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第六部
第五章・青春のきらめき(その6)
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そうしているうちに舞台はさらに進み、声と引き換えに人間の足を手に入れた人魚姫が王子と出会ったシーンになっていた。潮音は紫の演技をじっと見つめながら、観客の注目を浴びる華やかな役だけでなく、苦しみに耐える人魚姫といういささか重い役どころも実感を込めて演じることができることこそが、紫のすごいところだと実感していた。
しかしここで紫の演技を見て、潮音はあらためて一つの問いを突きつけられたような気がした。潮音は自分が女になって以来、人魚姫の物語を思い返すたびに、美しい声と引き換えに人間の足を手に入れた人魚姫は、歩くたびに刃物を踏むような痛みに耐えなければならなかったということには、いかなる意味があるのだろうとずっと自問し続けていた。自身の体が変ってしまった直後は、潮音はその姿を人に見られることすら苦痛で、あらゆる物事から目を背けていた。これではいけないという思いがあったからこそ自分は女子として高校に進学し、バレエもそのような理由で始めたわけだが、果たして自分はその「痛み」を克服できたのかと問われると、潮音にはそれを認めるだけの自信はなかった。
潮音が考えているうちに、舞台は王子が隣の国の王女と結婚することになったくだりまで進んでいた。隣国の王女の役を演じているのは、森末バレエ教室では紫に次いで実力があると見られている生徒だった。そして潮音は、人魚姫に短剣を手渡す姉の役として再び舞台に上がることになっていた。
潮音が舞台の上で紫に短剣を手渡した後も、紫は短剣を手に苦悩する人魚姫の役を演じていた。その迫真に迫る演技を見ているだけで、潮音は人魚姫の苦しみが自身の胸にまで迫ってくるような気がして、胸を締めつけられずにはいられなかった。
そして舞台は、海に短剣を投げ捨てて海の泡となることを選んだけれども、その後で空気の精になった人魚姫が舞台の上を踊る場面で大団円を迎えた。しかし潮音はそこで紫が舞台の上を風のように軽やかに踊る場面を見て、なぜか涙が止まらなくなっていた。そして舞台は、観客たちの割れんばかりの拍手に包まれながら幕を下した。
その後で再び幕が上がって、舞台に出演した全員が一堂に集まって舞台あいさつを行ったが、そこでようやく潮音はこの舞台の観客席を眺める余裕ができた。するとそこには、潮音の家族だけでなく大学生になった流風とモニカ、さらには暁子と優菜の姿もあった。
しかし潮音を最も驚かせたのは、昇と漣がこの舞台を見に来ていたことだった。潮音はここまで多くの人が自分の舞台を見に来てくれたのかと思うと、あらためて胸が熱くなった。そこで潮音はスポットライトを全身に浴びながら、思いきり客席に向かって手を振っていた。
さらに舞台の中心では、紫が主演として誰よりもたくさんの拍手をもらっていた。苦しみながらも王子への愛を貫いた人魚姫の役を最後まで見事に演じ切った紫の実力を、観客のだれもが認めているかのようだった。紫は観客に向かって何度もお辞儀をしながら、満面の笑顔で手を振っていた。
そこで潮音ははっきりと感じ取っていた。自分が紫と共に行ってきたバレエこそが、自分の青春そのものだったということ、そしてたとえわき役とはいえ、この今日の舞台にその自分の青春の全てをつぎ込んだ以上、自分がバレエをやったことに一片の悔いもないということを。潮音はあらためて観客席を見つめながら、両目から涙がとめどなくあふれるのを抑えることができなかった。潮音の目には、劇場を照らすスポットライトのまばゆい光もにじんで見えた。
