『神託により祝福されたはずの婚姻は、悪夢と同じ結末を迎えました』

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なぜかはわからない

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 リーシャの手を握ったまま、わたくしはアカデミーの中庭を通って裏門へと向かっていた。
 繋いだ手はまだ少し震えていたけれど、少しずつ体温が戻ってきているのが伝わってきた。

「あ……あの……ルティカ様……」

 少しだけ重くなって、リーシャが立ち止まったことがわかった。
 振り返って見ると、リーシャはまだ怖がっているのか、視線はうまく合わなかった。

「なにかしら……」
「あ、……いえ……その……。ありがとうございます……助けていただいて。まさか、ルティカ様が……あんな……」
「いいのよ、あんなシーン見たら誰だってああするわ。それよりなんだったのかしらね、恐ろしいこと。わたくしからはよく見えなかったのだけれど、不審者の顔や特徴は見ていて?」
「え……あ、いえ。暗くて……その上フードを被っていたのか、何も。ただ真っ黒な黒尽くめの……多分、男の人、かと」
「そう……。明日、アカデミーに言って注意喚起を促しましょう。ほかの女生徒も狙われるかもしれないし……」

 それともリーシャを狙っている……? 
 これを言ったら余計に怖がらせるかしら。
 
「憲兵にも……」
「は、はい……。あの、こんな言い方、不敬かもしれませんけど。ルティカ様って、しっかりしてらっしゃるんですね。……頼りになる、というか」

 リーシャからは、奇妙な困惑を感じた。
 相変わらず視線は合わなくて、褒めてくれてはいるのだろうけれど。
 彼女の語るわたくしの印象は、なんだか……確かに、わたくしっぽくない気もして。

「そうね。わたくしも、自分でびっくりしているわ。あんな風にすぐに動けたのも。……でも、おかげで、こうしてあなたを助けることができた」

 リーシャの手をぎゅっと握りしめる。
 まだ少し冷たい手に、わたくしの体温を分け与えるために。

「あなたが無事でよかったと思うの」

 あの時感じた不吉な予感。
 どうしてあんなものが思い浮かんだのかはわからない。
 けれど。
 絶対に見過ごしてはいけないという気持ちだけがわたくしを動かした。

「……ルティカ様…………」

 リーシャの顔がゆっくりと上がって、まんまるな茶色の目がわたくしに向けられる。
 その瞳には、戸惑うような揺らぎがあって。

「あなたの暮らす家まで送るわ、さっきの今でひとり歩きはよくないもの」
「……そ、そんな。でも、ひとり歩きが危ないのはルティカ様も」
「いいのよ。わたくしは大丈夫だから」

 とにかく今は、この子をひとりにするのが怖かった。
 
「行きや帰りや休日も、決してひとりになってはだめよ」
「え……。そ、それは……。あの、私が狙われているかも、と、ルティカ様は思っていらっしゃるのですか? な、なぜ」

 リーシャの声は揺れて、最後の方は特に震えて聞こえた。
 わたくしは、ぎゅっと更に強く手を握りしめる。

「理由はわからないわ。あなたが可愛いからかもしれないし……」
「……あは、ルティカ様ったら」

 リーシャはどうにか笑顔を作ろうとして、失敗したようにくしゃりと顔を歪ませた。
 俯いた彼女に、わたくしはそれ以上なにも言えなくて。

「帰りましょうか、リーシャ」
「……あ、……はい……」

 私の名前もご存知だったんですね、とリーシャが弱々しく呟くのが聞こえた。
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