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黒の帳 『一つ目の帳』
忘れてはいけない人
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朝待ち合わせた場所で二人と別れる。光彦の努力あってか、龍牙の機嫌はかなり直っていた。
「じゃあまた明日」
「…おう、またな、鈴」
「…」
光彦から返事が返ってくることはない。そうだ、確認したいことがある。
「クリミツ、ちょっと、こっちこっち」
私が光彦を手招きすれば、不審がる。龍牙が背中を押したことで漸く私の方へ来てくれた。クリミツに少し屈んでもらい、耳元で囁く。
「…龍牙とお泊まり、頑張って!応援してるよ」
顔を離して様子を確認してみると、光彦の顔はみるみる赤くなっていく。
これは、黒だ。
光彦は…龍牙が好きなんだ!
「うるせ…」
「あ、明日遅刻してくるなら連絡してね。腰痛くて歩けないとかなら休むのも」
「うるせぇっつってんだろ!…ったくてめぇは…。よ、余計なお世話だ」
「ふふ、三年間ぶりのお家デート、楽しんで。それじゃあね」
首まで赤くして怒鳴ってくるけど、迫力の無さがその恋心の可愛らしさを物語っている。私が残した言葉にまた反応しそうだったので、逃げるように別れを告げる。
まあ流石に、今日進展することは無いだろう。龍牙の様子は、光彦を意識しているようにはとても見えない。まずはときめかせることから始めたほうがいいだろうな。
気づいたらもう玄関前だった。昨日とは違う気持ちで、三人の写る写真を見つめる。
光彦は、龍牙が好きなんだ。
そう思うと、私へのあの態度もいじらしく思える。二人から弾き出されてしまったのかと思ったけど、違ったんだ。そう思うと、昨日と今朝の寂しさがどんどん消えていく。
…それならば、あのいじめはなんだったんだろうか。まだ疑問は残る。今度光彦に、勇気を出して聞いてみよう。
ふと、紅陵さんの言葉を思い出した。
「…痛い目みそう、か」
感情の読めない顔だった。何を思って彼は言ったんだろうか。
痛い目をみたことは、勿論ある。
小学生の時は龍牙と光彦が守ってくれたけど、限界はある。仲良くなれると信じて何度も話しかけた結果、殴られたことがある。気味が悪いだとか、頭がおかしいだとか、散々言われた。それで、私の友達を作りたがる性格は鳴りを潜めた。龍牙と光彦が居れば充分だ。そう言い聞かせた。これが一つ目。
そして二つ目。
中学の時に事件が起きた。
光彦に虐められていたけど、その時期は住んでいた御屋敷に緊張感があり、誰にも頼れなかった。毎日幹部の報告を聞いては、ため息を吐き眉間を揉んでいた雅弘さん。私はそれ以上心労をかけたくなかった。
その日は光彦に、捨て子は生きていても仕方がない、と罵倒され、本当に、挫けそうだった。和室の押し入れに閉じこもり、声を殺して泣いていた。
そんな私に、話しかけてくれた人が居た。
彼は押し入れをとんとんと叩き、無理には開けず、私が自分で開けるまで、押し入れの前でひたすら話をしてくれた。楽しい話、彼自身の情けない話、彼が後悔したという話。落ち込む私を何度も励ましてくれた。光彦によって学校で孤立していた私にとって、久しぶりの会話だった。夢中になって返事を返せば、嬉しそうな声で話を続けてくれた。
暫くして押し入れから出てきた私に、彼が笑って言った。
『僕にも仲のいい兄貴分が居てさ。いつか、恩返しがしたいんだ』
首を傾けて、楽しそうに語る。蜂蜜色の髪が、優しく揺れていた。
雅弘さんに話しかける勇気を少しもらえた。でもいじめのことなんてとても言えない。次の日、私は、あの蜂蜜色の髪の人にまた会いたい、という話を雅弘さんにした。
雅弘さんは、何故か、笑顔だけを返した。
彼に会った翌々日、知らない人が私を訪れた。腕に包帯が巻いてあって、心配する私にその人は言った。
『大事な大事な弟分が、守ってくれたんだ。君が…一昨日、話した奴だ。そうじゃなきゃ俺はここに居ない。実はな、昨日根谷の爺さんに頼まれて、ここに来たんだ』
あ、
彼は、優しい彼は、
居なくなって、しまったんだろうか。
それでは、もしそうであれば、そうだとしたら、あんまりじゃないか。
『もう、一昨日の、あの人は……居ないん、ですか?』
『………』
呆然とする私に、彼は苦々しい顔で頷く。そうか、雅弘さんが何も言わなかったのは、そういうことか。
