【完結R18】君を待つ宇宙 アラサー乙女、年下理系男子に溺れる

さんかく ひかる

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3章 アラサー女子、ふるさとの祭りに奔走する

3-20 忌まわしい儀式 ※R

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※後半、きつい性描写になります。

 滝つぼからごおごおと音が響き渡る。
 亀石の池に、私は荒本さんとカメラを回収して用は済んだはず。
 が、彼は、漁師の派手な単衣、万祝まいわいを羽織り、儀式がどうとか言いだした。
「荒本さん、どしたのそんなコスプレしちゃって。もう出ませんか?」
 しかし彼は、池のふちに立ったまま動かない。
 私は肩にかかった打掛を外そうとする。

「やめろ! 儀式を始めるんだ!」
 これまでになく野太い声で、私は身を竦ませるばかり。
「ど、怒鳴らないで」
 私は打掛を羽織ったまま、そろそろともと来た道を辿ろうとする。
 荒本さんがバッグから、茶色い寂れた和綴じの書物を取り出した。

「それって、もしかして家にあった古文書?」
 荒本さんは古文書をばらばらとめくる。
「本を乱雑に触らないで」
「静かにしろ。ここにはな、ちゃーんと披露目の儀式のことが書かれてるんだよ」
「崩し字なんか読めない、って言ってませんでした?」
「ああ、俺は読めない。が」
 荒本さんは顔をにゅっと近づけた。
「誰かに読ませることはできるんだよ。役場の文化財課の奴は喜んでこいつの中身を教えてくれたよ」
 彼は、古文書の表紙を指で弾く。

「たくさんの古文書から、よく見つけたのね」
「ま、それも文化財課の連中がはりきってたな」
 そういえば、祭りについて調べようと図書館に文書の閲覧を申し込んだら、役場の担当が持っていったと言われた。
 見たかった古文書がここにある。
 ということは、この男は、あの日、資料館で別れた後、すぐ役場の担当者に指示して、文書を回収したのだ。

「ウサギと亀の話では、素芦もとあしの姫は亀の声を聞くことができた。そしてウサギをよみがえらせて月に昇らせ、洪水がおさまったんだよな」
 荒本さんは、宇関の古い住民なら誰もが知ってる伝説を振り返った。
「つまりな。素芦の姫には、天候をあやつる力があったってことだ」

「さすがですね荒本さん。そのように伝説を読み取るとは」
「俺じゃねえよ。役場のやつがそう言ってた。そういう姫の力は、誰でも欲しい。だから男らは姫を求めて争った」
 自嘲するしかない。思わず笑ってしまった。
「それは昔の話ですよ。私にはそんな力ないし、全くモテませんから」
「お前に近づく男は、俺がボコボコにしたからな」
 それを聞いても嬉しくもなんともない。

「素芦が栄えていたころは殿が決めた男に嫁がせたが、素芦は力を失い貧しくなった。そこで、姫のお披露目の儀式だ」
 荒本さんの顔がゆがんだ。
「素芦は、姫を売ることにした。披露目の儀式とはな、亀石の前で、金を払った男が、生理が始まったばかりの姫とヤることなんだよ」

 満月に近い太った月が高く昇る。すっかり雲は消えた。ウサギさまが餅をついている。
「適当に話作らないでもらえます?」
「お前なら、読めるよな? 俺には、役場の連中が嘘言ってるかはわからん」
 そういって、荒本さんは私に古文書を乱暴に膝の上に投げた。
「そこに付箋、あるだろ?」
「こういう文書に付箋つけないでください。ノリで痛むの」
 私は、付箋をはがしてから、食い入るように読み込んだ。荒本さんがライトで本を照らす。
 何度も私はその文書をめくる。文学研究から七年も離れた私には役場の担当者ほどの読解能力はない。が、文書は革命後、百五十年ほど前に書かれたらしく、中世文学よりはるかに読みやすい。


 素芦の始まりである亀石の前で、月の物が来た素芦の姫と契りを結ぶ。
 姫の力は目覚め契りを結んだ男に忠誠を誓う。よって男は姫の力を得ることができる……ということは……。


 亀石の前で契るとは、結婚式を挙げたということだろう。
 昔の女性は十代で親の決めた相手に嫁いだ。現代なら少女虐待だが、戦争前ならあり得なくない。
 が、読み進めるうちに、私は恐ろしさで震えてきた。


 男に忠誠を誓った素芦の姫は、雨を降らすも地を枯らすも自在のまま。
 男が命ずれば、嘘も騙しも盗みも殺しも厭わない。
 男は強大な姫の力でもって、この地を支配することができる……。


「こ、こんなのあり得ない! これは事実ではなくてご先祖様の空想よ!」
 彼は一歩近づき笑った。
「空想だと言うのなら、この場で試してみればいい。俺は親父に言われたよ。祭りの儀式でお前を手に入れれば、宇関は俺たちの物だとな」
 歯がカチカチと震えてきた。
「荒本はな、ずっと前からお前らを支えてた。親父さんは経営できる玉じゃない。だから、お前をもらうことにしたんだ。お前の力を、俺によこすんだ」


