皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

お誘い

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私は保健室の椅子に座らされていた。
いや、正確には椅子ではない。
椅子に座った紅陵さんの、膝の上だ。

なんて辱めだ!
幼い子供のような扱いをするなんて、馬鹿にするにも程がある。

抜け出そうとすれば紅陵さんの怪力に押さえられてしまった。これ、多分全力で暴れても出られないな。

「どうしたのクロちゃん。可愛いお顔が台無しだよ?」
「男のプライドを傷つけましたね…??」
「俺にとってはネコちゃんだよ♡しかもとびきり可愛い雌猫ちゃん」
「メスでも猫でもありません!」

私も健全な男子高校生だ。そういう・・・・ことについては人並みの知識を持っている。メスはともかく、問題はネコだ。完全に私をそういう目で見ている。タチ、ネコ。男性同士の恋愛でよく使われる単語だ。
顔を赤くしながらも否定すると、紅陵さんはこれみよがしにニヤニヤ笑いだした。何がおかしいんだろうか。

「わっ、クロちゃんのへんたーい、変なコト考えただろ。俺はただ単に例えただけなのにな?」
「えっ、え!?違いますっ、というか紅陵さんそういう意味で言ったんでしょう!?」
「俺は一言もそんなこと言ってないよ~ん」
「なっ、な………っ…、は、嵌められた…!」
「ハメられた?何?セックス?」
「紅陵さん!!!」
「クロちゃんいいね~その反応」

完ッ全に手玉に取られている。
紅陵さんはこんなに下品なことを言う人だっただろうか。顔面偏差値トップの顔からそんな単語を簡単に出さないで欲しい。
紅陵さんは、憤る私をしばらく笑顔で見ていたが、落ち着いたように息を吐き、話し始めた。その顔には安堵の表情が浮かんでいる。

「…ふー、リラックス出来たみたいでよかった。さっきのクロちゃんは見てられなかったからな。まあ俺のせいなんだけど。バレるかもしれなくて、怖かっただろ。よく頑張ったな」
「…いや、天野君より紅陵さんが怖いです」
「それでも、こうやって喋ってくれるんだろ?距離置かれないだけ、俺は満足してっから。そんで、俺の質問は聞いてくれる気になったかな?」

リラックスさせる手段が猥談だったとは。それにしてはからかうような言葉が多かったような…。
いや、落ち着かせてもらい、肩の力が抜けたのは事実だ。感謝しよう、深く考えてはいけない。

紅陵さんの質問か。絶対、この頬についてだ。
私が口を割った時が天野君の最後な気がしてしまう。

「…その頬、天野か」
「えっ、何で分かったんですか!?」

な、何故バレた!?
そんなに私は分かりやすかっただろうか。

私が動揺してそう尋ねると、紅陵さんは、堪えきれないというかのように口角を釣り上げた。

「嘘だよ~ん!カマかけただけ。クロちゃんはおバカだねえ…」
「うぅ…」

ぐうの音も出ない。
紅陵さんの話術にここまで嵌ってしまうのは、紅陵さんが手練だからだ。決して私が分かりやすいとか馬鹿だとかではない、絶対!

「ねえねえクロちゃん」
「なんですか?」
「天野のこと、どう思ってる?」
「仲良くなれそう、って思ってます。天野君は悪い人じゃないですよ」
「…そう」

とんでもなくあっさりとしていて短い回答だが、紅陵さんはそれで満足したらしい。
…いや、何か嫌な予感がする。

「…こっ、紅陵さん、病院送りにしちゃダメですよ?」
「……ふっ、やんねーよ、大丈夫。それに俺、もうそういうの止めるから」
「………え?」

紅陵さんは今、そういうの止める、と言った。そういうの、とは、病院送りにするような喧嘩のことだろうか。何故だろう。

私の腰を抱きしめていた腕が、私を持ち上げた。私の向きを変え、紅陵さんと向き合うように座らせた。
さっきまでは、振り向くことで顔を合わせていた。だから、自分のタイミングで紅陵さんの顔を見られた。けど、姿勢が変わったことでそれは出来なくなった。

