に黙りこんで過呼吸になりやがるから取り敢えず背中擦って「よーし、ほら、大丈夫大丈夫」とか言って安心させれば大事には至らなかった。事務所まで運んで落ち着いた頃に少しばかり説教したけど。
「どうした」
「わかんない…いや、申し訳ないです」
「いや別にそこはいいんだけど。ストレス?」
「え?」
「俺の知り合いにも似たような奴がいてね。ついこの前同じような症状で目の前でぶっ倒れて救急車に乗ったばかりだったんだよ。だからなんとなく対処できた」
「あぁ、そうなんだ…」
ぼーっとしてるな。
「だから嘘吐いても無駄だからね。お前、薬飲みすぎたでしょ」
「まぁ、はい」
「バカだねぇ。二度とやんなよ。家まで送るから」
「え…?」
「当たり前だろ一人で帰せるかバカ」
「いや、仕事戻ろうかと」
「はいまだラリってるー。今のお前は使い物にならないのでいりませーん」
「うーん」
「これに懲りたら二度とやってはいけませんね、光也くん」
「…はい」
とか話終わった頃、勢いよく事務所の扉が開いた。真里が慌てて駆けつけたようで。時計を見たら丁度、真里の休憩時間だ。
「おぉお、生きてますね!」
「生かしてやってるよー」
「マジびびったから、ホント」
「いやぁ、悪かったな」
「悪かったなじゃないよもう!」
「安心しろ、俺がちゃんと送ってくから」
「あ、そうですか」
「光也ー、もうちょい意識はっきりしたら帰るよー」
「んー…」
頭押さえながら取り敢えず更衣室へ入っていった。
「え、大丈夫なんですかあれ」
「帰って寝かせればね。俺の知り合いが丁度この前ね、同じような症状で運ばれてさ。医者はまぁ、ほっとけば大丈夫って言ってたから」
「そうなんだ、え、あれって病気?」
声を潜めて真里が聞いてきたので、「違うよ、ある意味そうだけど」と答えた。
「気になるなら聞いてみたらいい」
「うーん…。
いや、そーゆーのは待つべきかな」
まぁ悩め若者よ。
着替えに少々時間をかけて出てきた。やっぱ頭痛そうだな。
シャツのボタンを掛け違えたりしてるのを、「あー、ほらほら」とか言って真里は直してやってる。
電撃告白を思い出してしまう一場面だった。確かにそんな時の真里の目、なんか愛しそうで。
「あぁ、ありがとう…」
なんなんだお前ら。気まずいなぁ俺が。
とか思って眺めてたら真里と一瞬目が合って気まずそうな顔をされて。
いや、気まずいのは俺の方だから。
歓迎会からおよそ半年後くらいだった。
家で休みの日にのんびりしていると突然静が過呼吸になって踞ってしまった。すぐさま救急車を呼んだが、救急車が来た頃には治っていた。
来た救急隊員に、いつも掛かっている病院を伝え、救急車に乗せたら治りかけていたのが悪化。
俺は何も出来なかったので静の手を握って「大丈夫だから」と言ってずっと隣で一緒にいた。するとそのうち寝てしまって。
もしかしてと思って病院に着いた頃、医者に聞いてみると、案の定薬の過剰摂取だろうと。そして稀にこういった副作用が出てしまうのだと。
「救急隊員に聞きました。貴方がした処置、実は一番正しいんです。我々医者にはなかなか出来ない」
「え?」
「不安をまず取り除く。穂並さんが飲んでる薬は睡眠改善薬であり、抗不安薬でもあるんです。通称“金ハル”って言うんですけど。金色のパッケージのハルシオンだから金ハル。あといくつかお飲みになってますよね?大体抗不安薬や睡眠改善薬は用法用量、注意を守らないと強く副作用が出るんですよ。
今日は取り敢えず起きるまで入院させときましょう。一応薬を弱めるようなものは点滴しときますが…」
それから朝までは待機したが、朝になっても起きる様子がないので急遽1日休みを取った。母親が倒れたと言って。本当は母親なんてとっくの昔に死んでいるけど。
静が起きたのは昼過ぎで、あっさり退院した。
この経験が生き、何週間か後に店で光也が同じような症状を見せた時は冷静に対処出来た。
急に黙りこんで過呼吸になりやがるから取り敢えず背中擦って「よーし、ほら、大丈夫大丈夫」とか言って安心させれば大事には至らなかった。事務所まで運んで落ち着いた頃に少しばかり説教したけど。
「どうした」
「わかんない…いや、申し訳ないです」
「いや別にそこはいいんだけど。ストレス?」
「え?」
「俺の知り合いにも似たような奴がいてね。ついこの前同じような症状で目の前でぶっ倒れて救急車に乗ったばかりだったんだよ。だからなんとなく対処できた」
「あぁ、そうなんだ…」
ぼーっとしてるな。
「だから嘘吐いても無駄だからね。お前、薬飲みすぎたでしょ」
「まぁ、はい」
「バカだねぇ。二度とやんなよ。家まで送るから」
「え…?」
「当たり前だろ一人で帰せるかバカ」
「いや、仕事戻ろうかと」
「はいまだラリってるー。今のお前は使い物にならないのでいりませーん」
「うーん」
「これに懲りたら二度とやってはいけませんね、光也くん」
「…はい」
とか話終わった頃、勢いよく事務所の扉が開いた。真里が慌てて駆けつけたようで。時計を見たら丁度、真里の休憩時間だ。
「おぉお、生きてますね!」
「生かしてやってるよー」
「マジびびったから、ホント」
「いやぁ、悪かったな」
「悪かったなじゃないよもう!」
「安心しろ、俺がちゃんと送ってくから」
「あ、そうですか」
「光也ー、もうちょい意識はっきりしたら帰るよー」
「んー…」
頭押さえながら取り敢えず更衣室へ入っていった。
「え、大丈夫なんですかあれ」
「帰って寝かせればね。俺の知り合いが丁度この前ね、同じような症状で運ばれてさ。医者はまぁ、ほっとけば大丈夫って言ってたから」
「そうなんだ、え、あれって病気?」
声を潜めて真里が聞いてきたので、「違うよ、ある意味そうだけど」と答えた。
「気になるなら聞いてみたらいい」
「うーん…。
いや、そーゆーのは待つべきかな」
まぁ悩め若者よ。
着替えに少々時間をかけて出てきた。やっぱ頭痛そうだな。
シャツのボタンを掛け違えたりしてるのを、「あー、ほらほら」とか言って真里は直してやってる。
電撃告白を思い出してしまう一場面だった。確かにそんな時の真里の目、なんか愛しそうで。
「あぁ、ありがとう…」
なんなんだお前ら。気まずいなぁ俺が。
とか思って眺めてたら真里と一瞬目が合って気まずそうな顔をされて。
いや、気まずいのは俺の方だから。
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