皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

+ 天野視点『思いもしなかったこと』

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かったりぃ。


やっぱ学校なんてダリィ。

もう朝は眠くて眠くて死にそうだった。頭がぼーっとして、全然起き上がれねえ。いくら俺が低血圧気味だからって、あそこまで起き上がれないものだろうか。
それを考えると、遅刻しても何も言われない不良校で良かったのかもしれない。
リンさんを探したあの朝は別だ。そんな大事なこと、眠いなんてアホな理由でやらないなんて、馬鹿にも程があるからな。気合いで起きた。

今は朝の9時。
やっぱこんくらいの時間が落ち着くんだよな。程よく頭も起きてくる。
いつも通り自分のクラスに向かい、教室に入った。何故かクラスの奴らが俺を見てきた。

「…んだテメェら。見てんじゃねぇぞ」

ガンを飛ばして文句を言うと、全員が目を逸らした。最初からそうしてろ。
ざっと教室を見渡した時、ある人物を発見した。

根暗野郎だ!

「あーーっ!!!テメェ昨日逃げやがったよな!?」

ガセの礼と俺を馬鹿にして笑った礼、きっちりさせてもらおうじゃねえか。そもそもこいつに逃げられたせいで、俺は渡来に殴られそうになったんだ。リンさんが見つからないのも全部こいつのせいに思えてくる。ムカつく。

きっちり礼をさせてもらうために、俺は根暗野郎へ近づいた。
根暗野郎の周りにはよく分からんメガネ共が居る。どこにでもいそうなオタクだ。俺が近づいて来るのを見て、奴らは何かコソコソ話し出した。へえ、余裕あんじゃねえかよ。
ま、コイツらはヘタレだ。一声かけてやれば簡単に仲間を裏切るだろう。

「そこのメガネ共、退かねぇとぶっ殺すぞ」
「うわああああごめん紫川くん!!!」
「しっ、しっ、失礼致しますぞ」

ほらな、あっという間だ。昨日の片桐を見習いやがれ。アイツ一回負けたのに俺に突っかかってきたんだぞ。そういや今日は居ねぇな。まあ俺には関係ない。寧ろ居ないのは好都合だ。

「おはよう天野君。今日は渡来さんと一緒じゃないんだね」

は?コイツ呑気すぎね?
昨日なんで追いかけられたのか忘れたのかよ。ああ、アホすぎて追いかけられたことを覚えてないのか?

「あんなのと誰が好きで連むかよ。アイツ、番長に釘刺されてんの。一年生には手ぇ出すなって。俺もその恩恵受けてんだよ。ざまーみろって感じ」
「へえ、番長さん凄いね。良かったよ。天野君嫌々従ってる感じだったし」
「ふーん、そう思ってんだ。……じゃあ」

成程な。酷い先輩に扱き使われる同級生が可哀想だった、ということか。

いや、お前ガセ掴ましただろ。
お前が一番悪ぃだろ。

「何でガセ掴ました、あ゛?」

根暗野郎の肩に片手を置き、眉間にシワを寄せて睨みつけた。目を合わせてビビらせるのが一番だが、こいつの長い前髪のせいでそれは出来そうにない。
だが、それでも根暗野郎に効果はあったみたいだ。奴は情けなくプルプル震えながらクソどうでもいい言い訳を並べた。

「だからっ、アレはガセじゃないよ。リンさんを見かけた時は紅陵さんと話したことがなくて、次の日、紅陵さんに、話しかけられて…その…色々あって仲良くなったんだ。隠し事はしてないしこれで全部!」

嘘っぽいな~~~。
フワッとしすぎだろ。せめて具体例出せ。いくら嘘が必要だからって、こんなクソみたいな嘘を出されるとは思わなかった。
そもそも根暗野郎が言ってるって時点で信憑性ゼロだ。だが、俺はその100パーセント嘘のそれに付き合ってやることにした。どうせボロを出しまくるだろう。からかってやる。

「色々?」
「だから、その…色々されたから」
「色々って何だ」
「それは言えないかな…」
「おし、ガセだな。来い」

いや、撃沈速すぎるだろ。もうちょっと頑張れないのかよ。つまんね。こいつは嘘が下手だな。

根暗野郎は、来いという俺の言葉を無視した。聞いてねぇのか?まあ、いかにも怒ってますよって奴に自分から着いていく方が珍しい。ここは俺が連れて行くべきだろう。
根暗野郎の横髪を掴み、引っ張った。コイツぼーっとしすぎだ。これで少しは目が覚めるだろう。

