皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

+ 天野視点『鬼ごっこ』

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憂鬱な心持ちで渡来先輩の後を着いていく。どうやら一年の教室を片っ端から当たることにしたらしい。

「ここからだな」
「…!!」

渡来先輩が教室の扉に手をかけた。その教室は、A組。
漸く、俺は状況がかなり不味いことに気づいた。
A組にはあのめちゃめちゃ可愛い横山がいる。そして横山の下の名前の読みは、りん。探している人とは違うと言えばそれまでだろうが、それをこの人が信じるだろうか。惚れていることを分かっているから、俺が何を言おうと、片思い相手を庇っているようにしか見えないだろう。
横山が、危ない。

居ないでくれ、頼む!!

「………居ないな。つーか人が少ねェ」
「良かった…」
「あ?何か言ったか」
「残念ですねって言いました」

勢いよくガラリと開けたせいで、教室中の視線を集めたが、渡来先輩を見て全員目をそらす。この人の怖さはこの場の全員が知っているということだ。その中に、横山は居ない。
人がやたらと少ないのは分からないが、そんなことはどうでもいい。あんな可愛い奴をこんなクソ同然の先輩に巻き込まなくて済んだんだ。

B組も同じく覗いたが、やはりいない。俺は一回探したから分かってんだけどな。同じ作業はダルい。それに、リンさんに会いたい思いは変わらないが、今会うのはマズイ。
ホント、何でこんなクソと一緒に居なければいけないんだろうか。




C組は最初から扉が開いていた。誰かが扉に寄りかかっているが、ソイツを先輩が気にするわけがなく、ソイツは弾き飛ばされた。先輩に気にする様子はない。ドミノのようにもう一人も倒れた。

「いって!!」
「何だテメ……、ひっ」

いきなり押し退けられたらそりゃあ気に入らないだろう。振り返った顔には苛立ちが滲んでいる。だが、渡来先輩を見て真っ青になり、立ち上がりながら逃げていった。アイツらみたいに俺も逃げられたらなあ。
渡来先輩に指示される前に教室を覗く。

「……天野」

居るわけないだろっつーの。いい加減分かれよ。

「居ないっすね…、次行きましょうか」
「本当か?誰かと重なってたりしないか見て来い」
「いやここ俺のクラスなんで…」
「文句か?」
「すぐ行ってきます」

ムカつく。めっちゃムカつくが、行かないと殴られる。
俺たちが来たことで静まり返った教室を歩き回る。居ねぇっつったら居ねぇんだよ。万が一見つけたとしても、億万一渡来先輩には言わない。

「……………あ」

そうだ、ここは俺のクラスで、C組。
ということは朝のクソ野郎も居るわけだ。クソな先輩に連れられた俺を笑った、根暗野郎。
そいつは生意気にもノートだか問題集だかを広げて勉強している。根暗な上にガリ勉か。ここに来るってことは相当馬鹿なのにな。何努力してんだか。ちっせぇ字で意味分かんねぇ数字だか記号だかなんか分かんねぇやつ書きやがって…。
憂さ晴らしさせてもらおうじゃねぇか。
朝は先輩を怒らせないように必死だったが、今なら先輩だって許可をくれるんじゃないだろうか。

「…先輩。この根暗野郎、俺にガセ掴ましたんスよ。コイツ連れてっていいすか?」
「勝手にしろ」
「うっす。残念だったな根暗野郎…あの人マジ怖ぇからな、病院送りとかかもなァ」

よし、予想通り。
まあ先輩までこいつを殴るかどうかは分からないが、脅すにはかつてない人材だろう。根暗を引っ張っていこうと手を伸ばす。

「おい阿賀野、鈴に手ェ出すな」

だがそれは奴の友人に阻まれた。金髪ロン毛…片桐だ。俺は阿賀野じゃなくて天野だっつーの。コイツ絶対わざとだろ。
根暗野郎を守ろうと片桐が立ち上がる。その途端根暗野郎も勢いよく立ち上がったと思えば、出口に向かって全力疾走しやがった。足おっそ。
逃がさねぇ。俺の事を笑った報いは絶対受けさせてやる。それとガセのこともだ。

「待てテメェ…ぅおっ!?」

そう思って走り出したが、俺は呆気なく片桐に足をかけられて転んだ。地味なことをしやがる。だが片桐の相手は後だ。
逃げられたせいでもう俺の苛立ちは頂点に達した。強い奴の後ろに隠れてコソコソして、自分の立場が安全な時だけ人を笑うクソ野郎。許さん。
すぐさま立ち上がり教室を出た。

「待て根暗ァ!!!」
「ちょっ、阿賀野っ、待て!!」

片桐も俺の後を追ってくる。え、コイツ足速くね?片桐はクソ雑魚だが、少しの足止めもくらいたくない。そう思ったが、その焦りはすぐ安心に変わる。
渡来先輩が走ってきているからだ。渡来先輩は片桐に追いつくと、制服の襟を掴んで思いっきり引っ張った。バランスを崩した片桐の足に向かって、渡来先輩は軽く蹴りを食らわす。綺麗に脛に当たった。めっっちゃ痛そうだな、あれ大丈夫か。片桐は激痛のあまりその場に蹲った。まあ気にしている場合じゃないな。こういう時だけは渡来先輩も役に立つんだよな~。