紅陵さんの整った顔が、物凄く近い。腰と背中に手を回して抱きしめられ、体まで密着してしまった。心臓の音が、うるさい。紅陵さんにまで聞こえてしまうんじゃないかってくらいだ。

「だって、好きな子が嫌がることは、誰だって止めるだろ?」
「……っ」
「俺、その子に怖がられたくないんだよ。トラブルに巻き込まれてばっかだし、今日は怪我までしてる。俺が守ってあげたい。それと、いっぱいイチャイチャしたい。…今日だって、デートしたい。カフェ以外にも、俺の行きつけはいっぱいあんの、そこに連れていきたい」
「…紅陵、さんっ………」
「俺に協力してくれよ、クロちゃん。俺、好きな子と放課後デートしたい。なあなあ、どこがいいと思う?」

好きな子、好きな子、紅陵さんはそう比喩するが、語り方から私以外に居ないと分かる。怪我までしてる、そう言った時、私の頬を優しく撫でてくれた。
どうしよう、すごく、ドキドキする。
紅陵さんは私の返事を待っている。何か答えなくちゃ。

「こ、紅陵さん、の、好きな場所、…が、知りたいですっ…」
「…そっか」

紅陵さんはにこりと微笑んだ。今日初めて見る笑顔だ。落ち着いていて、怖さや威圧感が無い。嘲るようなものでもない。
異国情緒溢れるその瞳が、ゆったりと細められ、私を見つめる。この瞳が、私は大好きだ。でも、見るのは一瞬。だって、じっと見ているのは気恥ずかしいし、紅陵さんに失礼だ。この物珍しい瞳の色は、きっと、嫌というほど色々な人に注目されてきただろう。だから私も、じっと見つめるなんて不躾な真似をしてはいけない。
すると、紅陵さんは私の顎を片手で掴んだ。少し上を向くように力を込められ、素直に上を向くと、甘く蕩けるような瞳と目が合った。この目、見たことある。学校の帰りにキスされたときの目だ。

「…………紅陵さん?」
「…味見だけでもさせてよ、ダメ?」

味見、とは、なんだろう。いや、今されている行動からして何となく察せる。

このままだと、またキスされる。

そう察して暴れるが、紅陵さんは片手だけで私の腰を押さえて離してくれない。絶妙な力加減のおかげで、痛くないが、抜け出すことも出来ない。顔を離そうとしても、顎を掴まれていて動くことが出来ない。

「ダメっ、ダメです」
「いただきまーす」

だめだ、全く抜け出せない。
私、このままだと、頂かれてしまう。
ダメっ、ダメダメダメ、まだ付き合ってもいないのに、そういうことはダメ。確かに、嫌じゃないとは思った。この人ならいいかな、なんて。でも、

「やだっ、あ、りゅうがっ…」

龍牙がこんなこと知ったら、何て言うか。

龍牙は紅陵さんが嫌いだ。だから、これはダメ。

紅陵さんが目を見開いた。驚いている。どうしたのだろう。顔をこれ以上近づけていない。あれ、キスされそうだと、思ったんだけど…。

その時だ。

「…お ま え ら ァ………」

地響きのように低い、恐ろしく怒りの籠った声が聞こえた。
紅陵さんがギクリ、と固まった。恐ろしい声は、紅陵さんの後ろの方…窓から聞こえる。誰だろう。
紅陵さんの巨体から顔を覗かせてみると、天野君が開けた窓に、先程のジャージの先生が居た。保健室に誰か居てくれ、と言った先生だ。顔は怒りに満ちている。口の端がひくひくとひきつっていて、目は私ではなく紅陵さんを睨んでいる。

これ、状況的には、校内でイチャイチャする高校生カップルを先生が見つけたってことだよね?
まずくない?

「やっべ、タケちゃんだっ!!逃げるぞクロちゃん!!」
「えっ、え!?」
「紅陵!!待たんかーーーッ!!!!」

紅陵さんは素早く私のお弁当とたまごサンドを持つと、私をお姫様抱っこして走り出した。

突然の展開に頭が真っ白になりそうだ。
紅陵さんに抱き上げられた状態で先生を見ると、先生は窓から入ってきてそのまま私たちを追いかけてきた。先生なのに、不良さん同然のその行動はいいのだろうか。
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