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それって相対性理論

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 パジャマのままダイニングテーブルに着くと、同居人が無表情にハムエッグトーストとサラダを並べていた。
 私は、食器棚からマグカップを二つ取り出し、冷やしたハーブティーを入れる。
 トーストもサラダもスープも同居人の手によるものだが、このハーブティーは私のオリジナルブレンドだ。
 いつもの通り、静かな食卓がはじまる。

「なんか、私は五分のつもりなんだけど、外ではいつのまにか二時間経つんだよね」

「それ、相対性理論みたいだね」

 同居人はシレっと謎な返しをする。
 ソウタイセイリロン? 昔の偉い人が考えた難しい理屈らしい。
 と、これまた無表情に、チラシをテーブルにパサッと置いた。

「これ、行ったら」

 そのチラシには、『講演 新しい時計による高度測定』と、謎な単語が散りばめてあった。
 同居人はナントカ研究所の広報担当だ。研究所が講演会を主催するたびに、私にチラシを見せる。

「今回は、この講演を聴いて感想文を書けばいいんだ」

 無表情に目の前の人はうなずいた。


 私の唯一の仕事。それは、研究所が仕切るイベントや講演会のレポートを書くこと。レポートは研究所のホームページに載るらしい。
 素人レポーターの声なんか載せて意味があるかわからないが、それぐらいはしないと目の前の人に申し訳ない、少しだけ。

 この数年、こんな生活だ
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