141 / 153
黒の帳 『一つ目の帳』
片桐編 ナイショ話
しおりを挟む
わいわいと騒がしい本校舎。
体育館の裏でその騒ぎを聞きながら、俺は、こそこそと周りを見渡していた。
…よし、目的の人物はいない。
「っしゃあ!逃げ切ってやったぜ…」
体力テストを受けろと追いかけてきた体育教師。俺はソイツとの鬼ごっこに勝利したのだ。
あえて体育館の近くに逃げ込むことで、教師の目を欺く…完璧だ!
しかし、アイツに追いかけられたせいで鈴から離れてしまった。
早く鈴のところに戻らないと。
今や、鈴を狙う不良は日に日に増えつつある。主な原因は、紅陵先輩だ。紅陵先輩が鈴に入れ込んでいるという噂が出てきて、紅陵先輩の取り巻きが事ある毎に鈴に突っかかろうとしている。
今頃は、天野と一緒にいるのかな。
俺はアイツが嫌いだ。アイツ、クリミツのこと悪く言いやがって。鈴とクリミツの仲があんまり良くないのは分かってるけど、関わるのは止めとけってどういうことだよ。確かに、クリミツに送ったMINEはずーっと既読がつかないし、最近会えていないけど、それにしたってあの発言はないだろう。
アイツが鈴のことを好きってのは、別にいい。鈴はめっちゃ可愛いし、めっちゃ良い子だから、好きになるのは当然だ。
優しい鈴は今朝だって、落ち込む俺を励ましてくれた。俺を、一番の親友だと言って。
本当は恋人になりたいのだけど、鈴は俺のことを距離の近い唯一無二の親友か弟か兄くらいに見ている。恋愛対象になるのは、一体いつになるのだろうか。
鈴は、すっごく寂しがり屋だから、誰かが傍にいてやらなきゃなんない。
その大きな隙間を埋めるのは、隣にいるのは、俺がいい。俺だけが、いい。
ずっと傍で、小さい頃から見てきたから。
クリミツにいじめられて泣いていた鈴、俺に助けられて喜んでいた鈴、幼稚園児の頃から、俺は見てきたから。
鈴と一緒に、育ってきたから。
クリミツと鈴はきっと覚えていない。
クリミツが鈴をいじめて、止めようとした俺がクリミツをぶっ叩いたこと。クリミツは俺にぶん殴られて泣いて、友達がいなくなって、内気なみぃくんになったこと。そんなみぃくんを見ていられなかった俺が話しかけて友達になって、今の三人になったこと。
アイツ、また鈴のこといじめたりしてないよな。幼稚園児と一緒にする気は無いが、どうにも不安が拭えない。
今、鈴とクリミツの仲はあまり良くない。
もしかして、もしかして。
いじめを疑いたくはない。だって、二人とも大事な友達だから。いじめだって、幼稚園児の頃の話だ。
…でも、ここ数日のクリミツの態度で、俺は少し覚悟が出来てきた。俺のことをずっと無視するってことは、なにかやましいことがあるに違いない。クリミツがいないと安心する鈴の態度も変だ。
「……で……が……」
「んだと………」
早く鈴の所へ行こうと歩き出した俺は、何やら話し声を聞きつけた。体育倉庫で誰かが話してるみたいだ。
いつもの俺なら通り過ぎるけれど、今回は、違った。
聞こえてきたのが、クリミツの声だったから。
アイツ、俺のこと無視して逃げ回って誰と話してんだ。
「……ああ、それで頼みます」
「…おう。じゃあ三日後な」
相手の声も聞き覚えがある。確か、渡来じゃなかったっけ。
クリミツと渡来が、体育倉庫で何話してんだ? しかも、クリミツは渡来に敬語を使ってる。クリミツ…渡来のこと先輩として扱ってるんだな。喧嘩したくせに。
一体何の話だろう。盗み聞きは良くないのは分かっているけど、俺はこっそり壁に張り付いてしまった。
「んにしても、お前こじらせてんなぁ…」
「ははは、十何年は伊達じゃないっすよ」
「だとしても、フツー好きな奴を襲わせたりするか?」
好きな、奴?
クリミツって、好きな人いたんだ。前にも聞いたけど、あの時はうやむやにされたんだっけ。
でも、そうだとしたらその後の会話がすごく変じゃないか?
襲わせるって、どういうことだよ。好きなんじゃないのか?
「こうでもしなきゃ実らない、って思いません?」
「だからその考え方が拗らせてんだって…」
クリミツと渡来は何を企んでるんだ。
三日後って、クリミツの好きな人って、襲わせる、って…。
「とにかく三日後な。じゃあ」
「えっ」
考え込んでいた俺は、目の前の倉庫の扉に気付かなかった。がちゃりと目の前の扉が開き、そこから渡来が出てきた。
目がバッチリ合ってしまい、俺の頭にはしまったの四文字が浮かんだ。
「…あ"?」
「……あ」
「テメェ、まさか」
「俺は何も聞いてないからな!!!」
俺は大声で叫び、走り出した。やべ、やべやべやべ、あれって聞かれちゃマズイってやつだよな。
だけど、走りながらちらりと後ろを見ると、渡来は頭の後ろをかいて俺を眺めているだけだった。その後ろから、クリミツが出てきた。
クリミツは、俺のことを見つけると、目を見開いていた。どうして龍牙がいるんだ、そう、言いたげに。すっごくびっくりしてたから、やっぱりあれは俺が聞いちゃダメな話だったんだ。
ところで、後ろを見て走っていたら、どうなるだろうか。当然、前が見えない。ということは、前の人や物とぶつかる。
俺が前を見た時には、もう、間に合わなかった。
「うおっ!!!」
「わあっ!!!」
誰かにぶつかってしまい、俺は勢いよく転けた。運動場の砂が結構制服に付いたみたいだ。ちょっとムカついたけど、前を見ていなかった俺が悪い。ぶつかった奴は大丈夫だろうか。
「…りゅ、龍牙?」
「鈴?」
聞き覚えしかない声に弾かれたように顔を上げると、俺と同じように倒れていたのは、鈴だった。俺、鈴とぶつかったのか。鈴はなんでこんなところにいるんだ?
先程の会話を聞いてからすぐに鈴を見たからか、俺の頭には、クリミツの放った一言が過った。
『十何年は伊達じゃないっすよ』
十何年、好きな人。
それって、もしかして。
「龍牙っ、助けて…っ!」
続けようとした思考は、鈴の必死な声で霧散した。俺の制服に縋り付く鈴の様子は、何やらただごとではない。どうしたんだと問いかけようとしたが、すぐさま答えが聞こえてきた。
「紫川ァ、鬼ごっこは楽しいか?」
「ははははっ!“熊”の代わりに嬲ってやるよ」
「ほーらほらどこ行ったぁ?逃げないと捕まえちまうぞ~」
「ひっ……その、私、今、追いかけられてて…」
「任せろ」
怯えた鈴の様子。聞こえてくる下卑た笑い声。
また、鈴はどっかのクソ野郎共に追いかけられてるんだ。
俺はすぐさま立ち上がり、鈴に手を差し伸べた。鈴が俺の手を取り立ち上がったのを見て、俺は自分の背中に鈴を隠した。
少しして、校舎の影から見覚えのある三人組が出てきた。名前は覚えてないけど、木曜日に鈴に絡んだサイテーな奴らだ。
「あー?あのロン毛確か、先輩が狙ってる…」
「そうそう。アレには手ぇ出すなよ。上手いこと紫川だけ連れ込め」
「紫川~こっち来いよ」
「おい、鈴に触んな」
「どけよ雑魚」
「なんだと!!!」
今、聞き捨てならないことを言われた。誰が雑魚だって!?
目の前の三人組は弱そうだし、一対三なら前に勝ったことがある。雑魚と言わせたままにしておくのはかなり、かなりむかつく。それに、俺の後ろにいる鈴を守らなくちゃならない。
へらへらと笑っている目の前の三人は、完全に俺のことを舐めている。もうやることは一つだ。
「そうやって笑ってんのも今の内だからな」
俺がそう言って構えた途端、目の前の奴らの顔付きが変わった。何かに怯えるような、そんな顔付き。なぜだろうか。ついさっきまで俺のことを嘲笑っていたというのに、どういう気持ちの変化だ?
「なあお前ら、どうしたんだ?」
「よう、鈴、龍牙」
聞き覚えのある声に後ろを振り向けば、でかい図体に学ランが見えた。そのまま目線を上げると、特徴的なもふもふの茶色の天然パーマが目に入った。
「クリミツ!?」
状況と俺たちの関係を考えれば、クリミツが俺たちを助けに来てくれたのかな、なんて思える。
でも、これはまずいんじゃないか。だって俺は、聞いちゃダメそうな会話を聞いちゃったんだ。
俺は不安でクリミツを見上げたけれど、クリミツは見たこともない恐ろしい形相で三人組を睨み、三人組に向かってつかつかと歩き出した。今のは、見ず知らずの人間に向けるにしてはかなり敵対心の強い表情だ。
三人組はそんなクリミツを見てか、分かりやすく狼狽えて口々に喋りだした。多分、さっきの怯えた表情もクリミツを見たせいだろう。
クリミツと目の前の三人組は知り合いなのだろうか。
「あっ……、あ、ああ、くm…り、た……、く、栗田じゃん」
「よ、よぉ、久しぶり、いや、その…、色々あんじゃん、そんな顔すんなって、な?な?」
「あ、そうだ!イライラしてんなら、ほら、そこにちょうどいいサンドバッグがッ」
俺を指さして、三人組の一人がサンドバッグと言い放った。どこまでもムカつく奴だ。
だけど、俺が何か言う前に、クリミツが手を上げた。ソイツは咄嗟に腕で顔面を守ったらしいが、クリミツの拳は顔ではなく鳩尾に入った。殴られた奴が音も無く倒れたのを見て、残りの二人の表情が固まっている。
「見逃してくれよ。俺ら暇すぎてさ、遊び相手が欲しいわけじゃん?その…ほらっ、金髪はアレだけど、紫川なら」
「お前らが暇とか知るかよ。こいつらに手ェ出すな」
やっぱり、知り合いみたいだ。話の内容はよく分からないけど、あまり良いものじゃなさそうだ。
クリミツは少し屈むと、残りの二人に何やら囁いた。二人も小声になってぼそぼそと返し、内緒話を始めた。
その様子を見ていたら、俺の袖がくいっと引かれた。
「…ん、鈴?」
「もっ、もう行こうよ、クリミツなら大丈夫だろうし、ね?」
鈴が俺の袖を引いて話している。その手は少し震えている。
鈴が、怖がっていた。
きっと、あの三人組が怖いんだろう。
散々追いかけられたらしい。
鈴は、いつも大変な目に遭っている。俺が鈴のそばから離れなきゃいいんだ。俺は天野より弱いけど、それでも、鈴を守りたい。
今日はもう離れないからな。
「そうだな、…もう行くか」
「あ、龍牙待て」
「何?」
まだ午前だし、昼までまだ一時間くらいある。教室で天野と三人で時間を潰そうか。
そんなことを考えていたが、クリミツに呼び止められた。
「鈴は置いてけよ。俺、鈴と話あるからさ」
そう、クリミツが言った。別に内容はなんてことない。鈴と話がしたい、それだけだ。
でも、クリミツがそう言うと、鈴の腕の力が強くなった。俺から離れたくない、というよりは、クリミツのところに行きたくない、と言っているみたいだった。
「鈴、お前も何か話あるだろ? コイツらも話があるからさ」
「鈴、大丈夫か。…なあクリミツ、それどうしてもしなきゃいけない話か? 俺も一緒にいたいんだけど」
鈴はあの三人組が苦手なんだ。それに、クリミツとも微妙な空気が流れている。
ここで鈴を一人にしたくない。
鈴が怯えているのもそうだが、何だか、嫌な予感がする。
「いや、龍牙はいなくても大丈夫、俺がいるから。なあ鈴、俺たちと話しようぜ。中学生ん時と一緒だろ、俺たち、よくこうやって喋ってたよな?」
ほら、来いよ。
クリミツは俺たちの方を見て、口角を少しだけ上げた。クリミツはあまり笑わない。だから、今の笑顔はどこか恐ろしかった。
「龍牙、私、行きたく」
「もしかして中学のことか? あのことは悪かったよ、俺、謝ったよな。鈴も許してくれた、違うか?」
「……そう、だけど、でも」
「龍牙」
矢継ぎ早に話すクリミツに、言い淀む鈴。
やっぱり、嫌な予感がする。この二人の関係は、俺が思っているより複雑なのだろう。
俺の袖を握る力が段々と強くなっている。それだけ、怖いんだ。クリミツは暫し考えた後に、俺たちの方へ足を進めてきた。
「大丈夫だから、早くこっちに」
「っ……」
クリミツが腕を伸ばしてきたその時、
俺は、直感で鈴を後ろに隠した。
庇うように、クリミツが触れないように、俺の背に鈴を隠した。
その行動で、クリミツがどう思うかなんて考えてなかった。
クリミツは、酷く驚いていた。俺が、こんなことをすると思っていなかったんだろうか。
「…な、に。なんだよ、それ。俺はコイツらと一緒なのか? 鈴のこと傷つけようとするコイツらと、一緒なのかよ」
そっか、そうか。俺の行動は、クリミツを敵と見倣したように見えたのか。
クリミツの傷ついた表情に、俺は冷や汗が出た。
違う、俺はこんなことしたくない。クリミツを傷つけたくなんかないし、傷つけるつもりなんかなかった。
ただ、鈴を守りたかっただけだ。
「違うっ、鈴が怖がってるから、だから」
「何も違わないだろ、……ああ、そうかよ、お前まで俺の事拒否するんだな」
傷ついたクリミツを見て、俺の心がぎちぎちと苦しくなったけど、それと同じくらい、俺の心を動かすものがあった。
俺の袖を握っている強い力、震えている腕。
クリミツが一方的な被害者なわけがない。
もしそうなら、なんで、なんで、
「じゃあなんで鈴が怖がってんだよ! 俺に何か隠してんじゃねえのか!?何か言ってみろよ!!」
「そっ、そのことは謝ったんだって!! 謝ったんだから良いだろ!?」
「…そのことって何だよ。さっきも中学のことって言ってたよな。やっぱり俺がいない間に何かあったんだな?」
「や、その、それは…大したことないっていうか、えーっと」
「鈴が怖がるようなことが大したことじゃないんだな?あ"?」
「う……」
さっきの鈴のように、クリミツが言い淀んだ。
ああ、後ろめたいことがあるんだ。
こうなったらとことん問い詰めてやる。俺に隠し事なんて、良い度胸だな。
何で鈴がこんなに怖がってるのか、
何でクリミツと微妙な空気なのか、
それを問い詰めて
「止めて」
「鈴………?」
「龍牙、もう止めて」
鈴がまた怖がっている。でも、さっきより怖がっている。
何かに、酷く怯えている。
「でも、クリミツが」
「お願い」
俺の言葉を遮ってまで、鈴が訴えてきた。有無を言わさないその様子に、俺は口を閉じるしかなかった。
俺たちが話している間、横目にクリミツの背が見えた。こそこそと、三人組と一緒に立ち去ろうとする姿。
「おい」
呼びかけると、びくっとその大きな背が揺れた。
俺がいない間に、とっても伸びたあの背丈。俺の後を泣きながら着いてきた、あの可愛いみぃくんはもういないのかな。今のクリミツは強くてかっこいいけど、どこか、怖い。
その怖さを、鈴は味わったのかもしれない。だからこんなに怯えているのかもしれない。
もし、鈴が、自分の体で味わったのだとしたら。
もしそうなら、俺は、どうしたら、いいんだろうか。
今は分からない。
だから、俺は、クリミツとの心の距離がこれ以上大きくならないように、ぼそぼそと喋ることしか出来なかった。
「ここ最近、見なかったけどさ」
「………」
「体調不良じゃなかったんだよな? その…腹壊してたとか、そういう…」
「…おう」
「なら良いや、またな」
「……………」
俺が別れを告げると、クリミツは振り返らずに去っていった。
クリミツと鈴が俺に隠してることは、あんまり良くないことみたいだけど、クリミツのことは普通に心配だったし、大事な友達で、幼馴染みだ。
鈴たちの、隠し事。
もし、二人のどちらかから無理やり聞き出したとして、それは俺の満足いく結果になるのだろうか。
もう少しだけ、先延ばしにしてしまおうか。
でも、先延ばしにしてしまうとなると、今俺の袖を握る、この震える腕はどうすれば良いのだろうか。
「…鈴」
「……なあに」
「大丈夫、もうアイツらいなくなったぞ」
「………そっ、か」
震える、声は、
「鈴」
「なあに」
震えていた、肩は、
「お前、大丈夫か」
「うん、大丈夫!」
屈託の無い、この偽りの笑顔は、
花も恥じる、世にも美しいこの美青年の笑顔は、
どう、すればいいんだろう。
馬鹿な俺には、分からなかった。
体育館の裏でその騒ぎを聞きながら、俺は、こそこそと周りを見渡していた。
…よし、目的の人物はいない。
「っしゃあ!逃げ切ってやったぜ…」
体力テストを受けろと追いかけてきた体育教師。俺はソイツとの鬼ごっこに勝利したのだ。
あえて体育館の近くに逃げ込むことで、教師の目を欺く…完璧だ!
しかし、アイツに追いかけられたせいで鈴から離れてしまった。
早く鈴のところに戻らないと。
今や、鈴を狙う不良は日に日に増えつつある。主な原因は、紅陵先輩だ。紅陵先輩が鈴に入れ込んでいるという噂が出てきて、紅陵先輩の取り巻きが事ある毎に鈴に突っかかろうとしている。
今頃は、天野と一緒にいるのかな。
俺はアイツが嫌いだ。アイツ、クリミツのこと悪く言いやがって。鈴とクリミツの仲があんまり良くないのは分かってるけど、関わるのは止めとけってどういうことだよ。確かに、クリミツに送ったMINEはずーっと既読がつかないし、最近会えていないけど、それにしたってあの発言はないだろう。
アイツが鈴のことを好きってのは、別にいい。鈴はめっちゃ可愛いし、めっちゃ良い子だから、好きになるのは当然だ。
優しい鈴は今朝だって、落ち込む俺を励ましてくれた。俺を、一番の親友だと言って。
本当は恋人になりたいのだけど、鈴は俺のことを距離の近い唯一無二の親友か弟か兄くらいに見ている。恋愛対象になるのは、一体いつになるのだろうか。
鈴は、すっごく寂しがり屋だから、誰かが傍にいてやらなきゃなんない。
その大きな隙間を埋めるのは、隣にいるのは、俺がいい。俺だけが、いい。
ずっと傍で、小さい頃から見てきたから。
クリミツにいじめられて泣いていた鈴、俺に助けられて喜んでいた鈴、幼稚園児の頃から、俺は見てきたから。
鈴と一緒に、育ってきたから。
クリミツと鈴はきっと覚えていない。
クリミツが鈴をいじめて、止めようとした俺がクリミツをぶっ叩いたこと。クリミツは俺にぶん殴られて泣いて、友達がいなくなって、内気なみぃくんになったこと。そんなみぃくんを見ていられなかった俺が話しかけて友達になって、今の三人になったこと。
アイツ、また鈴のこといじめたりしてないよな。幼稚園児と一緒にする気は無いが、どうにも不安が拭えない。
今、鈴とクリミツの仲はあまり良くない。
もしかして、もしかして。
いじめを疑いたくはない。だって、二人とも大事な友達だから。いじめだって、幼稚園児の頃の話だ。
…でも、ここ数日のクリミツの態度で、俺は少し覚悟が出来てきた。俺のことをずっと無視するってことは、なにかやましいことがあるに違いない。クリミツがいないと安心する鈴の態度も変だ。
「……で……が……」
「んだと………」
早く鈴の所へ行こうと歩き出した俺は、何やら話し声を聞きつけた。体育倉庫で誰かが話してるみたいだ。
いつもの俺なら通り過ぎるけれど、今回は、違った。
聞こえてきたのが、クリミツの声だったから。
アイツ、俺のこと無視して逃げ回って誰と話してんだ。
「……ああ、それで頼みます」
「…おう。じゃあ三日後な」
相手の声も聞き覚えがある。確か、渡来じゃなかったっけ。
クリミツと渡来が、体育倉庫で何話してんだ? しかも、クリミツは渡来に敬語を使ってる。クリミツ…渡来のこと先輩として扱ってるんだな。喧嘩したくせに。
一体何の話だろう。盗み聞きは良くないのは分かっているけど、俺はこっそり壁に張り付いてしまった。
「んにしても、お前こじらせてんなぁ…」
「ははは、十何年は伊達じゃないっすよ」
「だとしても、フツー好きな奴を襲わせたりするか?」
好きな、奴?
クリミツって、好きな人いたんだ。前にも聞いたけど、あの時はうやむやにされたんだっけ。
でも、そうだとしたらその後の会話がすごく変じゃないか?
襲わせるって、どういうことだよ。好きなんじゃないのか?
「こうでもしなきゃ実らない、って思いません?」
「だからその考え方が拗らせてんだって…」
クリミツと渡来は何を企んでるんだ。
三日後って、クリミツの好きな人って、襲わせる、って…。
「とにかく三日後な。じゃあ」
「えっ」
考え込んでいた俺は、目の前の倉庫の扉に気付かなかった。がちゃりと目の前の扉が開き、そこから渡来が出てきた。
目がバッチリ合ってしまい、俺の頭にはしまったの四文字が浮かんだ。
「…あ"?」
「……あ」
「テメェ、まさか」
「俺は何も聞いてないからな!!!」
俺は大声で叫び、走り出した。やべ、やべやべやべ、あれって聞かれちゃマズイってやつだよな。
だけど、走りながらちらりと後ろを見ると、渡来は頭の後ろをかいて俺を眺めているだけだった。その後ろから、クリミツが出てきた。
クリミツは、俺のことを見つけると、目を見開いていた。どうして龍牙がいるんだ、そう、言いたげに。すっごくびっくりしてたから、やっぱりあれは俺が聞いちゃダメな話だったんだ。
ところで、後ろを見て走っていたら、どうなるだろうか。当然、前が見えない。ということは、前の人や物とぶつかる。
俺が前を見た時には、もう、間に合わなかった。
「うおっ!!!」
「わあっ!!!」
誰かにぶつかってしまい、俺は勢いよく転けた。運動場の砂が結構制服に付いたみたいだ。ちょっとムカついたけど、前を見ていなかった俺が悪い。ぶつかった奴は大丈夫だろうか。
「…りゅ、龍牙?」
「鈴?」
聞き覚えしかない声に弾かれたように顔を上げると、俺と同じように倒れていたのは、鈴だった。俺、鈴とぶつかったのか。鈴はなんでこんなところにいるんだ?
先程の会話を聞いてからすぐに鈴を見たからか、俺の頭には、クリミツの放った一言が過った。
『十何年は伊達じゃないっすよ』
十何年、好きな人。
それって、もしかして。
「龍牙っ、助けて…っ!」
続けようとした思考は、鈴の必死な声で霧散した。俺の制服に縋り付く鈴の様子は、何やらただごとではない。どうしたんだと問いかけようとしたが、すぐさま答えが聞こえてきた。
「紫川ァ、鬼ごっこは楽しいか?」
「ははははっ!“熊”の代わりに嬲ってやるよ」
「ほーらほらどこ行ったぁ?逃げないと捕まえちまうぞ~」
「ひっ……その、私、今、追いかけられてて…」
「任せろ」
怯えた鈴の様子。聞こえてくる下卑た笑い声。
また、鈴はどっかのクソ野郎共に追いかけられてるんだ。
俺はすぐさま立ち上がり、鈴に手を差し伸べた。鈴が俺の手を取り立ち上がったのを見て、俺は自分の背中に鈴を隠した。
少しして、校舎の影から見覚えのある三人組が出てきた。名前は覚えてないけど、木曜日に鈴に絡んだサイテーな奴らだ。
「あー?あのロン毛確か、先輩が狙ってる…」
「そうそう。アレには手ぇ出すなよ。上手いこと紫川だけ連れ込め」
「紫川~こっち来いよ」
「おい、鈴に触んな」
「どけよ雑魚」
「なんだと!!!」
今、聞き捨てならないことを言われた。誰が雑魚だって!?
目の前の三人組は弱そうだし、一対三なら前に勝ったことがある。雑魚と言わせたままにしておくのはかなり、かなりむかつく。それに、俺の後ろにいる鈴を守らなくちゃならない。
へらへらと笑っている目の前の三人は、完全に俺のことを舐めている。もうやることは一つだ。
「そうやって笑ってんのも今の内だからな」
俺がそう言って構えた途端、目の前の奴らの顔付きが変わった。何かに怯えるような、そんな顔付き。なぜだろうか。ついさっきまで俺のことを嘲笑っていたというのに、どういう気持ちの変化だ?
「なあお前ら、どうしたんだ?」
「よう、鈴、龍牙」
聞き覚えのある声に後ろを振り向けば、でかい図体に学ランが見えた。そのまま目線を上げると、特徴的なもふもふの茶色の天然パーマが目に入った。
「クリミツ!?」
状況と俺たちの関係を考えれば、クリミツが俺たちを助けに来てくれたのかな、なんて思える。
でも、これはまずいんじゃないか。だって俺は、聞いちゃダメそうな会話を聞いちゃったんだ。
俺は不安でクリミツを見上げたけれど、クリミツは見たこともない恐ろしい形相で三人組を睨み、三人組に向かってつかつかと歩き出した。今のは、見ず知らずの人間に向けるにしてはかなり敵対心の強い表情だ。
三人組はそんなクリミツを見てか、分かりやすく狼狽えて口々に喋りだした。多分、さっきの怯えた表情もクリミツを見たせいだろう。
クリミツと目の前の三人組は知り合いなのだろうか。
「あっ……、あ、ああ、くm…り、た……、く、栗田じゃん」
「よ、よぉ、久しぶり、いや、その…、色々あんじゃん、そんな顔すんなって、な?な?」
「あ、そうだ!イライラしてんなら、ほら、そこにちょうどいいサンドバッグがッ」
俺を指さして、三人組の一人がサンドバッグと言い放った。どこまでもムカつく奴だ。
だけど、俺が何か言う前に、クリミツが手を上げた。ソイツは咄嗟に腕で顔面を守ったらしいが、クリミツの拳は顔ではなく鳩尾に入った。殴られた奴が音も無く倒れたのを見て、残りの二人の表情が固まっている。
「見逃してくれよ。俺ら暇すぎてさ、遊び相手が欲しいわけじゃん?その…ほらっ、金髪はアレだけど、紫川なら」
「お前らが暇とか知るかよ。こいつらに手ェ出すな」
やっぱり、知り合いみたいだ。話の内容はよく分からないけど、あまり良いものじゃなさそうだ。
クリミツは少し屈むと、残りの二人に何やら囁いた。二人も小声になってぼそぼそと返し、内緒話を始めた。
その様子を見ていたら、俺の袖がくいっと引かれた。
「…ん、鈴?」
「もっ、もう行こうよ、クリミツなら大丈夫だろうし、ね?」
鈴が俺の袖を引いて話している。その手は少し震えている。
鈴が、怖がっていた。
きっと、あの三人組が怖いんだろう。
散々追いかけられたらしい。
鈴は、いつも大変な目に遭っている。俺が鈴のそばから離れなきゃいいんだ。俺は天野より弱いけど、それでも、鈴を守りたい。
今日はもう離れないからな。
「そうだな、…もう行くか」
「あ、龍牙待て」
「何?」
まだ午前だし、昼までまだ一時間くらいある。教室で天野と三人で時間を潰そうか。
そんなことを考えていたが、クリミツに呼び止められた。
「鈴は置いてけよ。俺、鈴と話あるからさ」
そう、クリミツが言った。別に内容はなんてことない。鈴と話がしたい、それだけだ。
でも、クリミツがそう言うと、鈴の腕の力が強くなった。俺から離れたくない、というよりは、クリミツのところに行きたくない、と言っているみたいだった。
「鈴、お前も何か話あるだろ? コイツらも話があるからさ」
「鈴、大丈夫か。…なあクリミツ、それどうしてもしなきゃいけない話か? 俺も一緒にいたいんだけど」
鈴はあの三人組が苦手なんだ。それに、クリミツとも微妙な空気が流れている。
ここで鈴を一人にしたくない。
鈴が怯えているのもそうだが、何だか、嫌な予感がする。
「いや、龍牙はいなくても大丈夫、俺がいるから。なあ鈴、俺たちと話しようぜ。中学生ん時と一緒だろ、俺たち、よくこうやって喋ってたよな?」
ほら、来いよ。
クリミツは俺たちの方を見て、口角を少しだけ上げた。クリミツはあまり笑わない。だから、今の笑顔はどこか恐ろしかった。
「龍牙、私、行きたく」
「もしかして中学のことか? あのことは悪かったよ、俺、謝ったよな。鈴も許してくれた、違うか?」
「……そう、だけど、でも」
「龍牙」
矢継ぎ早に話すクリミツに、言い淀む鈴。
やっぱり、嫌な予感がする。この二人の関係は、俺が思っているより複雑なのだろう。
俺の袖を握る力が段々と強くなっている。それだけ、怖いんだ。クリミツは暫し考えた後に、俺たちの方へ足を進めてきた。
「大丈夫だから、早くこっちに」
「っ……」
