クレイストン・カレッジ

かばね

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【第三章】With a Prayer Upon the Cross

第5話:アーレア・ヤクタ・エスト

賽は投げられた。
湖の縁から五色のカヤックが同時に漕ぎ出す。
生徒たちの歓声を背中に受け、カヤックはどんどん湖の中央に向かって進んでいく。

真っ先に交戦開始したのは、アーサーの乗るベンジャミン寮の青いカヤックとエリオットの所属するデリック寮の紫のカヤックだ。
脇目も振らず中央に近づく青いカヤックの横腹に、紫のカヤックが正面衝突する。
青い船の前方に座る漕ぎ手がそれをパドルで突いて押し返すが、すぐにまた横付けされてしまう。
将軍同士のパドルが届く距離まで近づいた途端、アーサーが容赦無くデリック寮監督生の肩をパドルで突いた。
紫のカヤックが大きく揺れるが、転覆するほどの勢いではない。
すぐに体勢を立て直したデリック寮監督生が反撃する。
(ここで隣に座っていたエリオットがタオルを振り回して「いけーッ!やっちまえー!!」と叫んだ)
パドルを斜め上から振りかぶりアーサーの胴体を殴打しようとするが、アーサーはすぐさまそれを自分のパドルで受け止め押し返した。
攻撃が失敗して焦ったのか、デリック寮の監督生が今度は青いカヤックの船体を押し返そうとパドルを突き出す。
しかしそれをアーサーの素手に握られ、強く引っ張られる。
勢いのまま重心が倒れ、船体が傾いてほとんどアーサーたちの方になだれ込むようにしてデリック寮のカヤックは転覆した。

「あぁ~ッとここでデリック寮が脱落~~!!
やはり前年優勝者の実力は伊達じゃないぞ!」

紫のスウェットを着たデリック寮生たちからブーイングが起こる。
自寮が一番最初に脱落してしまったのだから仕方がない。
隣のエリオットも顔を両手で覆って「あぁもう弱いんだから!」と落胆した。
可哀想なデリック寮の監督生は必死に泳いて湖から上がり、タオルを持って待機していた生徒たちに風邪をひかないよう包まれて控え室に着替えに行った。


「おぉっとここでアルバート寮とエヴァン寮が接触!!
先に仕掛けるのは~……ジェームズのようだァッ!!」

MCの声に湖の中央へ視線を戻せば、確かに赤いカヤックと浅葱色のカヤックが近づいている。
今回出場しているエヴァン寮の監督生は、特別食堂で出会ったアトキンスではなく四学年の監督生らしい。
なぜアトキンスではなく四学年の監督生が選ばれたのか、カイルは理由を知らなかった。しかしそれは将軍を務める彼を見ればすぐにわかった。
アトキンスは小柄で細身な体格だが、四学年の彼は筋骨隆々の逞しい大男だ。
6フィートと3インチ(190cm)はありそうな大柄で、彼に比べればアトキンスなんて少女も同然に見える。
ジェームズだって上背はあるが、さすがに彼には敵わないだろう。
きっと観客の生徒全員がそう思ったに違いない。

しかしどうやらジェームズが後ろから追い上げた形のようで、しきりにエヴァン寮の浅葱色のカヤックの尻を自寮の船の先端、尖ったところでつついている。
エヴァン寮のパドラーたちも船体を横向きに変えてジェームズたちに応戦しようとしているが、その度にジェームズがパドルをぶん回しているせいで軌道修正を余儀なくされている。
やがて湖の縁まで追い詰められた浅葱色のカヤックの先端が岩場に軽く衝突する。
しかしジェームズたちアルバート寮の面々は容赦を知らないようで、浅葱色のカヤックの先端が岩に乗り上げるほどに船体を押し当てていく。
ついに限界を迎えたエヴァン寮のカヤックは船体を傾けてしまい、鍛え抜かれた筋肉を披露する間もなく天地逆さとなって水中に沈んだ。
直接の接敵では不利と考え、力で将軍を攻撃しなくとも賢く敵船を一艘沈めたジェームズに、所属寮問わず観客が感嘆の声を上げた。

MCが高らかにエヴァン寮の脱落を宣言すると、ダニーが赤いペンライトを頭上でしきりに振ってジェームズの名前を連呼した。
アルバート寮が大いに盛り上がりを見せる一方、エヴァン寮は落胆しつつも選手たちの健闘に拍手を送っていた。


ここでようやく赤いカヤックと青いカヤックが接触する。
ジェームズとアーサーの直接対決が始まったのだ。
生徒一同これには未だかつてないほどの興奮を見せ、冬も近いというのに周囲は熱気に包まれていた。
誰もが二人の勝負を固唾を呑んで見守り、天下の分け目が決する瞬間を見逃すまいと目を皿にしていた。

今回も先に攻め手に回ったのはジェームズだった。
接近戦では勝てないと悟っているのか、パドルが直接届かないようなるべく青いカヤックに対して自分の船が垂直になるよう慎重に位置取りをしている。
こうすると敵の将軍の目の前にいるのは自寮のパドラーになり、敵が手やパドルを伸ばそうとしてもパドラーに当たってしまうので失格のリスクが高くなる。
ジェームズはなかなかの軍師のようだ。彼が中世に生まれていれば優秀な軍略家になっていたかもしれない。

だがしかし、キングの前で小細工は聞かないらしい。
アーサーは冷静にパドルから片手を離し、———何と、赤いカヤックの先端をむんずと鷲掴みにした。
そのまま腕力に任せてアルバート寮のカヤックを押し出し、無理やりに方向転換させれば元の陣形に戻されないようすぐさま自寮の船体を横付けした。
水の浮力で多少動かしやすいだろうとはいえ、全く驚異的な筋力だ。

これにはさすがのジェームズも予想外だったらしく、腹を括ってアーサーと向き合う覚悟を決めたようだ。
バランスをとりながらジェームズがカヤックの上で立ち上がる。
同じようにアーサーもパドルを支えにカヤックの上で慎重に屈んだ。
スタンドアップパドルボードという水上競技があるが、二人の格好はまさにそれだった。
不安定なボードの上で立つだけでもかなりの体感とバランス感覚が必要だが、二人はさらにこの上で取っ組み合いをしようとしている。
もうどちらが勝つのか全く予想がつかなくなり、漁夫の利を狙って突撃しようとしていたチャールズ寮の選手たちでさえ接近することを止め、彼らの行く末を見守っていた。
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