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【第三章】With a Prayer Upon the Cross
第9話:無情な現実
寮に戻る途中、二人はエリオットに捕まった。
試合の最中に抜け出してからカイルの姿を見ていない。何か知らないかと。
二人は慎重に言葉を選びながら、カイルに何があったのかを彼に説明した。
突然ひどいヒートが来て搬送されたこと。
幸い抑制剤を投与して緩和したが、まだ病院から戻らないこと。
そして二人はエリオットを信用していたので、例のカイルが持っていた偽物の抑制剤を見せた。
するとやはりエリオットもこれは学校支給でもらっている緊急用の抑制剤ではないと言い、自分の抑制剤を出して手元で並べて見せてくれた。
比べるとやはり微妙にデザインが違う。
非常に似ているため、まだオメガになったばかりのカイルやアルファであるアーサーに分からないのも無理はない。
エリオットだってもしヒートで朦朧としていたら見間違えるだろうと言った。
二人はエリオットの言葉を受けて、さらに詳しい状況を説明した。
カイルが襲われかけたことと、これは抑制剤ではなく発情誘発剤で、カイルがこれを持っていたこと。
するとエリオットは「そんなわけない!」と強く否定した。
『カイル、ヒートがいつ来るか分からないって怖がってたんです。
病院で誘発剤の処方もしてもらえるけど、まだ自信がないからって断ったくらいで……。
なのに違法に出回ってる薬なんて持ってるはずがないんです!』
エリオットは二人に対して必死に弁明した。
アーサーとジェームズはこれに確信を得た顔をし、やはり誰かが抑制剤を誘発剤とすり替えたのだと結論づけた。
そこでジェームズは教師に呼ばれた。
カイルを発見した際の経緯を詳しく聞きたいと言われて。
教師は怪訝な顔をしたが、ジェームズはアーサーとエリオットの同席を半ば無理やり認めてもらった。
校長室には校長や数名の教師の他、あの暴漢三人もいた。
彼らについてはアーサーとジェームズが顔と名前を覚えていたので、すぐさま教師に報告していたのだ。
屈強な体格の教師に囲まれ、逃げる場を失った彼らは憮然として座っている。
生徒指導担当の教師がまずジェームズに発見した時の話を聞いてきたので、ジェームズは抑制剤以外のことをありのままを伝えた。
抑制剤に関してだけは、『彼は持っていなかった』と嘘をついた。
アーサーはそれを聞きながらやるせない気持ちを抱いていた。
彼が襲われ、屈辱的な行為を強いられていた最中、自分は呑気にくだらないスポーツに興じていたとは。
そして事態を知ったのも、ジェームズやヘインズが全て解決してからだ。
彼がこうなってしまった根本的な理由は自分にあると言うのに。
自分さえあの時理性的であれば、彼にこんな思いをさせることもなかったのに。……
ジェームズの言葉を遮って、カイルに下品な言葉をぶつけたあの六年生が「違う!合意の上だ!あのオメガが誘ったんだ!」と叫びながらズボンのポケットから何かを取り出す。
それは少しシワの寄ったメッセージカードだ。
こう書いてある。
『11月29日、試合中。
天文塔で待ってて。もっといい時間を一緒に過ごそう。
お友達も連れてきていいからね。
あなたのオメガこと、K.マクミラン』
どうやらこれが昨日、寮に戻ると封筒に入った状態で寮室のドアの下に滑り込ませてあったらしい。
彼らも何かのいたずらだろうと思ったし、せいぜいこんなカードを送ってくるバカの顔を拝んでやろうくらいの考えて天文塔で待っていたらしい。
すると濃厚なヒートの匂いを漂わせたカイルが飛び込んできた、という主張だった。
まさか本当にカイルが来ると思わなかった彼らは、これは僥倖と思った。
監督生に抱かれて調子に乗っていると思っていたが、結局相手が一人だけじゃ満足できなかったのかと。
所詮尻軽のオメガなのだと、オメガ差別主義者らしい思考を展開したのだった。
そして据え膳とばかりにカイルを味見しようとしたところでジェームズに見つかり…というわけだった。
それを聞いてジェームズは自分の偏見に気付いた。
あの時ジェームズは確かに彼らの「誘われた」という言い分を傲慢なアルファの勘違いだと一蹴していたのだ。
こんな下衆どもに謝罪する気はさらさら起きなかったが、ジェームズは自分を顧みて深く反省した。
バース差別はしていない自負があったが、オメガに肩入れしてアルファを一方的に加害者と断定するのもまた差別なのだ。
当然、彼らのやったことは許されることではないのだが。
エリオットは彼らの悪びれない様子を見てわなわなと怒りに震えていた。
決して感情的に怒鳴り散らすようなことはなかったが、妖精のような愛らしい顔を真っ赤に染め、体の内側で怒りの炎を滾らせた。
どんな理由があろうと彼らが自分の友人に乱暴を働いたことは事実だったし、オメガ差別者が大嫌いだったので。
悔しくて泣きたくなるくらい怒っていたが、カイルはきっともっと辛かったし、怖かっただろうと考えると言葉が喉の奥で詰まった。
だが大人たちは違ったらしい。
暴漢たちの言い分を聞いた教師は、彼らに二週間の停学を言い渡した。
しかしこれにもう限界を迎えたのはアーサーだった。
『二週間!?たった二週間の停学ですって!?
先生、彼らが行ったことは立派な犯罪です!退学でさえ生温い!
即刻警察に通報すべきです!あんな卑劣な行為を行える人間をこの学校に通わせておけるものですか!!』
アーサーは机を叩いて猛抗議した。
これにはジェームズとエリオットも同調したし、数人の教師も難色を示していた。
しかし生徒指導の教師は情状酌量の余地があると言う。
『実際彼らはメッセージを受け取っているわけだ。
その上で待ち合わせ場所にマクミラン君が現れたのだとすれば、彼が性交渉に合意したと捉えても何ら不自然ではない。
事実カードにはマクミラン君の名前が書いてある。人違いだったという言い訳も通らないだろう』
『しかしこんなカードをカイル・マクミランが送ったという証拠もない!
そもそも彼らとカイルは寮が違う!所属以外の寮に生徒が立ち入ることは禁じられています!先生もご存知でしょう!?』
『人に頼んで届けてもらった可能性だって否定できない。
それにもし仮にそのカードがマクミラン君の送ったものでなくとも、彼らが誰かに呼び出されたことは事実だ。
罰するべきはそのカードを書いた誰かで、彼らは知らずに片棒を担がされただけだろう。
これは未来ある学生の将来を慮っての判断だ』
教師の熱心な擁護に、暴漢三人は何度も深く頷いていた。
ジェームズとエリオットはもう唖然として言葉も出なかった。
まさか生徒を守るべき大人がこんなに腐っているとは。
アルファが優遇される傾向にあるのは重々理解していたはずだが、まさかここまでとは。
アーサーはこれに大きな唸り声を上げて立ち上がり、校長室を端から端まで歩き回りながら怒号を上げ続ける。
試合の最中に抜け出してからカイルの姿を見ていない。何か知らないかと。
二人は慎重に言葉を選びながら、カイルに何があったのかを彼に説明した。
突然ひどいヒートが来て搬送されたこと。
幸い抑制剤を投与して緩和したが、まだ病院から戻らないこと。
そして二人はエリオットを信用していたので、例のカイルが持っていた偽物の抑制剤を見せた。
するとやはりエリオットもこれは学校支給でもらっている緊急用の抑制剤ではないと言い、自分の抑制剤を出して手元で並べて見せてくれた。
比べるとやはり微妙にデザインが違う。
非常に似ているため、まだオメガになったばかりのカイルやアルファであるアーサーに分からないのも無理はない。
エリオットだってもしヒートで朦朧としていたら見間違えるだろうと言った。
二人はエリオットの言葉を受けて、さらに詳しい状況を説明した。
カイルが襲われかけたことと、これは抑制剤ではなく発情誘発剤で、カイルがこれを持っていたこと。
するとエリオットは「そんなわけない!」と強く否定した。
『カイル、ヒートがいつ来るか分からないって怖がってたんです。
病院で誘発剤の処方もしてもらえるけど、まだ自信がないからって断ったくらいで……。
なのに違法に出回ってる薬なんて持ってるはずがないんです!』
エリオットは二人に対して必死に弁明した。
アーサーとジェームズはこれに確信を得た顔をし、やはり誰かが抑制剤を誘発剤とすり替えたのだと結論づけた。
そこでジェームズは教師に呼ばれた。
カイルを発見した際の経緯を詳しく聞きたいと言われて。
教師は怪訝な顔をしたが、ジェームズはアーサーとエリオットの同席を半ば無理やり認めてもらった。
校長室には校長や数名の教師の他、あの暴漢三人もいた。
彼らについてはアーサーとジェームズが顔と名前を覚えていたので、すぐさま教師に報告していたのだ。
屈強な体格の教師に囲まれ、逃げる場を失った彼らは憮然として座っている。
生徒指導担当の教師がまずジェームズに発見した時の話を聞いてきたので、ジェームズは抑制剤以外のことをありのままを伝えた。
抑制剤に関してだけは、『彼は持っていなかった』と嘘をついた。
アーサーはそれを聞きながらやるせない気持ちを抱いていた。
彼が襲われ、屈辱的な行為を強いられていた最中、自分は呑気にくだらないスポーツに興じていたとは。
そして事態を知ったのも、ジェームズやヘインズが全て解決してからだ。
彼がこうなってしまった根本的な理由は自分にあると言うのに。
自分さえあの時理性的であれば、彼にこんな思いをさせることもなかったのに。……
ジェームズの言葉を遮って、カイルに下品な言葉をぶつけたあの六年生が「違う!合意の上だ!あのオメガが誘ったんだ!」と叫びながらズボンのポケットから何かを取り出す。
それは少しシワの寄ったメッセージカードだ。
こう書いてある。
『11月29日、試合中。
天文塔で待ってて。もっといい時間を一緒に過ごそう。
お友達も連れてきていいからね。
あなたのオメガこと、K.マクミラン』
どうやらこれが昨日、寮に戻ると封筒に入った状態で寮室のドアの下に滑り込ませてあったらしい。
彼らも何かのいたずらだろうと思ったし、せいぜいこんなカードを送ってくるバカの顔を拝んでやろうくらいの考えて天文塔で待っていたらしい。
すると濃厚なヒートの匂いを漂わせたカイルが飛び込んできた、という主張だった。
まさか本当にカイルが来ると思わなかった彼らは、これは僥倖と思った。
監督生に抱かれて調子に乗っていると思っていたが、結局相手が一人だけじゃ満足できなかったのかと。
所詮尻軽のオメガなのだと、オメガ差別主義者らしい思考を展開したのだった。
そして据え膳とばかりにカイルを味見しようとしたところでジェームズに見つかり…というわけだった。
それを聞いてジェームズは自分の偏見に気付いた。
あの時ジェームズは確かに彼らの「誘われた」という言い分を傲慢なアルファの勘違いだと一蹴していたのだ。
こんな下衆どもに謝罪する気はさらさら起きなかったが、ジェームズは自分を顧みて深く反省した。
バース差別はしていない自負があったが、オメガに肩入れしてアルファを一方的に加害者と断定するのもまた差別なのだ。
当然、彼らのやったことは許されることではないのだが。
エリオットは彼らの悪びれない様子を見てわなわなと怒りに震えていた。
決して感情的に怒鳴り散らすようなことはなかったが、妖精のような愛らしい顔を真っ赤に染め、体の内側で怒りの炎を滾らせた。
どんな理由があろうと彼らが自分の友人に乱暴を働いたことは事実だったし、オメガ差別者が大嫌いだったので。
悔しくて泣きたくなるくらい怒っていたが、カイルはきっともっと辛かったし、怖かっただろうと考えると言葉が喉の奥で詰まった。
だが大人たちは違ったらしい。
暴漢たちの言い分を聞いた教師は、彼らに二週間の停学を言い渡した。
しかしこれにもう限界を迎えたのはアーサーだった。
『二週間!?たった二週間の停学ですって!?
先生、彼らが行ったことは立派な犯罪です!退学でさえ生温い!
即刻警察に通報すべきです!あんな卑劣な行為を行える人間をこの学校に通わせておけるものですか!!』
アーサーは机を叩いて猛抗議した。
これにはジェームズとエリオットも同調したし、数人の教師も難色を示していた。
しかし生徒指導の教師は情状酌量の余地があると言う。
『実際彼らはメッセージを受け取っているわけだ。
その上で待ち合わせ場所にマクミラン君が現れたのだとすれば、彼が性交渉に合意したと捉えても何ら不自然ではない。
事実カードにはマクミラン君の名前が書いてある。人違いだったという言い訳も通らないだろう』
『しかしこんなカードをカイル・マクミランが送ったという証拠もない!
そもそも彼らとカイルは寮が違う!所属以外の寮に生徒が立ち入ることは禁じられています!先生もご存知でしょう!?』
『人に頼んで届けてもらった可能性だって否定できない。
それにもし仮にそのカードがマクミラン君の送ったものでなくとも、彼らが誰かに呼び出されたことは事実だ。
罰するべきはそのカードを書いた誰かで、彼らは知らずに片棒を担がされただけだろう。
これは未来ある学生の将来を慮っての判断だ』
教師の熱心な擁護に、暴漢三人は何度も深く頷いていた。
ジェームズとエリオットはもう唖然として言葉も出なかった。
まさか生徒を守るべき大人がこんなに腐っているとは。
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