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黒の帳 『一つ目の帳』
終わりのお時間
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話に区切りがついた私たちは、バーに戻った。
紅陵さんは、とても嬉しそうだ。まるで憑き物が落ちたような、そんな爽やかさ。それはそうだろう。自分のことを知ってもらえたんだから。しかも、薄暗い事情。それを私に話せた上、私からは嫌悪の言葉も大袈裟な同情の言葉も出てこなかったからだ。
私は、どんな気持ちで、彼を見ればいいんだろう。
「あっら~帰ってきたの?」
「そりゃ帰ってくるだろ」
「そうですよ、オレンジジュース全部飲んでないです」
「俺たちもう帰ったかな~って言ってたんだよ」
「君たち高校生だし、アッチの方もお熱いんじゃないの~?アタシにそういうの教えてちょうだい♡」
「俺にも教えてくれよ」
よし、普通の反応が出来ている。紅陵さんの話を聞いたことで、まだ心臓がどくどくいっているんだ。それ態度に出してはならない。
そういえば、と思い出したように前髪のピンを外した。ピンを長髪の人に返し、お礼を言った。
「…もっ、もう!まだそういうこと…じゃない!そういうことしてないし、しませんから!!」
「え~クロちゃん俺とシてくれないの~?」
「…お付き合いしてないのでダメです」
「あら、貞操観念しっかりしてるわね~、処女?」
「アオイさん!」
「アオイお姉ちゃんとお呼び!!」
私は単純だ。
隠したいことを隠せないし、からかわれたら真っ赤になってしまう。
でも、本当に隠したいことは隠せるみたいだ。
紅陵さんは何も気づいていない。
本当によかった。
…誰にとって?
そこまで考えた時、私は携帯が震えていることに気づいた。電話がかかってきているんだ。携帯を取り出し、画面を確認する。
電話をかけてきたのは雅弘さんだ。
雅弘さん、と登録しているから、横から覗いてきた紅陵さんには保護者の人としか分からない。根谷雅弘というフルネームで登録せず、本当に良かった。
「すみません、ちょっと電話してきます」
「いってらっしゃ~い」
「そこ誰もいないし、そこで電話していいわよ。アナタみたいな可愛い子が一人で外に行ったら、食べられちゃうわ♡」
アオイさんの最後の言葉は聞こえなかった振りをして、隅の方のテーブル席に座った。応答のパネルを押し、耳に当てた。
「もしもし、鈴です。雅弘さん、どうされました?」
『……今、何処に居る』
バーに居る、なんて言えるわけが無い。私をまだまだ子供だと思っている、そんな雅弘さんに言ったら、どんな反応をするかなんて分かりきっている。
嘘をついてもバレないだろう…多分。
「…友達と遊びに行ってます」
『何処だと聞いている。今何時だと思ってるんだ』
…話していて気づいたが、雅弘さんが怒っている。そんなに遅くまでここに居ただろうか。それに、一応一人暮らしをしている高校生だし、小中学の時の門限である七時は守らなくていいかな~なんて…思っていたのだが。
「…すみません、分からないです」
『七時三分だ。門限は覚えているだろう。何故家に居ない』
守らなくていいわけではなかった。しかも何故家に居ないのがバレているんだ。
とにかく、謝らなくては。
だって、家に居ないことを知った雅弘さんが、直接電話をかけてきたんだ。いつもなら、こういった電話は熊谷さんなのに。雅弘さんがかけてきたということは、それだけ私を気にかけているということだ。
「すみません、一人暮らしで舞い上がってしまって…」
『…しょうの無い子だ。今迎えを寄越す』
私の体に、緊張が走った。
まずい、もしかしたら黒塗りの車とかお屋敷の人たちで迎えに来るかもしれない。それだけは止めて欲しい。避けなければならない。
紅陵さんに、バレてしまう。
「すっ、すみません雅弘さん、あのっ!」
『そう慌てるな鈴、私は怒ってないんだ。ただ鈴が心配でね』
「お迎えの人、普通の人にしてくださいっ、友達に絶対バレたくないんです、すみませんっ、本当にすみません……」
私は雅弘さんにそう懇願した。勿論声量は抑えている。お迎えの人を普通の人にして、なんて言葉、普通の人からしたら気になるだろうから。
『当然だ。安心しなさい、既に宇都宮を向かわせた。車も普通のミニバンだ』
「ありがとうございます、お手数お掛けしました…」
よかった、宇都宮さんは普通の人…見かけが普通の人だ。きっちりスーツを着こなし、黒髪を七三分けにしていて、眼鏡をかけている人だ。爽やかな営業スマイルが特徴の好青年だから、この人と一緒にいると周囲からは、親子揃って美人ね~、とか、イクメンかしら、とか言われる。
もう一人、熊谷さんもよく迎えに来てくれる人だけど、見た目が怖い。彼は優しいけどその見かけでそれが全部吹き飛んでしまう。両手の小指が無いことは、手袋で工夫すれば隠せるけれど、顔が厳ついのはどうしようもない。
その厳つさは、小中学の何人もの友達に
『大丈夫?鈴ちゃん虐待されてない?』
と聞かれた程だ。
…待て。
今、雅弘さんは、向かわせたと言った。
私の場所を知っているのか?
「雅弘さん」
『ん?』
「私、今いる場所言いました?」
『……………』
「……雅弘さん」
『……………』
「雅弘さん、何か言ってください」
『……………』
「………ん?」
不審に思った私は携帯の画面を確認した。いつの間にか通話が切れていたみたいだ。パネルを押した覚えは無い。雅弘さんから切ったのか。
雅弘さん、何か隠してるな。
でも、私は門限を破ってしまったから、強くは聞けない。どうにかして聞き出せないかな。
とにかく、帰ってからのことは車の中で考えよう。
私は携帯をポケットに入れ、紅陵さんのところへ戻った。
「何て言ってた?」
「門限を過ぎてしまっていて…、これから迎えに来るそうです」
「………マジ?」
「はい、本当です」
紅陵さんは私の話を聞いて頭を抱えてしまった。そんなマジメな親か、ヤバい、とか思ってそうだな。
「うっそ、今七時じゃない。帰るには早すぎるわよ」
「門限厳しいなあ。もうお別れってこと?やだな…」
「………私だって、寂しいです」
ぎし、と心が軋んだ。先程の話を思い出したからだ。私は、紅陵さんと一緒に居てはいけない。
寂しいなんて言う資格、私には無い。
「俺も。…お別れのチューしよ」
紅陵さんが私を持ち上げた。そのまま膝の上に乗せられ、保健室でやったときと同じように顔を近づけられる。
ま、待って、待って!ダメだ、それはダメーっ!
「紅陵さん、待って、だっ、ダメですっ!!」
「あら~」
「おアツいね」
周りが騒ぎ立てていたその時、バーの扉が開く。
爽やかな、聞き覚えのある声がした。
「失礼します。鈴様、お迎えに上がりました宇都宮…で………す…………」
紅陵さんの膝に向かい合うように乗せられて顔を近づけられ、抵抗している私。
そんな私を、雅弘さんが迎えに来させた宇都宮さんが見ていた。
場所のことなんて、一言も言っていない。店の名前さえ私は言っていない。何故この人はここに来れたのだろう。
一瞬きょとんとした宇都宮さんだったが、私の状態を把握した途端、背筋が凍るような恐ろしい営業スマイルを浮かべた。
「…鈴様、こちらへどうぞ。店を出て左手の方に、迎えの車を用意させていただきました」
「宇都宮さんも、来ますよね?」
「ええ勿論です。ただし、そこのゲ……、いや、不届き者と、少々話をしてからですが」
ゲ……に続く言葉は何だろうか。
いや、気にしていても仕方ない。宇都宮さんの営業スマイルが恐ろしすぎるからだ。きっと、私には考えつかない罵倒語だろう。
言葉を切ると、宇都宮さんは紅陵さんを見た。紅陵さんがギクリと固まり、私からゆっくりと手を離す。紅陵さんは離した両手を顔の横に上げ、口端を引き攣らせながら笑った。
「お、俺、何っ…にもしてないでーす」
「ふふ、そんな情けない顔…おっと失礼、そんな怯えた顔をなさらずとも、私はただ、貴方と『お話』がしたいのですよ」
ダメだ、こうなった宇都宮さんはテコでも動かないんだ。どうしよう、このままだと、宇都宮さんの悪魔も裸足で逃げ出す恐ろしい説教が始まる。
一度だけ受けたことがあるが、あれは絶対泣かされる。小学三年生の私は、その説教を受け、二度と連絡無しでお泊まり会に参加しないと誓わされた。迷惑と心配をかけたのは分かっていたが、あそこまで説教を受けることになるとは思わなかったな…。
私は、紅陵さんを見た。
大丈夫ですか?宇都宮さんは本当に怖いですよ?
でも紅陵さんは、心配する私を安心させるように笑った。
「大丈夫、まあ…俺の自業自得だしな。クロちゃんは車に行きなよ。今日はありがと、楽しかったよ。また明日学校でな!」
「…はい、また明日、ですね!」
私はそう言葉を交わしてバーを出た。
宇都宮さんの横を通り過ぎる時、鈴様も覚悟しておいて下さいね、と言われた。恐ろしい人だ…!!
…また明日、か。
会わない方がいい。
彼が憎む養子が私だということ。
それは、いずれバレることだ。
でも、一緒に居たい。
あの目に、見つめられたい。
龍牙やクリミツとはまた違う、心の充足感を覚えるからだ。
…こ、恋、…恋してる、のかな。
今までのものとは違う。同性と、いわゆる…いい雰囲気になったのは、これが初めてだ。好意を向けられ、行動を起こされることはあっても、いつも誰かが邪魔をしていた。
あの高校で紅陵さんを邪魔出来るような人は居ないし、もし居たとしても紅陵さんは蹴散らしてしまうだろう。だから紅陵さんは、私に恋愛的な意味で接近してくれた唯一の同性と言える。
可愛い女の子に、頼りにされた経験ならある。でも、あんな慈しむように、包むように、甘ったるく見つめられたことは一度としてない。だってそれは、私がやる側だったからだ。
…自己中心的な自分が、嫌だ。
暖かいあの空気が好きで、無くしたくないからと、真実を話せない自分が、嫌だ。
暫くして宇都宮さんも車に乗り込んできた。
スッキリ!と言わんばかりの爽やかな笑顔だ。
でも、私は憂鬱だ。
今日は、とんでもない事実を知ってしまった。
私のせいで、紅陵さんが…。
私はそのことで頭がいっぱいなまま、家に帰ることになった。
━━━━━━━━━━━━━━━
補足
熊谷さんは『巨人さん』でチラッと出てきました。
紅陵さんは、とても嬉しそうだ。まるで憑き物が落ちたような、そんな爽やかさ。それはそうだろう。自分のことを知ってもらえたんだから。しかも、薄暗い事情。それを私に話せた上、私からは嫌悪の言葉も大袈裟な同情の言葉も出てこなかったからだ。
私は、どんな気持ちで、彼を見ればいいんだろう。
「あっら~帰ってきたの?」
「そりゃ帰ってくるだろ」
「そうですよ、オレンジジュース全部飲んでないです」
「俺たちもう帰ったかな~って言ってたんだよ」
「君たち高校生だし、アッチの方もお熱いんじゃないの~?アタシにそういうの教えてちょうだい♡」
「俺にも教えてくれよ」
よし、普通の反応が出来ている。紅陵さんの話を聞いたことで、まだ心臓がどくどくいっているんだ。それ態度に出してはならない。
そういえば、と思い出したように前髪のピンを外した。ピンを長髪の人に返し、お礼を言った。
「…もっ、もう!まだそういうこと…じゃない!そういうことしてないし、しませんから!!」
「え~クロちゃん俺とシてくれないの~?」
「…お付き合いしてないのでダメです」
「あら、貞操観念しっかりしてるわね~、処女?」
「アオイさん!」
「アオイお姉ちゃんとお呼び!!」
私は単純だ。
隠したいことを隠せないし、からかわれたら真っ赤になってしまう。
でも、本当に隠したいことは隠せるみたいだ。
紅陵さんは何も気づいていない。
本当によかった。
…誰にとって?
そこまで考えた時、私は携帯が震えていることに気づいた。電話がかかってきているんだ。携帯を取り出し、画面を確認する。
電話をかけてきたのは雅弘さんだ。
雅弘さん、と登録しているから、横から覗いてきた紅陵さんには保護者の人としか分からない。根谷雅弘というフルネームで登録せず、本当に良かった。
「すみません、ちょっと電話してきます」
「いってらっしゃ~い」
「そこ誰もいないし、そこで電話していいわよ。アナタみたいな可愛い子が一人で外に行ったら、食べられちゃうわ♡」
アオイさんの最後の言葉は聞こえなかった振りをして、隅の方のテーブル席に座った。応答のパネルを押し、耳に当てた。
「もしもし、鈴です。雅弘さん、どうされました?」
『……今、何処に居る』
バーに居る、なんて言えるわけが無い。私をまだまだ子供だと思っている、そんな雅弘さんに言ったら、どんな反応をするかなんて分かりきっている。
嘘をついてもバレないだろう…多分。
「…友達と遊びに行ってます」
『何処だと聞いている。今何時だと思ってるんだ』
…話していて気づいたが、雅弘さんが怒っている。そんなに遅くまでここに居ただろうか。それに、一応一人暮らしをしている高校生だし、小中学の時の門限である七時は守らなくていいかな~なんて…思っていたのだが。
「…すみません、分からないです」
『七時三分だ。門限は覚えているだろう。何故家に居ない』
守らなくていいわけではなかった。しかも何故家に居ないのがバレているんだ。
とにかく、謝らなくては。
だって、家に居ないことを知った雅弘さんが、直接電話をかけてきたんだ。いつもなら、こういった電話は熊谷さんなのに。雅弘さんがかけてきたということは、それだけ私を気にかけているということだ。
「すみません、一人暮らしで舞い上がってしまって…」
『…しょうの無い子だ。今迎えを寄越す』
私の体に、緊張が走った。
まずい、もしかしたら黒塗りの車とかお屋敷の人たちで迎えに来るかもしれない。それだけは止めて欲しい。避けなければならない。
紅陵さんに、バレてしまう。
「すっ、すみません雅弘さん、あのっ!」
『そう慌てるな鈴、私は怒ってないんだ。ただ鈴が心配でね』
「お迎えの人、普通の人にしてくださいっ、友達に絶対バレたくないんです、すみませんっ、本当にすみません……」
私は雅弘さんにそう懇願した。勿論声量は抑えている。お迎えの人を普通の人にして、なんて言葉、普通の人からしたら気になるだろうから。
『当然だ。安心しなさい、既に宇都宮を向かわせた。車も普通のミニバンだ』
「ありがとうございます、お手数お掛けしました…」
よかった、宇都宮さんは普通の人…見かけが普通の人だ。きっちりスーツを着こなし、黒髪を七三分けにしていて、眼鏡をかけている人だ。爽やかな営業スマイルが特徴の好青年だから、この人と一緒にいると周囲からは、親子揃って美人ね~、とか、イクメンかしら、とか言われる。
もう一人、熊谷さんもよく迎えに来てくれる人だけど、見た目が怖い。彼は優しいけどその見かけでそれが全部吹き飛んでしまう。両手の小指が無いことは、手袋で工夫すれば隠せるけれど、顔が厳ついのはどうしようもない。
その厳つさは、小中学の何人もの友達に
『大丈夫?鈴ちゃん虐待されてない?』
と聞かれた程だ。
…待て。
今、雅弘さんは、向かわせたと言った。
私の場所を知っているのか?
「雅弘さん」
『ん?』
「私、今いる場所言いました?」
『……………』
「……雅弘さん」
『……………』
「雅弘さん、何か言ってください」
『……………』
「………ん?」
不審に思った私は携帯の画面を確認した。いつの間にか通話が切れていたみたいだ。パネルを押した覚えは無い。雅弘さんから切ったのか。
雅弘さん、何か隠してるな。
でも、私は門限を破ってしまったから、強くは聞けない。どうにかして聞き出せないかな。
とにかく、帰ってからのことは車の中で考えよう。
私は携帯をポケットに入れ、紅陵さんのところへ戻った。
「何て言ってた?」
「門限を過ぎてしまっていて…、これから迎えに来るそうです」
「………マジ?」
「はい、本当です」
紅陵さんは私の話を聞いて頭を抱えてしまった。そんなマジメな親か、ヤバい、とか思ってそうだな。
「うっそ、今七時じゃない。帰るには早すぎるわよ」
「門限厳しいなあ。もうお別れってこと?やだな…」
「………私だって、寂しいです」
ぎし、と心が軋んだ。先程の話を思い出したからだ。私は、紅陵さんと一緒に居てはいけない。
寂しいなんて言う資格、私には無い。
「俺も。…お別れのチューしよ」
紅陵さんが私を持ち上げた。そのまま膝の上に乗せられ、保健室でやったときと同じように顔を近づけられる。
ま、待って、待って!ダメだ、それはダメーっ!