クリミツが腕を伸ばしてきたその時、
俺は、直感で鈴を後ろに隠した。
庇うように、クリミツが触れないように、俺の背に鈴を隠した。
その行動で、クリミツがどう思うかなんて考えてなかった。
クリミツは、酷く驚いていた。俺が、こんなことをすると思っていなかったんだろうか。
「…な、に。なんだよ、それ。俺はコイツらと一緒なのか? 鈴のこと傷つけようとするコイツらと、一緒なのかよ」
そっか、そうか。俺の行動は、クリミツを敵と見倣したように見えたのか。
クリミツの傷ついた表情に、俺は冷や汗が出た。
違う、俺はこんなことしたくない。クリミツを傷つけたくなんかないし、傷つけるつもりなんかなかった。
ただ、鈴を守りたかっただけだ。
「違うっ、鈴が怖がってるから、だから」
「何も違わないだろ、……ああ、そうかよ、お前まで俺の事拒否するんだな」
傷ついたクリミツを見て、俺の心がぎちぎちと苦しくなったけど、それと同じくらい、俺の心を動かすものがあった。
俺の袖を握っている強い力、震えている腕。
クリミツが一方的な被害者なわけがない。
もしそうなら、なんで、なんで、
「じゃあなんで鈴が怖がってんだよ! 俺に何か隠してんじゃねえのか!?何か言ってみろよ!!」
「そっ、そのことは謝ったんだって!! 謝ったんだから良いだろ!?」
「…そのことって何だよ。さっきも中学のことって言ってたよな。やっぱり俺がいない間に何かあったんだな?」
「や、その、それは…大したことないっていうか、えーっと」
「鈴が怖がるようなことが大したことじゃないんだな?あ"?」
「う……」
さっきの鈴のように、クリミツが言い淀んだ。
ああ、後ろめたいことがあるんだ。
こうなったらとことん問い詰めてやる。俺に隠し事なんて、良い度胸だな。
何で鈴がこんなに怖がってるのか、
何でクリミツと微妙な空気なのか、
それを問い詰めて
「止めて」
「鈴………?」
「龍牙、もう止めて」
鈴がまた怖がっている。でも、さっきより怖がっている。
何かに、酷く怯えている。
「でも、クリミツが」
「お願い」
俺の言葉を遮ってまで、鈴が訴えてきた。有無を言わさないその様子に、俺は口を閉じるしかなかった。
俺たちが話している間、横目にクリミツの背が見えた。こそこそと、三人組と一緒に立ち去ろうとする姿。
「おい」
呼びかけると、びくっとその大きな背が揺れた。
俺がいない間に、とっても伸びたあの背丈。俺の後を泣きながら着いてきた、あの可愛いみぃくんはもういないのかな。今のクリミツは強くてかっこいいけど、どこか、怖い。
その怖さを、鈴は味わったのかもしれない。だからこんなに怯えているのかもしれない。
もし、鈴が、自分の体で味わったのだとしたら。
もしそうなら、俺は、どうしたら、いいんだろうか。
今は分からない。
だから、俺は、クリミツとの心の距離がこれ以上大きくならないように、ぼそぼそと喋ることしか出来なかった。
「ここ最近、見なかったけどさ」
「………」
「体調不良じゃなかったんだよな? その…腹壊してたとか、そういう…」
「…おう」
「なら良いや、またな」
「……………」
俺が別れを告げると、クリミツは振り返らずに去っていった。
クリミツと鈴が俺に隠してることは、あんまり良くないことみたいだけど、クリミツのことは普通に心配だったし、大事な友達で、幼馴染みだ。
鈴たちの、隠し事。
もし、二人のどちらかから無理やり聞き出したとして、それは俺の満足いく結果になるのだろうか。
もう少しだけ、先延ばしにしてしまおうか。
でも、先延ばしにしてしまうとなると、今俺の袖を握る、この震える腕はどうすれば良いのだろうか。
「…鈴」
「……なあに」
「大丈夫、もうアイツらいなくなったぞ」
「………そっ、か」
震える、声は、
「鈴」
「なあに」
震えていた、肩は、
「お前、大丈夫か」
「うん、大丈夫!」
屈託の無い、この偽りの笑顔は、
花も恥じる、世にも美しいこの美青年の笑顔は、
どう、すればいいんだろう。
馬鹿な俺には、分からなかった。
0
あなたにおすすめの小説
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる