23 / 25
またな
しおりを挟む
「バッドの師匠?」
てっきりバーゼリアに魔術を教わっていたと思っていたが師匠がいたのか。
「ああ、メーティア王国のヘルセンタって町に着いたらギルドに行って俺の名前を出してエレグに会いたいって言え。そーすりゃ”連れて行ってくれる”。」
「いやでも綺麗好きな冒険者の任務もあるから隣国なんていけねぇし、そもそも俺は監視対象なんじゃ……?」
国を渡るならかなりの日数がかかるはず、それに泊まり込みの修行ともなると許可が出るかどうか……。
「その辺はバーゼリアが上手くやんだろ。」
「んな適当な……。」
「うむ、すべて私に任せて修行に専念してきたまえ。」
半眼で呆れ気味にこぼすと扉の方から聞きなじみのある、低くてよく通る声が聞こえた。
「バーゼリア!いつの間に!?」
「盗み聞きしやがって趣味わりぃな。」
「男の決意とはいいものだなぁ。うむうむ。」
ドアに肩を預けていたバーゼリアが感慨深そうに腕組みしながらこちらに歩み寄る。そしてベッドに座る俺の前で立ち止まると凛とした態度で向き会った。
「ジン、お前は強くなると言ったな。」
「おう。」
「簡単じゃないぞ?」
「分かってる……でもやるんだ。」
「ではその決意、決して曲げるな!言ったからには強くなって帰ってこい!中途半端は許されないと思えよ!!」
厳しさか、それとも彼女なりの優しさか。その喝は俺を奮い立たせた。
「ああ……!もちろんだ!!」
俺は叫んだ。この熱が冷めることなど考えられないほどに心が熱い。初めて味わうこの戦慄は────武者震いだ。
返答に満足したのかバーゼリアはふっと柔和な笑みを作る。そしてまた凛とした表情に戻す。
「当面の間、お前は療養中ということにしておく。半刻立つまでにあいさつを済ませておけよ、ヴァンクリーの手下に気づかれる前に発つからな。」
告げられたタイムリミットはやけに早いがそれにももう慣れた。
「分かったよ、さんきゅーな。」
「これもお前に期待しているからだ。ぜひそれに応えてくれたまえ。」
バーゼリアはそれだけ言い残すと高笑いして去っていった。
「面倒なのに気にいられたな。」
「まったくだ、でも悪い気はしない。」
過ぎ去った特大台風に対して苦笑いでこぼすバッドに俺は半笑いでそう答えた。
ふと、バッドが天を仰ぐ。
「……なんつーかよ、お前がいるときはフーリのやつらも、カテラやメイゼもいつもより賑やかで、笑ってた。そんでまあ俺も……少しは楽しかったんだ。だから、”また”な。」
そうたどたどしく言葉を紡ぐバッドは初めて見せる優しい笑みを浮かべていた。
その様子に俺はおもわず揶揄い気味に笑う。
「やっぱバッドはきめぇな。」
「殺す。」
「こわこわ、にーげよ」
バッドは笑みを消し、再度炎を手に灯す。それに俺は揶揄うような態度を崩さないままドアへと向かった。
「っち。」
「バッド。」
「あ?」
お前とは喧嘩ばかりだったけどそれも含めてすべてが────
「楽しかったよ俺も。じゃ、またな。」
「……おう。」
しばしの別れ、振り返れば一瞬だった気がするしそうでない気もする。けどなんだか、晴れやかな気分だ。
その後、寝ているカテラに「行ってくるよ」と言い残した俺は、酒場で飲んでる連中に「帰ったらまた酒を飲もう」とだけ約束を交わし、ココロッココにもフーリを離れることを伝えた。「寂しくなりますね」と切なげに笑い送り出されたときは少し離れるだけだというのに込み上げてくるものがあった。唯一心残りなのがメイゼに挨拶をできなかったことだが、まあ淡白な返事が返ってくるだけだから言わなくてもいいだろう。
そうして一通りの挨拶を済ませた俺は馬車に乗り、夜の帳が下りたフーリの都から隣国メーティアへとひとりで旅立った。
てっきりバーゼリアに魔術を教わっていたと思っていたが師匠がいたのか。
「ああ、メーティア王国のヘルセンタって町に着いたらギルドに行って俺の名前を出してエレグに会いたいって言え。そーすりゃ”連れて行ってくれる”。」
「いやでも綺麗好きな冒険者の任務もあるから隣国なんていけねぇし、そもそも俺は監視対象なんじゃ……?」
国を渡るならかなりの日数がかかるはず、それに泊まり込みの修行ともなると許可が出るかどうか……。
「その辺はバーゼリアが上手くやんだろ。」
「んな適当な……。」
「うむ、すべて私に任せて修行に専念してきたまえ。」
半眼で呆れ気味にこぼすと扉の方から聞きなじみのある、低くてよく通る声が聞こえた。
「バーゼリア!いつの間に!?」
「盗み聞きしやがって趣味わりぃな。」
「男の決意とはいいものだなぁ。うむうむ。」
ドアに肩を預けていたバーゼリアが感慨深そうに腕組みしながらこちらに歩み寄る。そしてベッドに座る俺の前で立ち止まると凛とした態度で向き会った。
「ジン、お前は強くなると言ったな。」
「おう。」
「簡単じゃないぞ?」
「分かってる……でもやるんだ。」
「ではその決意、決して曲げるな!言ったからには強くなって帰ってこい!中途半端は許されないと思えよ!!」
厳しさか、それとも彼女なりの優しさか。その喝は俺を奮い立たせた。
「ああ……!もちろんだ!!」
俺は叫んだ。この熱が冷めることなど考えられないほどに心が熱い。初めて味わうこの戦慄は────武者震いだ。
返答に満足したのかバーゼリアはふっと柔和な笑みを作る。そしてまた凛とした表情に戻す。
「当面の間、お前は療養中ということにしておく。半刻立つまでにあいさつを済ませておけよ、ヴァンクリーの手下に気づかれる前に発つからな。」
告げられたタイムリミットはやけに早いがそれにももう慣れた。
「分かったよ、さんきゅーな。」
「これもお前に期待しているからだ。ぜひそれに応えてくれたまえ。」
バーゼリアはそれだけ言い残すと高笑いして去っていった。
「面倒なのに気にいられたな。」
「まったくだ、でも悪い気はしない。」
過ぎ去った特大台風に対して苦笑いでこぼすバッドに俺は半笑いでそう答えた。
ふと、バッドが天を仰ぐ。
「……なんつーかよ、お前がいるときはフーリのやつらも、カテラやメイゼもいつもより賑やかで、笑ってた。そんでまあ俺も……少しは楽しかったんだ。だから、”また”な。」
そうたどたどしく言葉を紡ぐバッドは初めて見せる優しい笑みを浮かべていた。
その様子に俺はおもわず揶揄い気味に笑う。
「やっぱバッドはきめぇな。」
「殺す。」
「こわこわ、にーげよ」
バッドは笑みを消し、再度炎を手に灯す。それに俺は揶揄うような態度を崩さないままドアへと向かった。
「っち。」
「バッド。」
「あ?」
お前とは喧嘩ばかりだったけどそれも含めてすべてが────
「楽しかったよ俺も。じゃ、またな。」
「……おう。」
しばしの別れ、振り返れば一瞬だった気がするしそうでない気もする。けどなんだか、晴れやかな気分だ。
その後、寝ているカテラに「行ってくるよ」と言い残した俺は、酒場で飲んでる連中に「帰ったらまた酒を飲もう」とだけ約束を交わし、ココロッココにもフーリを離れることを伝えた。「寂しくなりますね」と切なげに笑い送り出されたときは少し離れるだけだというのに込み上げてくるものがあった。唯一心残りなのがメイゼに挨拶をできなかったことだが、まあ淡白な返事が返ってくるだけだから言わなくてもいいだろう。
そうして一通りの挨拶を済ませた俺は馬車に乗り、夜の帳が下りたフーリの都から隣国メーティアへとひとりで旅立った。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
異世界からの召喚者《完結》
アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。
それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。
今回、招かれたのは若い女性だった。
☆他社でも公開
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる