離縁の雨が降りやめば

碧月あめり

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8.深紅の凶報

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 家に連れ戻された葵は、男たちによって乱暴に部屋に投げ込まれた。

 神主が言っていたように、縁側の外には既に見張りの男が立っている。したたかなあの神主は、さすが用意周到だ。

 葵を家に引っ張ってきたふたりの男は、廊下側の障子の前に座して逃げ道を塞ぐ。

 完全に閉じ込めれてしまった。

 泣きたい気持ちで両手で顔を覆う。そのまま畳に臥すように頽れると、カタンと障子の動く音がした。

 誰かが部屋に入ってきたようだが、顔をあげる気にはなれない。

「葵様、お着替えを……」

 聞こえてきたのはマキノの声だった。

「葵様。風邪を召されますから、早めにお着替えてください」

 葵が反応せずにいると、マキノが畳に着物を置く。

 いかにも葵を気遣うような口調だが、それもどうせ本意ではないのだろうと思うと恨めしい。

 しばらくすると、カタンとまた障子の動く音がした。

 マキノも、葵のそばに長く留まるのは気まずいのだろう。それなら、なぜ――

 畳に額を押し付けたまま唇を噛む。そのとき、少し離れたところで廊下の床がキュッと軋んだ。

「葵様に恨まれても仕方ありません。けれど、先代の花嫁様からあなたのお世話を任された以上、最後までお守りするのが私の勤めです」

 淡々としたマキノの声が静かに響き、カタンと障子の音がする。

 葵がハッと顔をあげたときには、もう障子の向こうにマキノの影はなかった。

 敵とも味方ともつかないマキノの言葉が、葵を動揺させた。

 先代の花嫁とは葵の母のこと。マキノはこれまで一度も、母との関係を匂わせたことはない。それを、今になって明かされたところで困る。

 マキノが葵に対してどんな感情を持っていたとしても、神主と繋がっていたことには変わらないのだ。

 おもむろに床の間に視線を向けると、器に浮かべた蓮の花が赤黒く朽ちていた。

(蓮の花が枯れてしまった……?)

 これでは、池の邸宅からの時の報せを受け取れない。

 仮に報せを受け取れたとしても、神主の見張りに包囲されたこの家からは出られない。

 着物の袂に手をあててみても、そこには母のお守りもない。

 見えない不安が襲いかかり、葵の胸を締め付ける。

(お母様……御蔭……)

 心の中で呼ぶ声に、愛しい者からの応答はない。

 葵は濡れた身体を抱きしめると、畳の上で小さくうずくまった。
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