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第19話 天使降臨
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「僕は最低だ」
自暴自棄になるしかなかった。
「京次様、何が起きたのか、私は知りませんが、あなたは決して最低などではないです」
そう、最低になり切れない僕は最低だ。
「いいや、僕は、僕のせいで、人を殺してしまったかもしれない。しかも僕はそれを人の手でやらせたんだ。こんなこと、許されるはずないだろう、アデール」
アデールは僕の隣に座り、そして膝枕をしてくれた。
「京次様はとても優しい方です。そして賢明で、公正で、責任感もあります。人である以上、万能ではありませんが、決して最低などということはありません」
アデールの言葉は、なんの慰めにもならなかったが、それはアデールのせいではなかった。
「どうして……、どうして僕を選んだんだ……、もう耐えられそうにない」
逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
「あなたはきっと成し遂げます」
アデールは、どうして僕を選んだかについては語らなかった。
「アデールが今のモードで答えられる範囲で教えてくれ。たとえば僕がうっかり道路に飛び出して、車にひかれそうになったら、僕はどうなるんだっけ?」
「まず、そうならないように私が注意いたします。ある程度の未来予測もできますので、危険のないようなルートを選定し、ご案内することで回避します。不測の事態……たとえば殺意を持った者による襲撃に対しては緊急回避モードが発動します」
確かにデリアはそう言っていた。しかしそんなモードの話しは聞いていなかったので、僕はそれを問いただした。
「これは本来、私やデリアに身に及んだ危険を回避するために備わった機能で、当然私たちの意識化で働くのではなく、完全自動で動作するシーケンスです。このモードでは私たちを含む半径2メートル以内に何者の侵入を許さないフィールドを形成します」
つまり彼女たちは自分が避けることのできない危険に対しては、バリアのようなものを張り巡らせ身を守るということなのか。
「僕はてっきり、僕自身が不死身化して、死なない身体になるのかと思っていたよ」
「それは不可能です」
言われてみれば当たり前だが、実際そう指摘されるとあっけにとられてしまうくらいに、僕自身も天使や悪魔と同じように自然の摂理を超えた不死身の存在になっている気になっていた。
「機密事項モードのときは、どうなるの」
「京次様の安全を常に確保するために、機密事項モード化においては、非対象者、つまり選択されなかった天使か悪魔が緊急回避待機状態で護衛をいたします」
だから必ずどちらか一方にしか機密事項モードは適応されず、おそらくは制限時間も、そのモードでの行動限界が総計12時間であり、連続1時間なのだと理解した。
「僕はついさっき、デリアに救われたんだ」
「緊急回避モードの発動ログは確認しております」
「じゃあ、アデールは何が起きたか知っていたの?」
「いいえ、発動したことはわかっても、何が起きたかは機密事項モード発動中に起きていますので、わかりません」
僕はいよいよ、自分が置かれている立場について考えなければならなくなった。
天使と悪魔は超常現象的な存在かと思っていたが、やっていることはまるで高度なAIである。
いや、むしろそう考えた方が理解しやすい。
だいたい天使と悪魔だなどという、都合のいい存在を肯定するほうが、虫がよすぎる。
「あの運転手は無事だろうか」
僕は避けていた事実の確認をした。
「相手があなたに執拗な殺意を抱き、繰り返し生命の危機がある場合、私たちはその可能性を限りなくゼロにするための手段を講じます。今回の場合、そのような必要はないでの、第一に京次様の生命、第二に私たちが京次様を庇護するための機能、第三に第三者における被害を最大限に抑えることになりますから、まず命に別状はなく、後遺症が残るということはないでしょう」
それを聴いて安心できるほど、僕の身に起きていることは楽観視できない。
不意に僕のお腹が情けない音を鳴らす。
「食事どころじゃなくなってしまった。それでもお腹がすくんだ。本当に嫌になる」
天使は微笑む。
「提案があります。一緒に買い物に行きませんが。そして一緒にご飯を作って食べませんか。できたらもっと京次様とお話がしたいです」
アデールが本物の天使に見えてきた。
やはりAIなんかじゃない。
そう自分に言い聞かせて、僕はアデールの提案を受け入れた。
そのあと二人でスーパーに買い物に行き、クリームシチューとアボカドと海老のサラダを作って食べた。
それから第七の選択のぎりぎりまでアデールと話し、選択の時間が訪れた。
「第七の選択期限が迫っております。あと1分以内に天使か悪魔かをお選びください。なお、これがアデール、デリアと過ごす最後の24時間となります。慎重にお選び下さい。これまでの選択結果は第一、第二、第三が天使、第四、第五が悪魔、第六が天使となっております」
僕はアデールにお別れの口づけをして、頭を撫でて、抱きしめた。
