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黒の帳 『一つ目の帳』
天野編 確信 〔土曜日Ⅱ〕
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がやがやと賑やかな柳駅前。
休日であるから、大勢の人が行き交い、また、そこで待ち合わせをしている人間も多くいる。
そして俺も、待ち合わせをしている一人なのだが…、
「…何だよアレ」
俺の相談に乗ってくれる、東雲先輩。柳ヶ丘高校三年の、女ったらし。
彼は一言で言うならめちゃめちゃイケメンだ。そんな彼が人通りの多い駅前で立っていたらどうなるだろう。
「あの~今お暇ですか?」
「ああ、ごめんね。今人を待ってるんだ」
「お友達ですか?」
「だったらその人も一緒に行きましょ~よぉ」
いわゆる、逆ナンだ。
東雲先輩は慣れっこなのだろう。王子様スマイルを浮かべ、適当にあしらっている。
女好きで遊んでばかりとはいえ、ここで俺との約束を放らずに待っていてくれるのが、他の女好きと違うところだ。何だかんだ、恋愛以外の関係も大切にしてるんだよな。
早く行ってやらないと。
「ごめんね、ダメなんだ。その人は僕の恋人だからさ」
「えっ」
「適当言うの止めてくれません??」
適当にあしらうからと言ってめちゃめちゃなことを言うのは止めて欲しい。群がる女と女ったらしの間に割り込むと、その女ったらしはにししと笑った。
「お、やっと来たか!」
「まだ五分前っすよね」
「あ、あの、私たち」
「おし、じゃあカフェ行って話そうか」
「奢ってくれるんすか?」
「話の内容次第だなあ」
女が入り込む隙を作らないように喋りながら歩き出す。そんな東雲先輩を見てか、流石に女たちは諦めたらしい。マジでこの人モテすぎだろ。
カフェに着いた俺たちは、適当な飲み物を買って席に着いた。
「…おし、内容は恋愛相談で合ってるよな?」
「うす」
俺が頷くと、東雲先輩は顔を輝かせた。
「よし! この東雲春樹様が、恋の悩みを抱える少年にアドバイスを」
「そういうの大丈夫です」
東雲先輩はテンションが上がるとよく分からないことを言い出す。正直スベってるし止めて欲しいものだ。しかし先輩にそんなことを言うわけにもいかないので、俺はスベってますとは口に出さず、流した。
「…えっと、ですね。結果から言うと、好きな人が二人いるんすよ」
「おお…贅沢だな。つーか天野が好きになる奴なんてブサイクしか思いつかないんだけど」
「失礼っすね!! ぜんっぜんそんなことないんすよ、すっごい可愛くて…」
「どうせ胸がでかいとかそんなんだろ~」
「…」
俺はそこまで話して、一つ気づいた。好きになった人の性別を言っていなかった。
「あー、男っす」
「へえ! カワイイ系か?」
「カワイイっていうか、綺麗系で…」
「どっちもなの? それ」
「えーっとですね…」
そこから俺は、リンさんと鈴の話をした。
リンさんが超絶美人で、謎多き人だということ。鈴は顔を隠しているが、性格が死ぬほど良い奴だということ。
二人と裏番のことを言おうと思ったが、そうなると東雲先輩が興味を失いそうだ。この人、不良がどうとか興味無いからな。
「なるほどなあ、んで、二人のどっちが本当に好きか分からない、と…」
「そうなんすよ、先輩はどう思いますか」
「……俺的には、お前が好きなのは顔隠してる方だと思うぞ」
鈴の方か。
確かに、一緒にいる時間は鈴の方が長い。
「正直、その優しい美人ってのは、お前が面食いで顔だけでもってかれてる可能性がめちゃめちゃ高い」
「そんなっ、俺は顔だけで好きになったわけじゃ」
「お前がそう言ってても、人間ってのはそういうのなの。中見知って好きになったっつってもたかが知れてんだよ。包装紙がめちゃめちゃ綺麗なプレゼントは誰だって覗きたくなるだろ?中身が良いものに思えるだろ?それと一緒だ」
「そ、そんなもんなんすかね…」
「ま、どっちにしろ競争率ヤバそうだし、モタモタしてる暇はねぇな」
先輩はそう言い、立ち上がった。もう相談は終わりということだろうか。まだ話し足りないのに、それは困る。
「ちょっ、先輩!」
「ここクーラー効きすぎてさみぃ。歩きながら話そうぜ」
「あ、なんだ、そういうことですか…」
まだ相談には乗ってくれるらしい。俺は東雲先輩の後について、店を出た。
「あ、ちなみに二人の名前は」
「待て! 名前は言わなくていい。知ってる奴だったら先入観が出来るからな。…んにしても、性格の良い奴ねぇ。俺似たような奴知ってんだよ」
「そうなんすか?」
俺が聞き返すと、東雲先輩は嬉しそうに空を仰いだ。どういう感情なのだろうか。その頬が、少し赤い気がする。
「…小学生ん時ね、紫川鈴っていう超絶可愛い子が」
「げほっ!? うぇっ、げほっ、げほっ」
「天野!?」
俺は噎せた。それはもう盛大に噎せた。
いや、いや、大丈夫だ。
まだ東雲先輩が鈴を好きだと決まったわけじゃない。
そ、それに、紫川鈴違いかもしれない。
つーか、おい、鈴の素顔って可愛いのか。
「な、なんでも、ないっす」
「そ、そう、ならいいんだけどさ。んで、鈴ちゃん…まあリンちゃんって呼ばれてたんだけど、もうマジで天使、女神、人智を超えた可愛さ…綺麗さだったわけ。もう皆ベタ惚れでさ、俺もその一人だったんだよ。思えばあれが初恋だっけなあ…」
「……し、紫川、鈴って、美人だったんすか?」
紫川鈴は、リンというあだ名の付いた、女神のような、天使のような美人。
俺の頭の中に、一つの仮定が浮かんだ。
「そりゃ勿論! 養護施設出身なんだけどさ、その儚げな美貌と言ったらもう…! ありゃあ小学生で完成されてたな。あの時は、俺もリンちゃんに好きになってもらおうと必死になったよ」
「へ、え…」
「年下でさ、二つ下…うんうん、天野と同い年だな。俺めちゃめちゃ絡みにいってさ。服濡らして帰ったら、親に怒られる、とか適当なこと言って、相合傘で帰ったんだよ。お前もその好きな子に相合傘してもらったんだろ?相合傘良いよなあ~。優しい子って絶対自分の肩ビッショビショにするよな」
「あの、先輩」
「おう」
この仮定は、確実性を持たせて良いものなのか。
俺は、もしかしたら、とんでもないことを知ろうとしてるんじゃないのか。
「その子って、金髪とかデカめの幼馴染み、いませんでした?」
片桐に、栗田。
鈴の隣にいつもいる、幼馴染み。
「おう、いたぞ。天然金髪の男子と、ちょっとデカめの男子。よく知ってんなあ、もしかして知り合い? あの子有名だったし、知っててもまあ違和感ねぇけど」
「先輩」
「ん?」
「先輩、まさかとは思いますけど、小学生の初恋なんて引きずってませんよね」
俺は、ズルい奴だろうか。
ライバルを蹴落とそうと必死になる俺は、はたから見たら滑稽だろうか。
「も、勿論、そんなガキみてぇなこと」
「俺が好きなのは紫川鈴です」
「……ッ…は、あ…?」
先輩の頬がひくりと引きつった。先輩の言ったことは嘘だな。
東雲先輩は小学生の時に会ったという鈴のことを、
…………リンさんのことを、
まだ、好きでいる。
いくら俺が馬鹿でも、分かる。
アイツは、紫川鈴は、俺が探し求めていたリンさんだ。思わぬ形で鈴の素顔の情報を知ってしまった。皆が称える美しい素顔、女ったらしのひねくれ者の東雲先輩が好きになるような美人。
自分で確認するまで分からないが、今のところはもう確定している。
紫川鈴は、リンさんだということ。
東雲先輩の纏う雰囲気が変わった。
さっきまでは後輩の相談に乗る気のいい先輩だったが、今は違う。俺の事を睨みつけ、顔からは笑みが消えている。
コップを持つ手に力が入っている。飲み終わったそのコップの中で、カランと氷が動くのが見えた。
「…あの子が、テメェみてぇな不良と付き合うわけねぇだろォが、なァ」
「赤豹見て顔真っ赤にしてましたよ」
「はあっ!? …クソ、そういうことか、赤豹がやけに上機嫌だと思ったら…つーか待て。じゃあ前髪で顔隠した子はどうなんだ。結局顔か?あ?どうなんだよ面食い野郎」
東雲先輩は裏番の企みを知っているらしい。もしかしたら、協力してくれるかもしれない。でも、ライバルとなると話は別だ。
面食いはアンタだろ、と言い返すことが頭に浮かんだが、事実を先に伝えたい。俺は東雲先輩の罵倒を無視し、今しがた気づいた重大な事実を口にした。
「前髪隠してる奴が紫川鈴、超絶美人さんがリンさんって名乗ってたんすよ、分かりますか、俺が悩んでることに意味はなかったって話っす」
「……なるほどな、同一人物だったってわけか」
「その通りです。恋愛相談はもういいっす。無駄にライバル見つけただけでしたし」
「テメェ…」
東雲先輩がプラスチックのコップを握り潰し、俺をこれでもかと睨みつけている。東雲先輩が喧嘩をしたというのは聞いたことがない。この人は女遊びばかりで、腕力など無いのではと噂されているのだ。この人に喧嘩は出来ないだろう。もし勝負になったとしても、俺が勝つだろうな。
俺が構えようとした時、東雲先輩は突然ふっと笑った。
「ま、まあまあまあ、お前に好きな奴出来ること自体めでたいしな! 可愛い後輩と喧嘩はしたくないし、とりま喧嘩は止めよう、な?とりあえずその拳下ろしてくれ、な?な?」
そう言って笑う東雲先輩の口元は、ひくひくと痙攣している。心做しか冷や汗も垂らしている気がする。
…あー、思い出してきたぞ。
東雲先輩、喧嘩だけは絶対に避けるビビり雑魚だったな。イケメンだから、自分の顔と自分が傷つくのが嫌なんだろう。
俺も別に先輩を殴りたいわけじゃない。そっちがその気なら、と拳を握っただけだ。素直に手を下ろすと、東雲先輩はほっと息をついた。アンタ分かりやすすぎだろ。
俺たちの緊張の糸がたわんだその時、歩いていた路地の横道から、見慣れない集団が進み出た。
休日であるから、大勢の人が行き交い、また、そこで待ち合わせをしている人間も多くいる。
そして俺も、待ち合わせをしている一人なのだが…、
「…何だよアレ」
俺の相談に乗ってくれる、東雲先輩。柳ヶ丘高校三年の、女ったらし。
彼は一言で言うならめちゃめちゃイケメンだ。そんな彼が人通りの多い駅前で立っていたらどうなるだろう。
「あの~今お暇ですか?」
「ああ、ごめんね。今人を待ってるんだ」
「お友達ですか?」
「だったらその人も一緒に行きましょ~よぉ」
いわゆる、逆ナンだ。
東雲先輩は慣れっこなのだろう。王子様スマイルを浮かべ、適当にあしらっている。
女好きで遊んでばかりとはいえ、ここで俺との約束を放らずに待っていてくれるのが、他の女好きと違うところだ。何だかんだ、恋愛以外の関係も大切にしてるんだよな。
早く行ってやらないと。
「ごめんね、ダメなんだ。その人は僕の恋人だからさ」
「えっ」
「適当言うの止めてくれません??」
適当にあしらうからと言ってめちゃめちゃなことを言うのは止めて欲しい。群がる女と女ったらしの間に割り込むと、その女ったらしはにししと笑った。
「お、やっと来たか!」
「まだ五分前っすよね」
「あ、あの、私たち」
「おし、じゃあカフェ行って話そうか」
「奢ってくれるんすか?」
「話の内容次第だなあ」
女が入り込む隙を作らないように喋りながら歩き出す。そんな東雲先輩を見てか、流石に女たちは諦めたらしい。マジでこの人モテすぎだろ。
カフェに着いた俺たちは、適当な飲み物を買って席に着いた。
「…おし、内容は恋愛相談で合ってるよな?」
「うす」
俺が頷くと、東雲先輩は顔を輝かせた。
「よし! この東雲春樹様が、恋の悩みを抱える少年にアドバイスを」
