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魔術と魔法
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仄暗い空が、一枚絵を切り替えるような速度で流れていく。俺は依然として、絶叫していた。
「またこれかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「あはは!そうかーい!!」
おぶさって泣く俺。しかしそれに構うことなくご機嫌に笑うウサ耳の少女はその足で数百メートルもの距離を空高く跳躍しながら移動している。そのため毎回の着地と跳躍の際、俺の頭は赤べこのようにゆすられ激しい酔いに苛まれていた。
「このくれぇで白旗かよ!ギャハハ!!情けねぇな!!!」
ギザ歯をむき出しにして俺を嘲笑するのは金髪のチンピラ、バッドだ。片翼で成人男性ほどはあろうかという大きさの大翼を背に拵え、はばたかせている。玉虫色に発光する粒子を纏いながら飛行するその姿は、怪鳥を彷彿とさせた。
「俺もそっちがよかったんだけど!!」
「ばーか、誰が男なんざ乗せるか。洗ってやっただけでも感謝しやがれ。」
汚れた俺をみかねたバッドが指を鳴らしただけで発動したそれは、ワームの粘液まみれだった俺を瞬時に綺麗にして見せた。
頭上に読解不可の複雑な文字が長々と刻まれた魔法陣の出現と同時、そこから水が滝のように流し出され、汚れが落ちたタイミングで別の魔法陣に切り替わり多量の風が送り込まれた。バッドが片手間で済ませた魔法に抱いた感想は一つ。
魔法……便利……!!
「あんまり意地悪しない!!まったく~……。ごめんねジン、嫌いにならないあげて。こんな奴だけど意外と優しいところもあるんだよ。」
咎めるようにバッドを睨むと、こちらを向いて申し訳なさそうにカテラは笑った。
「こんなチンピラにか????」
「あん!?」
申し訳ないがこの不良が人に優しくするところなど、とても想像できなかった。
「あはは!あと、バッドはこう見えて緻密な魔力操作がとっても上手いんだよ!その翼も羽一枚一枚に刻まれた術式に魔力を通してるから、はばたかせるには全体の動きを把握して微細な魔力の連動操作が必要なんだよ~!」
「カテラはできないのか?」
「私は魔術使えないんだ~。」
「あ……ごめん。」
口調はいつも通りだが、前方を向いたまま答えた彼女からはこれ以上踏み込んではならない雰囲気を感じた。
「……カテラは神に愛されてんじゃね~か。お前ほど強力な加護を持ってる奴はなかなかいねぇ。それに、魔術は使えなくても魔法は使えんだろ。」
「なに気使ってんの~、バッドの癖に!あ、ジンも気にしないでね!!私もいつか魔術を使えるようになってやるんだから!!そのためには毎日練習あるのみ、なのです!」
こちらを向いてはにかむ少女はどこかぎこちなかった。
「何かできることがあれば何でも言ってくれ。雑用でも何でもするからさ。」
「んー、それじゃあ明日からジンには魔術の練習!付き合ってもらおうかな~!!」
「え……それは的ってことぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
跳躍による推進力が失われ、餌が来るのを待っていたかのように一気にGが襲い掛かかる。
俺をおぶったカテラは灰を巻き上げ着地、しかし瞬きする間もなく倍の量の灰を巻き上げバッドのもとへ再度跳躍した。
「て、てか……、魔法と魔術は何が違うんだ……?」
息を切らし、額に汗をかきながら問うとバッドが「あ~」と少し考えて口を開く。
「魔法ってなぁ言っちまえば一昔前の代物だ。単一の術式と魔力の変換だけで完結する力で魔術のように複数の術式を組み合わせたり、外付けの魔力機関に置き換えたりできねえ。だからお手軽な分、応用力だったり強力な攻撃手段には乏しいが魔力に直接影響を受けっから魔力次第では魔術よりも強力だったりする場合もあんな。」
「術式の並列起動がこれまた難しいのなんの!困っちゃうよね!」
ふがー!と不満を表すようにカテラは頬を膨らませた。
算数と数学みたいなもんか。
「ちなみにこの翼、大翼の燐光が魔術で、さっきおめえに使った水と風が魔法だ。」
ここで俺の脳に閃光走る。ここは異世界……なれば俺も使えるのが道理であり通例だろう!!そう!!魔法がな!!!レッツ異世界チート!!!
「なあバッド、魔法や魔術って俺にも使えるのか!!」
勢いそのままに身を乗り出してバッドに尋ねた。
今の俺はゲームコーナーの少年と同じくらい目を輝かせていることだろう。
「あん?当たり前だ。魔力持ってりゃあ練習次第で誰にでも使える。おめえも、カテラもな。」
そう言いながらバッドは静かに俺とカテラを見やった。
魔力か……。今のところそんなものは微塵も感じない。
「俺にも魔力ってあんのか……?」
「異世界転移者にも魔力はあるって聞くぞ。まあ、おめえの魔力はどうせくそほど少ねぇだろうがな!!ギャハハ!!」
汚く笑うバッドに俺は挑発する。
「ビビってんのかチンピラ?おめえの魔力よりも多いに決まってんだろ……!」
「なわけねえだろ調子乗んなナメクジ野郎ぉ!!」
互いに煽り、にらみ合っているとカテラが前を指さして叫ぶ。
「あ!!ほら見えてきたよ~!!我らが多種族共生国家デネブ第十二都市。フーリが!!」
俺が転移した場所から30kmほど移動しただろうか、赤い月に照らされ奥から見えてきたのは汚染区を囲むように聳え立つ高さ30mほどの城壁、その奥には異世界然としたオレンジと白の街並みがが俺を迎えていた。
「またこれかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「あはは!そうかーい!!」
おぶさって泣く俺。しかしそれに構うことなくご機嫌に笑うウサ耳の少女はその足で数百メートルもの距離を空高く跳躍しながら移動している。そのため毎回の着地と跳躍の際、俺の頭は赤べこのようにゆすられ激しい酔いに苛まれていた。
「このくれぇで白旗かよ!ギャハハ!!情けねぇな!!!」
ギザ歯をむき出しにして俺を嘲笑するのは金髪のチンピラ、バッドだ。片翼で成人男性ほどはあろうかという大きさの大翼を背に拵え、はばたかせている。玉虫色に発光する粒子を纏いながら飛行するその姿は、怪鳥を彷彿とさせた。
「俺もそっちがよかったんだけど!!」
「ばーか、誰が男なんざ乗せるか。洗ってやっただけでも感謝しやがれ。」
汚れた俺をみかねたバッドが指を鳴らしただけで発動したそれは、ワームの粘液まみれだった俺を瞬時に綺麗にして見せた。
頭上に読解不可の複雑な文字が長々と刻まれた魔法陣の出現と同時、そこから水が滝のように流し出され、汚れが落ちたタイミングで別の魔法陣に切り替わり多量の風が送り込まれた。バッドが片手間で済ませた魔法に抱いた感想は一つ。
魔法……便利……!!
「あんまり意地悪しない!!まったく~……。ごめんねジン、嫌いにならないあげて。こんな奴だけど意外と優しいところもあるんだよ。」
咎めるようにバッドを睨むと、こちらを向いて申し訳なさそうにカテラは笑った。
「こんなチンピラにか????」
「あん!?」
申し訳ないがこの不良が人に優しくするところなど、とても想像できなかった。
「あはは!あと、バッドはこう見えて緻密な魔力操作がとっても上手いんだよ!その翼も羽一枚一枚に刻まれた術式に魔力を通してるから、はばたかせるには全体の動きを把握して微細な魔力の連動操作が必要なんだよ~!」
「カテラはできないのか?」
「私は魔術使えないんだ~。」
「あ……ごめん。」
口調はいつも通りだが、前方を向いたまま答えた彼女からはこれ以上踏み込んではならない雰囲気を感じた。
「……カテラは神に愛されてんじゃね~か。お前ほど強力な加護を持ってる奴はなかなかいねぇ。それに、魔術は使えなくても魔法は使えんだろ。」
「なに気使ってんの~、バッドの癖に!あ、ジンも気にしないでね!!私もいつか魔術を使えるようになってやるんだから!!そのためには毎日練習あるのみ、なのです!」
こちらを向いてはにかむ少女はどこかぎこちなかった。
「何かできることがあれば何でも言ってくれ。雑用でも何でもするからさ。」
「んー、それじゃあ明日からジンには魔術の練習!付き合ってもらおうかな~!!」
「え……それは的ってことぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
跳躍による推進力が失われ、餌が来るのを待っていたかのように一気にGが襲い掛かかる。
俺をおぶったカテラは灰を巻き上げ着地、しかし瞬きする間もなく倍の量の灰を巻き上げバッドのもとへ再度跳躍した。
「て、てか……、魔法と魔術は何が違うんだ……?」
息を切らし、額に汗をかきながら問うとバッドが「あ~」と少し考えて口を開く。
「魔法ってなぁ言っちまえば一昔前の代物だ。単一の術式と魔力の変換だけで完結する力で魔術のように複数の術式を組み合わせたり、外付けの魔力機関に置き換えたりできねえ。だからお手軽な分、応用力だったり強力な攻撃手段には乏しいが魔力に直接影響を受けっから魔力次第では魔術よりも強力だったりする場合もあんな。」
「術式の並列起動がこれまた難しいのなんの!困っちゃうよね!」
ふがー!と不満を表すようにカテラは頬を膨らませた。
算数と数学みたいなもんか。
「ちなみにこの翼、大翼の燐光が魔術で、さっきおめえに使った水と風が魔法だ。」
ここで俺の脳に閃光走る。ここは異世界……なれば俺も使えるのが道理であり通例だろう!!そう!!魔法がな!!!レッツ異世界チート!!!
「なあバッド、魔法や魔術って俺にも使えるのか!!」
勢いそのままに身を乗り出してバッドに尋ねた。
今の俺はゲームコーナーの少年と同じくらい目を輝かせていることだろう。
「あん?当たり前だ。魔力持ってりゃあ練習次第で誰にでも使える。おめえも、カテラもな。」
そう言いながらバッドは静かに俺とカテラを見やった。
魔力か……。今のところそんなものは微塵も感じない。
「俺にも魔力ってあんのか……?」
「異世界転移者にも魔力はあるって聞くぞ。まあ、おめえの魔力はどうせくそほど少ねぇだろうがな!!ギャハハ!!」
汚く笑うバッドに俺は挑発する。
「ビビってんのかチンピラ?おめえの魔力よりも多いに決まってんだろ……!」
「なわけねえだろ調子乗んなナメクジ野郎ぉ!!」
互いに煽り、にらみ合っているとカテラが前を指さして叫ぶ。
「あ!!ほら見えてきたよ~!!我らが多種族共生国家デネブ第十二都市。フーリが!!」
俺が転移した場所から30kmほど移動しただろうか、赤い月に照らされ奥から見えてきたのは汚染区を囲むように聳え立つ高さ30mほどの城壁、その奥には異世界然としたオレンジと白の街並みがが俺を迎えていた。
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