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黒の帳 『一つ目の帳』
三人で下校!
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「……!……だし…」
「…んだと……は……!?…」
誰かが、言い争っている。
かなりの声量だ。
「だーかーら、勘違い!!」
「違ぇよバーーーーカ!」
龍牙と、天野君の声だ。
何を言い争っているんだろうか。
目を薄らと開けると、天野君の首が見えた。
ん?どういう体勢だ?
段々と意識が浮上してきて、周りの状況が分かってくる。
私、天野君に膝枕されてるのか。
「…あっ、鈴おはよう」
「は!?…や、やっと起きたか。頭退けろ、足痺れてんだよ」
あれ、私…寝る前もこんな体勢だっただろうか。天野君のお腹に頭を預けていた気がするんだけれど。
起き上がり、周りを見ると、龍牙がしゃがみこんでおり、天野君は壁にもたれかかって座っていた。
「……いや、え…?私…うーん……確か…」
「余計なこと考えんな。学校終わったからもう帰るぞ」
「私、どれくらい寝てた?」
「二十分」「一時間」
「おい片桐!」「天野~」
「…どっち?」
「一時間だ。ってことは、つまり~」
「黙れ!」
「おー怖」
天野君が大声で龍牙を黙らせた。一時間で天野君が困ることなんてあるのだろうか。
特に思い当たることはなく、分からない。それに天野君も問いただしてほしくなさそうなので、気にしないでおこう。
「…何で龍牙がここに?」
「探してたら見つけたんだ。いや~驚いたな~、何たって天野が」
「かーたーぎーりー、黙れ」
龍牙が持ってきてくれた鞄を受け取り、お礼を言った。天野君の鞄も持ってきてくれていたみたいだ。
…龍牙に言い返す天野君の顔が、心做しか赤い気がする。
…あ、そうだ!
一番大事なことを言っていなかった。
「天野君!」
「うおっ、な、何だ」
「励ましてくれて、本当にありがとう。あんなに落ち着けたのは数年ぶりだったから…その…本当に、ありがとう」
言っている途中で照れくさくなり、言葉尻がすぼんでしまった。ありがとうって二回言っちゃったな。
「…いや、あれは……俺だって…その……」
「はい、はーい終わり」
天野君が何か返そうとしてくれたのに、龍牙に邪魔をされてしまった。
「勘違い天野は退け」
「はァ!?勘違いじゃねぇって何回言ったら分かんだよコラ!!」
「勘違いです~自惚れんなバーーーカ」
この二人、仲が良い印象があったのだけれど。どうして喧嘩が始まりそうな雰囲気になっているんだ。
「テメェ…やんのかコラ」
「喧嘩はダメ。ほら、帰ろう?」
「…チッ」
三人でそれぞれ鞄を持ち、階段裏から出た。これから下校か。そこで私は大事なことを思い出した。一緒に登下校なら、メンバーが足りない。
「ねえ、クリミツは?」
「あっ…忘れてた」
「俺も」
「ちょっと二人とも…」
「俺連絡してみるな~」
クリミツが可哀想だ。天野君はまだしも、龍牙にまで忘れられるなんて。
龍牙が携帯を取り出し、クリミツと連絡をとっている。
ふと見ると、天野君が何か言いたそうにしている。私の方に何度か目線をやると、天野君は話し出した。
「…そのさ、栗田は今日は…一緒じゃなくてもよくね?」
「あー?何で」
「何となく。俺、あんまりアイツ好きじゃねぇし」
「マジかー」
龍牙は眉を下げて困ったように笑った。人の好みは仕方ないと思っているのだろう。それに、天野君はクリミツに倒されたことがあるから、仕方ないのかも。
…いや、もしかして、だけど。
私の悩みを、察しているのか?
いや、いやいやいや、流石にそれは無い…と思う。
でも、天野君は熊について多かれ少なかれ、知っていることには変わらないんだ。私がクリミツに若干の苦手意識を持っていることを、察した?
