クレイストン・カレッジ

かばね

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【第三章】With a Prayer Upon the Cross

第4話:ゲームオン

スッキリとした秋晴れの木曜日。
11月29日にウォータークラッシュは開催された。

行事の日は一日講義もないので、カイルは朝食をエリオット、ユリシーズ、ダニーの三人とゆっくり摂った。
アーサーやジェームズたち出場選手は準備のために先に食事を済ませていたので、今日は一緒ではない。

トーストと目玉焼き、ベイクドビーンズ。
選手に精がつくようにと朝からローストビーフやヨークシャープディングなんかが提供されている。
きっと夕食はもっと豪勢に、牛肉やキジ肉のパイやサーモンの包み焼きなんかが出ることだろう。
朝から生徒たちは落ち着かない様子で、大食堂でもビジネス部が大声で「一番人気はやはりキング!だが王子も負けてないぞ!さぁ大穴に賭ける奴は誰かいないか!?一発当てればお前は英雄だ!」なんて大声で賭け券を売り込んでいる。
今日は生徒たちも制服ではなく、自分の寮色のスウェットを着ていたり背中にデカデカと"Blades Before Pride(プライドを捨てて漕げ)"と印字されたTシャツなんかを着ている。
服も近く毎日寒いと言うのに、半袖のTシャツで外に駆け出す生徒もいる。
それだけみんな、ウォータークラッシュを楽しみにしているのだ。
ダニーは朝食の席で何やらチクチク縫い物をしている。
なんだかすごく真剣だったので、カイルはそれがなんなのか聞くに聞けなかったが。


レースは正午に開始する。
それまでは自由時間なので四人で学校内をぶらぶらしたり、準備の整いつつあるエルデン湖まで足を伸ばしたりした。
湖のすぐそばには古い天文塔がある。
一応南京錠がかかっているのだが壊れており、管理する人がいないのかカイルが入学した時からこのままだ。
上ると古い木製の階段がギイギイ唸って不安になってしまうが、吹き抜け状になった最上階の天文台に到着すれば、広がるのはすがすがしい景色だ。
正面には広大な湖が広がり、今日の試合のために白い天幕がいくつか立てられている。
湖の東には生徒用に三段の観客席がほとりに沿ってずらりと並べられている。まさに壮観だ。
その反対を見れば学校の敷地が、さらにその奥にはカレッジのあるマンチェスター・ソーンブリッジの街並みが広がっている。
四人はここでお菓子やジュースを広げ、のんびり食べながら携帯ゲームなんかをして試合開始を待った。











「さぁ!待ちに待ったウォータークラッシュの時間だ紳士諸君!
天気は寒いが、今年も俺たちを率いる監督生には熱い戦いを期待するぜ~!
お前たち、盛り上がる準備はできてるか~ッ!?」

MCを務める生徒の開会宣言に大歓声が沸き起こる。ほとんど地鳴りみたいだった。
男ばかりなので、ドラゴンの唸り声のような太い歓声だった。

「いいねぇ~滾ってるぜお前たち~!最後までその調子で応援続けてくれよな!
さぁ早速選手の紹介に移ろう!寮の順番に行くぜ~…?」

おぉ~ッ?と生徒たちがMCに合わせて合いの手を入れる。
カイルはユリシーズが売店から買ってきてくれた瓶のコーラを飲みながらお祭りの雰囲気を味わっていた。


「まず一人目は我らがプリンスだ!
その高貴さは我らが国家の象徴!彼が微笑むだけで雨は上がり花は咲き乱れ鳥は喜びを歌うだろう!
白馬を乗りこなすようにカヤックも乗りこなせるかァ~!?
アルバート寮六学年監督生ェッ、ッジェーーームズ!!テイラァーーーッッ!!!」

観客席——主にアルバート寮の生徒——から大歓声が上がった。
MCに指差されたジェームズはひらりと手を振り、白い歯をのぞかせて笑う。
バッキンガムのバルコニーから国民に手を振るイングランド王みたいだった。
選手たちは全員水上競技用のスポーツインナーに足首まで覆う競泳水着、膝上丈のショートパンツという格好だ。

ユリシーズを挟んで隣に座ったダニーは頭に『ジェームズ☆優勝』と刺繍のしてあるハチマキを巻いて(今朝チクチク縫っていたのはこれらしい)、奇妙に袖の広い真っ赤なパーカーをコートの上から着ていた。
ちなみにこのパーカーは日本の法被と呼ばれるものだが、日本のオタク文化に疎いカイルはわからなかった。
両手には赤色に光るペンライトを一本ずつ握りしめていて、これにもハチマキと同じくジェームズの名前が書いてあった。
どうやらこれが今日の彼の応援スタイルらしい。
にしても今年はMCの癖が強いようだ。


「ァ続いては優勝の最有力候補!!
一体彼の異名はいくつあるのでしょうか!?最高監督生、王の学徒、稀代の天才……。
しかし我らを率いるその立場、相応しい呼び名はまさしく『キング』!!
去年の優勝に引き続き、今年も王様として優勝トロフィーを手にするのか!?
それとも王冠を水中に落としてしまうのかァ!?
ベンジャミン寮六学年監督生ェッ、ァアーサーーー!!オブライエーーーンッッ!!!」

今度はベンジャミン寮が盛り上がりを見せた。
ジェームズとは対照的に、アーサーはそれに一切反応を見せない。
ただスポーツインナーに覆われた腕を組み、相変わらず尊大な表情でMCをくだらなさそうに聞いている。
これにはカイルも乗っかって「頑張れーッ」と声を張りあげる。
隣でユリシーズはというと指笛を吹いて盛り上げた。

MCは同じ調子で選手の紹介を続けていく。
それが終わるとルールの説明を始めた。


「ウォータークラッシュを見るのが初めてな一年坊主たちのために、今年もルール説明をしてやろう!
カヤックに乗るのは全部で三人。
前後に二人のパドラー漕ぎ手、真ん中に監督生が務める"将軍"が座る。
将軍同士は相手をカヤックの上から水に突き落としたら勝ちだ!
ただしパドラーが将軍に攻撃するのは禁止、将軍も自寮のパドラー以外に触れると失格になるから気をつけろよな!
ちなみに将軍に限りカヤックの上で立っても構わないぜ!落ちやすくなるけどな!ワハハ!
武器は持ち込み禁止だが、パドルで相手を突き落とすのはOKだ!
ただし怪我だけは避けること!避けられないならせめて右腕だけは無事に返してやるように!骨を折っても課題は免除されないからな!!」

ドッと生徒から笑いが巻き起こった。

「もちろんパドルで相手のカヤックを押すのもOK!
これはパドラーにも将軍にも許されたルールだ!相手のボートと適切な距離を取ることが重要だぞ!
落ちた生徒はすみやかに陸上まで戻ること!全員水泳の訓練は受けてるだろ?
泳げない奴は先生方が浮き輪を持って救助に行くが、学年末までバカにされることを覚悟しろよ!」

監督生たちはその間いそいそと各寮色のライフジャケットを着込んでいる。
ジェームズなら赤、アーサーなら青といった具合だ。
他にも肘や膝を覆うプロテクターや目を守るゴーグルを頭につけて、彼らはカヤックに乗り込む。
このカヤックも寮ごとの色をしているので、観客はどの寮同士がぶつかっているか判別しやすくなっている。


選手たちが配置につく。
審判の教師が審判台に立った。



「ァそれではぁ~~………ウォータークラッシュ~……。
スタァーーーートッ!!!!」


試合開始。ホイッスルが鳴った。
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