皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

汲み取ってくれる友達

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「す、鈴、大丈夫か。裏番にあんなことされて気分悪いよな、そうだろ?」

天野君に肩を掴まれ、ぶんぶんと揺さぶられる。顔の熱が全く引かないが、何か、答えなくては。気分は、悪くは…。

「…え、えっと、私、は…」
「………ああそうかよ」

恥を忍んで答えようとしたのに、天野君は私の顔を見るなり、去っていってしまった。口元しか見えないはずだけど、何が気に障ったんだろう。
体育館に入っていく背中を見ていると、今度は龍牙に背を叩かれた。皆して何なんだ。脳内大パニックなのに、話しかけてこないで欲しい。

「……俺、今のでアイツのこともっと嫌いになった。分かってるよな、鈴」
「………でも、私」
「あんな酷いことされて、まだ仲良くなりたいとかほざくんじゃねぇよな?」

忌々しげに呟く龍牙の表情は険しい。俺の大事な友達に手を出したな、みたいなことを思っているのだろうか。そうだとしたら嬉しいのだけど、紅陵さんは、そんな人じゃない。

紅陵さんと、仲良くなりたい。
この仲良くなりたいって気持ちが、友情じゃないことくらい分かっている。
そして、私がついた嘘のせいで、これを成就させるのは決して許されないことも。

どうしたら、いいんだろう。
大親友の龍牙がここまで嫌っているのなら、諦めるべきかもしれない。

でも、でも。
キスされた時に覗き込んできた、あの、甘い甘い瞳。にんまりと弧を描く形の整った唇。精悍な顔立ちにふんわりと飾られる、艶やかな赤髪。
私を気遣い、親切にしてくれる、あの雰囲気は離れ難い。

諦め、られない。

私はこんなに卑しく意地汚い男だっただろうか。恋に縋り付くような夢見がちな男だっただろうか。

「……私、は…」
「…………鈴」
「……………ご、ごめん、龍牙」

龍牙は、呆れるだろうか。お前は遊ばれている、と怒るだろうか。軽薄そうな男と関わるなんて、と失望するだろうか。
恐る恐る目をやると、龍牙の顔はそのどれでもなかった。

「…いいよ、別に」

何が何でも、やってやる。そんな思いが込められた、好戦的な顔だった。負けず嫌いで正義感の強い龍牙が、よく浮かべる表情。絶対に倒す、絶対に俺が勝つ。この顔を見せる時の龍牙は、誰よりも諦めが悪い。

「他にもっと好きな奴が出来るかもしんねぇもんな」
「えっ、どういう意味?」
「おいそこの一年!いい加減入ってこんか!!」
「うわっ」
「はい!」

武内先生に怒鳴られ、私たちは慌てて体育館に入った。
不良さんたちが先生の言うことを聞いている。態度が不真面目だったり、少し私語が聞こえるけれど、教室の授業での態度よりずっとマシだ。皆体育大好きなんだなあ。

今日は、スポーツはせず、体力テストをするらしい。皆が不満をぶーぶー言っていたけれど、武内先生が倉庫の鍵を持っているので、遊ぼうにも遊べない。ボールもラケットも、倉庫に全てある。

室内で出来る体力テストの項目を、各自適当にやれと言われた。時間もグループも道具の説明も無しだ。先生、そこは適当なんだなあ。

「龍牙、何からする?」
「腹筋!」
「上体起こしだね、分かった」
「おい待て」

適当な場所に座ろうとすると、声をかけられた。天野君だ。

「…俺もやる。鈴、俺の足押さえてろ」
「おいおい、お前は紅陵先輩とでも組んでろよ」
「それはこっちのセリフだ。大体片桐、お前はな」

二人の言い合いが始まってしまった。
そうだ、二人は何かの対決をしているんだ。はっきりとした内容は分からないけれど、私が邪魔をしたら悪いなあ。

少し距離を置いて二人を見ていたら、後ろからとんとんと肩を叩かれる。振り向くと、にっこり笑った紅陵さんと目が合った。先程のことを思い出してしまうけれど、顔に出さないように頑張らなきゃ。赤くなったら絶対からかわれる。

「クロちゃん、俺とやらない?何やるか忘れちゃってさ」
「今上体起こししようと思ってたんです。紅陵さんからどうぞ、私が足押さえますね」
「いーや、クロちゃんからやりなよ。俺タイマー持ってきたから、あっちでやろっか♡」
「はい!」
「「待てえーーーーッッ!!!」」

紅陵さんに着いていこうとすると、後ろから二人分の大声が聞こえた。驚いて振り向くと、天野君と龍牙がそろって私たちを睨みつけている。

「…どうしたの、二人でやるんじゃないの?」
「「誰がコイツとやるかよ!!」」
「ほーらクロちゃん。アイツら仲良さそうだし、俺らは俺らでやろうぜ」
「鈴、裏番は止めとけ!」
「天野より紅陵先輩より、俺とやろうぜ!」

…何かこの騒ぎ、既視感がある。
まるで私を囲むC組の不良さんのようだ。俺が俺がと騒いで、私の意見を誰も聞いてくれない。

「…あの」
「クロちゃんは、俺が良いだろ?」
「鈴!」
「片桐は黙ってな~」

かろうじて放った言葉も遮られ、流される。騒ぐ龍牙と紅陵さんを冷めた目で見ていたら、天野君が気まずい顔をして私に話しかけてきた。

「………おい、鈴」
「何」
「あー、ダチの片桐か、裏番か、どっちか選んだらどうだ?」
「何それ」
「分かったからそんな顔すんなって、騒いだのは悪かったよ。俺が抜ければ少しは静かになるだろ?C組だって俺が黙らせとく。お前は勝手にしてろ」

天野君は、私の気持ちを分かってくれたの?

吐き捨てるように言い切ると、天野君はその場を去ろうとしてしまう。


不良さんや中学の人たちと同じで、紅陵さんや龍牙たちが私の意志を全て無視する。今の状況は、そんなものだった。素顔を見ていない天野君でさえ、大騒ぎしていた。

私のことは、誰も気にしてくれない。
いつもそうだ。私抜きで話が進んでいく。

そう諦めかけたのに、心が冷めて、冷たい口調になったのに。
天野君は私の気持ちを汲み取って、競争心を押し込んでまで抜けようとした。

…天野君は相手で態度を変える人じゃない。だって、この距離感は、『りん』にしたものと同じだ。私の感情の変化に気付き、気遣ってくれる、この距離感。
なんだ、好きな人にだけ優しいとかじゃなくて、元からそういう世話焼きさんなんだ。

天野君に行って欲しくなくて、私は咄嗟に声をかけた。

「あっ、天野君、私としない?」
「…えっ?」
「はぁ!?何で天野となんだよっ、俺は!?」
「……ッ…、ぁ、あーれれ、振られちゃった」

三人の反応はそれぞれ違う。龍牙は悔しがり、天野君は驚き、紅陵さん、は…?

一瞬、顔を醜く歪めたように見えたが、気のせいだろうか。
いや、気のせいだな。いつもの悠々とした笑みを浮かべて、腕を頭の後ろで組んでいる。

「なあなあ鈴っ、何で俺、だめなの、俺のこと…嫌いになった?」
「そんなわけないよ。ほら、たまには別の人と」
「そこ、いい加減一つくらいやれ!いつまで駄弁ってんだ!!」

武内先生に怒鳴られ、龍牙は悲しそうな顔をして去っていった。紅陵さんも、武内先生に追加のお説教をされる前に逃げ出していく。

あっ、そうか。龍牙は負けず嫌いだけど、友達思いでもある。もしかして私を守ろうと…?可哀想なことをしてしまったかもしれない。
…いや、人の気持ちを聞かずに突っ走るのは、龍牙の悪いところだ。後で注意しなくちゃ。

「天野君、ありがとね」
「………や、止めろ、全然そういうのじゃねぇよ。ほら、押してダメなら引いてみろって言うだろ?だからやっただけで、俺は別に」
「そうだとしても、嬉しかったよ」

天野君は面白い照れ隠しをするなあ。
例え、この結果を狙ってやったとしても、私が嬉しい思いをしたことには変わりない。
私がお礼を言うと、天野君はそっぽを向いてしまった。
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