『神託により祝福されたはずの婚姻は、悪夢と同じ結末を迎えました』

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怖い夢

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 祝福の鐘が鳴っている――

 人々の歓声――喝采――

 空は生憎の雨模様。

 せっかくの佳き日なのに、天気が良くないだなんて……。
 
 そう呟くわたくしに、隣で微笑むハルロ様。

「天上の神々が、僕たちの婚姻を祝おうとしてくれているんだよ。雨は恵みだ。農業大国のラトリーナでは特にね」

 そう言って、わたくしの手を取るハルロ様。

「さぁ、バルコニーへ。国中から王子妃の君を見ようと人々が集まっているんだ」

 手を引かれ導かれる先で。
 割れんばかりの祝福の歓声に迎えられて。

 ぽんっぽんっと祝砲が打ち上がって、色とりどりのガーランドが煽られ揺れて。

 地上では手旗を振る人々。

 わたくしは、胸いっぱいに喜びを感じながら片手を上げる。
 ヴェール越しに微笑みながら、民衆にその手を振って。

 ワッと高まる歓声と――

 パンッと弾けるような祝砲の音――

 きゃあっと聞こえた甲高い悲鳴――?


 ――あっ

 ――――熱い

 ――――――痛いっ!

 不意に。

 幸せでいっぱいだった胸が、熱と痛みに満たされて……。

「あ――――――」

 視界がぐにゃりと曲がっていく。
 
 誰かの悲鳴。
 バタバタと駆け寄って来るたくさんの足音。
 強く体を掴まれて、隠されて。

「は、ルロ……さま……」

 助けて!
 お願い……
 怖いの。
 痛くて、熱くて……なのに、どんどん寒くなって……なんにも見えなく……

 お願い……。

 手を。

 手を、握って……。

 心配いらないって……。

 言って――――――。

◇◇◇

 いやぁぁぁあ!!

 そんなけたたましい声でわたくしは飛び起きた。

「ぁぁああああ……っ、ぁ、あ……?」

 それが自分の喉から絞り出されている悲鳴だと気付いて、手で口を抑える。

「や、やだ。……また、あの夢ね」

 心臓がドキドキと早鐘を打つ。
 手も足も氷のように冷え切って痛い。
 
「お嬢様……! お嬢様、大丈夫ですか!?」

 ばぁやが部屋に飛び込んで来る。
 わたくしの悲鳴がばぁやの部屋まで聞こえたみたい。
 ばぁやはわたくしの氷みたいに冷たい手をぎゅっと握ってくれる。ふくふくと柔らかくて温かかった。

「また怖い夢を見られたのですね、お嬢様。おいたわしや、お可哀想に……。フェルダー先生のハーブティーも効かないなんて……」
「……ばぁや。どうしてわたくし、怖い夢ばかり見るのかしら……神託を受けてからもう、ずっと……」

 そう、あの夢はもう何度目だかわからない。
 三ヶ月前、新年祝賀の神聖式で巫女様からの託宣を授かり結婚の相手が決まったあの時から。

 託宣後はトントン拍子でハルロ様との婚約も成立して、喜びの絶頂だったのに。

 なぜかその時からたびたび恐ろしい夢を見るようになって……。

「結婚の前には、皆様少しご不安になるものですよ。お嬢様は母国を離れて隣国へ嫁がれますし……ほんの二十年前まで仲の悪かった国同士でございますから……それが怖い夢となって表れてるんだろうって、フェルダー先生も仰ってましたよ」
「……フェルダーが」
「先生もお嬢様のことをご心配くださっているんですよ。……お嬢様、不安な気持ちをハルロ様にご相談なさってはどうでしょうか。お優しい殿下のこと、お嬢様のお心にきっと寄り添ってくださいますよ」
「そうね……。ハルロ様に……でも、婚姻の祝典のご準備などでずっとお忙しくしてらして……昨日だってほんとに、久しぶりに……」

 二人きりの帰路。けれどほんの数分。
 忙しい中、あんな平民の子には時間を割いて……。

 嗚呼!
 またモヤモヤするわ。
 胸がチクチク痛むよう。

「お嬢様……」

 ばぁやが気遣わしげにわたくしの手をより強くぎゅっと握ってくれる。
 
「もういいわ。ホットミルクを入れてちょうだい。やっぱり、あんな苦いハーブティーでは良い夢なんて見られるわけないのだわ」
「お嬢様……はい、ではすぐにご用意いたしますねぇ」

 ばぁやが部屋を出ていくと、気温が急に下がったみたいに冷えて来る。
 平和記念祝典と婚姻式まであと一ヶ月。
 それまでにハルロ様とお話しできると良いのだけれど……。

 あの子が、身分を弁えてハルロ様にもう近づかないよう、そっちもしっかり見張っておかないと……。

 気付くとわたくしは、きつく上掛けを握りしめていた。
 
「早く結婚したい、きっとそうしたら……この恐ろしい夢も見なくて済むようになるわ」

 きっと。

 きっと、そう。

 ハルロ様が手を握ってくださったら。
 そうして一緒のベッドで眠るんだわ。
 夫婦になったら――――。
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