舞台が終って一同が楽屋に引き上げると、その場にいただれもが、みんなで協力して舞台を成し遂げたという充足感と祝福のムードで満たされていた。そこで潮音は少し遅れて楽屋に入ってきた紫の姿を目の当りにすると、もはや感情を抑えることはできなかった。潮音は紫の懐に飛び込むと、そのまま紫の胸の中で泣きじゃくっていた。紫も無言のまま、潮音を両腕でそっと抱きとめてやった。森末バレエ教室のメンバーたちも、その場に立ちすくんだまま潮音と紫の様子をじっと眺めていた。
潮音は紫を前に思いきり泣くことで、自らの心の中に積もっていた感情を洗いざらい吐き出すことができたような気がした。紫は潮音の感情が多少なりとも落ち着いたタイミングを見計らうと、潮音の肩をそっと抱いて立たせてやった。紫に支えられて、ようやく潮音は自分の足で歩けるようになった。
潮音は身支度を整えると、紫たちと別れて帰途についた。しかし潮音は自宅に着くと、そこでまた驚かずにいられなかった。則子と綾乃が満面の笑みで潮音を出迎えただけでなく、そこには暁子と優菜の姿までもがあったのだった。
潮音の帰宅を誰よりも待ち構えているように見えたのは則子だった。則子は潮音の体が変って以来の潮音の苦悩や葛藤をずっと見続けてきただけに、潮音がバレエを通して大きく成長したことを、舞台を見てしっかりと感じ取ったようだった。それだけに則子はひときわ感慨深げな表情をしていた。
潮音がバレエの舞台を成し遂げたことに深く感じるものがあったのは、綾乃も同様のようだった。綾乃はこれまでの潮音の努力をねぎらうかのように、軽く肩をぽんと叩いてやった。
そればかりでなく、雄一までもがどこか気恥ずかしそうな表情をしていた。雄一は元は男の子だった潮音がきらびやかな衣裳を身にまとって舞台で踊ることに対して複雑な感情を抱いていたようだったが、いざ潮音の演技を目の当りにすると、潮音がバレエという目標に対して一生懸命取り組んだことを認めないわけにはいかないようだった。雄一が照れ気味に「よく頑張ったな」と言うと、則子と綾乃は互いの顔を向き合いながらくすりと笑みを浮べていた。
それから潮音が食堂に通されると、テーブルの上にはケーキやジュースが置かれていて、打ち上げの準備がすでに整っていた。潮音はそこまでしてくれなくてもと内心では思いながらも、悪い気はしなかった。
ジュースで乾杯してパーティーが始まると、暁子と優菜も潮音が発表会を成功させたことに対して、口々に「おめでとう」と言った。暁子にとっては、序盤に潮音が紫と一緒にぴったり息の合った演技を行ったことが、特に印象に残っているようだった。
「ほんとに潮音が峰山さんと一緒に踊っているのを見たときは驚いたよ。そこまでできるようになるためには、峰山さんと一緒に猛練習したんだろうなって」
そこで綾乃が、やや皮肉っぽい口調で口をはさんだ。
「その意気込みを、少しは勉強にも向けてくれたらいいんだけどね。この子は来年受験だっていうのに」
潮音はいやそうな顔で綾乃の顔を向き直した。綾乃は就職で内定をもらってから少し態度が大きくなったのではないかと潮音は思っていたが、綾乃はそこで表情を変えた。
「でも潮音ががんばってバレエを成し遂げた経験は、これから勉強だけでなくいろんなことで生きてくるはずよ。潮音は中学のときは水泳を頑張ってきたけど、その基礎の上に今日のバレエも、そのほかのこともあるんでしょ? このことを忘れずに頑張りな」
潮音はそこで綾乃の口から「水泳」という言葉を聞いて、中学生のときに同じ水泳部で練習に打ち込んできた浩三や玲花のことを思い出していた。潮音は特に浩三が今後水泳の選手を目指すとしても、どのような道に進むのだろうと気にならずにはいられなかった。その一方で、自分が中学まで水泳をやってきたことも無駄ではなかったと綾乃も認めてくれたことが、潮音にとっては何よりも嬉しかった。
そして潮音は、あらためて暁子と優菜の方を見返した。
「暁子も優菜も、今日は舞台を見に来てくれて本当にありがとう」
潮音がはにかみ気味な表情でお礼を言うと、暁子と優菜は二人とも元気な表情で潮音に声をかけた。