「第七の選択は悪魔」
僕は再び悪魔を召還した。
自暴自棄になるしかなかった。
「京次様、何が起きたのか、私は知りませんが、あなたは決して最低などではないです」
そう、最低になり切れない僕は最低だ。
「いいや、僕は、僕のせいで、人を殺してしまったかもしれない。しかも僕はそれを人の手でやらせたんだ。こんなこと、許されるはずないだろう、アデール」
アデールは僕の隣に座り、そして膝枕をしてくれた。
「京次様はとても優しい方です。そして賢明で、公正で、責任感もあります。人である以上、万能ではありませんが、決して最低などということはありません」
アデールの言葉は、なんの慰めにもならなかったが、それはアデールのせいではなかった。
「どうして……、どうして僕を選んだんだ……、もう耐えられそうにない」
逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
「あなたはきっと成し遂げます」
アデールは、どうして僕を選んだかについては語らなかった。
「アデールが今のモードで答えられる範囲で教えてくれ。たとえば僕がうっかり道路に飛び出して、車にひかれそうになったら、僕はどうなるんだっけ?」
「まず、そうならないように私が注意いたします。ある程度の未来予測もできますので、危険のないようなルートを選定し、ご案内することで回避します。不測の事態……たとえば殺意を持った者による襲撃に対しては緊急回避モードが発動します」
確かにデリアはそう言っていた。しかしそんなモードの話しは聞いていなかったので、僕はそれを問いただした。
「これは本来、私やデリアに身に及んだ危険を回避するために備わった機能で、当然私たちの意識化で働くのではなく、完全自動で動作するシーケンスです。このモードでは私たちを含む半径2メートル以内に何者の侵入を許さないフィールドを形成します」
つまり彼女たちは自分が避けることのできない危険に対しては、バリアのようなものを張り巡らせ身を守るということなのか。
「僕はてっきり、僕自身が不死身化して、死なない身体になるのかと思っていたよ」
「それは不可能です」
言われてみれば当たり前だが、実際そう指摘されるとあっけにとられてしまうくらいに、僕自身も天使や悪魔と同じように自然の摂理を超えた不死身の存在になっている気になっていた。
「機密事項モードのときは、どうなるの」
「京次様の安全を常に確保するために、機密事項モード化においては、非対象者、つまり選択されなかった天使か悪魔が緊急回避待機状態で護衛をいたします」
だから必ずどちらか一方にしか機密事項モードは適応されず、おそらくは制限時間も、そのモードでの行動限界が総計12時間であり、連続1時間なのだと理解した。
「僕はついさっき、デリアに救われたんだ」
「緊急回避モードの発動ログは確認しております」
「じゃあ、アデールは何が起きたか知っていたの?」
「いいえ、発動したことはわかっても、何が起きたかは機密事項モード発動中に起きていますので、わかりません」
僕はいよいよ、自分が置かれている立場について考えなければならなくなった。
天使と悪魔は超常現象的な存在かと思っていたが、やっていることはまるで高度なAIである。
いや、むしろそう考えた方が理解しやすい。
だいたい天使と悪魔だなどという、都合のいい存在を肯定するほうが、虫がよすぎる。
「あの運転手は無事だろうか」
僕は避けていた事実の確認をした。
「相手があなたに執拗な殺意を抱き、繰り返し生命の危機がある場合、私たちはその可能性を限りなくゼロにするための手段を講じます。今回の場合、そのような必要はないでの、第一に京次様の生命、第二に私たちが京次様を庇護するための機能、第三に第三者における被害を最大限に抑えることになりますから、まず命に別状はなく、後遺症が残るということはないでしょう」
それを聴いて安心できるほど、僕の身に起きていることは楽観視できない。
不意に僕のお腹が情けない音を鳴らす。
「食事どころじゃなくなってしまった。それでもお腹がすくんだ。本当に嫌になる」
天使は微笑む。
「提案があります。一緒に買い物に行きませんが。そして一緒にご飯を作って食べませんか。できたらもっと京次様とお話がしたいです」
アデールが本物の天使に見えてきた。
やはりAIなんかじゃない。
そう自分に言い聞かせて、僕はアデールの提案を受け入れた。
そのあと二人でスーパーに買い物に行き、クリームシチューとアボカドと海老のサラダを作って食べた。
それから第七の選択のぎりぎりまでアデールと話し、選択の時間が訪れた。
「第七の選択期限が迫っております。あと1分以内に天使か悪魔かをお選びください。なお、これがアデール、デリアと過ごす最後の24時間となります。慎重にお選び下さい。これまでの選択結果は第一、第二、第三が天使、第四、第五が悪魔、第六が天使となっております」
僕はアデールにお別れの口づけをして、頭を撫でて、抱きしめた。
「第七の選択は悪魔」
僕は再び悪魔を召還した。
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