だとしたら、気を遣わせちゃったなあ…。
私は小声で天野君に話しかけた。
「…天野君」
「ん」
「……その…ありがとう」
「…気にすんな」
龍牙には、とても言えない。クリミツと会うのが気まずいから帰るのは三人がいいな、なんて。どうしてかと理由を尋ねられるだろうし、友人同士の仲が悪くなるなんて、龍牙が悲しむだろう。
だから、天野君が言ってくれて本当に良かった。
気も、楽になった。
「あ、クリミツ部活行くって」
「じゃあ龍牙も?」
「んー、サボろっかな。部長も来たい時でいいって言ってたし」
「いや、暇な時に来てって言ってたはずじゃ…」
「俺は鈴たちと帰るから忙しい、よって帰る!」
そう言って龍牙は腕を組んだ。いや、屁理屈にも程がある。でも龍牙らしいなあ。
面白くてクスクス笑うと、龍牙も笑った。
良かった、クリミツと一緒に帰らない理由、しかもちゃんとしたものが出来て。
クリミツと、龍牙と、三人で居たいけれど、今の私には無理だ。
どうにかクリミツのイジメを割り切って、恐怖心を払わないと。
「…おい鈴」
「なあに?」
「人間関係って変わるもんだからな?…ずっと仲が良いからって、これからもそうとは限らないぞ。だからその…お前は……あー、分かれ、察しろ」
天野君は、気まずそうに顔を背けながらそう言った。
これって、クリミツについてのこと?
いくらクリミツと幼馴染みだからといって、無理してその関係を維持しようとしなくていい。そう、言いたいのだろうか。
何も知らない龍牙は自分のことだと思ったのか、ぷんぷんと怒って天野君に抗議している。
「失礼だな!俺と鈴はめちゃめちゃ仲良い……よな?」
「うん!龍牙とは…今も昔もこれからも、ずーっと一番の友達だよ」
「…ん、そうだな」
あれ?龍牙ならもっと喜ぶと思ったのに。
少しだけ口角を上げて返事をするその顔は、もっと嬉しいことが俺にはある、と示している気がする。
「ねえ、龍牙、友達より上って」
「乙女ゲーでいう仲良しこよしの幼馴染みな。友達止まりの幼馴染み、はいはい」
「お前はぽっと出の俺様キャラだろ。アンチがめっちゃ多い奴な」
「ヒロインに人気があればそれでいい」
「人気無いでーす。勘違い乙」
「は?」
「喧嘩しないで」
二人はよく分からない話をしている。オトメゲーとは何だろう。俺様キャラ、ヒロイン、うーん…?
言い合いが発展してまた険悪な空気になっている。喧嘩をして欲しくないので止めると、落ち着いた二人はまたぽつりぽつりと話し始めた。
「…まあ、一番人気無いのはアイツだろ。チャラい赤ワカメ」
「あー、アイツは俺もきらーい」
「ねえ、何の話してるの?オトメゲーって何?」
「鈴には分かんねーよ、つーか分かんなくていい!なあ天野」
「ああ、説明がめんどいからな」
息ぴったりにそう言うと、二人はまたオトメゲーと赤ワカメについて話し出した。
赤ワカメ…?赤い、ワカメ。サラダやお刺身についているあのワカメっぽい海藻のことだろうか。でも、チャラいだとか人気があるだとか、その表現を聞く限り、人のように思える。でもどうして赤ワカメなんだろう。サラダが好きなのかな。
「赤ワカメさんって誰?」
「ふっ、ふふっ……赤ワカメさんって…!」
「片桐笑ってやるなよ。まあ、お前は分かんなくていい奴」
「…龍牙じゃないんだから。教えて?」
「えっ、それどういう意味だよ」
龍牙は渡来さんについて一切のことを察していない。渡来さんがどういう目で龍牙を見ているか、何をしようとしているのかも。私が龍牙に渡来さんのことを聞かれたら、龍牙は知らなくていいと答えるだろう。
でも、私は龍牙ほど鈍感じゃない…と思う。
「天野君は意味分かるよね」
「おう」
「何だよ二人して…」
「それはこっちの台詞です~、オトメゲーと赤ワカメさんについて教えてくれないくせに」
「鈴は知らなくていいんだよ」
「龍牙だって知らなくていいよ?」
「うるせぇぞ片桐」
「何で俺だけ怒られんだ」
「あーーっ!!」
下駄箱まで歩いた時だ。
突然野太い叫び声が聞こえた。驚いて顔を上げると、下駄箱に居る人が私を見ていた。居るのは二人だ。
身なりを見る限り先生…あ!
「如月先生!」
「どうも紫川くん、隣のゴリラがすみません。この大声は驚くでしょう」
「す…、如月先生、ゴリラは止めてくださいよ~」
如月先生の隣で豪快に笑うのは、昨日会った先生だ。保健室に居て、紅陵さんにタケちゃんと呼ばれていたジャージの先生。大声を出したのはジャージの先生らしい。
如月先生がにっこり笑ってジャージの先生に接している。こんな笑顔、見たことないや。不良さんは怖がるけど、体躯の大きなこのジャージの先生は平気なんだな。
「武内先生と一緒に、君がどこにいったんだろうと話し合っていたんですよ。なにせ、昨日は連れ去られたらしいじゃないですか」
「武内先生はどうして私の担任が如月先生って知ってるんですか?」
「ですって、ゴリラ担当の武内先生」
武内先生に対する如月先生は楽しそうだ。からかうようにニヤニヤと笑い、つんつん肩を突っついている。
武内先生には、聞きたいことがあるんだ。熊谷さんとどういう仲なのか。意味ありげに私を注視したのは、何故なのか。何故、私の顔を見て紫川鈴という名前がパッと浮かんだのか。
「あ、あー、す…如月先生とは元々仲が良くてな。とっても優秀な生徒が居るってのを聞いてて…」
「武内先生、誤魔化さないでください」
「なんの事かな~」
「……熊谷重信。この名前、知ってますよね」
熊谷さんの部屋に、武内先生と熊谷さんが笑顔で写っている写真があったのを覚えている。熊谷さんの本名は、熊谷重信。
その名前を呟いた途端、武内先生がぎくりと固まった。やっぱり何か知ってるんだな。
…?
隣の如月先生の顔から、笑顔が消えた。
どうして如月先生が反応するんだろう。
「…武内先生~?」
「たっ、頼む、待ってくれす…如月先生、あー、嘘だろ?今の名前、冗談だろ?鈴くん"っ……、し、紫川くん」
武内先生の様子がおかしい。最初からどこか焦っている様子だったけれど、今は何かに怯えているように見える。言葉を何度か言い直しているし、隣の如月先生をチラチラと窺っている。
「紫川くん、君に解決したい疑問があるのは分かっています。ですが私たち、これから会議なんですよ」
「いや如月先生、会議い"ッてぇ……」
「君の所在が分かって良かったです。ああ、明日は体育があるそうですから、体操服を忘れずに持ってきてくださいね」
「えっ、あの、武内先生が痛そうにして」
「体操服を、忘れずに、持ってきて、くださいね?」
「…はい」
如月先生は有無を言わさぬ様子だ。その勢いに、私は頷かされた。
武内先生は何か言いかけて、急に顔をしかめて黙ってしまったんだ。気になったから、そのことを聞こうとしたのだけど、如月先生がにっこり笑って完璧なディフェンスをしてきた。うーん、気になる。
「では私たちはこれで。行きましょうか、武内先生」
「勘弁してくれ…」
如月先生はにっこり笑うと、廊下を歩いていってしまった。武内先生は何故か頭を抱え、如月先生に着いて行っている。
先生たちが行ったのを見て、龍牙と天野君が近づいてきた。
「…変な先公だな」
「だなー。あのでっかい先生うるさそう。俺の金髪…地毛って信じてくれるかな」
「マトモに授業受けないくせに何言ってやがる」
「言えてんな~。よし、金髪は気にしないでいこう!」
「そっち!?授業ちゃんと受けようよ」
「「嫌だ」」
「天野君まで…」
龍牙の金髪は生まれつきだから、先生に何か言われたら説明しなきゃならない。ただし、それは普通の高校だったらの話だ。授業も出欠をとることもままならないこの不良校じゃ、生徒の髪色なんて些細なことだろう。
「明日体育なんだってな!すっげーワクワクする。鈴は何やりたい?」
「えっ、授業だから、先生に言われたことをするんじゃないの?」
「んなことやってられっか。片桐、バスケとかいいんじゃねぇか?」
「身長で勝とうとすんじゃねぇ!」
「バスケやると身長伸びるって言うだろ」
「身長高い奴がバスケやってるんだろ?」
「マジ?」
「違うのか?なあ鈴」
「えっ、どうだろう。知らないなあ…、バスケやろっかな」
明日は体育か。龍牙と天野君と喋りながら、のんびり帰っていく。
…あっ。
何となく、何となーく嫌な予感がする。
明日、体操服は下に着ていこう。皆の前で脱ぐのは良くない気がする。
「…んだと……は……!?…」
誰かが、言い争っている。
かなりの声量だ。
「だーかーら、勘違い!!」
「違ぇよバーーーーカ!」
龍牙と、天野君の声だ。
何を言い争っているんだろうか。
目を薄らと開けると、天野君の首が見えた。
ん?どういう体勢だ?
