4 / 32
Ⅱ
《1》
しおりを挟む
月乃の家族とのキャンプの計画がダメになったことで、僕の家の今年の夏休みの計画もなくなった。
両親は我が家だけでキャンプに行くかと誘ってくれたけれど、僕がその誘いを断ったのだ。
月乃は行きたくても行けないのに、僕ひとりだけが楽しい思いをするわけにはいかない。
夏休みが始まってすぐに、月乃は予定通りに退院することができた。
だけど、退院後しばらくは自宅で静養しなければいけないとかで。僕はしばらくのあいだ、月乃に会いに行くことができなかった。
会えないかわりに、三日に一回くらいは電話をかけたけど、月乃の声はあまり元気がなかった。
体調を崩して入院したせいで、キャンプだけでなく、夏休み中の計画が全てダメになってしまったらしいのだ。
お母さんと映画に行く約束も、クラスの友達と行こうとしていた地元の神社のお祭りも、家族で近場の遊園地に出かける予定も全部ダメ。
落ち込む月乃に気の利いた言葉ひとつかけてあげることができない僕は、自分の無力さに落ちこんだ。
「翔、来週から一週間、みんなで長野のおじいちゃん達のところに行かないか?」
月乃のことを気にして落ち込む僕に、突然そんな提案をしてきたのはお父さんだった。
お父さんの話によると、長野に住んでいる父方の祖父母が今年の秋に結婚五十年目の金婚式を迎えるらしい。だから、僕の家を含めて親戚みんなで集まって、どんなふうにお祝いをするか計画を立てるのだそうだ。
まだ十歳の僕には五十年っていう年月がどれくらいのものなのかあまりピンとこないけど。五十年ってことは、僕の年齢の五倍だから、そう考えるとすごいことのような気がする。
家から出られない月乃を置いて、僕だけおじいちゃん達のところに行くのはやっぱり少し申し訳ない気がしたけど……。僕は両親に連れられて、長野の祖父母の家に出かけた。
祖父母の家には、僕たち家族以外に、親戚二家族が集まっていた。お父さんのお兄さんの家族と、お父さんのお姉さんの家族だ。
親族が集まると、大人たちはすぐに祖父母の金婚式のお祝いついて話し始めた。
日取りをいつにするか、家で仕出しをとるか外食するか。あぁでもない、こうでもないと、テーブルに集まって議論している。
ひさしぶりに会ういとこたちは、親たちに連れて来られた祖父母の家で、することもなく暇を持て余しているようだった。
僕のいとこは、高校生の結実ちゃんと中学生の拓実くんと悟くん、小六の諒くんの四人。
結実ちゃんは僕と挨拶するときにちょっとだけ顔を上げてくれたけど、そのあとはずーっとスマホを触ってて、拓実くんたち男子三人は、部屋の角っこに集まってポータブルゲームをしている。拓実くんたちがプレイしているのは、僕の学校の友達の間でも流行ってるバトルロイヤルゲームだ。
「翔もやる?」
大人たちのそばで麦茶を飲んでいると、一番歳の近い諒くんが僕を誘ってくれた。だけど、あんまり乗り気になれない。
どこにいても、何をしていても、月乃の悲しい顔が過ぎるのだ。最近の僕は、いろんなことがどうでもよくて、何にも夢中になれない。
「今はいいや。あとで入れて」
そう答えたら、諒くんの視線はすぐに手元のゲームに戻ってしまった。
大人やいとこたちの興味の対象から完全に外れてしまった僕は、家から持って来たタブレットを手に取り、立ち上がった。
両親は我が家だけでキャンプに行くかと誘ってくれたけれど、僕がその誘いを断ったのだ。
月乃は行きたくても行けないのに、僕ひとりだけが楽しい思いをするわけにはいかない。
夏休みが始まってすぐに、月乃は予定通りに退院することができた。
だけど、退院後しばらくは自宅で静養しなければいけないとかで。僕はしばらくのあいだ、月乃に会いに行くことができなかった。
会えないかわりに、三日に一回くらいは電話をかけたけど、月乃の声はあまり元気がなかった。
体調を崩して入院したせいで、キャンプだけでなく、夏休み中の計画が全てダメになってしまったらしいのだ。
お母さんと映画に行く約束も、クラスの友達と行こうとしていた地元の神社のお祭りも、家族で近場の遊園地に出かける予定も全部ダメ。
落ち込む月乃に気の利いた言葉ひとつかけてあげることができない僕は、自分の無力さに落ちこんだ。
「翔、来週から一週間、みんなで長野のおじいちゃん達のところに行かないか?」
月乃のことを気にして落ち込む僕に、突然そんな提案をしてきたのはお父さんだった。
お父さんの話によると、長野に住んでいる父方の祖父母が今年の秋に結婚五十年目の金婚式を迎えるらしい。だから、僕の家を含めて親戚みんなで集まって、どんなふうにお祝いをするか計画を立てるのだそうだ。
まだ十歳の僕には五十年っていう年月がどれくらいのものなのかあまりピンとこないけど。五十年ってことは、僕の年齢の五倍だから、そう考えるとすごいことのような気がする。
家から出られない月乃を置いて、僕だけおじいちゃん達のところに行くのはやっぱり少し申し訳ない気がしたけど……。僕は両親に連れられて、長野の祖父母の家に出かけた。
祖父母の家には、僕たち家族以外に、親戚二家族が集まっていた。お父さんのお兄さんの家族と、お父さんのお姉さんの家族だ。
親族が集まると、大人たちはすぐに祖父母の金婚式のお祝いついて話し始めた。
日取りをいつにするか、家で仕出しをとるか外食するか。あぁでもない、こうでもないと、テーブルに集まって議論している。
ひさしぶりに会ういとこたちは、親たちに連れて来られた祖父母の家で、することもなく暇を持て余しているようだった。
僕のいとこは、高校生の結実ちゃんと中学生の拓実くんと悟くん、小六の諒くんの四人。
結実ちゃんは僕と挨拶するときにちょっとだけ顔を上げてくれたけど、そのあとはずーっとスマホを触ってて、拓実くんたち男子三人は、部屋の角っこに集まってポータブルゲームをしている。拓実くんたちがプレイしているのは、僕の学校の友達の間でも流行ってるバトルロイヤルゲームだ。
「翔もやる?」
大人たちのそばで麦茶を飲んでいると、一番歳の近い諒くんが僕を誘ってくれた。だけど、あんまり乗り気になれない。
どこにいても、何をしていても、月乃の悲しい顔が過ぎるのだ。最近の僕は、いろんなことがどうでもよくて、何にも夢中になれない。
「今はいいや。あとで入れて」
そう答えたら、諒くんの視線はすぐに手元のゲームに戻ってしまった。
大人やいとこたちの興味の対象から完全に外れてしまった僕は、家から持って来たタブレットを手に取り、立ち上がった。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
マジカル・ミッション
碧月あめり
児童書・童話
小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる