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魔王誕生編
21話 変な女に遭遇した
しおりを挟む「ちょっと重いんだけど~。誰か持つの手伝ってよ~。」
かなりの収穫を得てアイテムボックスに入りきれないのは師匠の命令ですべてレオが持って帰ることになった。先日の件で嘘を言った罰らしい。背中に大きなワイバーンの羽を背負いながら歩くレオは先ほどから不満たらたらだ。
「ほら、ギルドはもう少しだから頑張れ。」
さすがに可哀そうになって少しだけ持ち上げてやった。
「おお!ルドはやさしいな。さすが俺の友達だ!」
「ルドは優しいですね。レオは体力だけは有り余っているので、それくらいではへばりませんよ。」
レオが俺の事を感動したように見ていたがその横でレオが冷めたように言った。
「なんだ、そうなのか。じゃあいいか。」
俺は荷物を持ち上げていた手を外した。
「ぐへっ!!いきなり外すなんて酷いぞ!!」
そんなやり取りをしているとギルドの近くまで来ていた。
「だから、そんな事で冒険者を使うことはできないんだ。」
「そこを何とかお願い~。叔父様、可愛い姪がどうなってもいいの?」
ギルドへ向かって道を歩いていたら、その方角から人の言い争う声が聞こえてきた。
木が生い茂っている道を抜け出すとすぐにギルドの裏側に出るのだが、その裏口でギルドマスターと若い女が言い争いをしているのが見えた。後ろ姿を見るに俺と同年代くらいになるだろうか。
「おお!めちゃんこかわいい子、はっけーん!!!」
先ほどまで荷物が重たいと不満たらたらだったのに、軽々と荷物を背負ったまま走り寄って行った。
「ねえねえ、お嬢さん。何かお困り事かな?」
「っ!!!」
その少女がレオを見て驚愕の表情を浮かべた。
「キ…。」
「き?」
「キャッ―!!本物のレオ様だ。すごい!漫画のまんまだわ。」
「まんが?」
その少女はレオを見るとギャーギャー騒ぎ出した。
「なんだ、レオ。知り合いか?」
師匠がレオに話しかける。
「いや、初めて会う子だと思うだけど……。」
「キャー!勇者フォーガス様に麗しのエルヴィス様、そしてノアきゅんまでいるー!こんな所で勇者御一行に会えるなんて、なんて眼福!!」
「こらっ、ミア!!いきなりどうしたんだ。」
ギルドマスターが慌ててその少女を宥めた。
そして、最後に後から来た俺を見たそいつは、今度は逆に真っ青な顔になって叫んだ。
「嘘でしょう!?なんで魔王がこんなところにいるのよ!!」
「む。俺はまだ魔王じゃないぞ。」
「ルド、そういう問題じゃないって。」
ムッとして言い返したアーノルドにノアがすかさずツッコミを入れた。
「……嬢ちゃん、どうやら俺達の事を知っているみたいだが。どこで知った?」
そう言う師匠の顔がいつになく険しい。
「えーっと、あっ、私、ちょっと用事思い出しちゃったから帰ります。叔父様、あの件はお願いします!」
何故だか急に慌てたように帰ろうとした少女の前にエルヴィスがスッと立ちはだかった。
端正な顔立ちのエルヴィスが少女に向かってにっこりと微笑みかけると少女はポッと顔を赤らめる。
「お嬢さん、私達と少しお話を致しませんか?」
「は、はい!」
少女は即答したのだった。
とりあえずギルマスの部屋に移動することになった。
少女はギルマスの姪にあたる子で、親は防具屋を営んでいるらしい。名前を『ミナ』と言った。
肩まである髪と瞳の色が同じピンクで、この国では珍しい色をしている。レオはかわいいと言っていたが、正直わからん。俺にはレーナ以外はみな同じようにしか思えないからな。
で、その勝気そうな目が先ほどから向かい側に座っている俺の事をジロジロと見ていた。
「なんだ、俺に何か言いたことがあるのか?」
「な、ないわ!ただちょっと驚いているだけで……、だってこんな展開、漫画になかったもの。そもそも……ブツブツ。」
「?」
先ほどから俺の知らない単語を言っているし、ブツブツと独り言を言ったりして、もしかして頭の可哀そうな奴なのかもしれない。
「そうですね。まずはミナさんのお話からお聞きしましょうか。何かギルドマスターとお話しされていたようですが、なにか困っている事があるのでは?」
エルヴィスが話を切り出した。
「いやいや、あれはこの子の勘違いだと思いますよ。皆様にお聞かせするような事では……。」
「私、ストーカーに狙われているんです!!」
ミナの隣に座っていたギルマスが慌てて言うが、それに被せる様にミナが声高に話し始めた。
その内容だが、最近からミナの周りで不審な人影が出没し始めたという。
その1 一人で出かけている時だけ、誰かが後ろをついて来るような気配がする。
その2 外で干していた洗濯物が自分のだけなくなっている。
その3 差出人不明の贈り物が届けられる。その贈り物には手紙が添えられており「好きだ」とか「いつも君を見ている」等が書かれている。
その4 街の警備隊に訴えても相手にしてもらえなかったのでギルドマスターである叔父に頼んで、空いている冒険者の誰かに犯人を捕まえてもらおうとやって来た。
かなり長い話だったが、要約するとこんな感じだった。
「で、さっきからお前が言っている『すとーかー』っていうのはなんだ?」
必然的に目の前にいた俺が聞き役になってしまったのだが、すべてを聞き終わった後、気になっていたことを始めに聞いた。
ミナが言うには、そいつは好きな奴に付きまといや待ち伏せを繰り返し行う奴の事で、時には相手の持ち物を勝手に持ち出したりする。相手の迷惑を考えずに四六時中そのような行為をしている奴の事らしい。
「なんだ、それは。男の風上にも置けない奴だな。」
「あなたがそれを言いますか。」
ウィルが何故か苦い顔で俺を見て言っているが、何のことかさっぱりわからんぞ。
「なんだ?なにか文句でもあるのか?」
「いえ、何も。」
そう言って、ウィルは俺から目を逸らした。
「嬢ちゃんの話はわかった。で、どこで俺達のことを知った?あと何でこいつの事を『魔王』と呼んだのか教えてくれないか。」
それまで静かに話を聞いていた師匠が話し出した。相変わらず険しい表情のままだ。
「それは、そのぅ~。あ、夢を見たんです!皆様に会う夢をその夢の中でこの人は魔王役だったので、つい…あはは、は。」
なんだ、その嘘くさい話は。いかにも嘘をついていますと言った感じでミナは目をキョロキョロさせながら話している。
「どうだ?」
師匠はふいにエルヴィスに聞いた。そういえば先ほどからエルヴィスは魔法の石板を操作して何か調べているようだった。
「それが不思議なことにこの子から光属性のみがはっきりと見えますが、闇属性や誰かに操られているなどの痕跡は見当たりませんね。」
「何?光属性だと!?そりゃあ、またレアな属性持ちじゃねえか。」
「この時期に、光属性が現れるのもすごいです…。どうします?」
師匠はエルヴィスにそう聞かれて、少しの間、思案していたがポンと膝を叩いてミナの方を見た。
「よし、その犯人は俺達が捕まえてやる。その代わりと言っちゃあなんだが、嬢ちゃんが隠していることを俺達に教えてくれないか。」
「え、でも、信じてもらえるかどうか…。」
師匠の言葉にミナは戸惑ったように言う。
「いや、嬢ちゃんが嘘を付けそうにない子だけはわかったから、正直に話してほしい。で、犯人を捕まえるのは、この三人に任せるからこき使ってやれ。」
師匠はそういうと俺とレオとノアがいる方を指した。
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