「潮音もそんなに照れることないじゃん。あたしだって優菜だって、潮音がこんなに一生懸命やれることを見つけてくれて嬉しいし、そのためにはあんたのことちゃんと見ていてあげるから」
「ほんまやで。潮音は何も遠慮することなんかあらへんよ」
暁子と優菜が快活に話すのを聞いて、潮音はますます気恥ずかしい思いがした。
そして盛況のうちにパーティーが終り、暁子と優菜がそれぞれの家に帰ってから、則子が自身のスマホを見ると目を丸くした。モニカと流風も、潮音に対して祝福のメールを送っていたのだった。潮音はバレエをはじめとして流風にはさまざまなところで世話になっていただけに、流風も自身の演技を見ていてくれたことが嬉しくてならなかった。
潮音は自室に戻ってからもまぶたを閉じるだけで、先ほど舞台の上で華麗に、そして時には繊細に踊っていた紫の姿がよみがえってくるような気がした。そうしているうちに、潮音の心の中にあらためて強くて確かな感情が持ち上がってきた。
――自分はやっぱり紫と一緒にいたい。紫と一緒に自分を高めていきたい。
そこで潮音は、そのためには何をしなければならないかをあらためて考えずにはいられなかった。
――紫はやっぱり東京の一流大学に進学するだろう。…でも自分の学力では、とてもじゃないけどそんないい大学になんか行けそうにない。もっと学校のレベルを落せば自分だって東京に行けるかもしれないけど、東京に行って下宿などしたらやっぱりお金だってかかるし…。
潮音はあらためて、昨年の夏に訪れた東京の街並みや喧騒を思い出していた。しかしここで潮音の脳裏には、先ほどのパーティーのときの暁子と優菜の屈託のない笑顔が浮んできた。
――暁子や優菜は、やはり大学に行っても関西に残るのだろうか。暁子や優菜の行く大学だったら、自分だって頑張って勉強したら行けるかもしれないし、仮に行く学校が違ったって、近くに住んでりゃ一緒に遊ぶ機会だってあるだろうけど…。
そこで潮音は、あらためて難しい選択を迫られていることを認識せずにはいられなかった。紫と一緒に東京に行くか、それとも地元に残って暁子や優菜と一緒に過ごすか…そのどちらを選んだとしても、潮音は来年の春には結論を出さなければいけないということをひしひしと感じずにはいられなかった。
しかしここで紫の演技を見て、潮音はあらためて一つの問いを突きつけられたような気がした。潮音は自分が女になって以来、人魚姫の物語を思い返すたびに、美しい声と引き換えに人間の足を手に入れた人魚姫は、歩くたびに刃物を踏むような痛みに耐えなければならなかったということには、いかなる意味があるのだろうとずっと自問し続けていた。自身の体が変ってしまった直後は、潮音はその姿を人に見られることすら苦痛で、あらゆる物事から目を背けていた。これではいけないという思いがあったからこそ自分は女子として高校に進学し、バレエもそのような理由で始めたわけだが、果たして自分はその「痛み」を克服できたのかと問われると、潮音にはそれを認めるだけの自信はなかった。
潮音が考えているうちに、舞台は王子が隣の国の王女と結婚することになったくだりまで進んでいた。隣国の王女の役を演じているのは、森末バレエ教室では紫に次いで実力があると見られている生徒だった。そして潮音は、人魚姫に短剣を手渡す姉の役として再び舞台に上がることになっていた。
潮音が舞台の上で紫に短剣を手渡した後も、紫は短剣を手に苦悩する人魚姫の役を演じていた。その迫真に迫る演技を見ているだけで、潮音は人魚姫の苦しみが自身の胸にまで迫ってくるような気がして、胸を締めつけられずにはいられなかった。
そして舞台は、海に短剣を投げ捨てて海の泡となることを選んだけれども、その後で空気の精になった人魚姫が舞台の上を踊る場面で大団円を迎えた。しかし潮音はそこで紫が舞台の上を風のように軽やかに踊る場面を見て、なぜか涙が止まらなくなっていた。そして舞台は、観客たちの割れんばかりの拍手に包まれながら幕を下した。
その後で再び幕が上がって、舞台に出演した全員が一堂に集まって舞台あいさつを行ったが、そこでようやく潮音はこの舞台の観客席を眺める余裕ができた。するとそこには、潮音の家族だけでなく大学生になった流風とモニカ、さらには暁子と優菜の姿もあった。
しかし潮音を最も驚かせたのは、昇と漣がこの舞台を見に来ていたことだった。潮音はここまで多くの人が自分の舞台を見に来てくれたのかと思うと、あらためて胸が熱くなった。そこで潮音はスポットライトを全身に浴びながら、思いきり客席に向かって手を振っていた。
さらに舞台の中心では、紫が主演として誰よりもたくさんの拍手をもらっていた。苦しみながらも王子への愛を貫いた人魚姫の役を最後まで見事に演じ切った紫の実力を、観客のだれもが認めているかのようだった。紫は観客に向かって何度もお辞儀をしながら、満面の笑顔で手を振っていた。
そこで潮音ははっきりと感じ取っていた。自分が紫と共に行ってきたバレエこそが、自分の青春そのものだったということ、そしてたとえわき役とはいえ、この今日の舞台にその自分の青春の全てをつぎ込んだ以上、自分がバレエをやったことに一片の悔いもないということを。潮音はあらためて観客席を見つめながら、両目から涙がとめどなくあふれるのを抑えることができなかった。潮音の目には、劇場を照らすスポットライトのまばゆい光もにじんで見えた。
舞台が終って一同が楽屋に引き上げると、その場にいただれもが、みんなで協力して舞台を成し遂げたという充足感と祝福のムードで満たされていた。そこで潮音は少し遅れて楽屋に入ってきた紫の姿を目の当りにすると、もはや感情を抑えることはできなかった。潮音は紫の懐に飛び込むと、そのまま紫の胸の中で泣きじゃくっていた。紫も無言のまま、潮音を両腕でそっと抱きとめてやった。森末バレエ教室のメンバーたちも、その場に立ちすくんだまま潮音と紫の様子をじっと眺めていた。
潮音は紫を前に思いきり泣くことで、自らの心の中に積もっていた感情を洗いざらい吐き出すことができたような気がした。紫は潮音の感情が多少なりとも落ち着いたタイミングを見計らうと、潮音の肩をそっと抱いて立たせてやった。紫に支えられて、ようやく潮音は自分の足で歩けるようになった。
潮音は身支度を整えると、紫たちと別れて帰途についた。しかし潮音は自宅に着くと、そこでまた驚かずにいられなかった。則子と綾乃が満面の笑みで潮音を出迎えただけでなく、そこには暁子と優菜の姿までもがあったのだった。
潮音の帰宅を誰よりも待ち構えているように見えたのは則子だった。則子は潮音の体が変って以来の潮音の苦悩や葛藤をずっと見続けてきただけに、潮音がバレエを通して大きく成長したことを、舞台を見てしっかりと感じ取ったようだった。それだけに則子はひときわ感慨深げな表情をしていた。
潮音がバレエの舞台を成し遂げたことに深く感じるものがあったのは、綾乃も同様のようだった。綾乃はこれまでの潮音の努力をねぎらうかのように、軽く肩をぽんと叩いてやった。
そればかりでなく、雄一までもがどこか気恥ずかしそうな表情をしていた。雄一は元は男の子だった潮音がきらびやかな衣裳を身にまとって舞台で踊ることに対して複雑な感情を抱いていたようだったが、いざ潮音の演技を目の当りにすると、潮音がバレエという目標に対して一生懸命取り組んだことを認めないわけにはいかないようだった。雄一が照れ気味に「よく頑張ったな」と言うと、則子と綾乃は互いの顔を向き合いながらくすりと笑みを浮べていた。
それから潮音が食堂に通されると、テーブルの上にはケーキやジュースが置かれていて、打ち上げの準備がすでに整っていた。潮音はそこまでしてくれなくてもと内心では思いながらも、悪い気はしなかった。
ジュースで乾杯してパーティーが始まると、暁子と優菜も潮音が発表会を成功させたことに対して、口々に「おめでとう」と言った。暁子にとっては、序盤に潮音が紫と一緒にぴったり息の合った演技を行ったことが、特に印象に残っているようだった。
