クズどもの褥

佐々木 おかもと

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九話︰地獄とは己の過失で行く

「父親は自分の子供に手を出したなんて噂が広まっちまうのを恐れて、俺達みてェなのを使って母親とヨルを捕まえようとした。
 中々に、必死だったみたいだぜ?
 対して母親はヨルが自分と共に死ぬ可能性と、父親に犯された挙句殺される可能性の、どちらがマシかを天秤にかけたらしい」
「……余計な世話だろうが、自分で養ってゆくという選択肢はなかったのか?」
「無理だろ? 働こうにも、職場に犯罪者が押しかけてくるようになるんだぜ。父親の差金で。だから共に心中するか、捕まったのち殺されるかの二択になるわけだ」
「短絡的だな。まぁ、そういうモンか」

 興味なさげだと態度に示し、鬼島は気分の悪い話を受け流した。

 まともじゃない親から生まれた子供は、まともな親から生まれた子供とは価値観も、正しいと思って歩いている道すらも違う。普通が狂う。当たり前が狂っている。

 鬼島や胡桃沢の様に裏で生きる者には、別段珍しい事ではない。むしろ、よく目にする光景だ。
 親の借金の取り立てをして、その子供には温情をかけて飯を食わせてやる。子供にとってはただの生き地獄。自分とは切っても切り離せない親が、親以上に自分に飯を奢ってくれる取り立て屋に泣きついているのだから。

 人間の汚い所を集めて出来ているのが、今鬼島が牛耳ろうとしている裏の社会なのだ。だれ一人として、綺麗な人間などいない。

「でも母親は最後の抵抗をする事にした。当時、世界的に勢力を伸ばしていた人身売買組織にヨルを売ったんだ。元々、自分自身が売られていた場所だな。母親はヨルの出生の価値を示して、高額での取引を要求した。情報は汚ぇ人間の最大の弱点だからなァ」

 そこで胡桃沢はニタリと笑う。

「それで、売られたアイツを買ったのがお前だった?」
「ああ、御名答だ。その時、俺はその組織の下っ端の下っ端だった。あの時、俺の元にチャンスが服を着てやってきたと幻覚すら見えたな」

 当時のことを思い出しているのか、感慨深そうな表情を浮かべている。

「俺はヨルを全財産を注ぎ込んで買い、母親は本当にギリギリだったのか数日後には息を引き取った。手元には感情の出し方すら知らねェヨルガキが、母親の死体に泣くでもなく、悲しむでもなく、ただ縋っていただけだった。
 まぁ、そのおかげもあって、俺はヨルの父親を脅して数年間、金の援助をさせ日本で組織を完成させたわけだが」
「その頃からずっとアイツに執着してるのかよ?」
「いいや、アイツが15歳くらいのガキになるまで、俺は海外の施設に預けた。ガキの世話なんざ出来ねェしな。
 だが、預けた施設が思ったよりクソな所でよ? 施設長が汚職で借金を背負い込んじまって、世話してたガキに物乞いさせてたって話だな。詳しい事は知らねぇけどよ」

 つくづく不幸なヤツだよなぁ、アイツも。
 そう胡桃沢は笑った。その傲慢さの滲み出る笑みに、鬼島は同情する。

「ああ、不幸なやつだよ。お前みてェのに付き纏われて」

 人に言えたことではないが、鬼島は射殺すような瞳で胡桃沢を見据えた。ひりつく空気がここは戦場だと、互いに牽制し合う。
 ナイフの一つでも喉元に突き付けられているのなら、まだマシだったかもしれない。だが現実はナイフの一本すら持たぬ者同士の睨み合いだ。

「ああ、そうだな? 本当に、本ッッ当に、勿体無い! 俺は誰かの手垢がついた玩具で遊ぶほど、不潔な人間じゃない。むしろ潔癖なまでだ。いらない物は捨てるに限る、なァ? 鬼島、お前もそう思うだろ?」

 再び滝中を愛で始めた胡桃沢。滝中は別段、秋津に似ているわけではない。なぜ、そんなに可愛がっているのか鬼島には分からなかった。

 だが、胡桃沢に撫でられている滝中を見ていると、違和感を覚える。滝中はこの店で行われた取引の情報を、鬼島へと渡す子飼いのものだ。

 初めは、胡桃沢のお気に入りである秋津を手元に置いている自分への当てつけで、滝中を可愛がっていると思っていた。

「まさか……」
「おお! 鋭いなァ?」
「テメェ! 何をした!?」
「なぁに、ちょいとヨルのいる場所へプレゼントでも、と思ってよォ?」

 胡桃沢は言いながら、オイルライターを新しいタバコに翳した。ジジッとタバコが焼けて火がつく。赤くゆっくりとした熱が、タバコを焼きすすめた。

 鬼島はその様子から目が離せなかった。

 今、秋津がいる場所がバレている。なぜ、どこから情報が漏れた? どいつが裏切り者だ?

 鬼島はふと視線を感じ、胡桃沢の隣に座る滝中へ視線を移す。
 狐のような軽薄さを纏った滝中が、不気味に笑っていた。

「アンタの大事な情報源はん。今頃、無事やとええなぁ?」





 高級なホテルかと見まごう一室へ、宅配便が届く。荷物を受け取った者へ爽やかな笑みを残し、その場を離れる宅配業者の社名は胡桃沢が買い取った会社の名前だった。

 ぴ、ぴ、ぴ、と規則的な音が微かになっているのに気が付いた頃には、もう遅かった。

 平日、夕方前。ある高層マンションの一室が、何者かによって爆破された。爆発の中心地から、身元不明の死体が一名、発見されたという。
 マンションから発火した炎は次々に燃え移り、マンションの半分を燃やした所で、消防により鎮火した。
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