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第六部
第一章・潮音、アイドルになる(その2)
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学園祭のステージでアイドルのパフォーマンスをやると決まったとはいえ、潮音は何をすればいいのか見当がつかずに戸惑ったままだった。潮音は人気のあるアイドルグループがきらびやかな衣裳をまとって、ステージの上で歌いながら踊っているパフォーマンスの動画をいくつか再生して見てみたものの、自分自身がこのようなアイドルの一員として踊っているイメージをつかむことはなかなかできなかった。
その翌日、学校の休み時間に潮音はさっそく暁子に相談してみることにした。しかし暁子は、潮音が文化祭の統一行事に出ようとしているという話を聞いて、いささか呆れ気味だった。
「潮音ってそうやって、何でもかんでも首を突っ込みすぎだよ。あまり無理して何もかもやろうとしないで、ほんとに自分の好きなことややりたいこと、できることは何なのか、もう一度よく考え直してみればいいじゃん」
「だったら暁子のやりたいことって何だよ」
「あたしは今度の学園祭は、手芸部のバザーの準備で忙しいからね。そもそもあたしがアイドルの真似なんかできるわけないでしょ。そもそもアイドルなんて、かわいい衣裳着て歌って踊れたらいいなんてものでもないよ。そうなれるまでは、いやそうなってからもどれだけ大変かわかってるの」
そこで潮音は、ふと息をついてあらためて暁子に言った。
「アイドルのパフォーマンスをやることが大変だなんてことは、十分わかってるよ。でも私はこの学校に入ってからずっと、自分が今までやったことがなかったことをやってみようと思って、いろんなことに取り組んでみたんだ。そんなことができるのも、受験勉強が大変になる前の今のうちだと思うから…」
そこで暁子は、潮音をいたわるようにそっと声をかけた。
「あんたがそうしてきたのは、ずっと不安だったからでしょ? 自分がいきなり男の子から女の子になっちゃって、自分は何がしたいか、何ができるのかわかんなかったからでしょ? だからといってそんなに無理することなんかないよ。あんたがそんな風にしてるの見てると、あたしまでつらくなってくるよ。昔のあんたはそんなじゃなかったのに。中学生のときなんか、文化祭の準備なんかサボってクラスの男子と一緒に悪ふざけばっかりしててさ」
暁子に言われたとき、潮音はしばらくの間じっと黙ったままだった。やがて潮音は、あらためて暁子の顔を見つめ直して口を開いた。
「暁子はその頃のオレの方が良かったとでも言うのか?」
潮音がしばらく使っていなかった「オレ」という言葉を使ったのを聞いて、暁子はびくりとした。しかし潮音はそのような暁子の心の中などお構いなしに話を続けた。
「…暁子がそうやって私のことを気にかけてくれていたからこそ、私はこの学校でここまでやってくることができたのかもしれないね。でも暁子が心配してくれるのは嬉しいけど、私は今ここでやりたいことやできることを思いっきりやってみたいんだ。そうしないと後悔しそうな気がするから…」
そこで暁子は、ふと口からため息を漏らしながら言った。
「潮音のバカ。いつもそうやって意地張ってかっこつけちゃって。あんたが何しようとあんたの勝手だけど、疲れたときや迷うことがあるときは、いつでもあたしのところに来ればいいよ」
「ああ…そのときは一緒にゲームするなりバカ騒ぎするなりして、いやなことなんかパーッと忘れちゃおうね」
潮音の言葉を聞いて、暁子は多少なりとも明るさを取り戻したようだった。そこまで話したときに休み時間の終りを告げるチャイムが鳴ったので、潮音と暁子はそれぞれの席に戻っていった。
学園祭では統一行事でアイドルのパフォーマンスを行うと決まったものの、それからしばらくの間は当日の段取りをどのようにして進めるか、衣裳などはどのようにして準備するか、練習はどうするかなどについての話し合いが主に行われた。
発声については潮音たちも昨年劇をやったときに、腹の底から声を出す発声練習を行った経験があるとはいえ、それがアイドルでも通用するかと問われると潮音たちも自信がなかった。さらにダンスについても、生徒会の中では紫はバレエの心得があるとはいえ、ほとんどの生徒はダンスについては素人だったため、ダンス部の指導を仰ぐことになった。衣裳をどのようにして用意するかも議論の対象になったが、潮音はすぴかたちのファッション同好会に協力してもらえないだろうかと少し思ったものの、ファッション同好会だって自らが行うファッションショーの準備で忙しいだろうから難しいかもしれないと思い直した。
この話し合いに積極的に参加し、意見などを活発に出していたのは寺島琴絵だった。潮音は日ごろはおとなしくて落ち着いており、体育祭などでも周囲の熱狂をよそに冷めた態度を取っていた琴絵が、目の色を変えていつになく乗り気になっているのをいぶかしんでいた。
ある日の話し合いが終ってから、潮音は琴絵に尋ねてみた。
「琴絵って何か今回のアイドルのパフォーマンスにえらく乗り気になってない? いつもの琴絵と全然違う感じがするけど」
それを聞いて、琴絵はあらためて潮音の顔を向き直した。
「藤坂さんもそう思うの?」
「ああ。やっぱり寺島さんってアイドルとか好きなわけ?」
潮音に問われると、琴絵は少し寂しそうな口調で話し出した。
「私は小学生の頃は、クラスの雰囲気になかなか乗れなくて、学校の中にも居場所がなかったんだ。学校の先生や親からも、『本ばっかり読んでないでもっと友達と一緒に遊びなさい』とか言われたりして。男子からバカにされたことだってしょっちゅうだったし。そんなとき、私はたまたま見たテレビの画面の中でアイドルが歌って踊っているのを見て、これだって思ったんだ。この中には私のまわりにはないキラキラしたものがあるって。それ以来私はずっとアイドルに憧れてるの。そりゃ高校生の小遣いじゃライブなんかしょっちゅうは行けないけど、たまにグッズを買ったりしてるんだ」
その琴絵の話を聞いて、潮音は意外そうな顔をした。潮音の頭の中では、アイドルのライブの会場で琴絵がサイリウムを振りながら歓声を上げている様子がいまいち想像できなかった。
「寺島さんってずっと真面目で勉強家だって思ってたのに、こんな一面があったなんて」
潮音の話を聞いて、琴絵は失礼なとでも言わんばかりのむっとした表情をした。
「私はこの学校でもガリ勉の優等生だと一部では見られてるみたいだけど、私がこういうもの好きになったりしちゃ悪いわけ?」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
潮音はそう言って琴絵をなだめようとはしたものの、琴絵はいったんアイドルについて話し出すと止まらなくなりそうだから、この話題には深入りしない方がいいかもしれないと心の中で思っていた。
それと同時に、潮音の心の中にはもう一つの疑念が生れていた。それはアイドルに関してこだわりのある琴絵のことだから、潮音たちがアイドルのパフォーマンスをやるとしても、それに対する琴絵の指導は厳しくなりそうだということだった。潮音はいずれにしても、これからの成り行きは一筋縄では行きそうにないと思って、気が重くなるのを感じていた。そこで潮音は、あらためて琴絵に尋ねてみた。
「寺島さんはやっぱり、今度の学園祭でアイドルになれて嬉しいって思ってるわけ」
「うん。アイドルはちっちゃな頃からの私の憧れだったからね。もちろん私だって、アイドルの練習は決して楽じゃないなんてことは十分承知だけど、それでもやってみたいの。こんなチャンスはなかなかないから」
そこで潮音は、心配そうな顔をして琴絵に釘をさした。
「琴絵のことだから私たちへの指導も厳しくなりそうだけど、そのときはお手柔らかに頼むよ」
潮音の不安そうな様子を目の前にして、琴絵はニコニコしていた。
「潮音は去年、『ロミオとジュリエット』の劇をやったときにも紫にさんざんしごかれてたけど、なんとかそれについて来ていたじゃない。それだけの根性があるんだったら大丈夫よ」
