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9.隻眼の龍
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しおりを挟む「私のことを許していただけるのですか、御蔭様」
水面から顔を出した白雪が、弱々しい声で御蔭に懇願する。それを御蔭はふっと鼻で笑って一蹴した。
「まさか。葵があなたを許しても、私はあなたを許しませんよ」
「御蔭様……」
「青嶺神社までの道を作って差し上げるので、どうぞここからお戻りください。けれど、道が閉じれば最後。あなたには二度と美雲神社の敷居は跨がせません。もちろん、青嶺神社との縁もこれっきりです」
「そんなこと、お父様がお認めにならないわ」
「蒼玄様が認めようが認めまいが、これは美雲神社を護る私が決めたことです」
御蔭は白雪の頭に長い爪の手をあてて呪を唱えると、沼の水面に鯉が一匹通れるほどの空洞を作った。
「もう二度とお会いすることはないでしょうと、蒼玄様にもお伝えください。さようなら、白雪様」
抑揚のない声でそう言うと、御蔭が尖った爪で白雪の身体を摘んで空洞の中へと落とす。
「いやああっ……!」
白雪の悲痛な叫びが響きが段々と遠くなっていく。それが完全に聞こえなくなると、葵は沼にできた空洞を塞いだ。
「これでもう安心ですよ」
白雪の姿が消えると、御蔭は葵を沼の岸におろした。
手の中に包まれているときには御蔭のとの目線が近くて気づきにくかったが、あらためて地上から見上げてみると、龍の身体はとてつもなく大きい。
御蔭の怒りが少しおさまったのだろうか。激しかった雷鳴は落ち着き、今はさらさらと静かな雨が降っている。
細かい雨の雫が御蔭の身体に落ちて、龍の鱗が銀やときおり青白い光を放ってきらめく。その姿はまぶしいほどに神々しい。
葵が沼の水にまだ体を半分ほど沈めている御蔭を茫然と見つめていると、大きな青の瞳がにわかに翳った。
「あらためてこの姿を見て、恐ろしくなりましたか?」
見るものを恐れさせるほどの威厳にあふれた姿で、心もとなさそうに低く頭をさげる御蔭に、葵の唇からふふっと笑い声が漏れた。
「いえ、ちっとも。どんな姿でも、御蔭はとても美しいわ」
「あなたは……またおかしなことを言いますね」
御蔭が苦笑いするように、大きな口から息を吐く。その風にあやうく吹き飛ばされそうになり、葵は御蔭の鼻のあたりにしがみついた。
「おかしなことなんて何ひとつないわ。どんな姿をしていても、あなたが御蔭であることには変わりないでしょう。いつだって、あなたはこの世で一番美しいもの」
葵の言葉に御蔭がほんの一瞬、呼吸を止めた。
その様子に首をかしげつつ、葵は輝く鱗に覆われた龍の顔に頬を摺り寄せる。
「ずっと、早く御蔭に会いたかった。大好きよ。わたしの愛しい龍神様……」
葵から口付けけると、それに応えるように御蔭が頬を寄せてくる。それから、低い声でとてもせつなげに小さく鳴いた。
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