クレイストン・カレッジ

かばね

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【第三章】With a Prayer Upon the Cross

第6話:激闘

揺れる足場に気をつけながら、今度はアーサーがジェームズの足に向かってパドルを横薙ぎに振りかぶった。
体を屈めてバランスをとりながらも、ジェームズはそれを自分のパドルで受け止める。
しかし衝撃は受け流しきれなかったのか、上体が僅かに傾いた。
かろうじて後部席に座ったアーノルド寮のパドラーが腕を伸ばしてジェームズのライフジャケットを掴んだので落水はしなかったものの、かなり危うい場面だった。

まるで槍で打ち合うようにして二人の攻防はしばし続いた。
アーサーが攻撃を繰り出せばジェームズが躱す。
反対にジェームズが打ち込めばアーサーが受け流す。
なんだか剣術の試合を見ているようで、カイルはただ二人が怪我をしないように肝を冷やしながら指を組んで祈っていた。
ユリシーズも同じことを思っていたのか、アーサーがすんでのところでジェームズのパドルを避けるたびに「ひ…」だとか「わっ」と小さな悲鳴を上げていた。

今まで誰も見たことがないような大接戦だ。
お互いに一進一退、全く譲らずなかなか決着がつかない。
しかし勝利の女神はアーサーに微笑んだようだった。

木枯らしが吹いて湖が波立つ。
ちょうどアーサーの猛攻を躱しきったところでアルバート寮のカヤックが大きく揺れて、ジェームズがバランスを崩す。
好機を見逃さなかったアーサーは赤いカヤックに足をかけ、ジェームズの赤いライフジャケットを手で掴む。
そのまま彼の体を勢いに任せて突き飛ばしたではないか!

大きな水しぶきを立ててジェームズが湖に落ちた。
その瞬間、観客たちの熱狂がピークに達した。

「長かった決戦の勝負が着いたァーッ!!
勝者はキングことアーサー!!何と最後はパドルではなく素手で突き飛ばすとは!!————」

MCの声すらかき消されるほどの大歓声がエルデン湖を包む。
カイルを含めたほとんど全員が立ち上がり、アーサーとジェームズの激闘に拍手喝采した。
まさに名勝負と言っていいほど白熱した一戦だった。
(ダニーだけはペンライトを放り出し、膝をついてガックリ項垂れていた)

湖から上がったジェームズもタオルに包まれたが、彼は懐から何かを取り出した。
バ!と大きく観客に向けて広げられたそれは、巨大な字で"SURE ENOUGH!案の定!"と書かれた断幕だった。
全校生徒がワッと笑い、さらなる大喝采と激励が至る所から彼に贈られる。
凍えるほど寒いはずなのに口を開けてアハアハ笑うジェームズは、濡れた金髪を掻き上げ小粋なジョークでファンサービスをしてから控え室に温まりに去っていった。


これで残るはベンジャミン寮の青いカヤックと、未だどことも接敵していないチャールズ寮の黄色いカヤックだ。
しばし激戦の疲労を癒したらしいアーサーたちは、さて決着をつけるために黄色いカヤック向かって漕ぎ出した。




そこまで見て、カイルの意識が湖から引き戻される。
体の奥から何かがドッと引き出される感覚。
観客の歓声が一気に遠くなる。
寒いはずなのに、体が異常に熱い。
呼吸が上がり、思わずここで蹲ってしまいたくなる。

そして何よりも、脳をどろどろに蕩かすような情欲を感じた。
腹の中が疼いて、今すぐ犯して欲しくてたまらない。
熱くて太いモノを突っ込まれて、奥にあるイイ場所をこじ開けて欲しい。
何も考えられなくなるほど絶頂しながら、ナカに熱い種を注ぎ込まれたい。
そんなはしたなくて、醜い欲望が体の中で暴れ回る。

まさか、これがヒートだろうか。
こんな気が狂ってしまいそうなほど昂るものだとは思ってもいなかった。
それに、このタイミングはまずい。
屋外かつ皆が試合に夢中になっているとはいえ、こんな場所でヒートテロを起こしては大騒ぎになってしまう。
とにかく、どこかに避難しなくては。
一人になれる場所。今学校の敷地の方には誰もいない。
けど学校までこんな状態で戻れるだろうか。
かろうじて糸ほど細い理性で繋ぎ止めてはいるものの、これ以上ひどくなっては誰彼構わず襲ってしまう気さえした。

学校より、もっと近い場所。
そうだ、天文塔。湖のすぐそばにあるし、滅多に人は来ない。
とにかくそこまで行って、緊急抑制剤を打とう。
そして急いでマーガレット・ハウスに帰るしかない。
ああ、駄目だ。気持ちよくなることしか考えられない。
これ以上は、もう。


カイルは立ち上がり、脇目も振らず駆け出した。
エリオットやユリシーズが怪訝そうにカイルを呼び止めた気がしたが、気にしている暇はなかった。
崩れそうな脚を叱咤して、ふらふらと森の方に向かう。
幸い、誰も追いかけては来ていないらしい。
きっと周りから見ればのろい足取りだっただろうが、カイルは精一杯走って天文塔に向かった。

錆びついた扉に飛びつき、ドアを押し開ける。
途端体が限界を迎え、デコボコとした岩肌の床に手と膝を付いてしまった。
必死に呼吸を整えながらポケットから緊急抑制剤を取り出そうとして、カイルは先客がいることに気づいた。



「おいおい……マジかよ。本当に来たぜコイツ」


高そうなブランドもののスニーカーが視界に映る。
熱い眼球を回して見上げると、それはあの日大食堂でカイルに卑劣な言葉を吐いたあの六年生だった。
あの時も一緒にいた友人らしきアルファの生徒がもう二人いて、彼らはニヤニヤと下品な笑みでぺっとり座り込むカイルを見ていた。

「お前、オブライエンの奴じゃ満足できなくなったか?
そうだよなァ。アイツ淡白そうだし、淫乱オメガには物足りないだろ?」
「ぁ———なに、なんで」
「メッセージをもらった時は冗談だと思ったが……まさか本当に自分からノコノコ犯されに来ると思わなかったぜ。
まぁいいや。こっちはオブライエンに一ヶ月も外出禁止食らったせいで溜まってんだ」
「ぁ、え。何を……———」
「あのプラチナ髪の方が俺好みだが……まぁ、お前でも妥協してやるよ。
せいぜいしっかりしゃぶれよ」
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