流星オーダーメイド

碧月あめり

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《4》

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「あの、こういうサービスの申し込みって、子どもでもできるんですか?」

 たいていの場合、十八歳以下の子どもが何かのサービスを申し込むときは保護者の許可がいる。十歳の僕に、申し込みができるんだろうか。


「当社では、ご依頼者様の年齢による制限はございません。どなたでもお申込みいただけますので、ご安心ください」

 小羽さんの口調は淡々としているが、決して冷たいわけではない。子どもでも申し込めるとわかって、とりあえずひと安心だ。


「だったら、流れ星の申し込みをお願いしたいです。こうせいすう……、のほうで」

「かしこまりました。それでは、続いてご利用料金について説明させていただきます」

 意気込んでお願いすると、小羽さんがなめらかな口調でそう返してくる。その瞬間、僕は「え」と小さくつぶやいて、固まってしまった。

 お金……。そうだ、お金がいるよな。

 月乃に流れ星を見せてあげることばかり考えていて、あたりまえのことを忘れていた。

 そういえばおじいちゃんは、流れ星を降らせるにはお金がかかると言っていたっけ……。

「あの、流れ星を降らせるのに、どれくらいお金がかかるんですか?」

 不安に思いながら、受話器をぎゅっと握りしめる。

 小学生になってからもらったお年玉が、お父さんが作ってくれた僕名義の銀行口座にいくらか貯まってる。それでなんとか足りればいいけど……。

 そう思ったけど、小羽さんが説明してくれた《ご利用料金》というやつの額はとんでもなかった。


「大きくて明るく、肉眼ではっきりと見られる流星ですと、ひとつ五万円になります」

「ご、五万円!? もうちょっと、その、安いのはないんですか?」

「ご予算は?」

「え、っと、じゃあ、ひとつ千円くらい、とか……」

「千円ですと、塵より小さいサイズのものでもむずかしいですね」


「え……!」

「肉眼でギリギリ確認できるできないかくらいの小さな流星でも、ひとつ三万円になります。さらに小さなものですと、ひとつ一万円くらいでご提供できますが、視力の良い方でないと肉眼ではご覧いただけないかもしれません」

「え? 目で見えるかどうかわからない星に、ひとつ一万円も取るんですか? そんなの詐欺じゃないですか!」

「そういうサービスですので」

 小羽さんが、毅然とした態度で僕の非難の声を跳ね除ける。

「だったら、時間制の場合はどれくらいの値段なんですか?」

「十分で八万円です。こちらは、もし二つ以上大きな星が出現すれば、降星数よりもお得になるかもしれません」

「でも、星の大きさはコンピューターがランダムに選ぶんですよね」

「そうですね」

 そんなの、宝くじをあてるくらいの賭けだし、八万円なんてどっちみち予算オーバーだ。

 僕がしばらく黙り込んでしまうと「ちなみに、ただいま夏の20%OFFキャンペーンを開催中です」と、小羽さんが淡々とした声でアピールしてきた。

 だけど、たった20%割引になったところで、予算オーバーなことには変わらない。どうせなら、50%OFFとか、もっと言うなら80%OFFくらいの大型キャンペーンを開催してくれればいいのに。


「お申込みはどうなさいますか?」

 小羽さん丁寧な口調で僕にお伺いをたててくるけど、どうなさるも何もない。

 依頼者側に年齢制限が設けられていなくても、結局、お金のない僕のような子どもはサービスを利用できないんだから。

 月乃には「僕が流れ星を見せてあげる」なんてエラそうなことを言ったくせに、情けない。やっぱり、僕は無力だ。

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