琴絵に言われて、潮音がそうかなあとでも言わんばかりの顔をしていると、ちょうどその場を中等部の松崎香澄と新島清子、芹川杏李の三人組が通りかかった。香澄は潮音の顔を見るなり、さっそく笑顔を浮べて親しげに声をかけてきた。
「藤坂先輩、今度の文化祭の統一行事ではやっぱり先輩もアイドルのパフォーマンスに出るのですか」
香澄にいきなり尋ねられて、潮音も対応の仕方に困ってしまった。すると香澄のそばで杏李も口を開いた。
「先輩たちがアイドルをやるのを、中等部のみんなも楽しみにしてますよ。去年先輩たちがやった劇も良かったので、劇を楽しみにしていた子たちもいますけど。特に吹屋先輩が男役をやるのを楽しみにしていた子なんかは、残念そうにしてました」
潮音はその杏李の言葉を聞いて、光瑠がこの後輩たちの言葉を聞いたらどんな顔をするかと思って、琴絵と互いに顔を見合わせた。それから潮音は香澄たちの方を向き直すと、あらためて声をかけた。
「いや、中等部の子たちは統一行事にずいぶん期待してるみたいだけど、まだまだこれからだからね。振付や衣裳だってこれから考えなきゃいけないし、練習なんかまだ全然やってないし」
そこで香澄は口を開いた。
「アイドルだったら去年の統一行事で姉もやったから、困ったときやわかんないことがあったときは姉に相談すればいいんじゃないでしょうか」
「あのときは剣道部で主将をつとめている千晶先輩があんなことやるなんてと思ったよ」
潮音の言葉を聞いて、香澄はにんまりとした表情をした。
「姉だって最初は嫌がってましたけどね」
「でもそれでもちゃんとアイドルのパフォーマンスをやってのけるんだから、やっぱり千晶先輩はすごいよ。今年は紫が中心になって、どれだけみんなを引っ張っていけるかがポイントだけど」
そこで中等部の三人組は、いっせいに潮音に声をかけた。
「今年は峰山先輩が特に楽しみですね。藤坂先輩も練習大変かもしれないけど、頑張って下さいね」
「香澄も手芸部でバザーをやるんだろ。それ頑張れよ」
後輩たちが立ち去ってから、潮音はふと息をついて、あらためて琴絵に話しかけた。
「あの中等組の三人組は相変らず元気だよね」
「藤坂さんも中等部の子たちからずいぶん期待されてるじゃん。その分頑張らなきゃね」
「寺島さんまでそんなこと言うのはよしてくれよ」
琴絵がニコニコしながら答えたので、潮音は露骨にいやそうな顔をした。
その翌日、学校の休み時間に潮音はさっそく暁子に相談してみることにした。しかし暁子は、潮音が文化祭の統一行事に出ようとしているという話を聞いて、いささか呆れ気味だった。
「潮音ってそうやって、何でもかんでも首を突っ込みすぎだよ。あまり無理して何もかもやろうとしないで、ほんとに自分の好きなことややりたいこと、できることは何なのか、もう一度よく考え直してみればいいじゃん」
「だったら暁子のやりたいことって何だよ」
「あたしは今度の学園祭は、手芸部のバザーの準備で忙しいからね。そもそもあたしがアイドルの真似なんかできるわけないでしょ。そもそもアイドルなんて、かわいい衣裳着て歌って踊れたらいいなんてものでもないよ。そうなれるまでは、いやそうなってからもどれだけ大変かわかってるの」
そこで潮音は、ふと息をついてあらためて暁子に言った。
「アイドルのパフォーマンスをやることが大変だなんてことは、十分わかってるよ。でも私はこの学校に入ってからずっと、自分が今までやったことがなかったことをやってみようと思って、いろんなことに取り組んでみたんだ。そんなことができるのも、受験勉強が大変になる前の今のうちだと思うから…」
そこで暁子は、潮音をいたわるようにそっと声をかけた。
「あんたがそうしてきたのは、ずっと不安だったからでしょ? 自分がいきなり男の子から女の子になっちゃって、自分は何がしたいか、何ができるのかわかんなかったからでしょ? だからといってそんなに無理することなんかないよ。あんたがそんな風にしてるの見てると、あたしまでつらくなってくるよ。昔のあんたはそんなじゃなかったのに。中学生のときなんか、文化祭の準備なんかサボってクラスの男子と一緒に悪ふざけばっかりしててさ」
暁子に言われたとき、潮音はしばらくの間じっと黙ったままだった。やがて潮音は、あらためて暁子の顔を見つめ直して口を開いた。
「暁子はその頃のオレの方が良かったとでも言うのか?」
潮音がしばらく使っていなかった「オレ」という言葉を使ったのを聞いて、暁子はびくりとした。しかし潮音はそのような暁子の心の中などお構いなしに話を続けた。
「…暁子がそうやって私のことを気にかけてくれていたからこそ、私はこの学校でここまでやってくることができたのかもしれないね。でも暁子が心配してくれるのは嬉しいけど、私は今ここでやりたいことやできることを思いっきりやってみたいんだ。そうしないと後悔しそうな気がするから…」
そこで暁子は、ふと口からため息を漏らしながら言った。
「潮音のバカ。いつもそうやって意地張ってかっこつけちゃって。あんたが何しようとあんたの勝手だけど、疲れたときや迷うことがあるときは、いつでもあたしのところに来ればいいよ」
「ああ…そのときは一緒にゲームするなりバカ騒ぎするなりして、いやなことなんかパーッと忘れちゃおうね」
潮音の言葉を聞いて、暁子は多少なりとも明るさを取り戻したようだった。そこまで話したときに休み時間の終りを告げるチャイムが鳴ったので、潮音と暁子はそれぞれの席に戻っていった。
学園祭では統一行事でアイドルのパフォーマンスを行うと決まったものの、それからしばらくの間は当日の段取りをどのようにして進めるか、衣裳などはどのようにして準備するか、練習はどうするかなどについての話し合いが主に行われた。
発声については潮音たちも昨年劇をやったときに、腹の底から声を出す発声練習を行った経験があるとはいえ、それがアイドルでも通用するかと問われると潮音たちも自信がなかった。さらにダンスについても、生徒会の中では紫はバレエの心得があるとはいえ、ほとんどの生徒はダンスについては素人だったため、ダンス部の指導を仰ぐことになった。衣裳をどのようにして用意するかも議論の対象になったが、潮音はすぴかたちのファッション同好会に協力してもらえないだろうかと少し思ったものの、ファッション同好会だって自らが行うファッションショーの準備で忙しいだろうから難しいかもしれないと思い直した。
この話し合いに積極的に参加し、意見などを活発に出していたのは寺島琴絵だった。潮音は日ごろはおとなしくて落ち着いており、体育祭などでも周囲の熱狂をよそに冷めた態度を取っていた琴絵が、目の色を変えていつになく乗り気になっているのをいぶかしんでいた。
ある日の話し合いが終ってから、潮音は琴絵に尋ねてみた。
「琴絵って何か今回のアイドルのパフォーマンスにえらく乗り気になってない? いつもの琴絵と全然違う感じがするけど」
それを聞いて、琴絵はあらためて潮音の顔を向き直した。
「藤坂さんもそう思うの?」
「ああ。やっぱり寺島さんってアイドルとか好きなわけ?」
潮音に問われると、琴絵は少し寂しそうな口調で話し出した。
「私は小学生の頃は、クラスの雰囲気になかなか乗れなくて、学校の中にも居場所がなかったんだ。学校の先生や親からも、『本ばっかり読んでないでもっと友達と一緒に遊びなさい』とか言われたりして。男子からバカにされたことだってしょっちゅうだったし。そんなとき、私はたまたま見たテレビの画面の中でアイドルが歌って踊っているのを見て、これだって思ったんだ。この中には私のまわりにはないキラキラしたものがあるって。それ以来私はずっとアイドルに憧れてるの。そりゃ高校生の小遣いじゃライブなんかしょっちゅうは行けないけど、たまにグッズを買ったりしてるんだ」
その琴絵の話を聞いて、潮音は意外そうな顔をした。潮音の頭の中では、アイドルのライブの会場で琴絵がサイリウムを振りながら歓声を上げている様子がいまいち想像できなかった。
「寺島さんってずっと真面目で勉強家だって思ってたのに、こんな一面があったなんて」
潮音の話を聞いて、琴絵は失礼なとでも言わんばかりのむっとした表情をした。
「私はこの学校でもガリ勉の優等生だと一部では見られてるみたいだけど、私がこういうもの好きになったりしちゃ悪いわけ?」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
潮音はそう言って琴絵をなだめようとはしたものの、琴絵はいったんアイドルについて話し出すと止まらなくなりそうだから、この話題には深入りしない方がいいかもしれないと心の中で思っていた。
それと同時に、潮音の心の中にはもう一つの疑念が生れていた。それはアイドルに関してこだわりのある琴絵のことだから、潮音たちがアイドルのパフォーマンスをやるとしても、それに対する琴絵の指導は厳しくなりそうだということだった。潮音はいずれにしても、これからの成り行きは一筋縄では行きそうにないと思って、気が重くなるのを感じていた。そこで潮音は、あらためて琴絵に尋ねてみた。
「寺島さんはやっぱり、今度の学園祭でアイドルになれて嬉しいって思ってるわけ」
「うん。アイドルはちっちゃな頃からの私の憧れだったからね。もちろん私だって、アイドルの練習は決して楽じゃないなんてことは十分承知だけど、それでもやってみたいの。こんなチャンスはなかなかないから」
そこで潮音は、心配そうな顔をして琴絵に釘をさした。
「琴絵のことだから私たちへの指導も厳しくなりそうだけど、そのときはお手柔らかに頼むよ」
潮音の不安そうな様子を目の前にして、琴絵はニコニコしていた。
「潮音は去年、『ロミオとジュリエット』の劇をやったときにも紫にさんざんしごかれてたけど、なんとかそれについて来ていたじゃない。それだけの根性があるんだったら大丈夫よ」
琴絵に言われて、潮音がそうかなあとでも言わんばかりの顔をしていると、ちょうどその場を中等部の松崎香澄と新島清子、芹川杏李の三人組が通りかかった。香澄は潮音の顔を見るなり、さっそく笑顔を浮べて親しげに声をかけてきた。
「藤坂先輩、今度の文化祭の統一行事ではやっぱり先輩もアイドルのパフォーマンスに出るのですか」
香澄にいきなり尋ねられて、潮音も対応の仕方に困ってしまった。すると香澄のそばで杏李も口を開いた。
「先輩たちがアイドルをやるのを、中等部のみんなも楽しみにしてますよ。去年先輩たちがやった劇も良かったので、劇を楽しみにしていた子たちもいますけど。特に吹屋先輩が男役をやるのを楽しみにしていた子なんかは、残念そうにしてました」
潮音はその杏李の言葉を聞いて、光瑠がこの後輩たちの言葉を聞いたらどんな顔をするかと思って、琴絵と互いに顔を見合わせた。それから潮音は香澄たちの方を向き直すと、あらためて声をかけた。
「いや、中等部の子たちは統一行事にずいぶん期待してるみたいだけど、まだまだこれからだからね。振付や衣裳だってこれから考えなきゃいけないし、練習なんかまだ全然やってないし」
そこで香澄は口を開いた。
「アイドルだったら去年の統一行事で姉もやったから、困ったときやわかんないことがあったときは姉に相談すればいいんじゃないでしょうか」
「あのときは剣道部で主将をつとめている千晶先輩があんなことやるなんてと思ったよ」
潮音の言葉を聞いて、香澄はにんまりとした表情をした。
「姉だって最初は嫌がってましたけどね」
「でもそれでもちゃんとアイドルのパフォーマンスをやってのけるんだから、やっぱり千晶先輩はすごいよ。今年は紫が中心になって、どれだけみんなを引っ張っていけるかがポイントだけど」
そこで中等部の三人組は、いっせいに潮音に声をかけた。
「今年は峰山先輩が特に楽しみですね。藤坂先輩も練習大変かもしれないけど、頑張って下さいね」
「香澄も手芸部でバザーをやるんだろ。それ頑張れよ」
後輩たちが立ち去ってから、潮音はふと息をついて、あらためて琴絵に話しかけた。
「あの中等組の三人組は相変らず元気だよね」
「藤坂さんも中等部の子たちからずいぶん期待されてるじゃん。その分頑張らなきゃね」
「寺島さんまでそんなこと言うのはよしてくれよ」
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