18 / 153
黒の帳 『一つ目の帳』
1-Cとは
しおりを挟む
天野君と話した後、天野君は美人さんをまだまだ探す気らしく、根暗なんかと喋ってる暇はねえ!と走っていった。
廊下をちらりと覗くと、さっき倒れていた二人はもう居なくなっていた。鉢合わせないように早く行かなくちゃ。
「鈴ー、鈴ー?」
「さきちゃんどこー?」
あれ、私を呼ぶ声がする。龍牙と遠藤君の声だ。遠くをよく見ると、教室の前で私のことを探している。そういえばお手洗いに行くって嘘ついたんだっけ。
「どうしたの?」
「鈴っ!」
「さきちゃんどこ行ってたんだよ!?」
腕時計を見ると、二時間目と三時間目の間だ。しまった、天野君とそこまで話し込んでいたとは。全く気づかなかったな。
「ごめんごめん。ちょっと校内探検したくなっちゃって。新しい所ってワクワクしない?」
「それだったら俺も連れて行けよ、俺も探検したかった…」
「さきちゃん、俺も連れてって!」
「探検はまた今度。今から三時間目でしょ?」
ぶーぶーと不満を垂れる二人を宥め、教室に入り、席につく。入った途端、不良さん達が騒ぎ出したのが分かった。ふと、教室の前を見れば、不安そうにこちらを見つめる黒宮君達と目が合った。そっか、不良さんが苦手だから、騒がれたりしたら怖いよね、ごめんね。
「お帰りっ鈴ちゃん!」
「大丈夫?誰かに絡まれたりした?」
「紫川、俺ら言いたい事あるんだ」
「…何?」
真剣な顔をして、岡崎君、だったかな、その人が、一歩前に進み出る。朝、如月先生が出席を確認していたので、全員の名字はもう覚えた。
「その、片桐と話したんだけどさ。さっきはその…ワリィな。俺ら、いや、コイツら夢中になっててさ。紫川のこと、考えてなかった」
「俺らと、友達からお願いします!」
「「「お願いします」」」
「だってよ、鈴」
皆も、隣に居た遠藤君も、声を揃えて言ってくる。
友達、友達か。
それならいいかもしれない。
顔を見て態度を変えるような人達だし、恋人になる事は何があっても有り得ないけど、友達ならいい。クラスメイトと仲良く過ごせるなんて、それはどんなに楽しいだろうか。楽しい一年間が過ごせるかもしれない。
隣に居る龍牙を見ると、呆れたように笑っていた。
「いいよ、友達からね」
「やったああああ!!!」
「鈴ちゃん、俺とお昼食べよっ!」
「いや、皆で食おうぜ。し、紫川が真ん中な」
「ごめん、私は屋上で食べるから」
屋上。その単語を発した途端、クラスが静まり返る。あれ、私また変なこと言ったかな。あ、そういえば、屋上って確か、紅陵さんのシマなんだっけ。
「…裏番か」
「昨日のことっ、菊池達から聞いたんだ!」
「鈴ちゃん大丈夫!?まさか、もう…」
「渡辺君が考えてるようなことじゃないよ。裏番さんいい人だから、大丈夫」
「えっ?」
貞操の危機を感じますけどね。
渡辺君は私が返事した途端、きょとんとしたかと思えば、急に赤くなった。私、何か変なこと言ったかな。渡辺君と他の不良さん達がコソコソと話す。その内容はよく聞こえなかった。
「渡辺っ、お前抜け駆け禁止っつったろ!」
「いつ喋ったんだよ、名前覚えてもらえるとか羨ましいっ…」
「いや、マジで俺、分かんない、え…、まさか、鈴ちゃんって…俺の事…嘘!!」
「…鈴」
龍牙が声を潜め、話しかけてくる。私もそれに合わせ、小声で返す。
「何?」
「お前、もしかして全員の名字と顔覚えた?」
「うん」
「…成程な」
先生は出欠をとる時、名字しか言っていなかったから、名字だけなら分かるし、顔と名字も一致する。仲良くなりたいなら、まずは相手が誰かくらい分からなきゃいけない。小学生の時からこれは心がけている。
「名字だけだ。名前は覚えなくていい、分かったか?」
「どうして?」
「…名前呼ぶのは、俺だけにして欲しいから」
そう言うなり、突然そっぽを向いてしまったから、龍牙の表情は窺うことができない。
