皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

+ 栗田視点 その後

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俺は今、とんでもなく緊張している。

どれくらいかっていうと、こんなの三年ぶりってくらいの緊張だ。


だって、だって!
俺が今居るのは、大好きな、龍牙の部屋だからだ。

龍牙は今飲み物を取りに行っているので、この部屋には俺一人だ。

まあ、部屋には雑誌やアニメのDVDが無造作に散らばっているし、ベッドはグチャグチャでお菓子の欠片だって見えるし、そのお菓子の空袋だって捨てていない。部屋の香りだってただの消臭剤の匂いしかしなくて、漫画やドラマによく出てくるようないい匂いではない。
見れば見るほど幻滅しそうな部屋だが、俺に言わせてみれば世話のしがいがあるというものだ。

でも、ここまで散らかすような奴だったか?

だが、三年という月日は、人一人変わるには十分な時間だ。これくらいの変化は特段おかしいものではない。寧ろ楽しんでしまおうか。三年前の龍牙と今の龍牙の間違い探しだ。そういや、十字架のネックレスなんてイカしたアクセサリーも付けていたな。


三年前、小学校を卒業した後俺は衝撃の事実を知らされた。保育園からずっと仲が良く、何年も一緒に居た幼馴染みの龍牙が、遠くへ引越しするという話だ。
俺は小学生四年生に上がる頃には既に龍牙への恋心を自覚しており、中学で告白する予定だった俺にとって、それは前代未聞の大事件となった。
まあ、高校になって帰って来てくれたのでよしとしよう。中学の三年間、どんなことがあったのかは知らない。

一つ、許せないことはある。

…ちなみに、俺には、片思い相手の部屋を漁るような度胸も、図々しさも無い。することもないので、気になるものはその場から動かずにチラチラと見ることにした。俺がそんなヘタレなことばっかりやっていると、龍牙が帰ってきた。

扉を開けた龍牙の姿は、私服だった。
鎖骨の辺りがかなり開いている。やめろ、そういう露出度高い服は健全な青少年の刺激になるからいけないんだぞ!?

龍牙はそんな俺の葛藤も知らずに、持ってきた飲み物を机の上に置いた。コップに入ったグレープジュースとマンゴージュースだ。
きっとグレープが龍牙のものだろう。龍牙はグレープ味が大好きだからな。
しかし、龍牙はそんな俺の予想を裏切り、俺にグレープジュースを差し出してきた。

「あれ?お前グレープジュース好きじゃなかったっけ」
「好きだけど、お前も好きだろ。もうこれで最後だからな。ほら、やるよ」

成程、家にあるグレープジュースはこれで最後だから、俺にそれを譲ってくれたのか。

俺、好かれてる~。

これで両思いだったら最高だが、生憎龍牙は俺のことを全く意識してくれない。
まあ三年前の友人の好物を覚えててくれたんだ、それだけでも充分嬉しい。

「…覚えてんだな」
「ん?」

龍牙が呟くようにそう言った。何のことだ?

「俺がグレープ味好きなの、覚えてたんだなって、思って。……ありがと」

りゅ、龍牙も俺と同じことを考えていたのか!?

龍牙はにっこり笑った。眩いばかりの無邪気な笑顔だ。この顔は、俺の一番好きな龍牙の顔だ。笑顔が一番だと言うが、龍牙の笑顔はマジで世界一だと俺は思う。誰よりも、輝いている。

龍牙への愛しさを噛み締めながらジュースを口にした。やべ~生きてきた中で一番上手いグレープジュースだ~!!
疲れた体にジュースが染み渡る。

厄介なことを任されてしまったからな。クラスの頭に興味は無いのに。でも、あの時、裏番はこんなことを言った。

『片桐は、いざとなったら俺が鈴の代わりにボコられるぜ!みたいなこと言ってただろ?でもな、考えてみろ。クロちゃんの素顔を見ておいて、ただリンチするなんて勿体ないだろ、そんな奴、居るか?んで、片桐はそんなクロちゃんの代わりになるって言ってる』
『…何が言いたいんすか』
『お前が頭になんなきゃ、片桐がクロちゃんの代わりに男に犯されるかもってコトだな』

龍牙が鈴の代わりに?そんなのダメだ。
でも鈴もダメだ。

鈴は俺の努力の甲斐あって、色気出しまくりの中学で奇跡的に男に食われず、無事だ。いじめた時、やたらと味方になろうと引っ付いた奴らは大体アウトだったな。監禁?強姦?輪姦?そんなことを企む奴らは片っ端からぶっ飛ばしてきた。龍牙に頼られたくて鍛えた肉体が役に立つとは思わなかったな…。




「……クリミツ」
「ん、何だ?」
「お前と鈴、何かあった?」

…その話題を出すのか。

龍牙は、黙った俺を見て不思議そうに首を傾げた。その可愛らしい顔についていく、さらりさらりと流れる長髪。
これが、俺の唯一許せないこと。

お前、その髪 何?

俺はその理由を知っている。嫉妬で狂いそうだ。
三年ぶりに会い、この髪を初めて見た時。
引きちぎりたい衝動をどれだけ抑えたことか。

「俺、中学は別の所に行ってたしさ。お前らが気まずくなってんのは、俺のせいみたいなもんで」
「そんなことない!!」

寂しそうに語る龍牙に、咄嗟に否定の言葉が口から出た。

「…じゃあなんで、鈴とあんなに距離置いてんだよ。クリミツは何かおかしいし、鈴だって気ぃ遣ってたし、小学生の時みたいにはしゃぐのは俺だけだったし、そんなのっ、俺だけバカみてぇじゃんかよ!」
「分かっ、分かった、話すから落ち着け」
「………ん」

龍牙が突然怒りだし、俺は慌てて宥めた。

今日、鈴が気まずい顔をしているのは分かっていた。分かった上で、中学の時と変わらない態度をとった。

龍牙に真実を話すわけにはいかない。

「…中学で、俺、周りの奴ら見て、俺っておかしいのかなって、思ったんだ。お前と鈴…、まあ、お前らとめっちゃ仲良くしてたけど、そういうのガキっぽいって馬鹿にされてさ。最初はムカついたけど、段々恥ずかしくなったんだよ」
「…だから、鈴と全然話さないのか」
「おう、そんなとこだ」

勿論、全部嘘だ。
この嘘がバレないよう、俺は既に、徹底的に動いている。中学での出来事、それについての口封じを同級生全員にした。勿論後輩も先輩もだ。龍牙と仲が良かった奴、俺と一緒に鈴をいじめた奴には特に念を押した。
『龍牙のためなんだ』
『龍牙が知ったら悲しむ』
『俺は間違ったことをした』
『俺は鈴と仲直りしたいんだ』
そう言えば皆、頷いた。

中学で栗田光彦が紫川鈴を虐めていたという事実。
それだけは、何があっても隠さないといけない。

「……じゃあ、前みたいになるのは、無理か?」
「いや、そんなことはない。離れて分かったけど、俺も寂しいし。中学じゃそのタイミング分かんなくなっちまってさ、だから、高校からは三人で過ごそう」
「………おう!」

よかった、龍牙が笑ってくれた。

この笑顔を守るためなら、俺のものに出来るなら、
俺は何だってやってやる。

今思い出しても、中学の俺は馬鹿だったな。
カッとなって、意味の分からないことをした。
いじめのきっかけは何だっただろうか。詳細が思い出せないほど些細なことだった。その些細な出来事が、俺の留めていた感情を爆発させた。

俺は、龍牙が好きだ。
龍牙は、鈴が好きだ。

たったそれだけ。それだけだ。
鈴は何も知らない。勘づいてさえいない。

今日なんか、お泊まり頑張れなんて言っていたな。アイツは馬鹿だ。馬鹿だから、鈴の好みが髪の長い人だから、龍牙がそれに合わせて伸ばしたことに、気づかない。鈴の好みが髪の綺麗な人だから、それに合わせて、ガサツな龍牙が頑張って美しい髪に仕上げたことにも、気づかない。
俺が何を考えているかも、何も分かっていない。

幼馴染みが片思い?
なら私は全力で応援するぞ!
なんて考えていそうだ。

龍牙が好きなのは、鈴なのに。
鈴が居る限り、俺の恋は実らないのに。

鈴を憎み、龍牙に恋する立場の自分、
鈴も龍牙も同じくらい大切で大好きな友達の立場の自分、
その相反する二つに、何度も苦しめられた。

でもこの苦しみも少しは楽になった。
鈴と龍牙は結ばれないかもしれないからだ。
鈴は全く龍牙に気が無い。心の底から親友だと思っている。その上、鈴は何だかよく分からないチャラ男に赤面していた。…アイツは俺も気に入らない。鈴はあんな奴とは付き合うべきじゃない。