彼の方が深い悲しみに覆われているだろうに、裏社会の現実を知った私は、無遠慮にもその場で泣いてしまった。今でもはっきり思い出せる。
世を離れてしまったとはいえ、たった一度しか話していない相手を思ってわんわん泣く私を見て皆何を思ったのか、彼の名前を教えてくれることは無かった。
きっと、私に早く忘れて欲しかったんだろう。まだ中学生だから、そういう思い出を抱えるのは気の毒に思われたのかもしれない。
たった一度だったから、もう顔も声もはっきり思い出せない、名前も知らないから尚更だ。ふわふわの蜂蜜色だけが、脳裏に残っている。
それでも私に、蜂蜜色のあの人の訃報を伝えたのは、きっと、裏稼業の恐ろしさを知らしめたかったからだ。そう、その頃、私は愚かにも考え無しに『私も雅弘さんみたいに極道になりたい』なんてほざいていた。そのせいだ。
雅弘さんに憧れを持っている。それは今でも変わらない。元々ドラマや小説で見る知的な男性に憧れていた。その影響で、一人称を私にしたり、紳士的な口調を目指したりした。雅弘さんは冷静かつ温和で、私の憧れる知的な男性そのものだ。
皆の言う通りに忘れたかった。雅弘さん達を心配させたくなかった。
でも、あの優しさは、忘れたくなかった。
私は、皆の言う通り、どうやら、初めて会った人でも物凄く懐いてしまうらしい。
押し入れから出ても、まだ涙を流す私に、彼は可愛らしいハンカチをくれた。妹にもらったんだけどさ、と、苦笑いをしていた気がする。姉だったかな、それさえももう朧気だ。
今でも大好きな、サンミオのシナノンちゃん。それが刺繍された、水色のハンカチは沢山の思い出が詰まる写真立ての下に敷いてある。
あの人を、忘れないように。
痛い目をみそう、なんて、紅陵さんは勘がいいな。
紅陵さんの言葉の続きが気になる。だから俺が。何を言おうとしたんだろう。守ってやる、とかだったらいいなあ、なんて馬鹿なことを考える。
紅陵さんは、不思議だ。今日が初対面なのに、やたらと彼の事がチラつく。キスをされたことが原因だろうけど、それでも、…何なんだろうか、よく、分からない。
今日は色々なことがあった。龍牙が殴られたり、クラスのリーダーが決まったり、素顔がバレたり、裏番にキスされたり。
ううん、色々おかしいな。
きっと、疲れているんだろう。だからよく分からないんだ。紅陵さんのことはまた明日考えよう。
冷蔵庫を開いて、晩御飯の献立を考える。今日は簡単なものですませようかなあ。
「じゃあまた明日」
「…おう、またな、鈴」
「…」
光彦から返事が返ってくることはない。そうだ、確認したいことがある。
「クリミツ、ちょっと、こっちこっち」
私が光彦を手招きすれば、不審がる。龍牙が背中を押したことで漸く私の方へ来てくれた。クリミツに少し屈んでもらい、耳元で囁く。
「…龍牙とお泊まり、頑張って!応援してるよ」
顔を離して様子を確認してみると、光彦の顔はみるみる赤くなっていく。
これは、黒だ。
光彦は…龍牙が好きなんだ!
「うるせ…」
「あ、明日遅刻してくるなら連絡してね。腰痛くて歩けないとかなら休むのも」
「うるせぇっつってんだろ!…ったくてめぇは…。よ、余計なお世話だ」
「ふふ、三年間ぶりのお家デート、楽しんで。それじゃあね」
首まで赤くして怒鳴ってくるけど、迫力の無さがその恋心の可愛らしさを物語っている。私が残した言葉にまた反応しそうだったので、逃げるように別れを告げる。
まあ流石に、今日進展することは無いだろう。龍牙の様子は、光彦を意識しているようにはとても見えない。まずはときめかせることから始めたほうがいいだろうな。
気づいたらもう玄関前だった。昨日とは違う気持ちで、三人の写る写真を見つめる。
光彦は、龍牙が好きなんだ。
そう思うと、私へのあの態度もいじらしく思える。二人から弾き出されてしまったのかと思ったけど、違ったんだ。そう思うと、昨日と今朝の寂しさがどんどん消えていく。
…それならば、あのいじめはなんだったんだろうか。まだ疑問は残る。今度光彦に、勇気を出して聞いてみよう。
ふと、紅陵さんの言葉を思い出した。
「…痛い目みそう、か」
感情の読めない顔だった。何を思って彼は言ったんだろうか。
痛い目をみたことは、勿論ある。
小学生の時は龍牙と光彦が守ってくれたけど、限界はある。仲良くなれると信じて何度も話しかけた結果、殴られたことがある。気味が悪いだとか、頭がおかしいだとか、散々言われた。それで、私の友達を作りたがる性格は鳴りを潜めた。龍牙と光彦が居れば充分だ。そう言い聞かせた。これが一つ目。
そして二つ目。
中学の時に事件が起きた。
光彦に虐められていたけど、その時期は住んでいた御屋敷に緊張感があり、誰にも頼れなかった。毎日幹部の報告を聞いては、ため息を吐き眉間を揉んでいた雅弘さん。私はそれ以上心労をかけたくなかった。
その日は光彦に、捨て子は生きていても仕方がない、と罵倒され、本当に、挫けそうだった。和室の押し入れに閉じこもり、声を殺して泣いていた。
そんな私に、話しかけてくれた人が居た。
彼は押し入れをとんとんと叩き、無理には開けず、私が自分で開けるまで、押し入れの前でひたすら話をしてくれた。楽しい話、彼自身の情けない話、彼が後悔したという話。落ち込む私を何度も励ましてくれた。光彦によって学校で孤立していた私にとって、久しぶりの会話だった。夢中になって返事を返せば、嬉しそうな声で話を続けてくれた。
暫くして押し入れから出てきた私に、彼が笑って言った。
『僕にも仲のいい兄貴分が居てさ。いつか、恩返しがしたいんだ』
首を傾けて、楽しそうに語る。蜂蜜色の髪が、優しく揺れていた。
雅弘さんに話しかける勇気を少しもらえた。でもいじめのことなんてとても言えない。次の日、私は、あの蜂蜜色の髪の人にまた会いたい、という話を雅弘さんにした。
雅弘さんは、何故か、笑顔だけを返した。
彼に会った翌々日、知らない人が私を訪れた。腕に包帯が巻いてあって、心配する私にその人は言った。
『大事な大事な弟分が、守ってくれたんだ。君が…一昨日、話した奴だ。そうじゃなきゃ俺はここに居ない。実はな、昨日根谷の爺さんに頼まれて、ここに来たんだ』
あ、
彼は、優しい彼は、
居なくなって、しまったんだろうか。
それでは、もしそうであれば、そうだとしたら、あんまりじゃないか。
『もう、一昨日の、あの人は……居ないん、ですか?』
『………』
呆然とする私に、彼は苦々しい顔で頷く。そうか、雅弘さんが何も言わなかったのは、そういうことか。
彼の方が深い悲しみに覆われているだろうに、裏社会の現実を知った私は、無遠慮にもその場で泣いてしまった。今でもはっきり思い出せる。
世を離れてしまったとはいえ、たった一度しか話していない相手を思ってわんわん泣く私を見て皆何を思ったのか、彼の名前を教えてくれることは無かった。
きっと、私に早く忘れて欲しかったんだろう。まだ中学生だから、そういう思い出を抱えるのは気の毒に思われたのかもしれない。
たった一度だったから、もう顔も声もはっきり思い出せない、名前も知らないから尚更だ。ふわふわの蜂蜜色だけが、脳裏に残っている。
それでも私に、蜂蜜色のあの人の訃報を伝えたのは、きっと、裏稼業の恐ろしさを知らしめたかったからだ。そう、その頃、私は愚かにも考え無しに『私も雅弘さんみたいに極道になりたい』なんてほざいていた。そのせいだ。
雅弘さんに憧れを持っている。それは今でも変わらない。元々ドラマや小説で見る知的な男性に憧れていた。その影響で、一人称を私にしたり、紳士的な口調を目指したりした。雅弘さんは冷静かつ温和で、私の憧れる知的な男性そのものだ。
皆の言う通りに忘れたかった。雅弘さん達を心配させたくなかった。
でも、あの優しさは、忘れたくなかった。
私は、皆の言う通り、どうやら、初めて会った人でも物凄く懐いてしまうらしい。
押し入れから出ても、まだ涙を流す私に、彼は可愛らしいハンカチをくれた。妹にもらったんだけどさ、と、苦笑いをしていた気がする。姉だったかな、それさえももう朧気だ。
今でも大好きな、サンミオのシナノンちゃん。それが刺繍された、水色のハンカチは沢山の思い出が詰まる写真立ての下に敷いてある。
あの人を、忘れないように。
痛い目をみそう、なんて、紅陵さんは勘がいいな。
紅陵さんの言葉の続きが気になる。だから俺が。何を言おうとしたんだろう。守ってやる、とかだったらいいなあ、なんて馬鹿なことを考える。
紅陵さんは、不思議だ。今日が初対面なのに、やたらと彼の事がチラつく。キスをされたことが原因だろうけど、それでも、…何なんだろうか、よく、分からない。
今日は色々なことがあった。龍牙が殴られたり、クラスのリーダーが決まったり、素顔がバレたり、裏番にキスされたり。
ううん、色々おかしいな。
きっと、疲れているんだろう。だからよく分からないんだ。紅陵さんのことはまた明日考えよう。
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