「ほんとに潮音が峰山さんと一緒に踊っているのを見たときは驚いたよ。そこまでできるようになるためには、峰山さんと一緒に猛練習したんだろうなって」
そこで綾乃が、やや皮肉っぽい口調で口をはさんだ。
「その意気込みを、少しは勉強にも向けてくれたらいいんだけどね。この子は来年受験だっていうのに」
潮音はいやそうな顔で綾乃の顔を向き直した。綾乃は就職で内定をもらってから少し態度が大きくなったのではないかと潮音は思っていたが、綾乃はそこで表情を変えた。
「でも潮音ががんばってバレエを成し遂げた経験は、これから勉強だけでなくいろんなことで生きてくるはずよ。潮音は中学のときは水泳を頑張ってきたけど、その基礎の上に今日のバレエも、そのほかのこともあるんでしょ? このことを忘れずに頑張りな」
潮音はそこで綾乃の口から「水泳」という言葉を聞いて、中学生のときに同じ水泳部で練習に打ち込んできた浩三や玲花のことを思い出していた。潮音は特に浩三が今後水泳の選手を目指すとしても、どのような道に進むのだろうと気にならずにはいられなかった。その一方で、自分が中学まで水泳をやってきたことも無駄ではなかったと綾乃も認めてくれたことが、潮音にとっては何よりも嬉しかった。
そして潮音は、あらためて暁子と優菜の方を見返した。
「暁子も優菜も、今日は舞台を見に来てくれて本当にありがとう」
潮音がはにかみ気味な表情でお礼を言うと、暁子と優菜は二人とも元気な表情で潮音に声をかけた。
「潮音もそんなに照れることないじゃん。あたしだって優菜だって、潮音がこんなに一生懸命やれることを見つけてくれて嬉しいし、そのためにはあんたのことちゃんと見ていてあげるから」
「ほんまやで。潮音は何も遠慮することなんかあらへんよ」
暁子と優菜が快活に話すのを聞いて、潮音はますます気恥ずかしい思いがした。
そして盛況のうちにパーティーが終り、暁子と優菜がそれぞれの家に帰ってから、則子が自身のスマホを見ると目を丸くした。モニカと流風も、潮音に対して祝福のメールを送っていたのだった。潮音はバレエをはじめとして流風にはさまざまなところで世話になっていただけに、流風も自身の演技を見ていてくれたことが嬉しくてならなかった。
潮音は自室に戻ってからもまぶたを閉じるだけで、先ほど舞台の上で華麗に、そして時には繊細に踊っていた紫の姿がよみがえってくるような気がした。そうしているうちに、潮音の心の中にあらためて強くて確かな感情が持ち上がってきた。
――自分はやっぱり紫と一緒にいたい。紫と一緒に自分を高めていきたい。
そこで潮音は、そのためには何をしなければならないかをあらためて考えずにはいられなかった。
――紫はやっぱり東京の一流大学に進学するだろう。…でも自分の学力では、とてもじゃないけどそんないい大学になんか行けそうにない。もっと学校のレベルを落せば自分だって東京に行けるかもしれないけど、東京に行って下宿などしたらやっぱりお金だってかかるし…。
潮音はあらためて、昨年の夏に訪れた東京の街並みや喧騒を思い出していた。しかしここで潮音の脳裏には、先ほどのパーティーのときの暁子と優菜の屈託のない笑顔が浮んできた。
――暁子や優菜は、やはり大学に行っても関西に残るのだろうか。暁子や優菜の行く大学だったら、自分だって頑張って勉強したら行けるかもしれないし、仮に行く学校が違ったって、近くに住んでりゃ一緒に遊ぶ機会だってあるだろうけど…。
そこで潮音は、あらためて難しい選択を迫られていることを認識せずにはいられなかった。紫と一緒に東京に行くか、それとも地元に残って暁子や優菜と一緒に過ごすか…そのどちらを選んだとしても、潮音は来年の春には結論を出さなければいけないということをひしひしと感じずにはいられなかった。
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