晴れ男君と雨女さんの運動会

さんかく ひかる

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晴れ男くんは人気者

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 ひなた君は5年3組の人気者。
 遠足でも運動会でも、彼が参加すると必ず晴れるからです。
 休み時間になると、ひなた君のところにクラス中のみんなが集まります。
 いつもニコニコ笑っているひなた君。みんなもニコニコ、5年3組から笑い声が絶えることはありません。

 ひなた君は、勉強もスポーツも大得意。給食は好き嫌いしないで残さず食べます。
 何でもできるひなた君ですが、ひとつだけ苦手なことがあったのです。
 それは、雨でした。

 ひなた君は、雨が嫌いでした。少しでもピチャっと濡れると「うぎゃああ」と叫びます。だから、雨の日の通学は大変です。濡れないように、大きな長靴を履いて、雨合羽で全身を覆って、大きな傘を傘を刺します。
 それでも風が吹くと横から雨粒が入り込み濡れてしまいます。そうなると、ぎゃあぎゃあ叫びながら学校に行くのです。
 雨があまりにひどいときは、学校を休みます。
 人気者のひなた君が学校に来ないと、クラスのみんなががっかりします。クラスのみんなが元気ないと、先生もがっかりします。
 だから、クラスの子も先生も、雨が大嫌いでした。
 梅雨の季節になると、ひなた君は休みが増えます。
 みんな、早く梅雨が終わればいいのに、と願います。早くひなた君が学校に来られるように、と願います。


 梅雨になり、毎日のように雨が降ります。
 ひなた君は学校を休みたいのですが、クラスのみんなが寂しがり先生が心配します。濡れないように体をガードして、必死に通学します。

「ひなた~ダイジョーブ?」

 彼が教室に現れるたびに、教室のみんなが集まって声をかけます。先生も「ひなた、無理すんな」と頭をなでます。
 ひなた君の周りには、人の輪っかが出来上がります。5年3組の全員が輪っかを作ります。
 いえ、一人だけその輪っかから外れた子がいました。

 その子の名前は、しぐれさん。みんながひなた君の周りに集まるのに、しぐれさんだけは、輪に加わらず一人で教科書や本を読んでいました。

 とある雨の日のこと、六時間目の授業が終わると、5年3組の誰もがそそくさと帰りました。
 しかしひなた君は、ポツンと席に着いたまま。
 午後になって雨が強く振りだしたので、外に出たくなかったのです。彼は教室で雨が落ち着くのを待ってました。

 早く雨が止まないか? 教室の外に顔を向けます。と、ひなた君は信じられない光景を目撃してしまいました。
 ザアザア降る雨の中、女の子が傘も刺さず、ずぶ濡れになって笑っていたのです。

「うわ! 気持ち悪い! アイツ、おかしいだろ!」

 ひなた君は、女の子を知っています。いつも教室の隅っこにいる、しぐれさんでした。
 女の子は、顔をあげて歌っています。かと思うと、誰もいない校庭をスキップしたり、走り回ったりと、大忙し。

「ヤバいもの見ちゃったよ」

 雨が小降りになったので、ひなた君は帰ることにしました。雨合羽を着込み、ランドセルにカバーをかけて、立ち上がります。
 その時。教室の扉がガラッと開きました。
 ずぶ濡れのしぐれさんが、教室に入ってきたのです。

「入ってくんなよ!」

 雨が嫌いなひなた君は、雨に濡れた子も大嫌い。見ているだけで自分にずぶ濡れが伝染しそうです。

「あ、ごめんなさい。誰もいないと思って」

 しぐれさんはうつむいて、教室を出て行きました。

 明るい元気なひなた君は、いつも笑顔を絶やしません。こんなキツい言葉が口から出るなんて、滅多にないこと。
 ひなた君は謝ろうと、教室を出ました。
 向こうの廊下をパタパタと走る女の子を追いかけます。
 クラスで一番足の速いひなた君、あっという間に追いつきました。

「しぐれさん、ひどいことを言ってごめん!」

 ずぶ濡れの女の子は、立ち止まり振り返ります。

「気にしてないよ。君みたいなカーストトップの子は、私みたいな底辺、気持ち悪いよね」

 せっかく謝ったのにあんまりな言い方で返され、ひなた君はまた腹を立てました。

「カーストってなんだよ! 俺は雨が嫌いなんだよ。お前こそ変だろ。雨の中、暴れて」

 しぐれさんは、首を傾げて微笑みます。

「私は雨が好きなだけ。雨に打たれると元気が出るんだ」

 ひなた君の大きな目が、まん丸に固まってしまいます。

「しぐれさん、それ、おかしい」

「うん、私はおかしい。でも、ひなた君、水は飲まないの? お風呂に入らないの?」

「当たり前のこと聞くな。風呂は毎日入ってるに決まってるだろ」

「飲み水もお風呂の水も、雨だよね?」

 ひなた君のまん丸な目が、プルプル震えてきました。

「……そりゃ、元々は雨だが、飲み水は浄水場で消毒してる。雨水は汚れてる」

 しぐれさんの細い目が、線のようになりました。

「そうだね。私は汚れてるもんね。じゃ、もういいかな?」

 しぐれさんは、ひなた君に背中を向けて、ぺたぺたと歩き出しました。
 ひなた君は、びしょ濡れの背中に向かって、声を張り上げます。

「ちゃんと、傘刺して帰るんだぞ!」

 しぐれさんの背中がピタッと止まりました。

「私、街ではちゃんと傘を刺してるよ」

 ひなた君は、一応普通の子なんだなと、安心します。
 くるっとしぐれさんは振り返りました。

「そうしないと、君みたいな子にうるさく絡まられるから」

 なっ! またしぐれさんにひどい言い方をされ、ひなた君はショックのあまり動けません。
 言い返そうとする間もなく、しぐれさんはパタパタと廊下を走って消えてしまいました。


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