「来いっつってんだろうが根暗ッ!!」

根暗野郎は痛いだの離してだの言っているが、知らん。聞くわけねぇだろ。
そうして俺は入口まで根暗野郎を引っ張ったが、そこで片桐に会ってしまった。片桐の手には鞄がある。コイツ今学校来たのか?昨日は根暗野郎と栗田と一緒に登校してなかったか?
まあ、俺には関係ない。舌打ちをし、片桐に話しかけた。

「邪魔だ、退け」
「……」

だが片桐は動かない。昨日はすぐに根暗野郎を助けたというのに。今の俺と根暗野郎を見れば黙っていないはずだ。片桐は興味無さげに俺たちを見ている。興味無いなら退け。
…そうだ、ここは一つ、煽ってやろう。

「ああそうだ、お前はお友達だよなァ。でもなぁ、この前俺にぶっ倒されたもんなぁ、どうする?ん?」
「…勝手にしろよ。関係ねぇし」

あれ、全然取り合わねぇ。根暗野郎が片桐とは関係ない?そんなことはないだろう。あんなに守るために必死になり、一緒に登校する奴が関係無いわけがない。だが片桐はその言い分を貫くらしく、黙ってそこに立っている。相手にするだけ時間の無駄だな。

「そうかよ、じゃあな片桐。おい根暗野郎、着いてこい」

片桐の隣を通り過ぎて教室を出た。髪を掴み続けるのは疲れてきたな。こいつには逃げる様子が無いし、別の箇所でいいだろう。腕を引っ張って連れて行った。急に根暗野郎が大人しくなった気がする。何だか不気味だ。さっきまで離して~みたいなこと言ってたってのに。一応確認するか。振り向いて根暗野郎に声をかけた。

「…おい根暗野…」

俺は言葉に詰まった。
何でかって?

根暗野郎が泣いてるからだ!!!

マジで何なんだ!?

「なっ、だ、何泣いてやがるっ!?」
「う、うぇっ、ひっ……、わぁ…」

高校生にもなって泣くやつがあるかよ。しかも男。情けねぇ奴。でも泣き方が問題だ。

今までに何度かいじめられっ子が泣いているのを見たことがあるが、デブだったりブスだったり、まあ、泣き声も聞くに堪えない。だがコイツは違う。めちゃめちゃ癪だが、声がいい。高くもなければ低くもないが、泣き声が、か…可愛い。クソ、何で俺こんなこと考えてんだ、意味分かんねぇ。

「は、ははっ、んなボコられるのが怖ぇのか。ハッ、な…情けねー奴っ。大体そんなんだからダチにも見捨てられんだろうが、あ?」

動揺のあまり声が震えてしまった。クソ、クソクソ、何で声が地味~に可愛いんだよ、意味分かんねぇ。いや、気のせいだ、根暗野郎の見た目にしてはいい声だなって思ったから、大袈裟に考えているだけだ。
根暗野郎は強い奴の後ろに隠れて俺を嘲笑う性格の悪い奴だ。泣いてるからって遠慮する必要は無い。俺が今言ったのも事実だ。

だが、根暗野郎はさらに泣き始めた。

待て待て待て、俺には人をいじめる趣味なんてねぇぞ。ムカついて殴ったりするけど、言葉や嫌がらせで突っついて泣かせるようなことはしない。それは俺が小学生でされたことだ。あーもうそれはどうでもいいんだよ!

今はこいつをどうするかだ!
泣くんじゃねぇよ!!!

何だか、小学生の時の自分に重なったせいで、放っておけなくなってしまった。境遇だってそっくりだ。

「泣き止め、俺何にもしてねぇだろうが!」
「ひっ、ぐ、ぅや…、へっ…」
「チッ!!くそっ、ああ…もう……」

だめだ、俺に泣き止ませることなんて出来ない。すっかり不良に染まってしまった俺の口からは、乱暴な言葉しか出てこない。

泣き止ませるなんてことが出来るのは姉ちゃんだけだ。俺の涙を拭ってくれた姉ちゃん。
そんなこと、俺には出来ない。

だけど、優しい言葉じゃなくったって、泣き止ませることは出来るはずだ。

俺は根暗野郎の腕を引いた。さっきよりも、優しく。行先は階段裏だ。あそこなら、泣いている姿をこれ以上大勢に見せなくて済む。晒す恥は少ない方がいいだろう。

俺は、いつの間にかガセのこともムカついたことも全部忘れ、ただ根暗野郎を泣き止ませるためだけに連れて行ったのだった。
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