愛し愛され。また愛す。

佐々木 おかもと

文字の大きさ
13 / 25

第12話

しおりを挟む
「俺…初めて二丁目に来ました。結構馴染みやすいんですね。」

大通りからmomoまでの道のりを、約束通りした通り小林と歩いていると、周りを自嘲気味にキョロキョロ見ている小林が言った。

「そうかもな…俺も初めての時はなんか緊張した。」

俺は適当に相槌をしながら歩いていると小林が急に立ち止まった。何かあったのか気になり振り向くと小林が驚いた表情で固まっていた。

「どうしたー?」
「いや…あれ…って」

小林が指を指した先には路地があった。小林の指す方に更に視線をやると男同士で…していた。何がとは言わないがしていた。

「見なかった事にしてやれ。…単純に可哀想だ。」

そう言ってその場から逃げるようにmomoへ向かった。
少し二丁目のディープな部分を純に見てしまった小林は気持ちソワソワしていた。それが何故か面白くて口元が緩んでしまう。


◆◇◆◇◆

やっとmomoに着き、少し重めの扉を開けて中に入る。
中に入ると人が少なくその殆どがテーブル席に座っていた。俺はと言うと、小林とテーブル席ってのが気恥ずかしくカウンターに座った。ここなら何かあったらマスターに助けを求められる。

「いらっしゃいませ。…何に致しますか?」

いつもと変わらず落ち着いた声のマスターが注文を聞いてきた。
俺はいつも飲んでいるウイスキーのロックを頼み、隣に座る小林に「どうする?」と問う。

「俺…あんまりこういう所慣れてないので…。」

少し困り顔で俺に言ってくる小林に少し苦笑した。

「小林。酒強い?」
「はい、結構自信はあります。」
「じゃ、マスター小林も俺と同じのを。」

そう言うとマスターは「かしこまりました。」と言った。

「暁さんってこういった所によく来るんですか?」

小林は周りをちらっと見回してそう聞いてきた。
流石にこの場所がどんな所か察している様子だった。

「そうだ…「そうなんだよー。もう、一時期はここが家かーってくらいここに来てたし。」

俺が返事をしようとしたら、丁度割って入ってきたのは桃瀬だった。
桃瀬はカウンター内から俺達に話しかけてきている。どうやら、今日はタイミング悪く桃瀬が来る日だったらしい。
小林は意味が分からず俺と桃瀬を見ていた。

「はぁ…桃瀬お前…。」
「どうも。ゲイバーmomoのオーナー桃瀬でーす。いらっしゃいませ~」

桃瀬は小林に、にこやかに挨拶をして牽制をしていた。

「…はい。…暁さんとはどういった?」
「オトモダチです。小林さんは…?」

桃瀬は俺達の会話を聞いていたのか小林の名前を知っていた。

「会社の後輩です…。」

少し場の空気が重たくなった気がするが、俺はなんとか俺はいつも通りに接する。

「桃瀬…お前邪魔しに来たなら店変えるぞ?」

俺が少し真面目に言うと桃瀬は少しむくれてしまった。

「あーあ。こんなに可愛い涼太が僕以外と仲良くするなんて…お仕置きが必要かな? 」

そう、小林に聞こえるように言った。
俺は冷や汗をかきながら隣に居るマスターに目線で助けを求めた。
するとマスターは桃瀬にコソコソと耳打ちして、桃瀬をバックに返した。

「お騒がせ致しました。こちらウイスキーのロックですどうぞ。」

俺は貰ったウイスキーを飲みこの状況に怒っていた。

「…暁さん。」
「なに?」
「貴方もしかして…いや。やっぱりいいです。」

少し考えて小林は言おうとした事を取り止めた。辞めてくれて良かったかもしれない。

「そっか…。」

やっぱり、momoに連れてくる事は失敗だったかな…。俺は少し落ち込んでしまった。小林と他愛ない話をしていても上の空だった気がする。


◆◇◆◇◆

暫くしてmomoを出ると以外と時間が経っていたのかもう深夜だった。
深夜に夜道を歩くのは心が落ち着く感じがして好きだ。
隣を見ると酒を飲んで少し顔が火照った小林が俺より少し後ろで歩いていた。

「なぁ、小林?」
「はい。…どうしました?」

問いかけたのにも関わらず、黙っている俺を見て小林は心配の表情を浮かべた。
コイツってこんなに表情が変わる奴だったけ。最初の頃なんて無表情すぎて笑った記憶がある。

「いや…今日どうだった?」

俺は言おうとした事をやめて今日の感想を聞いた。
すると小林は考えた後に「アナタの知らなかった事を知ることが出来ました。」と言った。
俺が「そっかーどんな事だろうなー」と流すと小林は真剣な表情で俺を見つめてきた。

「失礼な事を聞きますが、暁さんってもしかしてゲイなんですか?」

その内、聞かれるだろうと思っていたがまさかそれが今だったとは…。俺は内心何も思わなかった。それは自分が楽になりたいからなのか、それとも嘘を付き続ける事に疲れてしまったのか。

「…そうだよ。俺は…ゲイだ。男として男を好きになる。」

俺は意を決して口を開いた。カラカラになる口内が鬱陶しく感じた。
返事をしない小林はどんな表情でいるのか見えない。俺が下を向いているからだ。空に溶けるように自分の周りだけ酷く暗く感じる。

「…そうですか。」

間を置いて小林がそう一言口に出す。

「どうして俺がゲイだって気付いたの…?」

俺は何も言わない小林に恐る恐る声を掛ける。

「暁さん…社員旅行の時、大浴場に行かなかったでしょう?」
「…は?」

小林は歩き出しながらながらそう言った。
俺もつられるように歩けば人の居ない公園に着いた。
小林なりに気遣ってくれたのだろうか。

「大浴場…?」
「そう。それと、貴方潔癖症じゃ無いでしょ絶対?」
「…あぁ。なるほど。」

そういえば確かあの時そんな事を言った記憶がある。

「それに、佐藤さんの告白を直ぐに断ってた事ですかね。」
「…っ!」

何故か俺が告白された事を知っているのだろうか。俺は訳が分からず小林を見るとベンチに腰掛けて白い息を吐いていた。

「あの時、帰るのが遅い暁さんを心配して見に行こうとしたら、あなたが告白されている所を見てしまいました。…その時に普段ならじっくり考えて行動する貴方が、時間を置かず返事をしていた事に少し違和感を感じたんです。」

はーっと関心してしまった。勘がいいと言うか察しがいいというか…。

「それに、今日の事があって確信に変わりました。
…言いたくないこと言わせてしまって申し訳ありませんでした。 」

そう言って小林は立ち上がりピシッと見とれるくらいの謝罪を俺にした。
放心状態の俺は「あぁ」と返すしか出来なかった。


───言わせたくないことを言わせてしまって申し訳ありませんでした。


そんな事初めて言われた。
今日は想定していない事が起きすぎている。

それからの事は記憶が曖昧でよく覚えていない。
家まで送ってくれた小林にありがとうと言って別れて、それから…。
涙が何故か出てきてひとしきり泣いて、泣いて…泣いて。
それから、会社に出す為の辞表を書いたりして。
小林が会社にばらすわけが無いと信じたいが、望まぬカミングアウトをする前にこっちから逃げるのが一番だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

今度こそ、どんな診療が俺を 待っているのか

相馬昴
BL
強靭な肉体を持つ男・相馬昴は、診療台の上で運命に翻弄されていく。 相手は、年下の執着攻め——そして、彼一人では終わらない。 ガチムチ受け×年下×複数攻めという禁断の関係が、徐々に相馬の本能を暴いていく。 雄の香りと快楽に塗れながら、男たちの欲望の的となる彼の身体。 その結末は、甘美な支配か、それとも—— 背徳的な医師×患者、欲と心理が交錯する濃密BL長編! https://ci-en.dlsite.com/creator/30033/article/1422322

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

処理中です...