22 / 22
第1章
靄
しおりを挟む
翔渓はたっぷり考え、その後雷にうたれたように目を開いた。少し驚いた。
「…本当に何でもよろしいのですか?」
神妙そうな声でそう言ってくる。
「叶えられそうなことなら何でもいいぞ。」
「…」
醒月は結構上機嫌になっていた。そして少しじれったくなって急かす。
「ほら早くしろ、私の気が変わる前にな」
漸く上を向いてこちらを見つめる青い瞳はやけに真剣なものだった。
「会いたい人がいるんです」
「会いたい人…」
「はい」
そうきたか。会う対象にもよるがまあ欲がないというか、なんというかなぁ。
「休暇と旅費くらいなら用意するが…」
「いや、その…会いたい人がどこにいるのかわからないんです」
なるほど、それはたしかにこういった機会での対象として正しいか。でも行方不明者であったとすれば対象を探し出すのは容易ではない。
「ほう、してその相手とは?親や兄弟…最近の消息がわからないと探し出すのは難しいのだが」
「いいえ…その、親でも兄弟でもなくてですね。こないだここらに来て初めてあったばかりの人なんですよ」
最近初めてという者を探して会いたいといいだすとは驚く。しかし直近の出来事ならその者が移動していても門で提示する手形の情報で探し出せるだろう。
「…女か」
じっと見ると顔が少し赤くなった気がする。
「はい」
ずきんと胸が少しばかり痛んだ。はにかみつつ認める姿は好ましい。
「のっ飲み屋かどこかで会ったのか」
なぜ私が動揺しているのか分からない。でもあの晩のあんな女性慣れしてなさそうな男からそのような要望が出るとは思わなかった。
「いいえ…幼馴染に会おうと道に迷ったときに出会って」
少し照れながら話す。
妓女とかならまだ心が痛まない気がしたが普通に出会ったような女だと聞くとまたも胸の痛みが増して動揺する。どうした皇帝醒月、どんな戦いでも心を乱されることはなかったのに。
「その人はまるで月の女神のようでした」
そんな大袈裟にいうことがあるものだろうか。
「本当俺はあんな美しい人に会ったことがなかった」
だからどうしてその女を、どうせそんな大したものではないはずなのに。
「もう一度会ってお話ししてみたいんです」
醒月はどんどん心に靄が溜まっていくように感じられた。その女を熱望する理由など聞きたくない。なぜ自分が心を乱されているのかの理由を知ろうとするのは今の醒月には到底不可能だった。
「…本当に何でもよろしいのですか?」
神妙そうな声でそう言ってくる。
「叶えられそうなことなら何でもいいぞ。」
「…」
醒月は結構上機嫌になっていた。そして少しじれったくなって急かす。
「ほら早くしろ、私の気が変わる前にな」
漸く上を向いてこちらを見つめる青い瞳はやけに真剣なものだった。
「会いたい人がいるんです」
「会いたい人…」
「はい」
そうきたか。会う対象にもよるがまあ欲がないというか、なんというかなぁ。
「休暇と旅費くらいなら用意するが…」
「いや、その…会いたい人がどこにいるのかわからないんです」
なるほど、それはたしかにこういった機会での対象として正しいか。でも行方不明者であったとすれば対象を探し出すのは容易ではない。
「ほう、してその相手とは?親や兄弟…最近の消息がわからないと探し出すのは難しいのだが」
「いいえ…その、親でも兄弟でもなくてですね。こないだここらに来て初めてあったばかりの人なんですよ」
最近初めてという者を探して会いたいといいだすとは驚く。しかし直近の出来事ならその者が移動していても門で提示する手形の情報で探し出せるだろう。
「…女か」
じっと見ると顔が少し赤くなった気がする。
「はい」
ずきんと胸が少しばかり痛んだ。はにかみつつ認める姿は好ましい。
「のっ飲み屋かどこかで会ったのか」
なぜ私が動揺しているのか分からない。でもあの晩のあんな女性慣れしてなさそうな男からそのような要望が出るとは思わなかった。
「いいえ…幼馴染に会おうと道に迷ったときに出会って」
少し照れながら話す。
妓女とかならまだ心が痛まない気がしたが普通に出会ったような女だと聞くとまたも胸の痛みが増して動揺する。どうした皇帝醒月、どんな戦いでも心を乱されることはなかったのに。
「その人はまるで月の女神のようでした」
そんな大袈裟にいうことがあるものだろうか。
「本当俺はあんな美しい人に会ったことがなかった」
だからどうしてその女を、どうせそんな大したものではないはずなのに。
「もう一度会ってお話ししてみたいんです」
醒月はどんどん心に靄が溜まっていくように感じられた。その女を熱望する理由など聞きたくない。なぜ自分が心を乱されているのかの理由を知ろうとするのは今の醒月には到底不可能だった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
氷の王と生贄姫
つきみ かのん
恋愛
敗戦寸前の祖国を守るため、北の大国へ嫁いだセフィラを待っていたのは「血も涙もない化け物」と恐れられる若き美貌の王、ディオラスだった。
※ストーリーの展開上、一部性的な描写を含む場面があります。
苦手な方はタイトルの「*」で判断して回避してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる