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第六部
第四章・門出の季節(その4)
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卒業式が終ると潮音は期末テストに追われたが、その間も流風の受験の結果が気がかりだった。潮音はテスト勉強に取り組もうとすることで、そのような不安な気持ちを強引にでも抑え込もうとしていた。
潮音の期末テストが一段落した頃になって、流風の受験した京都の大学の合格者が発表された。その日の夕方になって流風が大学入試に首尾よく合格したことを知らされたときには、潮音は胸をなで下すと同時に、流風がいよいよ自分から離れて自分の道を歩き始めていることを実感せずにはいられなかった。
潮音は流風が大学に入学するよりも前に、一度流風やモニカに出会って話がしたいとずっと気をもみ続けていたが、綾乃から流風は今大学入学の準備で忙しいのだからと言われると、諦めるしかなかった。神戸から京都の大学までは時間がかかるとはいえ通学できない距離ではなかったが、潮音にとっては流風はそのまま敦義の家から通学するのか、それとも家を出て下宿するのかが一番気がかりな点だった。
そうしている間にも期末テストの答案が返却されて、潮音はまずまずの結果だったことに胸をなで下したが、その一方では高校でも新年度の準備が進みつつあった。新年度の生徒会長の選挙には何人かの一年生が立候補したが、結局生徒会長に選ばれたのは壬生小春だった。小春は見た目はおとなしそうながらも、樋沢遥子や妻崎すぴかが新しい同好会を作りたいと活動を始めたときにはそれに積極的に協力するなど、面倒見が良くて仕事も地道で堅実にこなすだけに、生徒会長の職は適任ではないかと潮音は考えていた。
次期生徒会長が小春に決定すると、次いで生徒会の各委員の顔ぶれも決まったが、潮音が体育委員に陽子が就任したと聞いたときには、遥子だったら持ち前のバイタリティで今年の体育祭を盛り上げてくれそうだと楽しみにしていた。その一方ですぴかが文化委員に就任したと潮音が聞いたときには、すぴかのファッション同好会を作った実績は認めるものの、ややお調子者なところをなんとかしてくれたらと思っていた。
さらに春休みが目前に迫った頃になって、暁子の弟の栄介も、志望していた県立高校の入試に合格したと潮音は暁子から聞かされていた。暁子は栄介が志望校に行けたことに安堵していたが、潮音はこれで自分に対して少し気難しそうな態度を取っている栄介も、素直になってくれたらいいのにと思っていた。潮音は幼い頃から栄介とは家が隣同士でよく兄弟同様に一緒に遊んでいただけに、自分が女になってから栄介は自分とどのように接するべきか戸惑っていることをはっきりと感じていた。潮音は栄介が高校に入学したのを機に、栄介とも一度しっかり会って話をしなければと思いながらも、なかなかきっかけがつかめずにいた。
そのようにして春に向かって潮音を取り巻く環境が動き始める中で、潮音は終業式まであと数日まで迫ったある日にバレエのレッスンに出かけた。
潮音がいつも通りに紫と一緒にレッスンに打ち込んでいると、レッスン室の入口の方から二人を呼び止める元気な声がした。
「お姉ちゃん」
その声の主は萌葱と浅葱だった。二人ともはち切れそうな笑顔を浮べながら、紫の方に駆け寄ろうとした。
「二人とも中学に受かったからといって浮かれていたらダメよ。ちゃんとレッスンをしなさい」
紫は萌葱と浅葱をたしなめたが、浅葱は嬉しそうに潮音に声をかけた。
「あさってが小学校の卒業式なんだよ。四月からはうちのお姉ちゃんや潮音お姉ちゃんと一緒の学校に行けるね」
潮音は浅葱を見ながら、浅葱が紫や潮音と一緒に学校に行けるのは一年ほどしかないのだがと内心で思っていたが、それは口にしないことにした。
しかしその一方で萌葱は、快活そうな浅葱とは裏腹に、どこか遠慮気味な表情をしているように見えた。萌葱はあえて紫や浅葱とは別の学校に行くことを選んだとはいえ、心の中には紫に対してどこかわだかまりの気持ちを持っているようだった。潮音はそのような萌葱の様子を見て、あえて明るい口調で萌葱に声をかけた。
「萌葱だってそんなに気にすることないよ。布引に行きたいっていうのは、萌葱自身が決めたことなんだろ? だったら萌葱もそれに対して自信持つことが大切じゃないかな。布引は流風姉ちゃんだって通ってた学校なんだから、いい学校だと思うよ」
潮音に優しく話しかけられて、萌葱もようやく納得したような表情をした。そこで潮音は話題を変えてみた。
「この六月に発表会でやる『人魚姫』では、萌葱と浅葱も出るんでしょ?」
浅葱はそれに対しても、元気いっぱいな口調で答えた。
「うん。あたしと萌葱は人魚姫と一緒に海の中を泳いでいる魚の役をやるんだよ」
「萌葱も浅葱も、エキストラとはいえ大切な役だからな。あまりお姉ちゃんに恥をかかせたりしないように、ちゃんとレッスンを頑張るんだぞ」
そのようにして潮音が萌葱や浅葱と話しこんでいると、紫が声をかけた。
「ほんとに潮音って、萌葱や浅葱と仲いいのね。でも萌葱も浅葱も、おしゃべりばっかりしてないでちゃんとレッスンをしなきゃダメよ」
萌葱と浅葱が紫にそう言われてそれぞれのレッスンに戻ろうとしたとき、教室の玄関の方でざわつく声がした。潮音たちがその声のする方を向き直すと、潮音と紫は顔に驚きの色を浮べた。森末バレエ教室を訪れたのは、大学受験の一年間はバレエのレッスンを休んでいた流風だったからだった。
大学への進学を決めた流風は表情も落ち着いていて、潮音がしばらく会わない間にだいぶ大人っぽくなっているように感じられた。潮音はそのような流風の姿を目の前にしただけでも、若干の気後れを感じずにはいられなかった。
流風はそのまま、バレエ教室を主宰している森末聡子と、大学受験や今後の進路などのことについて談笑していた。潮音はそれを眺めながら、流風と話をするチャンスは今しかないと思っていた。
流風の方も聡子との会話が一段落すると、すぐそばに潮音と紫がいることに気がついたようだった。流風は潮音の顔を向き直すと、笑顔で潮音を手招きした。潮音も気後れを感じながらも、それに従わないわけにはいかなかった。
潮音は流風の前に来ると、ぴんと背筋をのばしてあらたまった口調で流風に言った。
「流風姉ちゃん、大学合格おめでとう。これからもがんばってね」
潮音が緊張しているのを見て、流風は何とかして潮音の緊張を解きほぐそうとした。
「潮音こそ何をかしこまってるのよ。私が大学受かったからと言ったって何かが変るわけでもないんだから、今まで通りに接すればいいじゃない」
しかしそれでも潮音は、緊張気味の表情を崩そうとしなかった。それを見て流風は心配そうに声をかけた。
「もしかして潮音は、私が潮音のそばからいなくなっちゃうかもしれないって心配してるわけ? それだったら大丈夫よ。ここから京都まではたしかに遠いけど、新快速を使えば通えない距離じゃないから。それでも通学に時間や手間がかかって大変だっていうなら、下宿することも考えるけど」
流風の話を聞いて、潮音は少しほっとしたような表情をした。それを見て流風は、やれやれとでも言いたげな顔で潮音の方に目を向けた。
「潮音って気が強そうにしてるところもあるけど、根はけっこう甘えんぼで寂しがり屋よね」
そこで先ほどから潮音と流風の様子をそばで見ていた紫が、流風の前に進み出て潮音に聞こえないように、ひそひそ声でそっと耳打ちした。
「潮音も過去にあんなことがあったら、時には人を頼ったり、人に甘えたくなったりすることだってあるんじゃないかな。むしろ潮音は人からそう思われないようにするために、無理にでも意地を張って強気に振舞おうとしているのかもしれないけど」
その紫の言葉には、流風も納得したようだった。潮音は紫が流風にどのようなことを耳打ちしたのだろうと気にかけながら、その場に立ちすくんでいた。
そこで流風は、萌葱と浅葱にも目を向けた。
