皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

そういう話題は止して欲しい

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登校した後、クラスメイトの何か言いたげな視線には気付かない振りをして、昨日と同じく自習のノートを広げる。今日は担任の如月先生が居ない。どうしたんだろうか。気になるけれど、私は如月先生についてあまり知らないので、調べようがない。

クラスメイトが見ているものは、何となく予想がつく。
私の頬には、まだ自分で見ていないから程度は分からないけど、天野君のビンタに拠る傷がある。きっとそれだ。

「少し濡れた鈴ちゃんエッロ…」
「分かる。アレで白色に濡れたら…なァ!」
「ザーメン鈴ちゃん」
「ばーか聞こえるって」
「確かに」
「あ~~天野マジでウゼェ」

違った、傷のことじゃなかった。

あー知らない。知りません。聞こえてないです。
聞こえなかったことにしたいな。


…はっ、あの三人の会話が私に聞こえたということは、天野君にも聞こえたんじゃないか?

そう思って天野君を見たが、天野君はイヤホンをしていた。私のことがバレないので幸いといえばそうかもしれないが、今ばかりは彼らにあのビンタを喰らわして欲しいと思ってしまう。

次からはタオルを持ってこよう。雨で濡れてしまった裾をそれで拭こう。そうしたら解決するはずだ。

「……いいな~天野」
「いや、可哀想だろ。紫川の顔知らねぇんだから」
「アレで知ってたら殺すわ」
「お前すぐ殺すって言うよな。小物感ハンパねぇんだけど」
「天野が居なかったらな~、俺がこう…可愛がるんだけど。紫川のフェラ顔は絶対にエロい」
「うっわキッショ。俺は普通に付き合いたいかな」

…これは言い過ぎじゃないか。せめて本人に聞こえないところでやって欲しい。

これは注意するしかない。

そう思って立ち上がろうとしたが、彼らの会話に変化が見られた。

「おい」
「あ?片桐か」

え、龍牙?
龍牙が彼らの会話に割り込んだのだろうか。

「お前らの会話、全部鈴に聞こえてんぞ」
「…………まじ?」
「え、鈴ちゃん聞こえてた感じ?」
「やっべ」
「ごめんな紫川ー」

私に聞かせる声量で急に呼びかけられた。その呼びかけに謝罪の意は込められていない。不良さんだしなあ…、形だけでも謝っただけいい方だ。

「い、いいよー、気をつけてね……」

笑い声を含めて、比較的気にしていないような軽い口調で言った。口端は引きつっているし、愛想笑いどころか苦笑いしか出来ない。まあ、教室の一番前だし顔は誰にも見えていないから大丈夫だ。

いいよ、とは言ったがいいわけがない。
細心の注意を払って欲しい。

でもそんなことを私が言ってはならない。

不良さん達はあくまで語り草として楽しんでいるだけだ。気にしすぎてはいけない。話の話題になる人間というのは結局、そういうものだ。話題にする人間は、話題にした相手のことを深く考えていない。だから私も考えてはいけない。そうして中学は乗り切ってきた。今更だろう。
…中学ではここまであからさまな性の対象にされることは無かったが。


不良さんが私のことを話していたのはどうでもいい。
それより、龍牙だ。
龍牙が不良さんを咎めてくれた。
昨日とは違う。

嬉しくて振り向くと、龍牙と目が合った。龍牙も私のことを見ていたんだ。
龍牙はすぐに携帯を弄り出した。すると、私のポケットにある携帯が震える。龍牙は携帯を指さしている。確認しろ、ということだろうか。

携帯の通知を確認すると、そこにはメッセージアプリで龍牙からの言葉があった。それと肉のスタンプも…何だこれ、肉のキャラ?

『昼絶対忘れんなよ!』

昨日とまるで態度が違う。昨日一昨日は私が送ったメッセージを全て無視したというのに。コロコロ感情が変わるのは思春期だから?それとも、あの口喧嘩にはやはり理由があるのだろうか。
ともかく返事をしよう。

『体育館前だよね』
『絶対行くから待っててよ!』

「昼どこ行くんだ?」
「うわっ!?」

急に隣から声が聞こえた。そちらへ顔を向けてみれば、天野君が私の携帯を覗いていた。いつの間にかイヤホンも外している。

「今日のお昼は龍牙の所に行くんだ。…仲直り出来るかも」
「裏番は?」
「今日は止めかな。ごめんね、昨日行くって言ったのに。また明日行こうよ」

そう言うと、天野君の顔が曇った。
私は何かおかしなことを言っただろうか。

「俺、片桐と元に戻れたら終わりっつったよな?」
「うん」
「今日戻れたら、もう終わりじゃねぇのかよ」
「…何言ってるの?」
「あ?」
「それはパシリの話でしょ?裏番さんと天野君と私の三人でお昼を食べるかどうかはまた別の話だよ」

今度は不思議な物を見るような目を私に向けた。さっきから何なんだ。私の言葉はそんなにおかしいだろうか。

「俺にどういう扱いされてんのか分かってんのか?」
「確かに荒いけど、新鮮で楽しいよ?それに天野君、思ってたより悪い人じゃないし!」
「……お前の中の俺のイメージどうなってたんだ?」
「…正直言うと、ストレス解消のサンドバッグとか、お財布代わりとか、昨日だって傘取られると思ってた。でもそんなことしなかったし、そもそもそんな人だったら泣いてる人…しかも男なんか慰めないよね。それに、私…天野君のこと」

友達だと思ってるよ。

そう続けたかったが、私の言葉はチャイムに遮られた。昼休みを知らせるチャイムだ。振り向くともう龍牙は居なかった、速いなあ。

「あっ、もう行かなきゃ、じゃあね!」
「おい!!」

引き止める天野君の声が聞こえたが構っていられない。今日の昼休みをどれだけ待ち遠しく思っていたことか。
予め出しておいた弁当箱を引っ掴み駆け出す。紅陵さんには休み時間に連絡をしておいたのでこのまま体育館前へ直行だ。

教室の扉を開けると、昨日出会った横山君に遭遇した。キラキラした目が私の顔をきょとんと見つめている。今日も可愛いなあ。

手には水玉模様の巾着袋を持っている。
恐らくお弁当が入っているのだろう。

「あ「喋るな!!!」

天野君は教室に居るよ、と言いたかったが、怒鳴り声にかき消された。横山君の耳が赤い。そんなに恥ずかしいのか。可愛らしいけれど、イジるなんて以ての外だな。

横山君は私の傍を通り過ぎて教室へ入っていった。直後、天野君の悲鳴が聞こえた気がしたが、まあ気のせいだろう。横山君を見て悲鳴をあげるとは考え難い。

私は足早に体育館へ向かった。
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