「そういうの大丈夫です」
東雲先輩はテンションが上がるとよく分からないことを言い出す。正直スベってるし止めて欲しいものだ。しかし先輩にそんなことを言うわけにもいかないので、俺はスベってますとは口に出さず、流した。
「…えっと、ですね。結果から言うと、好きな人が二人いるんすよ」
「おお…贅沢だな。つーか天野が好きになる奴なんてブサイクしか思いつかないんだけど」
「失礼っすね!! ぜんっぜんそんなことないんすよ、すっごい可愛くて…」
「どうせ胸がでかいとかそんなんだろ~」
「…」
俺はそこまで話して、一つ気づいた。好きになった人の性別を言っていなかった。
「あー、男っす」
「へえ! カワイイ系か?」
「カワイイっていうか、綺麗系で…」
「どっちもなの? それ」
「えーっとですね…」
そこから俺は、リンさんと鈴の話をした。
リンさんが超絶美人で、謎多き人だということ。鈴は顔を隠しているが、性格が死ぬほど良い奴だということ。
二人と裏番のことを言おうと思ったが、そうなると東雲先輩が興味を失いそうだ。この人、不良がどうとか興味無いからな。
「なるほどなあ、んで、二人のどっちが本当に好きか分からない、と…」
「そうなんすよ、先輩はどう思いますか」
「……俺的には、お前が好きなのは顔隠してる方だと思うぞ」
鈴の方か。
確かに、一緒にいる時間は鈴の方が長い。
「正直、その優しい美人ってのは、お前が面食いで顔だけでもってかれてる可能性がめちゃめちゃ高い」
「そんなっ、俺は顔だけで好きになったわけじゃ」
「お前がそう言ってても、人間ってのはそういうのなの。中見知って好きになったっつってもたかが知れてんだよ。包装紙がめちゃめちゃ綺麗なプレゼントは誰だって覗きたくなるだろ?中身が良いものに思えるだろ?それと一緒だ」
「そ、そんなもんなんすかね…」
「ま、どっちにしろ競争率ヤバそうだし、モタモタしてる暇はねぇな」
先輩はそう言い、立ち上がった。もう相談は終わりということだろうか。まだ話し足りないのに、それは困る。
「ちょっ、先輩!」
「ここクーラー効きすぎてさみぃ。歩きながら話そうぜ」
「あ、なんだ、そういうことですか…」
まだ相談には乗ってくれるらしい。俺は東雲先輩の後について、店を出た。
「あ、ちなみに二人の名前は」
「待て! 名前は言わなくていい。知ってる奴だったら先入観が出来るからな。…んにしても、性格の良い奴ねぇ。俺似たような奴知ってんだよ」
「そうなんすか?」
俺が聞き返すと、東雲先輩は嬉しそうに空を仰いだ。どういう感情なのだろうか。その頬が、少し赤い気がする。
「…小学生ん時ね、紫川鈴っていう超絶可愛い子が」
「げほっ!? うぇっ、げほっ、げほっ」
「天野!?」
俺は噎せた。それはもう盛大に噎せた。
いや、いや、大丈夫だ。
まだ東雲先輩が鈴を好きだと決まったわけじゃない。
そ、それに、紫川鈴違いかもしれない。
つーか、おい、鈴の素顔って可愛いのか。
「な、なんでも、ないっす」
「そ、そう、ならいいんだけどさ。んで、鈴ちゃん…まあリンちゃんって呼ばれてたんだけど、もうマジで天使、女神、人智を超えた可愛さ…綺麗さだったわけ。もう皆ベタ惚れでさ、俺もその一人だったんだよ。思えばあれが初恋だっけなあ…」
「……し、紫川、鈴って、美人だったんすか?」
紫川鈴は、リンというあだ名の付いた、女神のような、天使のような美人。
俺の頭の中に、一つの仮定が浮かんだ。
「そりゃ勿論! 養護施設出身なんだけどさ、その儚げな美貌と言ったらもう…! ありゃあ小学生で完成されてたな。あの時は、俺もリンちゃんに好きになってもらおうと必死になったよ」
「へ、え…」
「年下でさ、二つ下…うんうん、天野と同い年だな。俺めちゃめちゃ絡みにいってさ。服濡らして帰ったら、親に怒られる、とか適当なこと言って、相合傘で帰ったんだよ。お前もその好きな子に相合傘してもらったんだろ?相合傘良いよなあ~。優しい子って絶対自分の肩ビッショビショにするよな」
「あの、先輩」
「おう」
この仮定は、確実性を持たせて良いものなのか。
俺は、もしかしたら、とんでもないことを知ろうとしてるんじゃないのか。
「その子って、金髪とかデカめの幼馴染み、いませんでした?」
片桐に、栗田。
鈴の隣にいつもいる、幼馴染み。
「おう、いたぞ。天然金髪の男子と、ちょっとデカめの男子。よく知ってんなあ、もしかして知り合い? あの子有名だったし、知っててもまあ違和感ねぇけど」
「先輩」
「ん?」
「先輩、まさかとは思いますけど、小学生の初恋なんて引きずってませんよね」
俺は、ズルい奴だろうか。
ライバルを蹴落とそうと必死になる俺は、はたから見たら滑稽だろうか。
「も、勿論、そんなガキみてぇなこと」
「俺が好きなのは紫川鈴です」
「……ッ…は、あ…?」
先輩の頬がひくりと引きつった。先輩の言ったことは嘘だな。
東雲先輩は小学生の時に会ったという鈴のことを、
…………リンさんのことを、
まだ、好きでいる。
いくら俺が馬鹿でも、分かる。
アイツは、紫川鈴は、俺が探し求めていたリンさんだ。思わぬ形で鈴の素顔の情報を知ってしまった。皆が称える美しい素顔、女ったらしのひねくれ者の東雲先輩が好きになるような美人。
自分で確認するまで分からないが、今のところはもう確定している。
紫川鈴は、リンさんだということ。
東雲先輩の纏う雰囲気が変わった。
さっきまでは後輩の相談に乗る気のいい先輩だったが、今は違う。俺の事を睨みつけ、顔からは笑みが消えている。
コップを持つ手に力が入っている。飲み終わったそのコップの中で、カランと氷が動くのが見えた。
「…あの子が、テメェみてぇな不良と付き合うわけねぇだろォが、なァ」
「赤豹見て顔真っ赤にしてましたよ」
「はあっ!? …クソ、そういうことか、赤豹がやけに上機嫌だと思ったら…つーか待て。じゃあ前髪で顔隠した子はどうなんだ。結局顔か?あ?どうなんだよ面食い野郎」
東雲先輩は裏番の企みを知っているらしい。もしかしたら、協力してくれるかもしれない。でも、ライバルとなると話は別だ。
面食いはアンタだろ、と言い返すことが頭に浮かんだが、事実を先に伝えたい。俺は東雲先輩の罵倒を無視し、今しがた気づいた重大な事実を口にした。
「前髪隠してる奴が紫川鈴、超絶美人さんがリンさんって名乗ってたんすよ、分かりますか、俺が悩んでることに意味はなかったって話っす」
「……なるほどな、同一人物だったってわけか」
「その通りです。恋愛相談はもういいっす。無駄にライバル見つけただけでしたし」
「テメェ…」
東雲先輩がプラスチックのコップを握り潰し、俺をこれでもかと睨みつけている。東雲先輩が喧嘩をしたというのは聞いたことがない。この人は女遊びばかりで、腕力など無いのではと噂されているのだ。この人に喧嘩は出来ないだろう。もし勝負になったとしても、俺が勝つだろうな。
俺が構えようとした時、東雲先輩は突然ふっと笑った。
「ま、まあまあまあ、お前に好きな奴出来ること自体めでたいしな! 可愛い後輩と喧嘩はしたくないし、とりま喧嘩は止めよう、な?とりあえずその拳下ろしてくれ、な?な?」
そう言って笑う東雲先輩の口元は、ひくひくと痙攣している。心做しか冷や汗も垂らしている気がする。
…あー、思い出してきたぞ。
東雲先輩、喧嘩だけは絶対に避けるビビり雑魚だったな。イケメンだから、自分の顔と自分が傷つくのが嫌なんだろう。
俺も別に先輩を殴りたいわけじゃない。そっちがその気なら、と拳を握っただけだ。素直に手を下ろすと、東雲先輩はほっと息をついた。アンタ分かりやすすぎだろ。
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