皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

ちょっとだけ、寂しいな

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紅陵さんに抱きしめられた熱が、まだ残っている。
とくとくとなる鼓動も、静まらない。自分を責め続ける嫌悪感も、紅陵さんに嘘をついている罪悪感も、私から離れない。

紅陵さんと話した余韻に浸っていると、誰かに肩を叩かれた。

「……鈴」
「どうしたの、天野君」
「………い、言いたいことが…」

天野君は気まずそうにしている。何を言いたいのかな。

「言いたいことって?」
「鈴ーーーーー!!」

聞こうとしたが、私の問いかけは快活な呼びかけに遮られた。声のする廊下を見れば、龍牙がぱたぱたとこちらへ駆けてきている。私たちの元へ辿り着くと、龍牙は早口で喋り始めた。

「いっ、今、今、こう、あー、せんぱい、んで、お前が、えっと、電話、えーっと、あー」
「龍牙、ストップ、落ち着いて、おっけー?」

龍牙は混乱しているみたいだ。
纏まりの無い話に苦笑し、龍牙の口に人差し指を当てる。シーと息を出すと、龍牙は恥ずかしそうにこくんと頷いた。

小学生のような扱いは止めた方がいいかもしれない。でも、小学生の頃からの癖を見ると、どうしても、対応だって小学生のものになってしまう。変わっていない部分が、嬉しくなってしまう。

「お、おっけー」
「何を話したいの?」
「えーっと、さっき、紅陵先輩を見たってこと。鈴は…アイツと話、したいのかなーって」
「もうしたよ」
「えっ」

龍牙が傷ついたような顔をした。一体どうしたんだろう。私が首を傾げると、龍牙は慌てて続けた。

「…何か、変なこと言われなかったか?」
「変なこと?」
「あー、心当たり無いならいいんだよ。…うん」
「ねえ龍牙、説明し」

龍牙は意味ありげに頷いた。私には何が何だか全く分からない。聞こうと口を開くと、龍牙にむにっと唇を押さえられた。

「し、しー…」

龍牙は照れながら、先程の私の真似をしている。微笑ましくてにっこり笑うと、龍牙は真っ赤になって慌て始めた。

「なっ、何笑ってんだよ!鈴だってやってたじゃんか!」
「龍牙は照れちゃってるからね~」
「イチャつくな。野郎同士でベタベタしてんじゃねぇよ」

不機嫌になった天野君に引き剥がされてしまった。龍牙はぷくーっと頬を膨らませて、天野君に抗議した。その可愛らしい頬を突っつきたい衝動に駆られるが、龍牙がぷりぷり怒っているので止めておこう。

「邪魔すんな」
「邪魔されて当然だろ」
「何だと…」
「お、対決?」
「「は?」」
「体育の前に言ってたじゃん。どうして対決してるかも何を競ってるかも私には分からないけど、戦ってるんでしょ?」

険悪に見える二人の関係。でも、これは何かの対決なんだ。喧嘩ではなく、ライバル的なやつ、と説明してくれたのを覚えている。

それを伝えると、二人は顔を見合わせた。

「………後で話し合おうぜ」
「おう」
「えっ、また仲間外れ?」
「俺らにだって秘密くらいある」
「何でもかんでも話すってわけには…」
「…そうだね」

コソコソ話す二人の様子に、疎外感を覚えた。そのせいか、普通に返事をするつもりだったのに、素っ気ない声色になってしまった。

「ごっ、ごめんって!本当に話せないことなんだよ!」
「…」
「鈴に知られると恥ずかしいっつーかさ、俺たちが困るんだよ、な?」

必死に弁解され、何だかよくない感情が芽吹く。簡単に言うなら、拗ねている。
そんなに必死になるような内容なの?
私には絶対話したくないってこと?

…こうして気にする私は、面倒だろう。それは分かっている。無闇に詮索するのはおかしいし、友人だからといって何でも話せるわけではない。ある程度の距離があるというものだろう。
でも、それはそれとして、寂しい。

クリミツと龍牙と一緒にいた時は、何だって話してくれた。どんなに恥ずかしいことでも、言いづらいことでも、何だって言ってくれた。
だから私だって、自分のことを話せたんだ。


必死に説得してくる二人を見たことで、寂しさは募っていく。




私は二人に背を向け、階段裏から廊下に出た。

今は何時だろう。また授業をすっぽかしただろうか。

余所事を考えていたせいで、誰かにどんとぶつかった。随分背丈の大きい人だ。ぶつかったのは背中の下の方だろうか。視界が学ランの黒色でいっぱいになっている。

「うわっ!すみません…」
「あぁ?」

…?
何だか、聞き覚えのある、低音のような…。
恐る恐る顔を上げると、坊主頭が見え、鋭い眼光に貫かれた。

渡来さんだ。

「よォ、昨日ぶりだな」
「こっ、こ、こんにちは、さようならッ」

絶対、良くないことが起きる。

そう察してすぐさま横切ろうとすると、がっしり腕を掴まれた。そのままギリギリと捻り上げられ、決して逃げられないと悟る。天野君やクリミツとは力加減が違う。これから暴力を振るうんじゃないかと思うくらいの力だ。

「んッ、う"……」
「まあまあ待て。俺はな、今イライラしてんだ。番長だけじゃねぇ、総長まで俺に指図してきやがったんだ。あの金髪に手ェ出すなってな。なあ、あの金髪は何モンなんだ。俺ァ腹が立って仕方ねぇよ…」
「そ、総長…?」

総長。
その役職名なら、ついさっき聞いたばかりだ。
暴走族の龍虎、その総長である遠藤誠司さん。


そして、渡来さんの言う金髪は、恐らく龍牙のことだろう。
誠司さんと龍牙は知り合いだったの?

この三人の間で何が起こったか、私には全く見当がつかない。
きょとんとして渡来さんを見つめると、渡来さんはただでさえシワが寄っている眉間に、更にシワを寄せた。

「…まさか、俺が誰だか分からないわけじゃないよな?」
「渡来賢吾さんですよね?」
「龍虎の副総長“黒龍”知らねぇのか」
「…誰ですか?白虎さんなら知ってますけど…」
「………」
「ぇ、お"ッ!?」

渡来さんが一層不機嫌になったかと思うと、私の体に衝撃がはしった。視界には、私の腹にめり込む渡来さんの足が映っている。腹に膝蹴りをくらわされたらしい。

お昼ご飯を食べていなかったのが救いだろうか。込み上げる物は胃液だけで済んだらしい。激痛と衝撃で止まりかける思考の中、そんなことを思った。

私が苦痛に顔を歪め、膝をつくと、渡来さんは私の襟を掴み、無理やり起こした。

「げほっ、ぅ、う"えっ、は、はっ…」
「クソ、あ~ムカつくぜ、なぁ!?」
「あ"あぁッ!!」

しゃがみこんだ渡来さんに再び腹を蹴りあげられ、私の悲鳴が廊下に響き渡る。周りの生徒はこの光景を遠巻きに見ていた。当たり前だが、助ける人なんていない。
余程琴線に触れたらしい。黒龍さんはそこまで知名人なのだろうか。暴走族で名をとどろかせたところで意味なんてあるのかな。虚栄心の塊にしか見えない。

後ろ髪を乱暴に掴まれ、廊下に仰向けに転がされた。なぜか、視界が霞んでくる。
逃げることも立ち上がることも出来ないまま、私は迫り来る渡来さんを、呆然と見ていた。
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