刹那の皇帝

たろ

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第1章

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翔渓はたっぷり考え、その後雷にうたれたように目を開いた。少し驚いた。

「…本当に何でもよろしいのですか?」
 
神妙そうな声でそう言ってくる。

「叶えられそうなことなら何でもいいぞ。」

「…」

醒月は結構上機嫌になっていた。そして少しじれったくなって急かす。

「ほら早くしろ、私の気が変わる前にな」

漸く上を向いてこちらを見つめる青い瞳はやけに真剣なものだった。

「会いたい人がいるんです」

「会いたい人…」

「はい」

そうきたか。会う対象にもよるがまあ欲がないというか、なんというかなぁ。

「休暇と旅費くらいなら用意するが…」

「いや、その…会いたい人がどこにいるのかわからないんです」

なるほど、それはたしかにこういった機会での対象として正しいか。でも行方不明者であったとすれば対象を探し出すのは容易ではない。

「ほう、してその相手とは?親や兄弟…最近の消息がわからないと探し出すのは難しいのだが」

「いいえ…その、親でも兄弟でもなくてですね。こないだここらに来て初めてあったばかりの人なんですよ」

最近初めてという者を探して会いたいといいだすとは驚く。しかし直近の出来事ならその者が移動していても門で提示する手形の情報で探し出せるだろう。

「…女か」

 じっと見ると顔が少し赤くなった気がする。

「はい」

ずきんと胸が少しばかり痛んだ。はにかみつつ認める姿は好ましい。

「のっ飲み屋かどこかで会ったのか」

なぜ私が動揺しているのか分からない。でもあの晩のあんな女性慣れしてなさそうな男からそのような要望が出るとは思わなかった。

「いいえ…幼馴染に会おうと道に迷ったときに出会って」

少し照れながら話す。
妓女とかならまだ心が痛まない気がしたが普通に出会ったような女だと聞くとまたも胸の痛みが増して動揺する。どうした皇帝醒月、どんな戦いでも心を乱されることはなかったのに。

「その人はまるで月の女神のようでした」

そんな大袈裟にいうことがあるものだろうか。

「本当俺はあんな美しい人に会ったことがなかった」

だからどうしてその女を、どうせそんな大したものではないはずなのに。

「もう一度会ってお話ししてみたいんです」

醒月はどんどん心に靄が溜まっていくように感じられた。その女を熱望する理由など聞きたくない。なぜ自分が心を乱されているのかの理由を知ろうとするのは今の醒月には到底不可能だった。
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