半世紀生きて、やっと小説完成しました

さんかく ひかる

文字の大きさ
14 / 94

「おはよう」「おやすみ。」どっちが正解?

しおりを挟む
 初心者あらため、万年初心者の投稿小説エッセイです。
 何か月も前から、「次回は表記の話です」と言っておきながら、裏切りを重ねてきました。
 仏の顔も三度までといいますが、三度どころじゃない延長を重ねました。でも、でも今度こそ間違いありません。
 今回は、タイトル通り、カギ「~」の終りに、マル「。」をつけるかつけないか、という話です。おお! ちゃんと小説書きっぽいエッセイだぞ。


1.いきなり結論

 このテーマ、多くの人は、そんなの決まってるじゃん、と思っているでしょうが、迷っている方のために、最初に結論を書いておきます。

 カギ「~」の終りにマル「。」をつけるか、つけないか?
 こだわりがないならマル「。」は外した方が無難です。今の市販の小説のほとんどには、カギの終り「~」にマル「。」はついていません。

「眠いね。」→×
「もう昼だよ」→〇

 私の手元に、講談社の校閲局による『日本語の正しい表記と用語の辞典』というものものしい本があります。講談社の校閲ルールを一般向けにまとめた本です。
 本の三十四ページ(第三版)に

『かぎ・括弧内の文の終りには基本的に「。」をつけません。ただし、文芸もの、署名原稿、引用文は例外とします。』

 と、あります。
 講談社から出される本や雑誌では、原則、カギ「~」の終りにマル「。」は、つけないということです。他の出版社も、このルールだと思われます。
 作家志望の方は、マル「。」をつけない方がいいでしょう。

 では私のように趣味として書いている人間は、どうか? こだわりがないなら、マル「。」は省いた方が無難です。
 出版社がこのようなルールを採用しているため、「~。」と書くと、間違いだ、と指摘される可能性があります。
 今、載せている小説に、すでに「~。」と書いてあるなら、わざわざ直す必要はないかもしれません。連載途中なら途中で直すより、最後まで「~。」で、通した方がいいかもしれません。
 とはいえ、無用な争いを避けるためにも、迷っている、こだわりがないなら「。」ではなく、マル「。」を省いて「~」とした方が無難です。

 え? こんな常識を主張するために、わざわざエッセイを書くのかって? もちろん、ここで終わるなら、わざわざネタに取り上げません。
 私がわざわざこんなことを取り上げたのは、理由があります。

 だって小学校の作文の授業では、話し言葉は「~。」と書くって習ったんだよ!


2.作文ルールと一般書籍との違い

 この表記ルール、昭和生まれ昭和育ちの年寄り限定かと思ったら、今でも学校教育では「~。」と指導しています。

 もう一度、講談社校閲局の『日本語の正しい表記と用語の辞典』を見てみましょう。
 今度は六十一ページからの引用です。

『かぎ・括弧内の文の終りには原則として「。」をつけます。』

 あれ? さっきと言ってること違うじゃん!
 これ、引用箇所が違うんです。こちらは『児童書表記・校正基準』に書かれていました。最初に引用したのは、『一般書表記・校正基準』からです。
 大人向けと子供向けでは、校正ルールが違うんです。
 となると、ウェブ小説でも、子供向けに書く場合は「~。」とした方がいいのかもしれません。

 なぜ講談社で児童書と一般書で区別しているか、私はど素人なのでよくわかりませんが、学校教育に配慮したものと思われます。
 教科書に「~。」と書きましょう、とあるのに、子供たちが読む本で「~」と書かれていたら、どちらが正しいかわからなくなります。
 だから講談社では、子供向けの本限定で、「~。」を正解としているのでしょう。

 ということで、さらに検索してみました。

 こちらは、文化庁のサイトの国語施策についてです。濃い~ページですね。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/index.html


 このサイトにある参考資料ですが、これも濃いぞ。
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/sanko/index.html

 ここの「くぎり符号の使ひ方」を見てみます。最初の注意書きです。

*******************************************

これは、昭和二一年三月、文部省教科書局調査課国語調査室で作成したもので、文部省で編修又は作成する各種の教科書や文書などの国語の表記法を統一し、その基準を示すために編纂した四編の冊子のうちの一編です。
◆この案は、発表以来半世紀を経ていますが、現在でも公用文、学校教育その他で参考にされています。

*******************************************

 小学校の作文ルールの大元は、こちらのようです。
 この資料に、マル「。」は、『「」(カギ)の中でも文の終止にはうつ』とあります。
 私たちが小学校で「~。」と書くように指導された元の資料を見つけました。


 となると「~。」の方が正しいじゃん! って思いません? だって天下の文科省がそう言ってるんだよ。

 ということで、また検索したら、いい記事を見つけました。
 毎日新聞の校閲記者ブログです。

「なぜ新聞は閉じカッコの前に句点を付けないのか。」

https://mainichi-kotoba.jp/blog-20170211

 こちらによると、紙面に限りがある新聞という媒体で、一文字でもスペースを節約したいという理由のようです。
 新聞や雑誌で、カギ「~」からマル「。」を省く書き方が始まり、出版社全体に広まったと思われます。
 小説家も、新聞や雑誌の記者やライター出身の方が多いので、自然に「~」と書くようになる。そのように広まれば、私たち一般人も「~。」ではなく「~」に馴染んでいく。
 こういう流れでしょうか?