龍牙にはちゃんと思いを伝えさせてあげたい。
俺のように何年も片思いをしているんだ。
辛さは俺が一番知っている。

龍牙が鈴に告白したら、
俺も龍牙に告白しよう。

どうなるか分からない。
俺は振られるかもしれない。
だから、その可能性が少しでも減るように、龍牙へのアプローチを頑張ろう。


そのためにはまず、鈴との関係をどうにかしなくてはならない。元いじめっ子と元いじめられっ子。鈴が気にしていたのは、いじめではなく俺の暗い顔だと思う。だったら、
俺はもう鈴をいじめないよ!
小学生の時みたいに仲良くしようぜ!
というのを前面に押し出せば、鈴は元に戻るだろう。

元に戻さなくてもいいと思うけどな。鈴の怯えた顔も中々…いや、違う違う。俺は間違ったことをしたんであって、決して鈴の苦しそうな顔がどうのとかそういうわけじゃない。
そんなの最低じゃないか。
一瞬、中学の記憶が蘇ったが、無視だ無視。体の反応は仕方ない。あの時あの場で下半身が反応したからといって別に俺が鈴にそういう思いがあるとかでは決して無い…
と、思う。
多分鈴にはバレてないだろうし、大丈夫大丈夫。
俺がドSのド変態の可能性が浮上してんのは、
バレてない!



俺はさておき、鈴のことだ。
鈴は、俺と龍牙に依存している。
こんなクズの俺に依存しているのは可哀想だと思う。恋心に惑わされ、唯一無二の友人を裏切り、それに悦楽と異常な興奮を覚える、そんな最低な人間。鈴は家族が居らず、天涯孤独の身だからか、気味が悪いほどの寂しがり屋だ。皆で支えてやらねばならない。
俺が傍に…、いや、俺と龍牙が傍に居てやらなきゃな。

俺たち三人の関係は、いわゆる友達だ。
でも鈴はきっと、家族か、それ以上に思っている。だからこそ、いじめたあの日々、恐ろしい執着心が篭った瞳で俺を見てきたんだ。あの時は、鈴が俺の事だけを考えていた。
フラフラと人から人へ渡り歩く、根無し草のような鈴。俺たちに根付いてくれないかとも考えたが、それは依存に繋がる。いつかは離れないと。そんな気持ちもあったから、あのいじめは酷いものになっていった。

それでも鈴は、依存を止めなかった。
止められなかったのかもしれない。
止めるには、遅すぎたのかもしれない。


幼馴染みでしょう?どうして?
友達でしょう?ねえ、
クリミツ、クリミツ、クリミツクリミツクリミツ、
かぞくじゃないの?
かぞくでしょ?ねえ、ねえ、
なんで?なんでなの、クリミツ、ねえ、何か言って


狂ったように俺に縋り、そう呼んできた鈴には、恐怖さえ覚えた。

鈴は覚えていないだろう。鈴にビビった俺は、鈴の頭を思いっきり殴っちまったから、鈴はそのまま気を失った。俺しか知らないことだ。
龍牙があんなキチガ…おっと、依存してるだけだ、そこまで言うのは可哀想だな。ともかく、龍牙が鈴を好きになり、思いを伝えて一緒になるのは危ない気がする。一生離してもらえないような、恐怖。

幸いなのは、龍牙が鈴の恋愛の対象外なことだろうな。鈴にとっては、近親相姦みたいなものに思えてしまうのかもしれない。俺たちのことを、兄弟が居たらこんな感じかなあ、と言っていたから。



とにかく、明日からは鈴を守ろう。誰が中学の間ずっと面倒見てきたと思ってやがる。アイツが男に食われずに済んでいるのは、俺が怪しい奴らを片っ端からぶっ飛ばしてきたからだ。おかげであだ名が熊になっちまった。
龍牙、熊って聞いたら、かっこいいって言うかなぁ…、いや、可愛いって言いそうだ。言うのは止めておこう。
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