しかし、アイツを追って階段を昇ったはいいものの、急にアイツの姿が消えた。階段を駆け上がる音も、廊下を走る音も聞こえない。
マズイ、見失ったか。
いや、まだ分からない。だがとりあえず階段を上がって確認してみても、やはり居ない。そうこうしているうちに渡来先輩が追いついてきた。

「…天野」
「サーセン、見失いました」
「俺の時間を使わせておいてこれか」

テメェは俺の時間を奪ってるけどな!!

「あー、マジでサーセン!!つーかあの、ほら、リンさんを探しましょうよ、あんなの気にしてたら、時間が勿体無いっス!!」
「俺を無駄に動かしたことはどう始末つけんだ?あ?」

別に誰も手伝ってなんて言ってねぇだろうが!!
数々の悪態は心の中で呟くしかない。
渡来先輩が眉間に皺を寄せ、俺に近づいてくる。あああ多分ボコられるっ…。ここは三階、三年生だらけのここで俺を助けてくれる奴なんざいない。そもそもこの高校に俺の味方は居ない。

万事休す。俺終わった。

かなり苛立っている渡来の手が俺に迫る。あーこの後どっか連れ込まれてボッコボココースだな。俺今日家帰れっかな。あんな家帰ってもしょうがねぇけど。

「…あ?」
「ちょっとちょっと渡来、何があったのさ。天野怯えちゃってんじゃん」

突然渡来先輩の動きが止まる。渡来先輩の肩を掴んで止めたのは、金曜日の放課後、廃工場に居た渡来先輩の腰巾着だ。

「離せ。コイツムカつくんだよ」
「まーまー落ち着いて。番長から通達だ」
「……何だと?」

渡来先輩は、俺に対する苛立ちを一旦しまってくれた。そのまま持ち出さないでくれ、忘れてくれ!

腰巾着は渡来先輩に携帯を突き出した。メールの文面のようだ。俺も覗こうとしたら腰巾着が携帯を思い切り上に上げやがった。この高さでは腰巾着も見えないだろう。見えるのは、この三人の中で群を抜いて背の高い渡来先輩だけだ。

「……こういうわけ、オッケー?」
「…これは女とのメールじゃないのか」
「えっマジで!!??」
「冗談だ」

ぎょっとして携帯を見た腰巾着の顔は、瞬く間にへらりと気の抜けた笑顔に変わる。
ビビった。
渡来先輩にこんな軽口を交わす相手が居たのか。自分の気に入らない奴らは全員拳で黙らせてきた、こんな暴君に?

「…あー、なんなんすか、メールの内容って」
「お、君にも関係あるからね。ふふ、教えてあげよう。内容は至極簡単。番長からのお達しで、今後渡来は一年に手を出さないこと。だ、か、ら、天野くんは晴れて自由の身ってワケ!」

腰巾着は、オメデトー☆と、パチパチと、小馬鹿にしたような拍手をしている。今聞いた言葉が信じられない。何かの冗談じゃないだろうか。だって、それが本当なら、嬉しすぎる。

「…え、まじ、まじで?」
「大マジだよ、さあ教室へ帰った帰った~!」

さあさあ!と背を押され、促されるがままに階段に向かった。
え、え?
これもしかして
俺、自由になれた感じか?

…マジ!!??


思わぬ幸運にスキップしそうになるが、渡来先輩の手前それは抑える。ただどうしてもにやつく顔は抑えられず、俯きがちに階段を駆け下りた。

やった、やった、これで好きに動ける。
何て幸運だろう。

リンさんにもし会っても、もう何も心配は無い。自分の過ちを謝罪し、リンさんが何者かを教えてもらおう。偽名を教えたのにもきっと訳があるに違いない!

一見、探す人手が減ったように見えるが、あんなのは探すなんて言わない。ただ邪魔なだけだし、俺の精神的苦痛もヤバい。中学の時だってずっとあんな感じだった。渡来の思いつきに引っ張られては俺達周りの人間だけがせこせこ働き、渡来は見ているだけ。あー、せいせいした!

それにしても、だ。

腰巾着の言うことに渡来は何一つ反論しなかった。それは、腰巾着が上というわけではないだろう。きっと、メールの送り主に関係がある。

番長、氷川涼。
敵対しているにも関わらず、彼の言うことをほいほいと聞くのには何か理由があるのだろうか。それとも、あのメールにはもっと重要な何かが書かれていたのだろうか。
まあ、下っ端の俺が気にしても仕方ない。

とにかく今はリンさんに会いたい。
あと根暗野郎もぶっ飛ばす。
俺がやることはその二つだ。
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