 「~」と書いた方が無難という結論には変わりませんが、小学校の作文ルールとどうして違うのか、というモヤモヤが少しは晴れました。


3.では、実際の小説を見てみよう!

 今の小説のほとんどは、カギの終りに「~」にマル「。」はつけませんが、昔はそうでもなかったようです。
 芥川龍之介の小説では「~。」となっています。でも、私の手元にある司馬遼太郎、永井路子などの歴史小説では、「~」で、マル「。」はついていません。
 ざっくりとした結論ですが、戦前の小説は「~。」、戦後の小説は「~」のようです……と、思ったら、めちゃくちゃいい例が見つかりました!
 安部公房の小説です!

『密会』 昭和五十二(1977)年刊行
 新潮文庫版 10ページより「要するに、後の二本脚だけで走る心構えなんだよね。」

 会話文すべてにマル「。」がついています!

 その後に出た安部公房の小説を見てみます。

『方舟さくら丸』 昭和五十九(1984)年刊行
 新潮文庫版 15ページより「すねているんじゃないのかい、虫のくせして」

 こちらでは、マル「。」が見当たりません。

 この七年の間、長編小説は出版されていません。短編とか戯曲はあるかもしれません。
『方舟さくら丸』は、安部公房がはじめてワープロで執筆した作品です。大正生まれの安部氏は『方舟さくら丸』刊行時で六十歳。さすが前衛文学作家ですね。
 マル「。」が抜けたのは、ワープロが関係あるのか、単に編集者に指導されたのか(そんなチャレンジャーな編集者いるのか?)、自分で古臭さを感じたのか、どうなんでしょう?

 一つ主張します。
『方舟さくら丸』は、私のファースト安部公房ですが、ファーストゆえ、ベスト安部公房です。訳わからない感じが楽しいです。さわりだけでも読んでみてください。名文がぎっしり詰まっています。
 たとえばこんな感じの文です。冒頭、主人公が自身の姿を卑下する場面です。

『黒いガラスに映ったぼくは道に迷った仔鯨か、ゴミ捨て場で変色したラグビーのボールに見えた。』

 うわあああ!『ゴミ捨て場で変色したラグビーのボール』って比喩、最高じゃありません!?


 もう一つ、小説ではありませんが、いい例を見つけました。

『原典訳 マハーバーラタ』上村勝彦 訳 ちくま学芸文庫
 1巻 46ページ
「吟遊詩人よ。……(略)……私の問いに答えてくれ。」

 ここではマル「。」がついています。しかし、ないパターンがありました。

 1巻 53ページ
「このパーンダヴァたちは、あなた方の息子、姉弟、弟子、友人である」
と言って、聖者たちは消え失せた。

 文の途中に含まれる言葉なので、マル「。」がないわけです。
 このルールは、徹底されています。

 マハーバーラタはインドの古典ですが、萌え要素満載です。この原典訳は読むのが大変ですが、ダイジェスト版や入門書など、目を通してみてはいかがでしょうか。


4.結論

 グチャグチャ書きましたが、趣味小説の場合、最終的には、各人が納得できるルールで書けばいいのかと思います。
 ポリシーが特にないなら「おはよう」パターンが無難です。でも小学校の作文ルールが忘れられない! なら「ありがとう。」パターンもいいんじゃないかと。
 ただ、一つの小説は一つのルールで統一した方がいいかと思います。

 おまけです。今回の検索作業でよさそげなページを見つけました。
 文科省のサイトで、海外子女への作文指導に関するものです。後半の【よい文章を書くための15か条】万年初心者の私にはすごーい参考になります!

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/002/010.htm


 今回、私にしては珍しく力入れちゃいました。
 小説のルールは守るに越したことありませんが、ルールの根拠って何だろう? と、モヤモヤしたのが、このエッセイのきっかけです。
 万年初心者の私が書き方のアドバイスはできませんが、リンク先は小説を書くうえでも参考になるかと思います。
 うん、たまにはみなさまの役に立たないと申し訳ない。
 でも次回は、通常運転の愚痴エッセイに戻ります。すいません。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...