 二十年前、明け方私は母に起こされ、攫われるように車に乗せられた。祭りの日なのに母は私を首都に連れて行った。戸惑いつつ、私は初めて見る都会の景色に心踊らされた。
 あれは、離婚したくて私を連れて実家に戻ったのではなく、祭りの忌まわしい儀式から目の前の男から、私を守るためだったの?
 祖母と父は、まだ十歳になったばかりの私を、この男に売ろうとしたの?
 疋田の叔母さんに披露目の儀式のことを聞いたら何も答えず震え、母は私を叱った。
 戦争の後もこんな儀式が続いていたなら……犯罪だ。

「あのババアは、あれから、祭りのたびお前のあとをうろついて儀式を邪魔しやがる。宇関を出ていったくせに!」
 ババアって母のこと? 母が毎年、祭りの時だけ顔を見せるのは、意味があったの?
「帰ります」
 私は反射的に走り出した。
 が、それは阻まれる。池から境内に戻る細い道を軽トラックが塞いでいるのだ。
 どうして? 行きはこんなトラックなかったのに!
 道の両脇は、杉林だ。片方は崖になっているがもう片方から出られなくはない。
 が、私は脱出することはできなかった。
 荒本に捕まり亀石の前にひきずられた。

「俺がお前の漁師となってやるよ。姫さまよ」
 どこからか取り出した長い紐で、私の右手首を、細い木の幹に縛りつけた。紐も用意していたのだろうか?
「何するの! 私たち、終わったのよ!」
 男が耳元で囁いた。
「本当に終わったと思ってるのか?」

 耳たぶを甘噛みされ息を吹きかけられた。ぞぞっと悪寒が全身に奔る。
「昔と変わんねえな。お前、ここ弱いよな」
 懸命に首を振った。
「あなたも私も別に好きな人いるでしょ! ビジネスだって言ったじゃない!」
「ビジネス相手の女とはよくヤるよ。ほとんどの女はそれで言うこと聞くからな」
 気持ち悪い! いつかセクハラで裁かれればいい!
 男の指が胸の先を着物の上からなぞりだした。
「ここも弱いよな」
「こんなとこで犯罪したら、荒本家もおしまいよ!」
「へーきだ。そのうち感じまくって、自分からアヘアヘ腰振るさ。大体の女がそうだからな」
 陛下ももう少し上品に乙女に似たこと言ってたけど……現実ではただただ気持ち悪い!
「お前、ずっと俺に惚れてるよな。だから男作らなかった」

「お兄ちゃんのせいで、男が嫌になっただけ!」
 首筋を執拗に食まれる。
「会うたびにギラギラした目で睨みやがって、悪い気しなかったぜ」
 指を咥えられ、なめ尽くされる。
「お兄ちゃんが真理恵さんと浮気しなければ良かっただけじゃない!」
 シャツの下に侵入した指が胸の先端を摘まみこねくり回される。
「お前と最後までやってもよかったんだけどさ。途中でやめた時の、お前の物足りそうな顔が、たまらなくてね」

 男は唇を強引に押し付け、舌を滑り込ませてきた。私は懸命にもがき続けた。
「流斗先生のおかげだな。ウェブカメラとやらのおかげで、遠く離れた宮司も、お前が歌って月が顔を出したと、リアルに知った。お前に姫の力を認めたようだぞ」
 その活躍した私が、何でこんな目に合わなければならない!
「この場所を知ってるババアが邪魔だった。でも宮司のじいさんが止めるだろ」
「宮司様って、まさか……」
 行く途中にはなかった軽トラックが道をふさいでいた。まさか、神社の誰かがあんなところに置いたの?
「今年の祭りはたっぷり寄進したからな。大抵のことは聞いてくれるぜ」
 信じられない! 神職にある人が金に目がくらみ、犯罪行為に加担するとは。

 逃げようにも、手首をひもで木に縛られそれ以上進めない。
 荒本は私の髪を引っ張り地面に押し付ける。パンツのボタンを引きちぎられ無理矢理脱がされた。ショーツが引き裂かれる。
 両ひざを捉えられ押し開かれる。精一杯の力で膝を閉じようとするが叶わない。
「いやー! やめろーっ!」
「暴れんな。大人しくしたら、すぐ気持ちよくなる」
 男の舌が私の太ももの内側をぺろぺろと舐めだした。屈辱で涙が溢れてくる。
 じわじわと唇は私の股間に到達し、襞に吸い付いた。
「じっくり可愛がってやるからな」
 おぞましい感触が全身に広がる。
「いやあああ!!」
 このおぞましさから逃れようと、私は身をよじった。
「ずっと禁欲してたからな。お前に次の素芦を産ませてやる」
 絶対にいや! 私は、こんな獣の子など産みたくない!
 私が産みたいのは彼の子だけ! 

 その時。
 バキバキといくつもの枝が折れる音と、ブロロロと車のエンジン音が響いた。
「なんだ! ばかな!」
 荒本の叫びをかき消すよう軽トラックが亀石の前に現れた。
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