皆と仲良くしたい美青年の話

ねこりんご

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黒の帳 『一つ目の帳』

片桐編 忘れてない

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教室に戻って、学級崩壊同然の授業を受けて、俺は横で適当に遊んで、いつものように振る舞った。

でも、鈴はいつもと違う。何だか落ち込んでるし、どこか表情も暗い。

「…すーずー」
「なあに?」

俺が声をかけると、にっこり笑う。
鈴は、表面だけで笑う時がある。心の中がどれだけ暗くても苦しくても、笑ってみせる時がある。

今の笑顔がまさにそうだ。

鈴のことをあまり知らない奴だったら、この笑顔で顔を真っ赤にするんだろう。

「悩み事とか、ある?」
「あるよ」

鈴が即答したことに俺は驚いてしまった。

隠すと思ってたのに。

「…どんな悩み事?」
「菊池君が私のことガン見してくることと」
「え?」

そう言われ見渡してみると、むすっと頬を膨らました菊池がこちらを見ていた。俺がいない間に何かあったんだろうか。

「天野君が戻ってこないことと」
「えっ、そうなのか」

確かにいない。

…鈴のことばっかり見てたから、周りのことに全然気づかなかったな。


鈴はそこで言葉をきると、俺と目を合わせた。前髪の隙間からほんの少し、きらきらした瞳が見えた。


「龍牙がつまんなさそうにしてることかな」

そう言って、鈴は俺の鼻をつんと突いた。そう言って鈴はまた笑ったけど、それはさっきの笑顔とは違った。なんとなくだけど、そう思った。

「…気付いてたのか」

だって、鈴のことが心配だったけど、表面は取り繕ったつもりだ。
いつもみたいに笑って、馬鹿みたいなことやって、鈴がたまに、隣でくすっと笑ってくれる。そういう風に出来てたと思ったのに。

不思議で鈴を見ると、鈴はまた問題集に目を向けて、話を続けた。

「だって、私のこと何回も見てくるもん」
「えっ」
「いつもなら遊びに夢中になってるのに、今日は私の方を何回もチラチラ見てるからね。気付くに決まってるでしょ」

鈴はおもむろにシャーペンを置くと、俺の頭に手を伸ばした。そして、ぽんぽん、と、優しく撫でた。

鈴が近づいたからか、ふわふわ良い匂いがした。いつも鈴は良い香りがする。今日はいつもと違う香りだ。
花の香り、だろうか。
柔軟剤かシャンプーを変えたんだろうな。

「…ごめんね。不安になったよね」

何のこと、とは聞かなかった。多分、さっきのクリミツとこのことだ。俺は二人の間に何が起こったのかが気になるし、怖い。ああ、鈴は分かってくれてるんだ。

嬉しくなったけれど、鈴の次の言葉に俺はまた落ち込んだ。

「さっきのことはちゃんと解決するから、龍牙は気にしなくていいよ」

俺を、跳ね除けるような言葉。
俺なんか関係無いって、そう言われているような気がした。

鈴はそんな酷い奴じゃないし、俺の受け取り方はネガティブすぎる。分かっていても、鈴の言葉選びに悪意があるようにしか思えなかった。

その不満を、俺は沈黙でしか表せなかった。俺が返事もせずに黙り込むと、鈴はきょとんと首を傾げた。いつまでも子供っぽい俺、いつの間にか何でも抱えて大人になっている鈴。

重荷の一つや二つ、分けてはくれないだろうか。

…まあ、そんなことを言っても、こんなの重荷なんかじゃないと断られて終わるのだろう。


もう一度鈴の方を見ると、もう問題集に目を向けていた。いつも勉強ばっかりだ。鈴は小学生の時も勉強ばっかりしていた気がする。何でって聞いたら、それしかやることがないと言われたことを覚えている。

確か、その時は、なんて返したんだっけ、確か…


「…サンミオピューロランド」
「え?」
「小学生の時言ってたじゃん。あれ結局行ってないよな」
「あ! 私が勉強ばっかりしてた時の?」
「…っ、うん!そうそれ!」

鈴の記憶能力は凄い。幼稚園児の時のように覚えていないことも勿論あるけれど、大抵の事は覚えている。
俺との会話を覚えてくれていたのが嬉しくて、つい声が弾んでしまった。

「今も行きたいけど、遠いでしょ? 雅弘さんにダメって言われてるんだ」

その言葉に、俺は目を見張った。

鈴を引き取り、今も保護者として鈴の面倒を見ているあの男。可愛い鈴が心配なのは分かるが、遠いからダメだって?鈴は小学生じゃないんだぞ。いくら何でも過保護すぎやしないか。

「だから、大人になったら…行、いや、成人男性二人がサンミオピューロランドは絵面がちょっと…うーん」
「俺たちだってもう高校生だし、許してくれるって」
「この前門限破っちゃったから、多分無理かな」
「えー…あの堅物ジジイめ」
「コラ、悪口みたいに言わないの」

へらへらと笑ったが、俺は内心気が気でなかった。

今、鈴、なんて言った?

『成人男性二人』

それって、俺と鈴ってこと?
俺は一言も鈴と二人で行こうなんて言っていないし、言う勇気も無い。まさか鈴がそう言ってくれるとは思わなくて、俺は嬉しくて仕方なかった。

「…ふふ」
「どうしたの?」
「なんでもない。雅弘さん説得して、ゴールデンウィークとか夏休みとかに行こうぜ。二人でわーって遊ぶの久しぶりだし、絶対楽し」

「どこに?」


聞き覚えのある、不機嫌そうな声。

その声の主同様に、俺も不機嫌になった。

鈴の隣に、青髪の同級生が立っている。いつも不機嫌そうな顔だけど、今日は一段と不機嫌そうだ。


「あ、天野君」
「二人でどこ行くんだよ」
「どこでもいーじゃん、お前には関係ねぇし。つーかお前どこ行ってたんだよ」
「……ふん」

俺が聞いても何も答えず、天野は鈴の隣の席に座った。

「天野君、さっきはごめん」
「…は?」
「本当に菊池君は何もしてなかったんだよ。だから止めたんだけど…天野君は私を守ろうとしてくれたんだよね? だから、ごめん」

何の話だろうか。でも、ここで口を出したところで天野に邪魔されそうな気がする。

「………」
「えっと…ごめん、うん、謝りたくて。それだけだよ」
「…花」
「え?」
「……お前、また香水つけられたのか」
「…いや? 女の子みたいって言ったけど、ただふわふわ甘いだけだからね。そもそも香りに女の子も男の子もないかなって思ってさ。…その、変かな」


天野は鈴のことが好きだから、照れてもおかしくない。問題はそこじゃない。

何で鈴まで照れてるんだ。


「変じゃない。…変だと思うなら普通つけてこないだろ」
「…ぁ、……去年はヘアオイルもらったんだけど、勿体なくて使わなかったから、『嫌いだった?』って言われちゃってさ。悲しませたいわけじゃないんだ。だから、付けてるの、うん、変な意味じゃないよ」
「変な意味って何だよ」
「あー……」

俺が鈴に照れる時みたいに、天野が照れてる時みたいに、鈴がどもっている。

凄く、物凄くムカムカする。
でもここで拗ねたり怒ったりして逃げ出すのは負けたようなものだし、鈴を心配させてしまう。

苦手なことだけど、ここは口を挟むしかない。

「なあ、香水とかヘアオイルって言ってるけど、誰かにもらったのか?」
「うん。誕生日プレゼントって言って、早苗ちゃんがくれたんだ」
「ああ!鈴誕生日近いもんな~」


早苗ちゃんは、確か鈴を可愛がっている年上の女の子だ。鈴にこんな甘い香りの香水を渡すなんて、流石分かっている。

俺は、何を渡そう。
小学生の時は、自分の大好きな白亜紀戦隊のカードやおもちゃを渡していたが、今思うと頭を抱えたくなる。あの時の鈴は笑顔で受け取ってくれたが、普通は相手の好みを計るものだろうに、何故俺は自分の好きな物を渡したのか。馬鹿すぎる。

突然、鈴の机にスマホケースが置かれた。誰が置いたのかと目線を上げると、何故かドヤ顔の菊池が立っていた。

「はい、誕生日プレゼント」
「…高いよ」
「高くないよ」
「申し訳ないよ」
「申し訳なくないよ。誕生日プレゼントだから受け取ってね!」
「うう…」

なるほど、菊池は鈴にプレゼントしたんだ。確かにスマホケースは高いものが多いけれど、そこまで遠慮する物だろうか。

鈴はどうしてか苦笑いをしている。

「誕生日…言わなきゃ良かった」
「嬉しくないのか?」
「違う、違うの…、ああ…」

何かまた悩み事が出来てしまったのだろうか。でも、やっぱり俺には分からない。

誕生日プレゼント…無難にお菓子とかか?
でも、鈴は卵料理が大好きだから、卵料理関連…ファミレスで奢るとか?

鈴は、何だったら喜んでくれるだろう。

「鈴」
「なあに…」
「山盛りのお菓子って嬉しい?」
「………ふ、ふふふっ」
「何で笑ってんの…」
「ふふ、嬉しいよ」

そう言って笑う鈴は、どもらない。俺に向かって喋る鈴は、いつも弟か兄って感じがする。
誰よりも近いけど、恋愛としては一番遠い。

「勿論、白亜紀戦隊のグッズでも嬉しいよ?」
「……今年は止めとく」


…覚えてくれているのは、やっぱり嬉しい。
でも、白亜紀戦隊のグッズは流石に贈らない。


まずは意識してもらわないと。
やっぱりお菓子は止めだ。
色々情報収集して、鈴がびっくりするような物を送らないとな!
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