クレイストン・カレッジ

かばね

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【第三章】With a Prayer Upon the Cross

第1話:悲劇の幕開け

おおよそ一ヶ月が経過した11月27日。
秋が過ぎ去り冷気が増していく中、ようやくカイルはマーガレット・ハウスでの生活が日常として染み付き、またオメガとしての自分にも慣れ始めていた。
とはいえ、毎日薬を飲みネックガードをつけて生活することに慣れただけ、という意味合いでもある。

ヒートはまだ来ない。
正直、怖くないかと言えば嘘になる。
ビッチングの症例が少ないために、ドノヴァン医師でさえカイルのヒートがいつくるのかは予想できていない。

精密検査の結果、現状カイルの体はまごう事なきオメガだ。
ホルモンの分泌量は一般的なオメガより多少少ないようだが、おそらくそれはビッチングしたばかりだからだろうと、医師は考えているようだ。
オメガは初めてのヒートを平均15歳前後で迎える。
当然個人差はあるが、生まれてから生殖機能が成熟するまで概ねそのくらいの時間がかかるからだ。
ゆえにカイルが始めてヒートを迎えるのは15年後の可能性だってある。
そうだとしたらカイルにとっては非常にありがたいことだが、いつ起きるかわからないものを何年も待ち続けるのだって不安だ。
医師はカイルの希望があればオメガ用の発情誘発剤で機能の成熟とヒートを促進することもできると言ってくれたが、カイルはこの返答を未だ保留していた。


学校生活に関しては、文句なしとまではいかないが順調と言える。
アーサーがあの日大食堂で大立ち回りをしてくれ、さらにはカイルを教室まで見送ってくれたことが大いに噂になった。
学校新聞にまでもアーサーとカイルの関係性を取り上げられ、二人が番になる日もそう遠くはないかもしれないと邪推されている。
だが、それを張本人たちに直接聞きにくる生徒は一人たりともいない。
知っての通りアーサーは恐れられているし、カイルは皆にキングの恋人だと思われている。
カイルに手を出したら王の怒りに触れると思っている生徒が大半であるため、あからさまないじめや揶揄いもないが近づく人もいなかった。
よってカイルはアーサーとの関係を否定するチャンスを未だ得られないままだった。


………否、一つだけカイルに異変が起きていた。
正確にはカイルの周辺に、だ。

まずこの頃、物がよくなくなるのだ。
ペンケースから愛用のペンが消えたり、教科書が見当たらなかったり、昨晩やっつけたはずの課題を紛失したり。
財布の中身がまるまる抜かれていたことも何度かあった。
初めのうちは自分の管理不足かとも思ったが、にしてはあまりにも頻度が高すぎる。
そして失くしたものが時折見つかることもあった。
しかしどれもがひどく破損した状態で発見されるのが常だった。
教科書だったら破られているし、愛用していたハンカチは泥だらけ。
うっかりマフラーを教室に忘れた時は二日後に見つかったが、人気のない校舎裏で燃やされて見つかった。

物がなくなるのと同時に、おかしなものが放り込まれていたりもする。
たとえば虫の死骸や、腐った食べ物。
一番カイルの心を折ったのは、
"BITCH(クソアマ)"
"SKANK(アバズレ)"
"MANWHORE(淫乱男)"
"JUNKY(薬物中毒者)"
など、下品なスラングをいくつも赤いペンで書き殴った薄いノートが入っていた時だ。
これにはエリオットや先生たちも心底嫌そうな呻き声を上げ、カイルに代わって処分してくれたりもした。

誰がやっているかは分からないが、明らかにカイルに悪意があるのだろう。
カバンを鍵付きのものに変えて、なるべく目を離さないようにした。
財布や携帯、緊急抑制剤は常にジャケットに入れて持ち歩くようにして、毎日警戒してビクビクしながら過ごしていた。


誰がこんなことをするのか、カイルには心当たりがあった。
信じたくはないが、もしかするとグレアムとヘンリーかもしれないのだ。
当然カイルが見てきた二人がそんなことをするとは思えなかったが、人なんて何が原因で変わるか分からない。
小さい頃は自分を愛してくれた父や兄でさえ、ベータだと分かった瞬間切り捨てられたのだから。
オメガになってしまった今、今度は親友から切り捨てられ、攻撃されているのかもしれないと思っていた。

しかしそれを二人に直接追求するチャンスはなかった。
相変わらずグレアムとヘンリーは教室でもカイルに近づかない。
初めはきっと自分がオメガになったせいで戸惑っているのだろうと思っていたカイルは、二人と距離を置いていた。
そうするうちに仲を取り戻すタイミングを掴めずにいたとも言うが、二人もカイルをはっきり仲間ではないと判断しているようだった。

グレアムはオメガにもいい感情はないし、ヘンリーは分からないが、長いものに巻かれやすいきらいがある。
グレアムに同調してカイルに嫌がらせしているのであれば、あり得る話かもしれないとカイルは思っていた。

ジェームズやアーサーではないだろう。
彼らはカイルをいじめているほど暇じゃないし、口汚いスラングを使うようには見えない。
エリオットでもない。彼は虫が大の苦手だからだ。
もし彼がカイルに嫌がらせをしたいなら、虫の死骸を使ったりはしないだろう。

消去法で考えても、グレアムとヘンリーの二人にしか辿り着かなかった。
それに、カイルがぐちゃぐちゃの教科書を教師に発見され叱られた時や、カバンの中から生ごみが出てきて教室中で異臭騒ぎを起こした時。
彼ら(特にグレアム)はうんざりした顔でカイルを見ていたのだ。
またアイツが騒いでる。
黙って泣いてりゃいいのに、騒ぎすぎなんだよ。
オメガになって監督生に見初められたからって良い気になるなよ。
どうせ今はベータの俺らのこと見下してんだろ。
と。
そんな彼らの声が聞こえてくるようだった。
壮絶な嫌がらせでカイルの精神状態は非常に脆くなっていた。
元親友さえ今やカイルにとっては宿敵で、父や兄と同じくらい憎い存在だった。
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