ユニコーン令嬢は彼しか愛せない【R18】

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ユニコーン令嬢は彼しか愛せない 2

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「妖精界から来ました。ニコラシカです。ニチカって呼んでください」

 虹色の鮮やかな髪、煌めくピンクゴールドの瞳、そして額には長く伸びやかなツノ。

 コーン族の令嬢ニコラシカは、妖精界と人間界の親善交流代表に選ばれ、交換留学生としてこの人間界の学園セントエートルユマン女学院へとやってきた。

 ラフに着こなした制服の装いとは裏腹な落ち着いた丁寧な自己紹介と挨拶の言葉に、クラスメイトたちは一瞬戸惑った気配を見せた。

「まだ慣れないこともあるでしょう。皆さん、ニコラシカさんに親切にして差し上げてくださいね」

 厳格そうなオールドミスの教師が重々しく告げる。

「よろしくお願いします」



「ニコラシカさん、ほんとにニチカって呼んでいいの?」
「妖精界の御令嬢が留学してくるって聞いて緊張してたんだよアタシたち~」

 昼休みになるとニコラシカの周りはクラスメイトたちで人だかりになっていた。

「やっぱりお嬢様って感じだよねぇ。でも制服はめっちゃラフだね⁉」
「人間界のナウなヤングのギャルの間ではこう着こなすのがトレンディだって、ばぁやが教えてくれたんです」
「ナウでヤングなギャル⁉」

 ニコラシカの言葉に一瞬クラス内がどよめいた。

「ニチカっち髪すごい綺麗じゃ~ん、えこれ地毛? 染め?」
「あ、これは……コーン族はみな鮮やかなたてがみを……じゃない、髪を持つことも特徴なんです……なんだ!」
「そうなんだ~てかめっちゃムリしてナウい感じ作ってんじゃんウケる~。いいよラクにしなよ~」

 はすっぱな物言いの黒目がちの少女がケラケラと笑いながらニコラシカの肩をポンポンと叩く。
 クラスメイトたちもすっかりニコラシカを受け入れたようで随分と良いムードができていた。

「ニチカ、帰りにちょっとみんなで寄り道してこーよ。ニチカの歓迎会するからさ」

 物怖じしないタイプなのだろう、さきほどニチカの肩をポンポンと叩いた彼女が、ニコラシカに腕を絡めてニカッと笑う。
 ニコラシカもつられたようにニコリと笑うと。

「ほんと? 嬉しい! もちろん行くわ! まだ全然この辺のこと知らないから、案内してくれると嬉しいです。えっと……」
「エミィ、よろしくニチカ」

 エミィと名乗った彼女は、黒目がちの大きな瞳と人懐こそうな笑みが特徴的な可愛らしい少女だった。物言いは気安く磊落で。

 クラス内でもムードメーカーのようで彼女の一声で何人かがニコラシカの歓迎会に参加を決めたようだった。

 放課後、エミィをはじめとして数人のグループでニコラシカの歓迎と称した街案内が始まった。

 学園のある緑豊かな郊外から路面バスで少し行くと、賑わいの繁華街が広がる。

 赤煉瓦を基調とした街並みは清潔感もありお洒落でもあり、時間帯もあってか学生の姿が多かった。

 ニコラシカはエミィたちの案内で繁華街にある、若者達が楽しめる主要な場所をあちこち教えてもらった。

 噴水の上がる広場のベンチでクレープをぱくつきながら、ニコラシカはクラスメイトたちとの時間を楽しむ。それは妖精界での過ごし方とは大分違うものでもあった。

 妖精界にはこうした大きな繁華街というものはなく、リンッとベルを鳴らせばどこからともなく御用聞きが現れて必要なモノを届けてくれる。

 放課後の遊びといえばカードや盤上遊戯、占い。それから人間界の噂話だった。

 ニコラシカは噂話ではない本物の人間界の刺激とざわめきを新鮮な気持ちで感じていた。
 ほんの少しツノがピリピリと痺れていたが、これだけ多くの人間たちが行き交う街中ではそれも仕方のないことだろうと思えた。

 人間は妖精族たちほど明快で単純な魂ではなく、その心はマーブル模様のように善きもの悪しきものが混ざり合っている。

 コーン族はほかの妖精族たちよりも不浄に対して敏感で、邪な心にはツノがピリピリと痺れるような痛みを覚えるという種族的特徴があった。

 ほんの些細な人の邪心や悪意も、数が多ければツノには刺激だ。
 それ故にニコラシカの人間界留学はかなりの難色を示されたものである。

「あっ、ヤバ、そろそろ帰らないと門限きちゃう!」

 エミィの言葉にクラスメイトたちは慌てて、スカートを揺らしながらキャアキャアとバス停まで駆けて行く。

「あっ! ……ごめんなさい、先に行って。ポーチをベンチに忘れてしまったみたい!」

 ニコラシカが立ち止まり、くるっと反転する。

「え、マジ? そんならついてくよぉ?」
「いいえありがとう、でも大丈夫。ひとりの方が速いから」

 ニコラシカは微笑んで礼を言うと、タッと駆け出していった。
 エミィに言った通り、ひとりであればニコラシカは速かった。伸びやかなその脚は俊足そのもので、優雅にかつ颯爽としている。

 息一つ乱すことなくすぐに舞い戻った噴水広場のベンチの上にポーチを見つけ、ホッとしてニチカは手を伸ばした。

 不意に。

 サッ、と横から素早く飛び出した小さな影がポーチを掠め取り、タタッと走って行く。

「えっ……えっ⁉」

 目の前で自分のポーチが見知らぬ誰かに奪われて、ニコラシカは驚きのあまり一瞬固まった。

「おやおや、置き引きにやられたねぇお嬢ちゃん。この辺りはまだ治安はいい方だけど、裏街から悪ガキどもが出張してくるんだ。気をつけないとね」

 同情したように、顛末を一部始終見ていたらしい通行人が言う。ニコラシカはしばらく呆然とし絶句していたが。

「あっ、ま、待って、返して!」

 ハッとしたように気を取り直して置き引き少年の後を追って行った。

「おい、ダメだそっちは……!」

 その背中に、通行人の男の慌てた忠告の声が届いたが、ニコラシカは止まることはなかった。

 少年を追いかけて、ニコラシカが入り組んだ細い路地を抜けると、さっきまでの賑やかながらも穏やかで落ち着いた清潔な街並みが一転した。

 そこには、雑然として荒んだ雰囲気の風景が広がっていた。

 ニコラシカは、額のツノが一層強くピリピリと痺れるような、チリチリと痛むような感覚に襲われる。

 不浄、不潔、不穏、嫌な予感。

 そうしたものを感じ取った時、ニコラシカのツノはいつもピリピリとして微かな頭痛を引き起こした。

「は、早く見つけて帰らなきゃ……門限も、……ぃた」

 繁華街で感じた微かな痛みとは比べ物にならない強い痛み。

 急激に強くなっていくその痛みに、ツノの付け根の辺りを手で押さえて、ニコラシカは奥歯を噛み締めぐっと痛みを堪える。

 目眩を覚えるほどの苦痛。しかしニコラシカには、諦めるという選択肢はなかった。

 ポーチの中には、両親や友人たち、ばぁやから餞別にと贈られた色々なものが入っている。それをどうしても取り戻したかった。

 痛みを堪えて、ニコラシカはポーチをとっていった小柄な人影を探し歩いた。

 雑然とした通りからは、チラチラと好奇の視線が向けられる。それらがニコラシカをまた奇妙な不安に駆り立てもした。

「よぉ、お嬢ちゃん。こんなとこで一人歩きかい」
「っ!」

 焦燥に駆られ早足になるニコラシカは、突然後ろから掛けられた声と肩を掴む分厚い手にひゅっと息を呑んだ。

 思わず身を固くしたニコラシカの周囲に、いつのまにか数人、柄の悪そうな男たちが集まっている。囲まれている。

 ビリッ。

 ニコラシカのツノが、ますます痺れるように痛んだ。
 良くない。とニコラシカは瞬時に察した。

「離して。ちょっと人を探しているだけです、放っておいてちょうだい」

 ニコラシカはピシャリと言い放って肩を掴む手を払った。
 しかしニヤニヤした別の男の手がすぐさま伸びてきて、ニコラシカの手首を再び掴まえる。

「おっと、逃がしゃしねぇよ。……まさかこんなとこで妖精族が一人歩きしてるたぁな。アンタに恨みはねぇが、見たら是非連れて来いって言われててな。俺たちのために一肌脱いでくれや」

 男の手がニコラシカをぐいと引っ張った。更に背後から、ニコラシカを羽交い締めにする者も。

「っや、いや! 離してって言ってるでしょう‼」

 ビリリッ!

 ツノから駆け抜けていく鋭い痛みに顔を歪めて、ニコラシカは鋭い声を上げた。

 ぶわりっ!

 その声に呼応したかのように、ニコラシカの鮮やかな虹色の髪とツノが光を帯び、まるで天に輝くオーロラのように棚引く。

 それが鞭のようにしなって、バチン! バチン! と男たちを強かに打ち据え叩き伏せていった。

「ぐぁっ!」
「ぎゃぁっ」

 数人の男たちが瞬く間にニコラシカの足元に倒れ伏し、完全に伸びていた。

「は、はぁ、は、っう、ぁあっ!」

 しかし、ニコラシカも耐え難いほどの猛烈な痛みに襲われて、立っているのもままならないとばかりに膝から崩れ落ち、頭を押さえて苦痛に呻く。

 ツノがビリビリと痺れ、付け根から頭全体にズキズキと熱と痛みが広がって割れそうなほど。

「どうしました、お嬢さん」

 コツ、と靴音がして。

「……おやおや、随分と苦しそうじゃないか」

 また新しい男の声。
 朦朧としてぼんやりと霞む視界に、ニコラシカは警戒しながらその声の主を見上げた。

「体調が悪いのかい。もしや、こいつらに襲われた……?」

 ぼやけたニコラシカの目に微かに浮かび上がる青錆色。
 それを見た瞬間。

「ぁあっ!」

 更に強い痛みに襲われて、ニコラシカはぱたりと意識を失った。
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