皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

鈍感すぎる幼馴染み

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「鈴、居るか?」
「龍牙!」

そこには、二つ鞄を持って心配そうにこちらを見る龍牙が居た。扉の方へ歩いて行き、鞄を受け取りながら話しかける。
龍牙はどこか浮かない顔だ。何かあったのだろうか。

「…はァ…俺はいっつも遅れて到着するよな」
「そんなことないって!入学式の日助けてくれたでしょ?」
「……でも、裏番とか…」
「龍牙、その気持ちだけで充分幸せだから」
「…」
「龍牙が居るだけで、毎日が楽しいんだ。小学生の時からそれは変わらないし、今だって私のヒーローだよ?」
「………そうかよ」

龍牙は、照れたのかそっぽを向いてしまった。でもその表情は嬉しそうだ。

私を気遣ってくれている。もうそれだけで胸がいっぱいになるくらい嬉しいんだ。先程のような悲しい顔をしないで欲しい。それに、いつも助けてもらってはこちらも申し訳なくなってしまう。私が自分で危機を脱することが出来ればいいのだけど。
因みに、中学生の時に雅弘さんから教わった護身術は、ロクに身につけられなかった。つくづく私の貧弱さには苦しめられている…。

「お!栗田君の友達ご到着じゃん」
「あっ龍牙!!これめっちゃ楽しくてさ、キャラの組み合わせが~」

龍牙に気づいたクリミツは嬉しそうに話し出す。自分の好きなゲームだからか、好きな龍牙の前だからか、その表情はキラキラと輝いている。

そういえば、だ。
クリミツのスマホを持つ手はとても大きい。私や龍牙とは全く違う。
クリミツはゲーム好きだし、もともと不良になるようなタイプじゃない。寧ろ、逆だ。

幼い頃の彼は爆発したような天然パーマをそのまま伸ばしっぱなしにしていた。ごくたまに公園で遊ぶことがあったけど、いつもすみっこで砂の山を作っている子だった。ボサボサの頭で顔も見えず、内気で無口だったので友達が居なかった。
龍牙や私と出会って遊ぶようになってからは変わった。少しだけだが話すようになったし、外で遊ぶようになった。

中学生からだ、おかしくなったのは。
体を異様に鍛え始めた。身長が伸びなくなるんじゃないかと言われていたけど、彼は身長も筋肉も両方物にした。彼を慕う後輩は皆憧れていたな。まあその後輩達はこぞって私を虐め、殴り、蹴り…、ああ思い出したくない。
同級生のマイちゃんは、好きな子が居るから鍛えてるんじゃない?と言っていた。…もしかして、

龍牙?

いや、いやいや、何で。何で龍牙のことが好きだからってマッチョを目指すの。
だが、幼い頃から龍牙が口癖のように言っていたことを思い出した。

『俺、強い奴大好き!』
『強い奴ってカッコイイよなあ』
強い奴。
特撮ヒーロー番組、少年漫画、そういったものが龍牙は大好きだ。

…いや、いやいや、まさかね。

「…クリミツの手、大きいよね」
「あ?何だ今更…」
「何でそこまで大きくなったの?あ、何したのかじゃなくて、どうして大きくなりたかったのかっていう話なんだけど…」
「そんなの決まってるだろ?」
「えっ!?」

クリミツではなく、龍牙が私に答えた。

龍牙、まさか知ってるの!?

クリミツがぎょっとして、顔を赤くしている。やっぱり龍牙に好かれたいから鍛えたんだね。恋って凄い。
まさか、龍牙、クリミツの恋心に…?

「お前、特撮ヒーロー大好きだもんな!プテラノドンのイエローとか大好きだったじゃん、だからだろ?アレカッコイイよな!めっちゃ強くてさー、色んな相棒が居たよなっ。ステゴサウルスとか…それから~」
「…………」
「…はは」

気づいてませんでしたね。

クリミツを見ればげんなりしている。可哀想に。
龍牙はというと、目を輝かせて好きな物を語っている。クリミツに、好きだよななんて言っているが、特撮ヒーローが一番好きなのは龍牙だ。

特撮ヒーローは日曜日の番組だから、小学生の時、毎週月曜日は学校で散々語っていた。今回は誰々がかっこよかった、新しい武器はこんな変形をした、ヘンテコな敵のギャグが面白かった、色々なことをそれはもう嬉しそうに話していた。

まあそれを、子供っぽい、とバカにする子も居た。本人には言わずとも、そういう陰口があった。何だったかな、小学六年生の時、私とクリミツに誰かが言ってきたんだ。

『あんなガキっぽいのおかしいよな。幼稚園児みたいでダッセーし』

少し、胸がモヤっとした。何を好きになろうと別にいいじゃないか。

でも私が文句を言う前にクリミツが行動を起こした、起こしてしまった。

悪口を言った少年がその言葉を言い終わるや否や、クリミツは彼を殴った。今程筋肉は無かったけど、身長がとても高かったクリミツは一方的に彼を痛めつけた。その場に居合わせた私は必死に止めたけど、全く聞いてくれなかった。
クリミツはいつも大人しかったから、あの時は本当に怖かった。

結局その場は通りかかった先生が止めてくれた。ご両親まで呼ばれて話し合いになったけど、クリミツは本当のことを言わなかった。『ぶつかったのに謝らなかったから』の一点張りだ。当時は訳が分からなかったけど、今なら分かる。

龍牙に知られたくなかったんだ。
それも、自分がやらかしたことではなく、龍牙が悪口を言われていたということ。龍牙が悪口を言われていたこと、龍牙の趣味は一部の人には子供っぽいと思われていること、確かに龍牙が知ればショックだろう。好きなものを好きと言えなくなってしまうかもしれない。それは嫌だ。それに、好きなものを語る時の龍牙の眩しい笑顔は、いつまでも見ていたいくらい可愛らしいから。それが曇ってしまうのも、嫌だ。

「お前めっちゃ強くなったよな。筋肉だってほら、こんなの…」
「うっおっ、お、おう、ああ」

突然龍牙がクリミツの腕を触った。確かめるように何度もきゅうきゅうと握っている。クリミツの腕は太く、龍牙の手では掴みきれていない。楽しそうに腕を触る姿は、まるで初めて見た玩具を触る子供のようだ、可愛い。
クリミツは龍牙の行動に顔を真っ赤にしている。ああ、好きな子に触られたらそうなるよね。クリミツの純情さに笑いそうになるが、必死で堪える。

「…なあ鈴、クリミツどうしたんだ?何か変じゃね?」
「もっと触って欲しいって」
「はァっ!?んっ、んなこと言ってねーし!!」

「うわあ青春」
「成程ね……」

私たちのやりとりを黙って見ていた先輩方だけど、今の会話には流石に反応していた。
ふと、以前からずっと燻っていた疑問を思い出した。それを聞くべく、私は二人から離れて今呟いていた二年生の側へ行った。

「あの…」
「ん?」
「……男同士とか、気にしない人多いですね。中央柳高校って」

そう、そうなんだ。余りにも同性愛者が多い。疎まれるものかと思っていたが、全くそんなことがない。寧ろ受け入れられ、皆で仲良くやっている。

「そりゃそうっしょ。ぴーぴー言う奴は時代遅れ。ほら、パートナーなんちゃら?柳市はそれもあるし。あとここ男子校だからね、皆飢えてる」
「先代の理事長は平等だけは譲れないって話だったからね。理事長変わってこんな不良校になっちゃったけど、そこだけは変わってない。性同一性障害?だっけ。今年も一人入ってきたらしいし。誰かは知らないけど」
「へえ…ただの不良校じゃないんですね、ここ」

成程!謎が解けた。先代の理事長さんは凄いなあ。

「ねえねえ」
「はい?」
「栗田君、あれ助け求めてない?めっちゃ君のこと見てるけど」

そう言われ振り向くと、顔を真っ赤にして必死にこちらを見つめるクリミツと目が合った。龍牙はクリミツの膝の上にまで乗り出し、お腹をつんつんと触っている。かなり距離が近いな。

クリミツは最早ゲームどころではない。隣の二年生がクリミツのスマホを弄っている。だがその目は龍牙とクリミツをチラチラと見ており、口元は笑みを堪えるかのようにプルプルと震えている。楽しんでいないで助けてあげて欲しい。いや、クリミツは喜んでいるのか?
しかし、薄ら汗まで滲み出したクリミツの顔を見ていたら、段々可哀想になってきた。助けを求められていることだし、龍牙を止めなくては。

「龍牙」
「ん?なあなあ、クリミツの腹筋バキバキなんだぜ?ほら指で押すと筋分かんの、すごくね!?」

龍牙は小さな子供のようにクリミツをペチペチと触っている。人差し指で、クリミツのあるであろうシックスパックの窪みをなぞっていく。

「クリミツがくすぐったいって。はい、ムキムキクマさんとのふれあいは終了ですよ」

龍牙にクリミツの膝の上から降りるように言う。すると、龍牙は自分が乗っている場所を見て驚いた。今の今まで気づいていなかったのか。

「あ、俺膝乗ってたのか!ごめんクリミツ、重かったな」
「い、やっ、全然へいきっ」
「クリミツ~?」
「あ、鈴ワリィ…、はは」

今助けようとしているのに、どうしてそういうことを言うんだ。平気なら乗っていい、ってなっちゃうでしょうが。
声をかけると、気まずそうにクリミツが笑った。まあ、気持ちは分かる。好きな人には、重くないよ、軽いよ、って言いたいもんね。

龍牙とクリミツのイチャイチャを止めた後、二年生に誘われてカードゲームをした。


景品は焼肉のクーポン券。肉好きの龍牙が張り切っていたが、きっと誰よりもクリミツが張り切っていただろう。景品を知った時の目は、完全に獲物を狙う目だった。そんなに龍牙に献上したかったのか。結局、三回勝負で三回とも一位を取った氷川さんがかっさらっていった。強い。ナルシストに実力がついてくるとなると、最早清々しい。

カードゲームが終わった後も、二年生と談笑したり、どこから持ってきたのかボードゲームをやったりと、二年生と沢山遊んだ。
そうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
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