異最強騎士

野うさぎ

文字の大きさ
上 下
24 / 41
第1章 幼少期

第15話 冤罪での逃亡生活

しおりを挟む
「カンツウォーネさん!」

 緑が剣を地面に置き、座り込んでいた。
 
 カンツウォーネは火にやられて、動かなくなっていた。
 目をつむったまま、うなされている様子だった。
 
 火傷をしている箇所は、この位置からじゃ見当たらないけど、気絶している感じだった。
 気絶じゃなくて、ただ横になっているだけか?
 どちらにしても、俺は状況がよくわからない。

「カンツウォーネさんに、なんてことを!」

 緑は涙を流しながらも、こちらを睨んでいた。

「緑は、何もわかっていない・・・」

 俺は、皮肉をこめて言い放った。

 今まで何人もの命を奪ってきたカンツウォーネを尊敬しているけれど、状況が逆転したらこうなるのか。
 俺は、怒る気にもなれなかった。
 むしろ、ここで怒ることは正解ではないのかもしれない。

「もし、憎いと思うなら、
自分の胸に手を当てて考えてみるんだね」

「カンツウォーネさんは、人を殺してもいいの!

何人、殺したっていい!

だけど、君達人間ごときがカンツウォーネさんを殺すことなんて許さない!」

「俺は、殺していない。

そこまでするつもりはない。

だけどさ、自分がされて悲しいことをどうして、人にするの?」

「カンツウォーネさんは、悲しい過去を送ってきたの。

だから、何してもいい」

 理屈がわからない。
 わかろうとするだけ、無駄かもしれない。

「君も含めて、カンツウォーネは救いようがない」

「救ってよ!

助けて!

かわいそうなカンツウォーネさんを!」

「これで、助けようとか思えるか・・・」

 俺は、拳を握りしめながら答えた。

「俺は、本当は憎いんだよ。

復讐したいけど、これじゃだめだって思うから、
必死に抑えているの。

それがわかったら、
ううん、君は絶対にその気持がわからない。

刑務所に入るんだ。

今すぐにでも終身刑でも、死刑にでも、なってほしいよ。

俺は、君が思うほど心が綺麗じゃない。

親切になんて、できない。

俺は言いたいことを言い切った。

これ以上、同じことを言わせないで?」

 非道なことかもしれないけど、悪を簡単に許してしまうほど俺の心は広くない。
 今でも、許せない。

 俺にできることは、彼女達と同じことをしないということだけだった。

 ここで、パトカーが走る音とサイレンが聞こえた。

「そろそろ、警察とやらが来たな」

 スクアーロがそう呟いたところに、カンツウォーネが立ち上がった。

「あははははは」
 
 なぜか、カンツウォーネは笑っていた。

「勝った、勝ったわ」

「勝ったって何に?」

「このまま警察が来れば、いいのよ。

警察の記憶にね、アーネストとスクアーロが犯人だっていうことに記憶を書き換えたのよ。

学園長がね、警察に電話なんかするからよ。

学園長の記憶も、これでねじ曲がったわね」

「やられた・・・」

 スクアーロは、悔しがっていた。

「スクアーロ、このままじゃやばいよ。

逃げよう・・・」

「そうだな」

 スクアーロは俺の左肩に乗り、俺はこの場から逃げ去った。

 朝になるまで、走り続けた。
 どこか遠くに行けるように・・・。

 翌朝の新聞には、
 スクアーロとアーネストが学園を崩壊させた上に、
 大量殺人を行ったという偽造ニュースになっていた。

 犯人はカンツウォーネであるはずだけど、
 俺はまんまと彼女の策略にはまってしまった。

「この記事って・・・?」

 俺はポスターを見て、顔を青ざめた。

「これは、まずいな。

早急に瞬間移動の魔法で、人間世界に転送しなくてはな」
 

 俺はスクアーロの瞬間移動の魔法により、
 異世界から抜け出し、’
 人間世界にいた。

「家の前についたぞ」

「その魔法、どうやって使ったの?」

「そんなことは、いいだろ?

とにかく、おいら達は異世界でいう指名手配犯だ。

お互いに、別行動をとるとしようだ。

じゃあな」

 スクアーロは一方的に話して、その場を去った。
 俺は家の前に転送されたから、家に帰る。

 俺は、アーネストという名前を名乗っていない。
 スクアーロとは異世界を抜け出して以降、会っていない。
 もしかしたら、身を隠しているか、
 ヒサっちに会いに行っているかのどちらかかもしれない。

 幸いなことに、異世界の情報は人間世界にやってこない。
 そもそも、人間世界の住人は異世界の存在を知らないし、
 聞いたとしても、そんな簡単には信じない。

 俺は、母さんに聞いてみることにした。

「カンツウォーネって知ってる?」

「急にどうしたの?」

 なぜか、母さんは青ざめていた。
 この様子だと、明らかに何か知っている。

「父さんのことも、どこまで知っているの?」

「え?」

「隠さずに教えてほしいんだ。

スクアーロっていう妖精?らしき者が、本当の話だったら、
俺がカンツウォーネに狙われている理由、
母さんが炎の聖女候補だった過去を持つこと、
そして、氷雨とカンナは犬猿の中で、それは今も続いて・・・」

 俺が最後まで言い終わらないうちに、母さんが話し始めた。

「スクアーロ?

スクアーロに既に会ってたの?

いつから?」

「やっぱり、知っているんだ・・・」

「真を傷つけないために、全て隠していたの。

何もかも秘密にしていた」

 残酷かもしれないけど、これは真実だったのか。
しおりを挟む

処理中です...