皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

暴走族総長の訪問

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「凄かったねー、紅陵さんの握力」
「まさか100キロ超えてたとはな…、テレビ出れるだろ、あんなの」

体育を終えた私たち二人は、のんびり教室に向かっていた。

「紅陵さんが出たら握力より…イケメンすぎて有名になっちゃうよ!」
「…………ふん」
「あっ、天野君待って。……龍牙は?」

授業の途中から気づいたけれど、龍牙がどこにもいない。元から授業を真面目に受けるような子ではないけれど、体育は大好きだったはずだ。龍牙がサボるなんて考えられないのだけど。

「…何か知らねぇけど、他の奴らと一緒に出てったぞ」

いや、そんなの考えられない。
他の奴らって誰だろう。天野君は覚えていないだろうから、聞いても仕方ない。

「何かあったのかな」
「さあな、気にしても仕方ないだろ。つーかメシどうする。裏番は帰ったっぽいし、教室で食うか?」
「ううん、龍牙を探すよ。あの性格だから、また誰かの喧嘩買ってるかもしれない。勝てる人だったらいいけど、もし渡来さんとか規格外の人との喧嘩だったら…」

天野君は生徒がよく居なくなることに対して何にも思ってないみたいだ。私も、不良さんだったら気にしないけど、今居ないのは龍牙だ。またどこかで何かやらかしてるんじゃないだろうか。
他人を逃がして龍牙が犠牲になるような喧嘩なんて、絶対許さないからね、龍牙。

「…分かった。俺もダチだからな、着いてってやる」
「ありがと!とりあえず教室戻って着替えよっか」

教室に戻り、皆に混ざって着替え始める。勿論、体操服は脱がずに上から制服を着た。じっとりと視線を感じるこの場所で脱げるほど、私は図太くない。
龍牙はどこに行ったのか、どんな人と行ったのかを天野君に聞いていたら、教室の窓際の方が騒がしいことに気づいた。いつもこの教室は大騒ぎだけれど、今の騒ぎは少し違う。正門の方を覗いて、皆で大騒ぎしているんだ。

「…何かな、あれ」
「俺が見てくる」

天野君が窓際の人の中から顔を覗かせ、私の代わりに外を見てくれた。正門で何が起きてるのかな。
天野君が振り向いたが、その顔は引きつっていた。

「どうしたの?」
「やばい、片桐が…」
「龍牙…?えっ、龍牙がどうしたの、ちょっと、う"ぇッ」

天野君はぼそりと呟くと、私の襟首を掴んで走り出した。首、首が締まってます。すぐさま天野君の手を振り払い、自分の足で着いていく。首のあたりを引っ張られたのは苦しかったが、それ程大事なものがあるということだ。

天野君は昇降口を出て外へ走っていく。私も靴を履き替え、その後を追う。ただごとではないその様子に、私は段々不安になってきた。さっきの言葉からするに、正門に龍牙がいるんだろう。大丈夫かな、喧嘩してるのかな。

外に出ると、正門の前に、四人見えた。
龍牙と、遠藤君と菊池君、それと、バイクに乗った危なそうな人。

遠目であまり分からないが、髪の色が真っ白で、背が少し高い。クリミツくらいかな?真っ白な学ランを身に着けている。バイクからも、前のボタンを一つも留めない着こなしからも分かる通り、多分不良さんだ。

バイクの人は少しばかり龍牙たちと言葉を交わすと、斜め上を向いた。丁度、屋上あたりを見るようにして、その人はすう、と息を吸う。

「あかりちゃ~~~~~~~ん!!!!!デートのお迎えに来たよ~~~~~!!!!」

なんて大声だ。一言一句ハッキリ聞こえる。これでは学校中に響き渡っているだろう。

…あかりちゃん?
誰のことかな。あかりなんて名前の人、この男子校に居るわけが無い…と思う。

「新しいバイクだよ~~~~~~!!ほら見て!!かっこいいよ~~~~!!!お願いだからニケツしてーーーーーッッ!!!!」

あの人、相当あかりさんが好きみたいだ。
付き合ってるんだろうなあ。


私と天野君は、正門にやっと着いた。結構遠いんだよね。たどり着いた私たちに気づき、バイクの人は不思議そうな視線を向けた。龍牙は驚き、遠藤君は何故か頭を抱えている。

「ん、何君たち。俺今あかりちゃん呼んでんだけど」
「……白虎びゃっこだろ、お前」
「おっ!俺のこと知ってんだね。俺は池柳高校三年、遠藤誠司せいじ!ここに居るただし君のお兄さんなわけよっ」

そう言うと、誠司さんはぽんぽんと遠藤君の頭を叩いた。
忠とは、遠藤君の下の名前だ。遠藤君にはお兄さんが居たんだな。でも、あんまり似てないかも。遠藤君と同じく、ジャラジャラと耳にピアスを付けている。痛そうだなあ。

誠司さん、見た目は怖いけど、気さくなひとだ。天野君も予想と違ったのか、ほっと胸を撫で下ろしている。龍牙たちが危ない目に遭うと思ったんだろうな。

「…な、何だ、そいつの兄貴かよ……、焦って損した」
「待て天野、コイツは別人、赤の他人だ。さきちゃんさきちゃん、信じちゃダメだからな?」
「実の兄に向かってこの態度よ、酷くない?」
「うるせぇ、大声で全校生徒の前でラブコールする恥ずかしい奴なんか、兄ちゃんじゃねぇ」

遠藤君はそう言うと、ぷいと顔を背けてしまった。確かに、さっきのような大声で叫ぶ人がお兄さんなんて、お兄さんには悪いけど、恥ずかしいだろうなあ。

…いいな、兄弟。
兄と弟、か。

二人をぼーっと見ていたら、龍牙の何か言いたげな視線を感じた。見ると、龍牙がもじもじしながら私を横目で見ている。

「す、鈴……」
「龍牙、探してたんだからね?」
「………うん!」

龍牙は無邪気な笑みを浮かべ、私に抱きついてきた。この数十分の間に何があったのかな。気になったけれど、小学生の時みたいにくふくふと笑い、すりすりと寄ってくるその姿に、もうどうでもよくなった。無理、可愛すぎる。
私にとっての弟は、龍牙だな!

ぽんぽんと龍牙の頭を撫でていたら、遠藤兄弟が何やら言い合っているのに気づいた。仲があまり良くなさそうだ、この二人。

「やめろ、あのラブコールは勘弁してくれ」
「こうでもしないとあかりちゃん出てきてくれないんだもん!」
「気色悪ぃな!!!クソ、昔の兄ちゃんが恋しいぜ、こんな腑抜けになっちまって…」

そう呟く遠藤君は悔しそうだ。
あかりちゃんあかりちゃんと言っているが、一体誰なんだろう。きっと、そのあかりさんとやらが、遠藤君のお兄さんを変えてしまったんだろう。この遠慮のない呼びかけは、きっと付き合っている。男子校だから彼氏さんかな。

「…あの、遠藤君のお兄さん」
「何?」
「あかりちゃんって誰ですか?」



「紅陵零王」


「………え?」


「紅陵零王」

「………」

「紅陵れ」

「わ、分かってます、ちょっと待ってください」


え、えっ?

あかりちゃん=紅陵さん??

紅陵さんは、お世辞にも決してあかりちゃんという柄とは言えない。あかりちゃんなんてあだ名、女々しくて中性的な私のような人につけられることが多いのに。
あっ、似てるところ発見!男に女の子らしいあだ名を付ける癖だ。
私はさきちゃん、紅陵さんはあかりちゃん。
遠藤君はぷんぷん怒っていたが、二人とも大差ないだろう。うんうん。


…そして、この人…誠司さん。
紅陵さんに、熱いラブコールを送っていたことになる訳だが。

まさか、まさかとは、思うが、




「こ、紅陵さん、と、付き合ってるんですか……?」


「まあね。だから今日もデートのお誘いに~」



お兄さんが何か話しているが、頭に入ってこない。

え?

付き合ってるん、ですか?


「じょ、冗談じゃ、ないです、よ、ね?」

「そうだよ。あーもう早くあかりちゃん迎えに行かなくちゃ。あ、聞いてぇ?一昨日バーまで迎えに行かされてさぁ、遠いの何の!最寄りが桜波よ??」


付き合ってる人、居たんだ。

じゃああの沢山の言葉は何だったんだろう。
からかってた、のかな。


「しかもグチ聞かされてたーいへん。ま、可愛いからいいんだけど。何かね、新しい子と上手くいかないんだって!確か…一週間前に知り合ったんだったかな?あんま知らねーや。女々しいって情報しか知らね」

…え?
そういえば、一昨日って、紅陵さんと、バーに、行って、それで…

「気に入ってるバーなのにソイツと一緒に居たせいで時間損したわー、って愚痴られてさぁ?んなの知りませーん。つーか俺の彼ピなんだから他の子口説くの止めて欲しいよね。俺ばっか必死っていうのかなあ、ショック~」
「す、鈴、鈴……」

心配そうな龍牙の声が聞こえるけど、私は不思議と冷静だった。これ以上つつかない方がいいのは分かっていたけれど、私は聞かずにいられなかった。

「他に、何か言ってました?」
「あーうん、ああいう面食いは大ッ嫌いだ、ってね。遊ぶにしてもちょっと重いし面倒かなって言ってたや」

私の、ことかな。

一週間前に知り合った女々しい人で、口説いてて、一昨日、桜波駅が最寄りのバーに、一緒に、居て、

…ああ。

「そんでさ、あかりちゃんの機嫌が激ヤバMAX…ん?どうしたの、顔色悪くない?」
「………いえ、大丈夫です。紅陵さんのこと、迎えに行ってあげてくださいね」


その場の誰の顔も見ず、俯いてそう答える。
何だか堪えられなくて、皆に背を向けて歩いた。

教室に、戻らなきゃ。
また勉強しなくちゃ。



あー、何でこんなに視界が滲んでるんだろう。



ぽたぽたと、頬を、伝っていく何か。

昨日も泣いたんだっけ。


私って、弱虫だなあ。

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