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第五部
第六章・広い世界に(その7)
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ちょうどキャサリンたちがプールでの遊びを楽しんでいた頃、潮音は戸惑いのさなかにいた。キャサリンの母親の小百合がわざわざ旅先から自分に会って話をしたいとキャサリンを通して伝えたときから、どうして小百合が自分に興味を示しているのか、潮音にもだいたいの見当はついていた。仮に小百合が自分自身の秘密を見抜いていたとしても、どうして小百合にそれがわかったのか、小百合の勘の鋭さに潮音はぞくりとせずにはいられなかった。潮音はここまで来た以上、もはやウソをついたりごまかしたりすることはできないと覚悟を決めるしかなかった。
潮音は小百合と会うにあたって、どのような服装で出かけるべきか少し戸惑ったが、少し考えた末に夏物のワンピースで行くことにした。そして潮音は家を後にする間際に、自分が男の子だったときの写真を数枚持っていくことにした。
電車に乗って小百合との待合せ場所に指定していた三宮の駅前に向かう間も、潮音は小百合を前にしてどのような話をすればいいのか戸惑わずにいられなかった。 潮音が三宮で電車を降りて小百合との待合せ場所に向かうと、小百合はすでに待っていた。潮音が小百合を前にしても緊張と戸惑いの色を隠せずにいると、小百合は落ち着くようにと潮音をなだめた後で、潮音の装いに目を向けた。
「そのワンピース、なかなか夏らしくてかわいいじゃない」
潮音がその小百合の言葉に戸惑いの色を浮べる間もなく、小百合はハンカチをこめかみに当てて汗をぬぐいながら言った。真夏の光の強さには、小百合も目を細めていた。
「それにしても暑いわね。私が日本で暮していた頃は夏でもここまで暑くなかったのに」
そこで小百合は潮音を誘って言った。
「せっかくだからもっと涼しいところに行きましょ」
潮音はそのまま小百合について行きながらも、小百合が今日どうして自分を誘ったのか聞きそびれたと感じていた。
小百合は潮音と一緒に地下鉄に乗ると隣の新神戸駅で降り、そこから少し歩いて山上のハーブ園に通じるロープウェーの駅に向かった。
潮音は小百合に誘われるままにロープウェーのゴンドラに乗り込み、神戸の街が見る見るうちに小さくなっていくのをじっと眺めていた。そこで小百合は、潮音にそっと語りかけた。
「夜になると、ここから見える夜景がすごくきれいなんだけどね」
そこで潮音は小百合に尋ねた。
「ロンドンで暮していても、神戸のことを思い出すことがやっぱりあるのですか」
その潮音の言葉に、小百合は軽くうなづきながら答えた。
「当り前でしょ。ロンドンで暮していて、私は日本人だということをより意識するようになったの。だからキャサリンにもエドワードにも、日本でもイギリスでも恥ずかしくないような人になってほしいと思って育ててきたの。まさかあの子が日本に行って、私の卒業した学校に通うことになるなんて思わなかったけどね」
潮音が黙っていると、小百合は首を振りながら答えた。
「誤解しないで。私はイギリスがいやで日本に戻りたいわけでも、逆に日本よりもイギリスの方が楽しくていいとか、日本がいやで外国に逃げ出したとか思っているわけでもないの。私がロンドンで今の旦那と知り合って今でもロンドンで暮しているのははっきり言って成り行きみたいなものだけど、どこの国に行ってもベストを尽くして自分のやりたいこと、そしてやることをやることに変りはないよ。だからあなただって、ほんとに外国行ってちゃんとやっていけるのかとか、言葉が通じなかったらどうしようなんて心配する必要なんかないよ」
小百合はそう話しながら、神戸の港の彼方に見える、真夏の光を浴びて輝く青い海の水平線をじっと見つめていた。潮音はその小百合の眼差しを眺めながら、小百合だったら自分のことだってきっと受け入れてくれるだろうから、小百合には包み隠さず全てを打ち明けようと決意を固めていた。
そうしているうちにロープウェーのゴンドラは山上にあるハーブ園の入口の駅に着いていた。ゴンドラを降りるなり、小百合は六甲山の木々の間をそよぐ風を全身で感じながら言った。
「やっぱりここまで来ると街中より少し涼しいわね。ロンドンに帰る前に、旦那とキャサリン、エドワードにここの夜景を見せてあげようかしら」
それからしばらく、潮音は小百合と一緒にハーブ園の中を散策したり、テラスから神戸の街の景観を一望したりした。園内に植えられた色とりどりの花やハーブも、小百合の目を楽しませた。
「イギリスでもハーブの栽培はさかんなんだけどね。ここの規模もなかなかのものじゃない」
そして小百合と潮音は、涼を取るためにレストハウスに入って席に就き、ハーブティーとケーキのセットを注文した。届けられたハーブティーの香りの高さには、小百合も満足したようだった。
小百合はテーブルを挟んで潮音と向き合うと、あらためて潮音の全身を見渡した。潮音はこのようにして小百合に視線を向けられると、ある程度の覚悟は決めてきたにもかかわらず、あらためて緊張を覚えずにはいられなかった。潮音が思わず体をこわばらせると、小百合はあらためて顔に笑みを浮べた。
「だから、そんなに緊張しなくてもいいのよ。どうせあなたは、どうして私があらためてあなたをここに呼び出したのだろうとか思っているのでしょう」
「はい…。あのとき私と一緒にいた子たちの方が私よりずっと勉強だってできるし、海外のことについて興味を持っていそうなのに」
潮音が自信のなさげな表情をしていると、小百合はあらためてハーブティーに口をつけた後で潮音を向き直して言った。
「藤坂さんっていったっけ…あなたのことはキャサリンが送ってくるメッセージにちょくちょく名前が載っていたから、前から知っていたの。去年の文化祭では、『ロミオとジュリエット』のジュリエットの役をやったんだってね」
潮音は自分がキャサリンからもこんなに注目されていたのかと思って、思わず照れくさそうな顔をした。
「私が松風に通っていたときも文化祭で劇をやったけど、その習慣が今でも続いていると聞いたときは嬉しかったわ。でもキャサリンはロンドンにいる私たちにメッセージを送るとき、あなたについては本当に楽しそうに生き生きと書いていたのよ」
そこまで言われて、潮音は気恥ずかしさのあまり、ますます穴があったら入りたいような心地になった。
「はっきり言って、キャサリンを日本に留学させるのには私も不安があったわ。でもあの子は私から日本のおもちゃや遊びを教えてもらったり、日本の漫画やアニメを見たりすることを通して、日本に憧れを持っていたみたいね。あの子が日本でちゃんとやっていけてるのは、みんなあなたたちのおかげよ。おかげであの子もだいぶしっかりした子になったじゃない」
「でもそれだったら、どうしてわざわざ今日私と特別に会って話がしたいと思ったのですか。うちの学校にはキャサリンと仲良くしてる子はほかにもいるのに」
そこであらためて、小百合は潮音を向き直して言った。
「あなたは何日か前に私と会ったときも、ちょっと精神的に動揺しているようなところがあったよね。そのとき直感したの。あなたは何かほかのどの子とも違う、不安定なものを抱えてるんじゃないかってね。もちろんいやだったら話さなくてもいいけど、今日こうしてあなたが私に会いに来たということは、あなたの方からも何か話したいことがあるみたいね」
潮音はやはり小百合は人を見る勘が違うと感じて、あらためてぞくりとした。潮音が小百合は外国に渡ってそこで苦労した経験もあるからこそ、自分にもそれに似たものを感じているのだろうかと思っていると、小百合はさらに言葉を継いだ。
「あなたくらいの歳の子だったら、自分のあり方や将来について、悩みや不安なんか抱えていない方が不思議だわ。それだったらこのことを、自分で抱え込んでばかりいないで私に対して遠慮しないで打ち明けてくれないかしら」
小百合にそこまで言われると、潮音も小百合に全てを打ち明ける以外の道はないと覚悟を決めた。そして潮音はぐっと息を飲みこむと、小百合の顔をまじまじと見つめてはっきりと告げた。
「私は…中学三年の秋までは男だったのです」
その潮音の返答は、小百合にとっても全くの想定外だったようだった。小百合もしばらくの間驚きの目で潮音の顔をまじまじと見つめていたが、やがて口から言葉を漏らしていた。
「まさかそんなことが本当にあるとは…」
そこで潮音は、まだ当惑したままの小百合に、自分が男の子だった頃の写真を何枚か示してみせた。小百合も写真の中に写っている男の子の顔と潮音の顔とを何度も交互に見比べて、今自分の目の前にいる潮音が写真の中の少年の面影を残していることを認めないわけにはいかないようだった。
そこで潮音は、自身の性別が変ってしまったいきさつを小百合に全て話して聞かせた。中学三年生の晩秋のある日、古い土蔵の中で古い鏡に触れたことで男から女へと変ってしまったこと、その後で自分が男女どちらの性で生きるべきか悩んだ末に、松風女子学園が自分の入学を受け入れてくれたこと、入学後も周囲の生徒たちとのギャップに悩みながらも、なんとかしてここまでなんとかやってきたことなどを。
その潮音の話に、小百合はただ黙ったまま一心に聞き入っていた。そしてしばしの沈黙の末に、小百合はおもむろに口を開いた。
「よく話してくれたわね。自分のことをなかなか人に理解してもらえないのは苦しかったでしょうに」
しかしそこで潮音は首を横に振った。
「そんなんじゃないんです。私は自分が男だった頃からの友達だっていたし、そこでその友達や家族が私を支えてくれました。そして学校も私の入学を認めてくれて、そこで友達と一緒に無我夢中でいろんなことをがんばってきたからこそ、今私がこうしていられるのです」
潮音の小百合を前にしても一歩も後ろに退こうとせず、ありのままの自分を伝えようとする態度こそが、小百合の心を何よりも突き動かしたようだった。小百合はなんとかして潮音を落ち着かせて、そっと諭すように言った。
「もうちょっと落ち着きなさい。ともかく私は、あなたの現実から目をそらそうとしない、それに真面目に向き合おうとする姿勢が気に入ったわ」
「キャサリンのお母さんがほんとにそんな風に思うのは、やはり自分が外国に行ったことと関係があるのですか」
「そうかもね…あなたとはもう少し話してもいいかしら」
小百合があらためて潮音の方を向き直すと、潮音は自然と椅子に腰かけながら姿勢を正していた。
潮音は小百合と会うにあたって、どのような服装で出かけるべきか少し戸惑ったが、少し考えた末に夏物のワンピースで行くことにした。そして潮音は家を後にする間際に、自分が男の子だったときの写真を数枚持っていくことにした。
電車に乗って小百合との待合せ場所に指定していた三宮の駅前に向かう間も、潮音は小百合を前にしてどのような話をすればいいのか戸惑わずにいられなかった。 潮音が三宮で電車を降りて小百合との待合せ場所に向かうと、小百合はすでに待っていた。潮音が小百合を前にしても緊張と戸惑いの色を隠せずにいると、小百合は落ち着くようにと潮音をなだめた後で、潮音の装いに目を向けた。
「そのワンピース、なかなか夏らしくてかわいいじゃない」
潮音がその小百合の言葉に戸惑いの色を浮べる間もなく、小百合はハンカチをこめかみに当てて汗をぬぐいながら言った。真夏の光の強さには、小百合も目を細めていた。
「それにしても暑いわね。私が日本で暮していた頃は夏でもここまで暑くなかったのに」
そこで小百合は潮音を誘って言った。
「せっかくだからもっと涼しいところに行きましょ」
潮音はそのまま小百合について行きながらも、小百合が今日どうして自分を誘ったのか聞きそびれたと感じていた。
小百合は潮音と一緒に地下鉄に乗ると隣の新神戸駅で降り、そこから少し歩いて山上のハーブ園に通じるロープウェーの駅に向かった。
潮音は小百合に誘われるままにロープウェーのゴンドラに乗り込み、神戸の街が見る見るうちに小さくなっていくのをじっと眺めていた。そこで小百合は、潮音にそっと語りかけた。
「夜になると、ここから見える夜景がすごくきれいなんだけどね」
そこで潮音は小百合に尋ねた。
「ロンドンで暮していても、神戸のことを思い出すことがやっぱりあるのですか」
その潮音の言葉に、小百合は軽くうなづきながら答えた。
「当り前でしょ。ロンドンで暮していて、私は日本人だということをより意識するようになったの。だからキャサリンにもエドワードにも、日本でもイギリスでも恥ずかしくないような人になってほしいと思って育ててきたの。まさかあの子が日本に行って、私の卒業した学校に通うことになるなんて思わなかったけどね」
潮音が黙っていると、小百合は首を振りながら答えた。
「誤解しないで。私はイギリスがいやで日本に戻りたいわけでも、逆に日本よりもイギリスの方が楽しくていいとか、日本がいやで外国に逃げ出したとか思っているわけでもないの。私がロンドンで今の旦那と知り合って今でもロンドンで暮しているのははっきり言って成り行きみたいなものだけど、どこの国に行ってもベストを尽くして自分のやりたいこと、そしてやることをやることに変りはないよ。だからあなただって、ほんとに外国行ってちゃんとやっていけるのかとか、言葉が通じなかったらどうしようなんて心配する必要なんかないよ」
小百合はそう話しながら、神戸の港の彼方に見える、真夏の光を浴びて輝く青い海の水平線をじっと見つめていた。潮音はその小百合の眼差しを眺めながら、小百合だったら自分のことだってきっと受け入れてくれるだろうから、小百合には包み隠さず全てを打ち明けようと決意を固めていた。
そうしているうちにロープウェーのゴンドラは山上にあるハーブ園の入口の駅に着いていた。ゴンドラを降りるなり、小百合は六甲山の木々の間をそよぐ風を全身で感じながら言った。
「やっぱりここまで来ると街中より少し涼しいわね。ロンドンに帰る前に、旦那とキャサリン、エドワードにここの夜景を見せてあげようかしら」
それからしばらく、潮音は小百合と一緒にハーブ園の中を散策したり、テラスから神戸の街の景観を一望したりした。園内に植えられた色とりどりの花やハーブも、小百合の目を楽しませた。
「イギリスでもハーブの栽培はさかんなんだけどね。ここの規模もなかなかのものじゃない」
そして小百合と潮音は、涼を取るためにレストハウスに入って席に就き、ハーブティーとケーキのセットを注文した。届けられたハーブティーの香りの高さには、小百合も満足したようだった。
小百合はテーブルを挟んで潮音と向き合うと、あらためて潮音の全身を見渡した。潮音はこのようにして小百合に視線を向けられると、ある程度の覚悟は決めてきたにもかかわらず、あらためて緊張を覚えずにはいられなかった。潮音が思わず体をこわばらせると、小百合はあらためて顔に笑みを浮べた。
「だから、そんなに緊張しなくてもいいのよ。どうせあなたは、どうして私があらためてあなたをここに呼び出したのだろうとか思っているのでしょう」
「はい…。あのとき私と一緒にいた子たちの方が私よりずっと勉強だってできるし、海外のことについて興味を持っていそうなのに」
潮音が自信のなさげな表情をしていると、小百合はあらためてハーブティーに口をつけた後で潮音を向き直して言った。
「藤坂さんっていったっけ…あなたのことはキャサリンが送ってくるメッセージにちょくちょく名前が載っていたから、前から知っていたの。去年の文化祭では、『ロミオとジュリエット』のジュリエットの役をやったんだってね」
潮音は自分がキャサリンからもこんなに注目されていたのかと思って、思わず照れくさそうな顔をした。
「私が松風に通っていたときも文化祭で劇をやったけど、その習慣が今でも続いていると聞いたときは嬉しかったわ。でもキャサリンはロンドンにいる私たちにメッセージを送るとき、あなたについては本当に楽しそうに生き生きと書いていたのよ」
そこまで言われて、潮音は気恥ずかしさのあまり、ますます穴があったら入りたいような心地になった。
「はっきり言って、キャサリンを日本に留学させるのには私も不安があったわ。でもあの子は私から日本のおもちゃや遊びを教えてもらったり、日本の漫画やアニメを見たりすることを通して、日本に憧れを持っていたみたいね。あの子が日本でちゃんとやっていけてるのは、みんなあなたたちのおかげよ。おかげであの子もだいぶしっかりした子になったじゃない」
「でもそれだったら、どうしてわざわざ今日私と特別に会って話がしたいと思ったのですか。うちの学校にはキャサリンと仲良くしてる子はほかにもいるのに」
そこであらためて、小百合は潮音を向き直して言った。
「あなたは何日か前に私と会ったときも、ちょっと精神的に動揺しているようなところがあったよね。そのとき直感したの。あなたは何かほかのどの子とも違う、不安定なものを抱えてるんじゃないかってね。もちろんいやだったら話さなくてもいいけど、今日こうしてあなたが私に会いに来たということは、あなたの方からも何か話したいことがあるみたいね」
潮音はやはり小百合は人を見る勘が違うと感じて、あらためてぞくりとした。潮音が小百合は外国に渡ってそこで苦労した経験もあるからこそ、自分にもそれに似たものを感じているのだろうかと思っていると、小百合はさらに言葉を継いだ。
「あなたくらいの歳の子だったら、自分のあり方や将来について、悩みや不安なんか抱えていない方が不思議だわ。それだったらこのことを、自分で抱え込んでばかりいないで私に対して遠慮しないで打ち明けてくれないかしら」
小百合にそこまで言われると、潮音も小百合に全てを打ち明ける以外の道はないと覚悟を決めた。そして潮音はぐっと息を飲みこむと、小百合の顔をまじまじと見つめてはっきりと告げた。
「私は…中学三年の秋までは男だったのです」
その潮音の返答は、小百合にとっても全くの想定外だったようだった。小百合もしばらくの間驚きの目で潮音の顔をまじまじと見つめていたが、やがて口から言葉を漏らしていた。
「まさかそんなことが本当にあるとは…」
そこで潮音は、まだ当惑したままの小百合に、自分が男の子だった頃の写真を何枚か示してみせた。小百合も写真の中に写っている男の子の顔と潮音の顔とを何度も交互に見比べて、今自分の目の前にいる潮音が写真の中の少年の面影を残していることを認めないわけにはいかないようだった。
そこで潮音は、自身の性別が変ってしまったいきさつを小百合に全て話して聞かせた。中学三年生の晩秋のある日、古い土蔵の中で古い鏡に触れたことで男から女へと変ってしまったこと、その後で自分が男女どちらの性で生きるべきか悩んだ末に、松風女子学園が自分の入学を受け入れてくれたこと、入学後も周囲の生徒たちとのギャップに悩みながらも、なんとかしてここまでなんとかやってきたことなどを。
その潮音の話に、小百合はただ黙ったまま一心に聞き入っていた。そしてしばしの沈黙の末に、小百合はおもむろに口を開いた。
「よく話してくれたわね。自分のことをなかなか人に理解してもらえないのは苦しかったでしょうに」
しかしそこで潮音は首を横に振った。
「そんなんじゃないんです。私は自分が男だった頃からの友達だっていたし、そこでその友達や家族が私を支えてくれました。そして学校も私の入学を認めてくれて、そこで友達と一緒に無我夢中でいろんなことをがんばってきたからこそ、今私がこうしていられるのです」
潮音の小百合を前にしても一歩も後ろに退こうとせず、ありのままの自分を伝えようとする態度こそが、小百合の心を何よりも突き動かしたようだった。小百合はなんとかして潮音を落ち着かせて、そっと諭すように言った。
「もうちょっと落ち着きなさい。ともかく私は、あなたの現実から目をそらそうとしない、それに真面目に向き合おうとする姿勢が気に入ったわ」
「キャサリンのお母さんがほんとにそんな風に思うのは、やはり自分が外国に行ったことと関係があるのですか」
「そうかもね…あなたとはもう少し話してもいいかしら」
小百合があらためて潮音の方を向き直すと、潮音は自然と椅子に腰かけながら姿勢を正していた。
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