つむぐ毎日

思いがけない連絡

今日は残業かぁ。
嫌だなあ、こんな雨の日に。
早く帰って、風呂入りてぇ。


そんな事をぼーっと思っていた。
晴(ハル)は社会人3年目の25歳。
初めて入った会社は可もなく不可もなく。
一人暮らしで人並みな生活を送れるこの仕事をそれなりではあるが、気にいっている。
晴は食品メーカーの企画部に所属している。
その関係でフェアの時にはスーパーなどに応援に行ったりも本当はしないといけないのだが、
晴は何より人付き合いが苦手だ。
空気を読むとか意味がわからない。
スーパーなどの現場応援はそういう意味で、晴には向いていない。

もちろん、そんな事は上司も承知していて、晴は若手なのに、滅多に現場応援に借り出される事はほとんどなかった。
たまたま、予定していた人間がインフルエンザで倒れたから、急遽行く事になっただけだ。

雨だから、大型店舗とは言え、お客様はそんなに来ない。
晴は今回、売り出す予定の変わった練り物を取り出すと黙々と調理した。

ブブブブブッ

スマホのバイブが晴を呼ぶ。

誰だ？？

そう思いながら、晴はスーパーの人達に断って、バックヤードに向かった。

不在着信を見ると、
ちょうど、同じ番号から電話がかかってきた。

「はい、向井です。」

晴は普通に応答した。

「お忙しい中、大変申し訳ごさいません。

 私、今郷(イマサト)警察署交通課の木村と申します。
 向井晴さんでお間違いないでしょうか？
」

と心地よい低音が聴こえてくる。

切り出し方といい、かかってきた場所といい、何か良からぬ内容なのは晴にもなんとなくわかる。

「向井 晴で間違いありませんが、どういった内容でしょうか？」

人生って本当に何が起こるかわからないものである。

木村と言う警察官から、晴は両親が交通事故に遭い、重傷を負った旨を伝えられた。
意識がない為、すぐに身元確認が必要だとも。

晴は15年程前の事を思い出し、ぎゅっと拳を強く握った。

「すぐに行きます。
 場所を教えて下さい。」

木村から場所を聞くと、晴はすぐに上司に電話をし、病院に向かった。