「紅陵さん、待って、だっ、ダメですっ!!」
「あら~」
「おアツいね」
周りが騒ぎ立てていたその時、バーの扉が開く。
爽やかな、聞き覚えのある声がした。
「失礼します。鈴様、お迎えに上がりました宇都宮…で………す…………」
紅陵さんの膝に向かい合うように乗せられて顔を近づけられ、抵抗している私。
そんな私を、雅弘さんが迎えに来させた宇都宮さんが見ていた。
場所のことなんて、一言も言っていない。店の名前さえ私は言っていない。何故この人はここに来れたのだろう。
一瞬きょとんとした宇都宮さんだったが、私の状態を把握した途端、背筋が凍るような恐ろしい営業スマイルを浮かべた。
「…鈴様、こちらへどうぞ。店を出て左手の方に、迎えの車を用意させていただきました」
「宇都宮さんも、来ますよね?」
「ええ勿論です。ただし、そこのゲ……、いや、不届き者と、少々話をしてからですが」
ゲ……に続く言葉は何だろうか。
いや、気にしていても仕方ない。宇都宮さんの営業スマイルが恐ろしすぎるからだ。きっと、私には考えつかない罵倒語だろう。
言葉を切ると、宇都宮さんは紅陵さんを見た。紅陵さんがギクリと固まり、私からゆっくりと手を離す。紅陵さんは離した両手を顔の横に上げ、口端を引き攣らせながら笑った。
「お、俺、何っ…にもしてないでーす」
「ふふ、そんな情けない顔…おっと失礼、そんな怯えた顔をなさらずとも、私はただ、貴方と『お話』がしたいのですよ」
ダメだ、こうなった宇都宮さんはテコでも動かないんだ。どうしよう、このままだと、宇都宮さんの悪魔も裸足で逃げ出す恐ろしい説教が始まる。
一度だけ受けたことがあるが、あれは絶対泣かされる。小学三年生の私は、その説教を受け、二度と連絡無しでお泊まり会に参加しないと誓わされた。迷惑と心配をかけたのは分かっていたが、あそこまで説教を受けることになるとは思わなかったな…。
私は、紅陵さんを見た。
大丈夫ですか?宇都宮さんは本当に怖いですよ?
でも紅陵さんは、心配する私を安心させるように笑った。
「大丈夫、まあ…俺の自業自得だしな。クロちゃんは車に行きなよ。今日はありがと、楽しかったよ。また明日学校でな!」
「…はい、また明日、ですね!」
私はそう言葉を交わしてバーを出た。
宇都宮さんの横を通り過ぎる時、鈴様も覚悟しておいて下さいね、と言われた。恐ろしい人だ…!!
…また明日、か。
会わない方がいい。
彼が憎む養子が私だということ。
それは、いずれバレることだ。
でも、一緒に居たい。
あの目に、見つめられたい。
龍牙やクリミツとはまた違う、心の充足感を覚えるからだ。
…こ、恋、…恋してる、のかな。
今までのものとは違う。同性と、いわゆる…いい雰囲気になったのは、これが初めてだ。好意を向けられ、行動を起こされることはあっても、いつも誰かが邪魔をしていた。
あの高校で紅陵さんを邪魔出来るような人は居ないし、もし居たとしても紅陵さんは蹴散らしてしまうだろう。だから紅陵さんは、私に恋愛的な意味で接近してくれた唯一の同性と言える。
可愛い女の子に、頼りにされた経験ならある。でも、あんな慈しむように、包むように、甘ったるく見つめられたことは一度としてない。だってそれは、私がやる側だったからだ。
…自己中心的な自分が、嫌だ。
暖かいあの空気が好きで、無くしたくないからと、真実を話せない自分が、嫌だ。
暫くして宇都宮さんも車に乗り込んできた。
スッキリ!と言わんばかりの爽やかな笑顔だ。
でも、私は憂鬱だ。
今日は、とんでもない事実を知ってしまった。
私のせいで、紅陵さんが…。
私はそのことで頭がいっぱいなまま、家に帰ることになった。
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補足
熊谷さんは『巨人さん』でチラッと出てきました。
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