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第六部
第一章・潮音、アイドルになる(その3)
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ダンスの練習が本格的に始まったのは、九月も下旬になってようやく残暑も多少は和らぎ、日の光にも秋の色が目立つようになった頃だった。統一行事に参加する生徒たちで実際にアイドルの動画を見た後で、ダンス部の指導のもとで実際にダンスに取り組んでみて、一番ダンスが上手なのはやはりバレエの心得がある紫だった。他の生徒たちも、皆軽快にステップを踏んで華麗なダンスを見せる紫の姿に注目していた。潮音も紫と同じバレエ教室に通っているとはいえ、ダンスの上達という点では到底紫には及ばなかった。
紫以外では、光瑠もダンスの飲み込みが早く、練習を重ねるうちにめきめきと上達していった。潮音はそれを見ながら、光瑠はやっぱりバスケットボール部で活躍しているだけあって、運動神経がいいのだなと感じていた。
その一方で自らも練習に参加していた琴絵は、もともと体育の成績も良くなく、他のメンバーからステップや動作が遅れてしまうこともしょっちゅうあり、練習について行くのにも苦労しているようだった。それでも琴絵が弱音を吐くこともなく練習に取り組んでいるのを見て、潮音はやはり琴絵はアイドルのことが好きなのだなと感じていた。
九月も後半とはいえ日中はまだ日の光も強く、練習が一段落すると参加していた生徒たちは皆汗だくになった。
「こんなに激しいダンスをしながら同時に声量いっぱいで歌うなんて、やっぱりアイドルってちょっとやそっとの練習でなれるようなものやないんやな」
潮音の隣で、長束恭子はタオルで汗をぬぐいながら言った。そう話すときの恭子は肩で息をして、声を出すのも苦しそうだった。しかし琴絵が他の生徒たちと比べてもよりしんどそうにしているのを見て、潮音は声をかけずにはいられなかった。
「どうしたの、寺島さん。あまり無理しすぎない方がいいよ」
しかし潮音が心配そうなそぶりをみせても、琴絵は手を振るのみだった。
「大丈夫よ。私のことなら気にしないで」
琴絵は案外強情なのだなと潮音は思ったが、そのとき潮音はふと、夏休みに東京に出かけたときに出会った鴫沢みなものことを思い出していた。潮音はストリートダンスが得意なみなものことだから、ダンスの練習そのものはお手のものだろうけれども、ボーイッシュで女の子っぽいものが苦手なみなもはアイドルの衣裳を身にまとうことには抵抗を示すのではないかと考えていた。潮音はみなもは今通信制の高校でどんな勉強をしているのか、通信制の高校に子の学園祭のような行事はあるのか気になるのと同時に、もう一度みなもと会って話をすることができればと思っていた。
潮音が少し休んだ後で、帰宅の準備をするためにクラスメイトたちと一緒に教室に戻ろうとすると、その途中で音楽室からエレキギターの甲高い音が響いてきた。潮音がその音がする方に足を向けてみると、能美千夏をはじめとするバンドのメンバーたちが、ギターやベースを手にロックの練習に一心に打ち込んでいた。潮音は千夏たちの演奏が一段落するのを待ってから、声をかけてみた。
「能美さんたちもずいぶんバンドの練習張り切ってるね」
「うん。私たちは今度の文化祭のステージで演奏をするから、それに向けて練習してるんだ。藤坂さんたちも統一行事でパフォーマンスをやるんでしょ? 頑張ってね」
千夏をはじめとするバンドのメンバーたちは皆汗びっしょりになっていたが、その顔は晴れ晴れしており、バンドの練習に充実感を感じている様子がありありと見てとれた。そこで潮音は音楽室を立ち去る間際に、千夏たちに声をかけた。
「能美さんたちこそバンド頑張ってね。文化祭を楽しみにしてるよ」
潮音に言われると、千夏をはじめとするバンドのメンバーたちは皆照れくさそうに笑みを浮べていた。
潮音はそのまま教室に戻って帰宅の準備を行おうとしたとき、国岡真桜のことを思い出していた。潮音は先日の修学旅行では真桜と一緒の班になって北海道を回ったが、真桜は口数こそ少ないものの、北海道の自然や風景からインスピレーションを得られた様子がはっきりと感じられた。旅行から戻ると真桜は北海道の風景を題材に、文化祭に間に合うように絵を描きたいと意気込んでいたが、潮音は真桜の絵がどこまで進んだかが気になっていた。
潮音がクラスメイトたちと別れて、美術部の部室に向かうと、部室では真桜がイーゼルを立てて、制服の上には服が絵の具で汚れないようにするための上着を羽織り、左手には油絵の具を盛ったパレットを手にしながらカンバスに向かって一心に絵筆を走らせていた。カンバスの中には潮音たちが旅行で見た北海道の風景が色鮮やかに描かれており、潮音も思わず見入っていた。
「国岡さんってやっぱり絵がうまいよね。北海道の景色をこれだけはっきり描けるなんてすごいよ」
潮音に言われると、真桜は絵筆を持つ手を止めて潮音の方を向き直したが、その表情には少し驚きの色が浮んでいた。真桜にとって、自分が絵を描いている最中から自分の描く絵に興味を持って、このようにしてわざわざ部室まで尋ねてくるような者は今までいなかったようだった。そのまま真桜は潮音に話しかけた。
「この様子では文化祭までには絵が描けそうです。…あの、藤坂さんが修学旅行のときに私を班に誘ってくれなかったら、修学旅行もあれほど楽しくはならなかっただろうし、今こうして絵を描くこともできなかったかもしれないと思います」
真桜にそこまで言われて、潮音はいささか照れくさい思いがした。そこで潮音は、このように言い残して美術部の部室を後にすることにした。
「国岡さんも頑張ってね。でもあまり絵を描くのに夢中になりすぎて、下校時間に遅れないように気をつけた方がいいよ」
潮音は真桜と別れて美術部の部室を後にしてからも、真桜は以前と比べて表情もだいぶ明るく元気そうになったと感じていた。
さらに潮音が、礼法の授業や百人一首大会が行われる和室の前を通りかかると、中から人の声がした。潮音は下校時間も近づいているのに何をしているのだろうと思ったが、その和室の戸を開けて出てきたのは、書道部に所属していて百人一首大会では潮音と対戦し、修学旅行では潮音と同じ班で行動した柚木芽実だった。
「藤坂さんはもう帰るの? そろそろ下校時間だけど、私も書道部の活動をやってたら遅くなったんだ。そろそろ帰る支度するから」
「そうか、柚木さんって書道部だったよね」
「私たちも今まで、今度の文化祭で展示するための書を書いてたんだ。ちょっと見てみる?」
そう言って芽実は潮音を和室の中に案内した。そこには芽実以外の書道部の生徒たちもいて、畳の上には部員たちが書を書いた和紙が並べられていた。潮音はその中で、漢詩の一節を端正に力強い筆致で書いた書に目を引きつけられていた。すると芽実が潮音に声をかけた。
「藤坂さんはこの書がいいと思うの? これは私が書いたんだよ」
潮音があらためてその書を見てみると、字画がはっきりと丁寧に書かれているだけでなく、どの字も大きさのバランスが取れていた。潮音はこの書の力強さは、芽実が百人一首大会のときに実力を発揮するのにもどこか通じるものがあるのかもしれないと思いながら、書に見入っていた。
「柚木さんってやっぱり字が上手だよね。書道は昔から習ってたの?」
「うん。小学校の低学年のときから書道の教室に通っていたからね。百人一首だってその頃から覚えてたし」
「もしうちの学校にかるた部があったら、柚木さんはそっちの方に入っていたかもしれないね」
そう言われると、芽実は少し照れ笑いを浮べた。
「ともかくうちの書道部は、県の書道のコンクールにも参加しているからね。でもキャサリンがいっぺんうちの部に来て書を書いたことがあるけど、なかなか上手なのには驚いたよ」
「キャサリンはロンドンにいる頃から、お母さんに日本の書道を教えてもらってたらしいからね」
「やっぱりキャサリンのお母さんってすごいよね」
潮音と芽実がこのようにして話していたとき、下校時間を知らせるチャイムが鳴った。そこで芽実やはじめとする書道部員たちは、そそくさと後片付けにとりかかり始めた。潮音も後片付けの邪魔をしちゃ悪いとばかりに、その場を立ち去ることにした。
「柚木さんとちょっとおしゃべりしちゃったね。下校時間過ぎてるから、みんな早く後片付けした方がいいよ」
そこで潮音は、芽実と別れて和室を後にした。潮音が校舎の玄関で靴をはき替えて外に出ると、秋の澄みわたった夕空にはうろこ雲が浮んでいた。潮音はそのような秋の空を見上げながら、今日見ただけでもいろいろなクラブに入り特技を持つ生徒たちが文化祭に向けて頑張っているのだから、自分もうかうかしていられないと意を新たにしていた。
帰宅してから潮音は、さっそくみなもにSNSでメッセージを送った。みなももすぐに返信し、それからしばらくSNSで会話を行ったが、潮音が文化祭でアイドルのパフォーマンスに参加することを送信したときには、みなもも顔イラストを交えて驚いた内容の返信を送ってきた。
『潮音、ほんとにアイドルなんかできるの?』
潮音がアイドルをやるという話にみなもがだいぶ受けているようなそぶりを見せたのには、潮音も少々むっとしていた。
『やると決めたらとことんまでやるよ。自分もみなもくらいダンスが上手だったらいいんだけどね。みなもが一緒だったら、ダンスのやり方とかいろいろ教えてもらえそうなのに』
『そういうとこ、やっぱり潮音らしいよね。潮音の学校の文化祭、ぼくも行ってみたいな。でもぼくはアイドルは遠慮しとくよ。ぼくがあんなフリフリした衣裳なんか着られるわけないじゃん』
『みなもだってアイドルをやってみたら案外似合うかもしれないよ。それにうちの学校の文化祭では劇をやるクラスも多いけど、みなもだったら男役をやってもいいかもね』
『冗談もいい加減にしてよ。潮音のバカ』
潮音はみなもとSNSで会話をしながら、みなもの元気さは相変らずだと思ったものの、心の中にはデリケートなものを抱えたみなもと接するときには気をつけなければとあらためて感じていた。
その一方でみなもも潮音との通信を終えると、スマホを操作して夏休みに潮音たちと一緒にお台場の公園で撮った写真を画面に映し出してみた。そこでみなもは、そのときに潮音に言われた言葉をあらためて思い出していた。
――だったらだまされたと思って、いっぺんスカートはいてみたら?
そこでみなもはスマホを机に置いて、あらためて考えこんでいた。
――潮音は男女の性別というバリアさえも飛び越えて周りになじんでいるのに、ぼくはいったい何やってるんだろう…。
そう思うとみなもは、ため息をつかずにはいられなかった。
紫以外では、光瑠もダンスの飲み込みが早く、練習を重ねるうちにめきめきと上達していった。潮音はそれを見ながら、光瑠はやっぱりバスケットボール部で活躍しているだけあって、運動神経がいいのだなと感じていた。
その一方で自らも練習に参加していた琴絵は、もともと体育の成績も良くなく、他のメンバーからステップや動作が遅れてしまうこともしょっちゅうあり、練習について行くのにも苦労しているようだった。それでも琴絵が弱音を吐くこともなく練習に取り組んでいるのを見て、潮音はやはり琴絵はアイドルのことが好きなのだなと感じていた。
九月も後半とはいえ日中はまだ日の光も強く、練習が一段落すると参加していた生徒たちは皆汗だくになった。
「こんなに激しいダンスをしながら同時に声量いっぱいで歌うなんて、やっぱりアイドルってちょっとやそっとの練習でなれるようなものやないんやな」
潮音の隣で、長束恭子はタオルで汗をぬぐいながら言った。そう話すときの恭子は肩で息をして、声を出すのも苦しそうだった。しかし琴絵が他の生徒たちと比べてもよりしんどそうにしているのを見て、潮音は声をかけずにはいられなかった。
「どうしたの、寺島さん。あまり無理しすぎない方がいいよ」
しかし潮音が心配そうなそぶりをみせても、琴絵は手を振るのみだった。
「大丈夫よ。私のことなら気にしないで」
琴絵は案外強情なのだなと潮音は思ったが、そのとき潮音はふと、夏休みに東京に出かけたときに出会った鴫沢みなものことを思い出していた。潮音はストリートダンスが得意なみなものことだから、ダンスの練習そのものはお手のものだろうけれども、ボーイッシュで女の子っぽいものが苦手なみなもはアイドルの衣裳を身にまとうことには抵抗を示すのではないかと考えていた。潮音はみなもは今通信制の高校でどんな勉強をしているのか、通信制の高校に子の学園祭のような行事はあるのか気になるのと同時に、もう一度みなもと会って話をすることができればと思っていた。
潮音が少し休んだ後で、帰宅の準備をするためにクラスメイトたちと一緒に教室に戻ろうとすると、その途中で音楽室からエレキギターの甲高い音が響いてきた。潮音がその音がする方に足を向けてみると、能美千夏をはじめとするバンドのメンバーたちが、ギターやベースを手にロックの練習に一心に打ち込んでいた。潮音は千夏たちの演奏が一段落するのを待ってから、声をかけてみた。
「能美さんたちもずいぶんバンドの練習張り切ってるね」
「うん。私たちは今度の文化祭のステージで演奏をするから、それに向けて練習してるんだ。藤坂さんたちも統一行事でパフォーマンスをやるんでしょ? 頑張ってね」
千夏をはじめとするバンドのメンバーたちは皆汗びっしょりになっていたが、その顔は晴れ晴れしており、バンドの練習に充実感を感じている様子がありありと見てとれた。そこで潮音は音楽室を立ち去る間際に、千夏たちに声をかけた。
「能美さんたちこそバンド頑張ってね。文化祭を楽しみにしてるよ」
潮音に言われると、千夏をはじめとするバンドのメンバーたちは皆照れくさそうに笑みを浮べていた。
潮音はそのまま教室に戻って帰宅の準備を行おうとしたとき、国岡真桜のことを思い出していた。潮音は先日の修学旅行では真桜と一緒の班になって北海道を回ったが、真桜は口数こそ少ないものの、北海道の自然や風景からインスピレーションを得られた様子がはっきりと感じられた。旅行から戻ると真桜は北海道の風景を題材に、文化祭に間に合うように絵を描きたいと意気込んでいたが、潮音は真桜の絵がどこまで進んだかが気になっていた。
潮音がクラスメイトたちと別れて、美術部の部室に向かうと、部室では真桜がイーゼルを立てて、制服の上には服が絵の具で汚れないようにするための上着を羽織り、左手には油絵の具を盛ったパレットを手にしながらカンバスに向かって一心に絵筆を走らせていた。カンバスの中には潮音たちが旅行で見た北海道の風景が色鮮やかに描かれており、潮音も思わず見入っていた。
「国岡さんってやっぱり絵がうまいよね。北海道の景色をこれだけはっきり描けるなんてすごいよ」
潮音に言われると、真桜は絵筆を持つ手を止めて潮音の方を向き直したが、その表情には少し驚きの色が浮んでいた。真桜にとって、自分が絵を描いている最中から自分の描く絵に興味を持って、このようにしてわざわざ部室まで尋ねてくるような者は今までいなかったようだった。そのまま真桜は潮音に話しかけた。
「この様子では文化祭までには絵が描けそうです。…あの、藤坂さんが修学旅行のときに私を班に誘ってくれなかったら、修学旅行もあれほど楽しくはならなかっただろうし、今こうして絵を描くこともできなかったかもしれないと思います」
真桜にそこまで言われて、潮音はいささか照れくさい思いがした。そこで潮音は、このように言い残して美術部の部室を後にすることにした。
「国岡さんも頑張ってね。でもあまり絵を描くのに夢中になりすぎて、下校時間に遅れないように気をつけた方がいいよ」
潮音は真桜と別れて美術部の部室を後にしてからも、真桜は以前と比べて表情もだいぶ明るく元気そうになったと感じていた。
さらに潮音が、礼法の授業や百人一首大会が行われる和室の前を通りかかると、中から人の声がした。潮音は下校時間も近づいているのに何をしているのだろうと思ったが、その和室の戸を開けて出てきたのは、書道部に所属していて百人一首大会では潮音と対戦し、修学旅行では潮音と同じ班で行動した柚木芽実だった。
「藤坂さんはもう帰るの? そろそろ下校時間だけど、私も書道部の活動をやってたら遅くなったんだ。そろそろ帰る支度するから」
「そうか、柚木さんって書道部だったよね」
「私たちも今まで、今度の文化祭で展示するための書を書いてたんだ。ちょっと見てみる?」
そう言って芽実は潮音を和室の中に案内した。そこには芽実以外の書道部の生徒たちもいて、畳の上には部員たちが書を書いた和紙が並べられていた。潮音はその中で、漢詩の一節を端正に力強い筆致で書いた書に目を引きつけられていた。すると芽実が潮音に声をかけた。
「藤坂さんはこの書がいいと思うの? これは私が書いたんだよ」
潮音があらためてその書を見てみると、字画がはっきりと丁寧に書かれているだけでなく、どの字も大きさのバランスが取れていた。潮音はこの書の力強さは、芽実が百人一首大会のときに実力を発揮するのにもどこか通じるものがあるのかもしれないと思いながら、書に見入っていた。
「柚木さんってやっぱり字が上手だよね。書道は昔から習ってたの?」
「うん。小学校の低学年のときから書道の教室に通っていたからね。百人一首だってその頃から覚えてたし」
「もしうちの学校にかるた部があったら、柚木さんはそっちの方に入っていたかもしれないね」
そう言われると、芽実は少し照れ笑いを浮べた。
「ともかくうちの書道部は、県の書道のコンクールにも参加しているからね。でもキャサリンがいっぺんうちの部に来て書を書いたことがあるけど、なかなか上手なのには驚いたよ」
「キャサリンはロンドンにいる頃から、お母さんに日本の書道を教えてもらってたらしいからね」
「やっぱりキャサリンのお母さんってすごいよね」
潮音と芽実がこのようにして話していたとき、下校時間を知らせるチャイムが鳴った。そこで芽実やはじめとする書道部員たちは、そそくさと後片付けにとりかかり始めた。潮音も後片付けの邪魔をしちゃ悪いとばかりに、その場を立ち去ることにした。
「柚木さんとちょっとおしゃべりしちゃったね。下校時間過ぎてるから、みんな早く後片付けした方がいいよ」
そこで潮音は、芽実と別れて和室を後にした。潮音が校舎の玄関で靴をはき替えて外に出ると、秋の澄みわたった夕空にはうろこ雲が浮んでいた。潮音はそのような秋の空を見上げながら、今日見ただけでもいろいろなクラブに入り特技を持つ生徒たちが文化祭に向けて頑張っているのだから、自分もうかうかしていられないと意を新たにしていた。
帰宅してから潮音は、さっそくみなもにSNSでメッセージを送った。みなももすぐに返信し、それからしばらくSNSで会話を行ったが、潮音が文化祭でアイドルのパフォーマンスに参加することを送信したときには、みなもも顔イラストを交えて驚いた内容の返信を送ってきた。
『潮音、ほんとにアイドルなんかできるの?』
潮音がアイドルをやるという話にみなもがだいぶ受けているようなそぶりを見せたのには、潮音も少々むっとしていた。
『やると決めたらとことんまでやるよ。自分もみなもくらいダンスが上手だったらいいんだけどね。みなもが一緒だったら、ダンスのやり方とかいろいろ教えてもらえそうなのに』
『そういうとこ、やっぱり潮音らしいよね。潮音の学校の文化祭、ぼくも行ってみたいな。でもぼくはアイドルは遠慮しとくよ。ぼくがあんなフリフリした衣裳なんか着られるわけないじゃん』
『みなもだってアイドルをやってみたら案外似合うかもしれないよ。それにうちの学校の文化祭では劇をやるクラスも多いけど、みなもだったら男役をやってもいいかもね』
『冗談もいい加減にしてよ。潮音のバカ』
潮音はみなもとSNSで会話をしながら、みなもの元気さは相変らずだと思ったものの、心の中にはデリケートなものを抱えたみなもと接するときには気をつけなければとあらためて感じていた。
その一方でみなもも潮音との通信を終えると、スマホを操作して夏休みに潮音たちと一緒にお台場の公園で撮った写真を画面に映し出してみた。そこでみなもは、そのときに潮音に言われた言葉をあらためて思い出していた。
――だったらだまされたと思って、いっぺんスカートはいてみたら?
そこでみなもはスマホを机に置いて、あらためて考えこんでいた。
――潮音は男女の性別というバリアさえも飛び越えて周りになじんでいるのに、ぼくはいったい何やってるんだろう…。
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