段々と意識が浮上してきて、周りの状況が分かってくる。
私、天野君に膝枕されてるのか。
「…あっ、鈴おはよう」
「は!?…や、やっと起きたか。頭退けろ、足痺れてんだよ」
あれ、私…寝る前もこんな体勢だっただろうか。天野君のお腹に頭を預けていた気がするんだけれど。
起き上がり、周りを見ると、龍牙がしゃがみこんでおり、天野君は壁にもたれかかって座っていた。
「……いや、え…?私…うーん……確か…」
「余計なこと考えんな。学校終わったからもう帰るぞ」
「私、どれくらい寝てた?」
「二十分」「一時間」
「おい片桐!」「天野~」
「…どっち?」
「一時間だ。ってことは、つまり~」
「黙れ!」
「おー怖」
天野君が大声で龍牙を黙らせた。一時間で天野君が困ることなんてあるのだろうか。
特に思い当たることはなく、分からない。それに天野君も問いただしてほしくなさそうなので、気にしないでおこう。
「…何で龍牙がここに?」
「探してたら見つけたんだ。いや~驚いたな~、何たって天野が」
「かーたーぎーりー、黙れ」
龍牙が持ってきてくれた鞄を受け取り、お礼を言った。天野君の鞄も持ってきてくれていたみたいだ。
…龍牙に言い返す天野君の顔が、心做しか赤い気がする。
…あ、そうだ!
一番大事なことを言っていなかった。
「天野君!」
「うおっ、な、何だ」
「励ましてくれて、本当にありがとう。あんなに落ち着けたのは数年ぶりだったから…その…本当に、ありがとう」
言っている途中で照れくさくなり、言葉尻がすぼんでしまった。ありがとうって二回言っちゃったな。
「…いや、あれは……俺だって…その……」
「はい、はーい終わり」
天野君が何か返そうとしてくれたのに、龍牙に邪魔をされてしまった。
「勘違い天野は退け」
「はァ!?勘違いじゃねぇって何回言ったら分かんだよコラ!!」
「勘違いです~自惚れんなバーーーカ」
この二人、仲が良い印象があったのだけれど。どうして喧嘩が始まりそうな雰囲気になっているんだ。
「テメェ…やんのかコラ」
「喧嘩はダメ。ほら、帰ろう?」
「…チッ」
三人でそれぞれ鞄を持ち、階段裏から出た。これから下校か。そこで私は大事なことを思い出した。一緒に登下校なら、メンバーが足りない。
「ねえ、クリミツは?」
「あっ…忘れてた」
「俺も」
「ちょっと二人とも…」
「俺連絡してみるな~」
クリミツが可哀想だ。天野君はまだしも、龍牙にまで忘れられるなんて。
龍牙が携帯を取り出し、クリミツと連絡をとっている。
ふと見ると、天野君が何か言いたそうにしている。私の方に何度か目線をやると、天野君は話し出した。
「…そのさ、栗田は今日は…一緒じゃなくてもよくね?」
「あー?何で」
「何となく。俺、あんまりアイツ好きじゃねぇし」
「マジかー」
龍牙は眉を下げて困ったように笑った。人の好みは仕方ないと思っているのだろう。それに、天野君はクリミツに倒されたことがあるから、仕方ないのかも。
…いや、もしかして、だけど。
私の悩みを、察しているのか?
いや、いやいやいや、流石にそれは無い…と思う。
でも、天野君は熊について多かれ少なかれ、知っていることには変わらないんだ。私がクリミツに若干の苦手意識を持っていることを、察した?
だとしたら、気を遣わせちゃったなあ…。
私は小声で天野君に話しかけた。
「…天野君」
「ん」
「……その…ありがとう」
「…気にすんな」
龍牙には、とても言えない。クリミツと会うのが気まずいから帰るのは三人がいいな、なんて。どうしてかと理由を尋ねられるだろうし、友人同士の仲が悪くなるなんて、龍牙が悲しむだろう。
だから、天野君が言ってくれて本当に良かった。
気も、楽になった。
「あ、クリミツ部活行くって」
「じゃあ龍牙も?」
「んー、サボろっかな。部長も来たい時でいいって言ってたし」
「いや、暇な時に来てって言ってたはずじゃ…」
「俺は鈴たちと帰るから忙しい、よって帰る!」
そう言って龍牙は腕を組んだ。いや、屁理屈にも程がある。でも龍牙らしいなあ。
面白くてクスクス笑うと、龍牙も笑った。
良かった、クリミツと一緒に帰らない理由、しかもちゃんとしたものが出来て。
クリミツと、龍牙と、三人で居たいけれど、今の私には無理だ。
どうにかクリミツのイジメを割り切って、恐怖心を払わないと。
「…おい鈴」
「なあに?」
「人間関係って変わるもんだからな?…ずっと仲が良いからって、これからもそうとは限らないぞ。だからその…お前は……あー、分かれ、察しろ」
天野君は、気まずそうに顔を背けながらそう言った。
これって、クリミツについてのこと?
いくらクリミツと幼馴染みだからといって、無理してその関係を維持しようとしなくていい。そう、言いたいのだろうか。
何も知らない龍牙は自分のことだと思ったのか、ぷんぷんと怒って天野君に抗議している。
「失礼だな!俺と鈴はめちゃめちゃ仲良い……よな?」
「うん!龍牙とは…今も昔もこれからも、ずーっと一番の友達だよ」
「…ん、そうだな」
あれ?龍牙ならもっと喜ぶと思ったのに。
少しだけ口角を上げて返事をするその顔は、もっと嬉しいことが俺にはある、と示している気がする。
「ねえ、龍牙、友達より上って」
「乙女ゲーでいう仲良しこよしの幼馴染みな。友達止まりの幼馴染み、はいはい」
「お前はぽっと出の俺様キャラだろ。アンチがめっちゃ多い奴な」
「ヒロインに人気があればそれでいい」
「人気無いでーす。勘違い乙」
「は?」
「喧嘩しないで」
二人はよく分からない話をしている。オトメゲーとは何だろう。俺様キャラ、ヒロイン、うーん…?
言い合いが発展してまた険悪な空気になっている。喧嘩をして欲しくないので止めると、落ち着いた二人はまたぽつりぽつりと話し始めた。
「…まあ、一番人気無いのはアイツだろ。チャラい赤ワカメ」
「あー、アイツは俺もきらーい」
「ねえ、何の話してるの?オトメゲーって何?」
「鈴には分かんねーよ、つーか分かんなくていい!なあ天野」
「ああ、説明がめんどいからな」
息ぴったりにそう言うと、二人はまたオトメゲーと赤ワカメについて話し出した。
赤ワカメ…?赤い、ワカメ。サラダやお刺身についているあのワカメっぽい海藻のことだろうか。でも、チャラいだとか人気があるだとか、その表現を聞く限り、人のように思える。でもどうして赤ワカメなんだろう。サラダが好きなのかな。
「赤ワカメさんって誰?」
「ふっ、ふふっ……赤ワカメさんって…!」
「片桐笑ってやるなよ。まあ、お前は分かんなくていい奴」
「…龍牙じゃないんだから。教えて?」
「えっ、それどういう意味だよ」
龍牙は渡来さんについて一切のことを察していない。渡来さんがどういう目で龍牙を見ているか、何をしようとしているのかも。私が龍牙に渡来さんのことを聞かれたら、龍牙は知らなくていいと答えるだろう。
でも、私は龍牙ほど鈍感じゃない…と思う。
「天野君は意味分かるよね」
「おう」
「何だよ二人して…」
「それはこっちの台詞です~、オトメゲーと赤ワカメさんについて教えてくれないくせに」
「鈴は知らなくていいんだよ」
「龍牙だって知らなくていいよ?」
「うるせぇぞ片桐」
「何で俺だけ怒られんだ」
「あーーっ!!」
下駄箱まで歩いた時だ。
突然野太い叫び声が聞こえた。驚いて顔を上げると、下駄箱に居る人が私を見ていた。居るのは二人だ。
身なりを見る限り先生…あ!
「如月先生!」
「どうも紫川くん、隣のゴリラがすみません。この大声は驚くでしょう」
「す…、如月先生、ゴリラは止めてくださいよ~」
如月先生の隣で豪快に笑うのは、昨日会った先生だ。保健室に居て、紅陵さんにタケちゃんと呼ばれていたジャージの先生。大声を出したのはジャージの先生らしい。
如月先生がにっこり笑ってジャージの先生に接している。こんな笑顔、見たことないや。不良さんは怖がるけど、体躯の大きなこのジャージの先生は平気なんだな。
「武内先生と一緒に、君がどこにいったんだろうと話し合っていたんですよ。なにせ、昨日は連れ去られたらしいじゃないですか」
「武内先生はどうして私の担任が如月先生って知ってるんですか?」
「ですって、ゴリラ担当の武内先生」
武内先生に対する如月先生は楽しそうだ。からかうようにニヤニヤと笑い、つんつん肩を突っついている。
武内先生には、聞きたいことがあるんだ。熊谷さんとどういう仲なのか。意味ありげに私を注視したのは、何故なのか。何故、私の顔を見て紫川鈴という名前がパッと浮かんだのか。
「あ、あー、す…如月先生とは元々仲が良くてな。とっても優秀な生徒が居るってのを聞いてて…」
「武内先生、誤魔化さないでください」
「なんの事かな~」
「……熊谷重信。この名前、知ってますよね」
熊谷さんの部屋に、武内先生と熊谷さんが笑顔で写っている写真があったのを覚えている。熊谷さんの本名は、熊谷重信。
その名前を呟いた途端、武内先生がぎくりと固まった。やっぱり何か知ってるんだな。
…?
隣の如月先生の顔から、笑顔が消えた。
どうして如月先生が反応するんだろう。
「…武内先生~?」
「たっ、頼む、待ってくれす…如月先生、あー、嘘だろ?今の名前、冗談だろ?鈴くん"っ……、し、紫川くん」
武内先生の様子がおかしい。最初からどこか焦っている様子だったけれど、今は何かに怯えているように見える。言葉を何度か言い直しているし、隣の如月先生をチラチラと窺っている。
「紫川くん、君に解決したい疑問があるのは分かっています。ですが私たち、これから会議なんですよ」
「いや如月先生、会議い"ッてぇ……」
「君の所在が分かって良かったです。ああ、明日は体育があるそうですから、体操服を忘れずに持ってきてくださいね」
「えっ、あの、武内先生が痛そうにして」
「体操服を、忘れずに、持ってきて、くださいね?」
「…はい」
如月先生は有無を言わさぬ様子だ。その勢いに、私は頷かされた。
武内先生は何か言いかけて、急に顔をしかめて黙ってしまったんだ。気になったから、そのことを聞こうとしたのだけど、如月先生がにっこり笑って完璧なディフェンスをしてきた。うーん、気になる。
「では私たちはこれで。行きましょうか、武内先生」
「勘弁してくれ…」
如月先生はにっこり笑うと、廊下を歩いていってしまった。武内先生は何故か頭を抱え、如月先生に着いて行っている。
先生たちが行ったのを見て、龍牙と天野君が近づいてきた。
「…変な先公だな」
「だなー。あのでっかい先生うるさそう。俺の金髪…地毛って信じてくれるかな」
「マトモに授業受けないくせに何言ってやがる」
「言えてんな~。よし、金髪は気にしないでいこう!」
「そっち!?授業ちゃんと受けようよ」
「「嫌だ」」
「天野君まで…」
龍牙の金髪は生まれつきだから、先生に何か言われたら説明しなきゃならない。ただし、それは普通の高校だったらの話だ。授業も出欠をとることもままならないこの不良校じゃ、生徒の髪色なんて些細なことだろう。
「明日体育なんだってな!すっげーワクワクする。鈴は何やりたい?」
「えっ、授業だから、先生に言われたことをするんじゃないの?」
「んなことやってられっか。片桐、バスケとかいいんじゃねぇか?」
「身長で勝とうとすんじゃねぇ!」
「バスケやると身長伸びるって言うだろ」
「身長高い奴がバスケやってるんだろ?」
「マジ?」
「違うのか?なあ鈴」
「えっ、どうだろう。知らないなあ…、バスケやろっかな」
明日は体育か。龍牙と天野君と喋りながら、のんびり帰っていく。
…あっ。
何となく、何となーく嫌な予感がする。
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――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
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