「萌葱ちゃんはこの四月から私の通ってた学校に来るんだって? そりゃ萌葱ちゃんが私のいた学校に来てくれることは嬉しいけど、紫お姉ちゃんや浅葱ちゃんと別の学校に通うことになったのは意外だわ。あなたたち双子はあんなに仲良しだったのに」
そこで浅葱が口をはさんだ。
「そりゃ萌葱と一緒に学校に行けないのはちょっと残念だけど…別の学校の話が聞けるのも面白いよ。それに学校が違ったって二人は仲良しだよ」
流風は浅葱の言葉を黙って聞いた後で、はっきりと言った。
「いずれにしても、萌葱ちゃんが紫お姉ちゃんや浅葱ちゃんと別の学校に行きたいと言うのには勇気が要ったんじゃないかしら。その姿勢はそれからも大切にしてほしいわね」
萌葱は憧れていた先輩の流風から褒められて、少し恥ずかしそうにしていた。
それからしばらく流風は潮音たちととりとめのない話をした後で、森末バレエ教室を後にしようとした。その間際に紫が流風に声をかけた。
「流風さんは受験が終って、これからまたレッスンに来るのですか?」
紫のその問いかけには、流風は少し黙った後で口を開いた。
「…まだわかんないの。大学に入ったらいろいろと忙しくなるし、サークルだってまだどこに入るか決めてないし。もう少し大学生活に慣れて少し生活に余裕もできたら、またこの教室にも来られるようになるかもしれないけど。それでもさっきも言ったように大学の近くに下宿するようになったら、今までのようにレッスンに来ることはできなくなるわね」
その流風の返事に、紫は顔を曇らせた。それを聞いた聡子も、温和な声で流風に声をかけた。
「何も無理をすることはないのよ。大学生活の方が優先なんだから。それでも私に会ったりバレエをやりたくなったりしたら、いつでもいらっしゃい」
そして流風がバレエ教室を立ち去る間際に、潮音も声をかけた。
「あの…私もあと何日かで学校が春休みになるから、そのときに一度流風姉ちゃんの家に行ってもいいかな。流風姉ちゃんやお祖父ちゃん、モニカさんともしばらく会ってなかったから、もっと話がしたいんだ」
その潮音の言葉に流風は笑顔で返事をした。
「ええ、いいわよ。遠慮せずにいつでもいらっしゃい」
そしてそのまま、流風は森末バレエ教室を後にした。潮音は流風の後姿をじっと眺めながら、春休みのうちに流風やモニカに自分の本当の気持ちを伝えることができたらと思っていた。
潮音の期末テストが一段落した頃になって、流風の受験した京都の大学の合格者が発表された。その日の夕方になって流風が大学入試に首尾よく合格したことを知らされたときには、潮音は胸をなで下すと同時に、流風がいよいよ自分から離れて自分の道を歩き始めていることを実感せずにはいられなかった。
潮音は流風が大学に入学するよりも前に、一度流風やモニカに出会って話がしたいとずっと気をもみ続けていたが、綾乃から流風は今大学入学の準備で忙しいのだからと言われると、諦めるしかなかった。神戸から京都の大学までは時間がかかるとはいえ通学できない距離ではなかったが、潮音にとっては流風はそのまま敦義の家から通学するのか、それとも家を出て下宿するのかが一番気がかりな点だった。
そうしている間にも期末テストの答案が返却されて、潮音はまずまずの結果だったことに胸をなで下したが、その一方では高校でも新年度の準備が進みつつあった。新年度の生徒会長の選挙には何人かの一年生が立候補したが、結局生徒会長に選ばれたのは壬生小春だった。小春は見た目はおとなしそうながらも、樋沢遥子や妻崎すぴかが新しい同好会を作りたいと活動を始めたときにはそれに積極的に協力するなど、面倒見が良くて仕事も地道で堅実にこなすだけに、生徒会長の職は適任ではないかと潮音は考えていた。
次期生徒会長が小春に決定すると、次いで生徒会の各委員の顔ぶれも決まったが、潮音が体育委員に陽子が就任したと聞いたときには、遥子だったら持ち前のバイタリティで今年の体育祭を盛り上げてくれそうだと楽しみにしていた。その一方ですぴかが文化委員に就任したと潮音が聞いたときには、すぴかのファッション同好会を作った実績は認めるものの、ややお調子者なところをなんとかしてくれたらと思っていた。
さらに春休みが目前に迫った頃になって、暁子の弟の栄介も、志望していた県立高校の入試に合格したと潮音は暁子から聞かされていた。暁子は栄介が志望校に行けたことに安堵していたが、潮音はこれで自分に対して少し気難しそうな態度を取っている栄介も、素直になってくれたらいいのにと思っていた。潮音は幼い頃から栄介とは家が隣同士でよく兄弟同様に一緒に遊んでいただけに、自分が女になってから栄介は自分とどのように接するべきか戸惑っていることをはっきりと感じていた。潮音は栄介が高校に入学したのを機に、栄介とも一度しっかり会って話をしなければと思いながらも、なかなかきっかけがつかめずにいた。
そのようにして春に向かって潮音を取り巻く環境が動き始める中で、潮音は終業式まであと数日まで迫ったある日にバレエのレッスンに出かけた。
潮音がいつも通りに紫と一緒にレッスンに打ち込んでいると、レッスン室の入口の方から二人を呼び止める元気な声がした。
「お姉ちゃん」
その声の主は萌葱と浅葱だった。二人ともはち切れそうな笑顔を浮べながら、紫の方に駆け寄ろうとした。
「二人とも中学に受かったからといって浮かれていたらダメよ。ちゃんとレッスンをしなさい」
紫は萌葱と浅葱をたしなめたが、浅葱は嬉しそうに潮音に声をかけた。
「あさってが小学校の卒業式なんだよ。四月からはうちのお姉ちゃんや潮音お姉ちゃんと一緒の学校に行けるね」
潮音は浅葱を見ながら、浅葱が紫や潮音と一緒に学校に行けるのは一年ほどしかないのだがと内心で思っていたが、それは口にしないことにした。
しかしその一方で萌葱は、快活そうな浅葱とは裏腹に、どこか遠慮気味な表情をしているように見えた。萌葱はあえて紫や浅葱とは別の学校に行くことを選んだとはいえ、心の中には紫に対してどこかわだかまりの気持ちを持っているようだった。潮音はそのような萌葱の様子を見て、あえて明るい口調で萌葱に声をかけた。
「萌葱だってそんなに気にすることないよ。布引に行きたいっていうのは、萌葱自身が決めたことなんだろ? だったら萌葱もそれに対して自信持つことが大切じゃないかな。布引は流風姉ちゃんだって通ってた学校なんだから、いい学校だと思うよ」
潮音に優しく話しかけられて、萌葱もようやく納得したような表情をした。そこで潮音は話題を変えてみた。
「この六月に発表会でやる『人魚姫』では、萌葱と浅葱も出るんでしょ?」
浅葱はそれに対しても、元気いっぱいな口調で答えた。
「うん。あたしと萌葱は人魚姫と一緒に海の中を泳いでいる魚の役をやるんだよ」
「萌葱も浅葱も、エキストラとはいえ大切な役だからな。あまりお姉ちゃんに恥をかかせたりしないように、ちゃんとレッスンを頑張るんだぞ」
そのようにして潮音が萌葱や浅葱と話しこんでいると、紫が声をかけた。
「ほんとに潮音って、萌葱や浅葱と仲いいのね。でも萌葱も浅葱も、おしゃべりばっかりしてないでちゃんとレッスンをしなきゃダメよ」
萌葱と浅葱が紫にそう言われてそれぞれのレッスンに戻ろうとしたとき、教室の玄関の方でざわつく声がした。潮音たちがその声のする方を向き直すと、潮音と紫は顔に驚きの色を浮べた。森末バレエ教室を訪れたのは、大学受験の一年間はバレエのレッスンを休んでいた流風だったからだった。
大学への進学を決めた流風は表情も落ち着いていて、潮音がしばらく会わない間にだいぶ大人っぽくなっているように感じられた。潮音はそのような流風の姿を目の前にしただけでも、若干の気後れを感じずにはいられなかった。
流風はそのまま、バレエ教室を主宰している森末聡子と、大学受験や今後の進路などのことについて談笑していた。潮音はそれを眺めながら、流風と話をするチャンスは今しかないと思っていた。
流風の方も聡子との会話が一段落すると、すぐそばに潮音と紫がいることに気がついたようだった。流風は潮音の顔を向き直すと、笑顔で潮音を手招きした。潮音も気後れを感じながらも、それに従わないわけにはいかなかった。
潮音は流風の前に来ると、ぴんと背筋をのばしてあらたまった口調で流風に言った。
「流風姉ちゃん、大学合格おめでとう。これからもがんばってね」
潮音が緊張しているのを見て、流風は何とかして潮音の緊張を解きほぐそうとした。
「潮音こそ何をかしこまってるのよ。私が大学受かったからと言ったって何かが変るわけでもないんだから、今まで通りに接すればいいじゃない」
しかしそれでも潮音は、緊張気味の表情を崩そうとしなかった。それを見て流風は心配そうに声をかけた。
「もしかして潮音は、私が潮音のそばからいなくなっちゃうかもしれないって心配してるわけ? それだったら大丈夫よ。ここから京都まではたしかに遠いけど、新快速を使えば通えない距離じゃないから。それでも通学に時間や手間がかかって大変だっていうなら、下宿することも考えるけど」
流風の話を聞いて、潮音は少しほっとしたような表情をした。それを見て流風は、やれやれとでも言いたげな顔で潮音の方に目を向けた。
「潮音って気が強そうにしてるところもあるけど、根はけっこう甘えんぼで寂しがり屋よね」
そこで先ほどから潮音と流風の様子をそばで見ていた紫が、流風の前に進み出て潮音に聞こえないように、ひそひそ声でそっと耳打ちした。
「潮音も過去にあんなことがあったら、時には人を頼ったり、人に甘えたくなったりすることだってあるんじゃないかな。むしろ潮音は人からそう思われないようにするために、無理にでも意地を張って強気に振舞おうとしているのかもしれないけど」
その紫の言葉には、流風も納得したようだった。潮音は紫が流風にどのようなことを耳打ちしたのだろうと気にかけながら、その場に立ちすくんでいた。
そこで流風は、萌葱と浅葱にも目を向けた。
「萌葱ちゃんはこの四月から私の通ってた学校に来るんだって? そりゃ萌葱ちゃんが私のいた学校に来てくれることは嬉しいけど、紫お姉ちゃんや浅葱ちゃんと別の学校に通うことになったのは意外だわ。あなたたち双子はあんなに仲良しだったのに」
そこで浅葱が口をはさんだ。
「そりゃ萌葱と一緒に学校に行けないのはちょっと残念だけど…別の学校の話が聞けるのも面白いよ。それに学校が違ったって二人は仲良しだよ」
流風は浅葱の言葉を黙って聞いた後で、はっきりと言った。
「いずれにしても、萌葱ちゃんが紫お姉ちゃんや浅葱ちゃんと別の学校に行きたいと言うのには勇気が要ったんじゃないかしら。その姿勢はそれからも大切にしてほしいわね」
萌葱は憧れていた先輩の流風から褒められて、少し恥ずかしそうにしていた。
それからしばらく流風は潮音たちととりとめのない話をした後で、森末バレエ教室を後にしようとした。その間際に紫が流風に声をかけた。
「流風さんは受験が終って、これからまたレッスンに来るのですか?」
紫のその問いかけには、流風は少し黙った後で口を開いた。
「…まだわかんないの。大学に入ったらいろいろと忙しくなるし、サークルだってまだどこに入るか決めてないし。もう少し大学生活に慣れて少し生活に余裕もできたら、またこの教室にも来られるようになるかもしれないけど。それでもさっきも言ったように大学の近くに下宿するようになったら、今までのようにレッスンに来ることはできなくなるわね」
その流風の返事に、紫は顔を曇らせた。それを聞いた聡子も、温和な声で流風に声をかけた。
「何も無理をすることはないのよ。大学生活の方が優先なんだから。それでも私に会ったりバレエをやりたくなったりしたら、いつでもいらっしゃい」
そして流風がバレエ教室を立ち去る間際に、潮音も声をかけた。
「あの…私もあと何日かで学校が春休みになるから、そのときに一度流風姉ちゃんの家に行ってもいいかな。流風姉ちゃんやお祖父ちゃん、モニカさんともしばらく会ってなかったから、もっと話がしたいんだ」
その潮音の言葉に流風は笑顔で返事をした。
「ええ、いいわよ。遠慮せずにいつでもいらっしゃい」
そしてそのまま、流風は森末バレエ教室を後にした。潮音は流風の後姿をじっと眺めながら、春休みのうちに流風やモニカに自分の本当の気持ちを伝えることができたらと思っていた。
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