いじらしい嫉妬だ。きっと、私との友人関係を他人とは違う特別なものにしたいんだろう。その可愛さに微笑ましくなる。
だから私は、龍牙の耳に口を寄せて、話しかけた。
「分かったよ、うーちゃん♡」
「…くそ」
龍牙は恥ずかしさからか机に突っ伏して動かなくなってしまった。悪態をつくも、耳は赤い。ふふ、龍牙、私が君の嫉妬に気づいていないと思ったら大間違いだよ。
特別なものといったら、やはりあだ名だ。それで呼びかけたから、きっと私の思いは伝わっただろう。クリミツも、龍牙も、私の大切な親友だ。大丈夫、二人以上の友達なんて、有り得ないよ。
授業の始まりを知らせる本鈴が鳴り響き、さっき私が入った扉とは反対の扉が開く。
「し、…失礼します…」
「如月先生、自分のクラスですよ!」
「あ、あはは、そっ…そうですねえ…」
如月先生が引き攣った笑顔で教卓に荷物を置く。如月先生は数学だ。
「……きょ、教科書の…3ページを開いてください。…ええ、きょ、今日は、…同類項について…話を…」
先生はオドオドしながら話すので、少し聞きづらい。でも不良さんが怖いなら仕方ないか。先生をじっと見つめて、授業の内容を頭に入れる。…うん。不良校だからとはいってはなんだけど、内容が簡単すぎる。教科書を読むだけで事足りそうだ。
「…では、……れ、練習問題にとりかかってください…」
「…なあなあ」
「ん?」
突然右肩を叩かれる。龍牙は左に座っている。誰だろうか。顔を向けると、ピアスがキラリと光るのが見えた。いつの間にか、遠藤君が隣に座っている。
「あ、遠藤君」
「…センコー何言ってっかさっぱりなんだけどよ…さきちゃん分かった?」
「うん。どこが分からなかった?」
「えーっとな…」
ノートを見せてもらったが、中々…達筆だ。例えるなら、ミミズが這ったような字…いや、何でもない。正直行間も分からないノートだが、遠藤君の指が指す場所くらい読まなくてはと身を乗り出す。というか、遠藤君…真面目に授業を受けているのか、良かった。
「…ぅ、ぅお…」
「あ、ここだね。ここは次数が…、あ、次数って分かる?」
「えっ、あ、…分かんねえ、と、思う」
「次数っていうのはね?まず、同じ数字と数字を…」
遠藤君はノートを指す指を全く動かさない。やはり勉強は退屈だろう。無理しなくていいのに。
「遠藤君、聞いてる?」
「わ、わりぃ、…その、目、目が…っ…」
「…目?」
素顔はバレているから気にしなくていいだろうと、私の右目の辺りだけ、前髪を退けている。ノートをよく見たかったから退けたのだけど、遠藤君はそれが気になるみたいだ。
遠藤君と目が合う。どうして気になるのか聞いてみよう。
「…私の目が、どうかした?」
「いやっ、……ぁ…、そ、の…」
じっと見つめていたら、遠藤君の顔が赤いことに気づいた。
そういえば、歯切れが悪いし、体調が悪いのかも。頬を触れば、やはり熱い。大丈夫だろうか。
「わ、熱いね。熱があるの?大丈夫?」
「ぁわっ……、…だ、大丈夫、じゃ、ねえ…」
「えっ、怠さとかはある?喉が痛いとか…」
「鈴」
耳まで赤い遠藤君が心配で、更に身を乗り出そうとした時、左に座る龍牙に止められた。
「何?あ、遠藤君が体調悪そうで…」
「…鈴、思い出せ。遠藤はさっき言った通り友達だが、どういう気持ちをお前に持ってる?」
ううん…
まさか。
天野君に会う前、先程の騒めきの中に、遠藤君の声も混ざっていた気がする。
『ツンツンするさきちゃんもかっわいい~!』
…うん。
私は、中々無責任なことをしたんじゃないだろうか。授業中だからと油断していた。自分の行動には気をつけなければいけない。向こうが意識しなければいい話なのだけれど。
「…あっ、え、遠藤君…?」
「ち、ちか、近かった、から…、さきちゃん…、目、やば…ぁ…」
遠藤君が赤い顔をパタパタと扇いでいる。遠藤君は照れながらも、可愛いだの綺麗だのと呟いている。…私!照れてはいけないぞ!
「紫川くん、私の授業はどうでしょうか。分からないところは無いですか?」
「はい、大丈夫です。応用問題とかはありますか?」
如月先生が嬉しそうに私に話しかけてくれた。不良さんの前ではオドオドしていたが、私に話す時はスラスラ言葉が出ている。
裏返り、焦ったような声しか聞いていなかったから分からなかったが、如月先生は素敵な声をお持ちのようだ。お腹の奥の方に響いてくる、落ち着くバリトンだ。見た目はかなり若くに見えるのに、声は中年男性を思わせる渋さだ。
そういえば、紅陵さんも声が低かった。…紅陵さん、屋上に行ったら会えるかなあ。
「…ええ、ほら、こことかはどうでしょうか。ふふ、紫川くんは優秀ですねえ…。入学式の挨拶、見たかったです」
「う、それは色々ありまして…、あはは」
私は中央柳高校の新入生の中、一番の成績だったらしく、入学式の挨拶を任されていた。だが、入学式は二人の不良さんに絡まれ、出ることは叶わなかった。
私達が話していると、遠藤君と、遠藤君の前の席に居る菊池君が声をかけてきた。
「まあ、あれは入学式って言えるようなもんじゃなかったし。気にすんな!」
「鈴ちゃんは出なくて良かったよ。乱闘騒ぎになったからね」
「…へえ、そうなんだ。それで、如月先…あれ?」
乱闘の詳細は聞かないでおこう。
振り向いたら既に先生は居なくなっていた。前を向くと、教卓でせっせと荷物を纏める先生が見えた。菊池君と遠藤君に話しかけられ、怯えてしまったのだろうか。先生が逃げるように教室の扉を開けると、チャイムが鳴った。
前途多難だが、先生とはもっと仲良くなれそうだ。
廊下をちらりと覗くと、さっき倒れていた二人はもう居なくなっていた。鉢合わせないように早く行かなくちゃ。
「鈴ー、鈴ー?」
「さきちゃんどこー?」
あれ、私を呼ぶ声がする。龍牙と遠藤君の声だ。遠くをよく見ると、教室の前で私のことを探している。そういえばお手洗いに行くって嘘ついたんだっけ。
「どうしたの?」
「鈴っ!」
「さきちゃんどこ行ってたんだよ!?」
腕時計を見ると、二時間目と三時間目の間だ。しまった、天野君とそこまで話し込んでいたとは。全く気づかなかったな。
「ごめんごめん。ちょっと校内探検したくなっちゃって。新しい所ってワクワクしない?」
「それだったら俺も連れて行けよ、俺も探検したかった…」
「さきちゃん、俺も連れてって!」
「探検はまた今度。今から三時間目でしょ?」
ぶーぶーと不満を垂れる二人を宥め、教室に入り、席につく。入った途端、不良さん達が騒ぎ出したのが分かった。ふと、教室の前を見れば、不安そうにこちらを見つめる黒宮君達と目が合った。そっか、不良さんが苦手だから、騒がれたりしたら怖いよね、ごめんね。
「お帰りっ鈴ちゃん!」
「大丈夫?誰かに絡まれたりした?」
「紫川、俺ら言いたい事あるんだ」
「…何?」
真剣な顔をして、岡崎君、だったかな、その人が、一歩前に進み出る。朝、如月先生が出席を確認していたので、全員の名字はもう覚えた。
「その、片桐と話したんだけどさ。さっきはその…ワリィな。俺ら、いや、コイツら夢中になっててさ。紫川のこと、考えてなかった」
「俺らと、友達からお願いします!」
「「「お願いします」」」
「だってよ、鈴」
皆も、隣に居た遠藤君も、声を揃えて言ってくる。
友達、友達か。
それならいいかもしれない。
顔を見て態度を変えるような人達だし、恋人になる事は何があっても有り得ないけど、友達ならいい。クラスメイトと仲良く過ごせるなんて、それはどんなに楽しいだろうか。楽しい一年間が過ごせるかもしれない。
隣に居る龍牙を見ると、呆れたように笑っていた。
「いいよ、友達からね」
「やったああああ!!!」
「鈴ちゃん、俺とお昼食べよっ!」
「いや、皆で食おうぜ。し、紫川が真ん中な」
「ごめん、私は屋上で食べるから」
屋上。その単語を発した途端、クラスが静まり返る。あれ、私また変なこと言ったかな。あ、そういえば、屋上って確か、紅陵さんのシマなんだっけ。
「…裏番か」
「昨日のことっ、菊池達から聞いたんだ!」
「鈴ちゃん大丈夫!?まさか、もう…」
「渡辺君が考えてるようなことじゃないよ。裏番さんいい人だから、大丈夫」
「えっ?」
貞操の危機を感じますけどね。
渡辺君は私が返事した途端、きょとんとしたかと思えば、急に赤くなった。私、何か変なこと言ったかな。渡辺君と他の不良さん達がコソコソと話す。その内容はよく聞こえなかった。
「渡辺っ、お前抜け駆け禁止っつったろ!」
「いつ喋ったんだよ、名前覚えてもらえるとか羨ましいっ…」
「いや、マジで俺、分かんない、え…、まさか、鈴ちゃんって…俺の事…嘘!!」
「…鈴」
龍牙が声を潜め、話しかけてくる。私もそれに合わせ、小声で返す。
「何?」
「お前、もしかして全員の名字と顔覚えた?」
「うん」
「…成程な」
先生は出欠をとる時、名字しか言っていなかったから、名字だけなら分かるし、顔と名字も一致する。仲良くなりたいなら、まずは相手が誰かくらい分からなきゃいけない。小学生の時からこれは心がけている。
「名字だけだ。名前は覚えなくていい、分かったか?」
「どうして?」
「…名前呼ぶのは、俺だけにして欲しいから」
そう言うなり、突然そっぽを向いてしまったから、龍牙の表情は窺うことができない。
いじらしい嫉妬だ。きっと、私との友人関係を他人とは違う特別なものにしたいんだろう。その可愛さに微笑ましくなる。
だから私は、龍牙の耳に口を寄せて、話しかけた。
「分かったよ、うーちゃん♡」
「…くそ」
龍牙は恥ずかしさからか机に突っ伏して動かなくなってしまった。悪態をつくも、耳は赤い。ふふ、龍牙、私が君の嫉妬に気づいていないと思ったら大間違いだよ。
特別なものといったら、やはりあだ名だ。それで呼びかけたから、きっと私の思いは伝わっただろう。クリミツも、龍牙も、私の大切な親友だ。大丈夫、二人以上の友達なんて、有り得ないよ。
授業の始まりを知らせる本鈴が鳴り響き、さっき私が入った扉とは反対の扉が開く。
「し、…失礼します…」
「如月先生、自分のクラスですよ!」
「あ、あはは、そっ…そうですねえ…」
如月先生が引き攣った笑顔で教卓に荷物を置く。如月先生は数学だ。
「……きょ、教科書の…3ページを開いてください。…ええ、きょ、今日は、…同類項について…話を…」
先生はオドオドしながら話すので、少し聞きづらい。でも不良さんが怖いなら仕方ないか。先生をじっと見つめて、授業の内容を頭に入れる。…うん。不良校だからとはいってはなんだけど、内容が簡単すぎる。教科書を読むだけで事足りそうだ。
「…では、……れ、練習問題にとりかかってください…」
「…なあなあ」
「ん?」
突然右肩を叩かれる。龍牙は左に座っている。誰だろうか。顔を向けると、ピアスがキラリと光るのが見えた。いつの間にか、遠藤君が隣に座っている。
「あ、遠藤君」
「…センコー何言ってっかさっぱりなんだけどよ…さきちゃん分かった?」
「うん。どこが分からなかった?」
「えーっとな…」
ノートを見せてもらったが、中々…達筆だ。例えるなら、ミミズが這ったような字…いや、何でもない。正直行間も分からないノートだが、遠藤君の指が指す場所くらい読まなくてはと身を乗り出す。というか、遠藤君…真面目に授業を受けているのか、良かった。
「…ぅ、ぅお…」
「あ、ここだね。ここは次数が…、あ、次数って分かる?」
「えっ、あ、…分かんねえ、と、思う」
「次数っていうのはね?まず、同じ数字と数字を…」
遠藤君はノートを指す指を全く動かさない。やはり勉強は退屈だろう。無理しなくていいのに。
「遠藤君、聞いてる?」
「わ、わりぃ、…その、目、目が…っ…」
「…目?」
素顔はバレているから気にしなくていいだろうと、私の右目の辺りだけ、前髪を退けている。ノートをよく見たかったから退けたのだけど、遠藤君はそれが気になるみたいだ。
遠藤君と目が合う。どうして気になるのか聞いてみよう。
「…私の目が、どうかした?」
「いやっ、……ぁ…、そ、の…」
じっと見つめていたら、遠藤君の顔が赤いことに気づいた。
そういえば、歯切れが悪いし、体調が悪いのかも。頬を触れば、やはり熱い。大丈夫だろうか。
「わ、熱いね。熱があるの?大丈夫?」
「ぁわっ……、…だ、大丈夫、じゃ、ねえ…」
「えっ、怠さとかはある?喉が痛いとか…」
「鈴」
耳まで赤い遠藤君が心配で、更に身を乗り出そうとした時、左に座る龍牙に止められた。
「何?あ、遠藤君が体調悪そうで…」
「…鈴、思い出せ。遠藤はさっき言った通り友達だが、どういう気持ちをお前に持ってる?」
ううん…
まさか。
天野君に会う前、先程の騒めきの中に、遠藤君の声も混ざっていた気がする。
『ツンツンするさきちゃんもかっわいい~!』
…うん。
私は、中々無責任なことをしたんじゃないだろうか。授業中だからと油断していた。自分の行動には気をつけなければいけない。向こうが意識しなければいい話なのだけれど。
「…あっ、え、遠藤君…?」
「ち、ちか、近かった、から…、さきちゃん…、目、やば…ぁ…」
遠藤君が赤い顔をパタパタと扇いでいる。遠藤君は照れながらも、可愛いだの綺麗だのと呟いている。…私!照れてはいけないぞ!
「紫川くん、私の授業はどうでしょうか。分からないところは無いですか?」
「はい、大丈夫です。応用問題とかはありますか?」
如月先生が嬉しそうに私に話しかけてくれた。不良さんの前ではオドオドしていたが、私に話す時はスラスラ言葉が出ている。
裏返り、焦ったような声しか聞いていなかったから分からなかったが、如月先生は素敵な声をお持ちのようだ。お腹の奥の方に響いてくる、落ち着くバリトンだ。見た目はかなり若くに見えるのに、声は中年男性を思わせる渋さだ。
そういえば、紅陵さんも声が低かった。…紅陵さん、屋上に行ったら会えるかなあ。
「…ええ、ほら、こことかはどうでしょうか。ふふ、紫川くんは優秀ですねえ…。入学式の挨拶、見たかったです」
「う、それは色々ありまして…、あはは」
私は中央柳高校の新入生の中、一番の成績だったらしく、入学式の挨拶を任されていた。だが、入学式は二人の不良さんに絡まれ、出ることは叶わなかった。
私達が話していると、遠藤君と、遠藤君の前の席に居る菊池君が声をかけてきた。
「まあ、あれは入学式って言えるようなもんじゃなかったし。気にすんな!」
「鈴ちゃんは出なくて良かったよ。乱闘騒ぎになったからね」
「…へえ、そうなんだ。それで、如月先…あれ?」
乱闘の詳細は聞かないでおこう。
振り向いたら既に先生は居なくなっていた。前を向くと、教卓でせっせと荷物を纏める先生が見えた。菊池君と遠藤君に話しかけられ、怯えてしまったのだろうか。先生が逃げるように教室の扉を開けると、チャイムが鳴った。
前途多難だが、先生とはもっと仲良くなれそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる